バーンスタイン・レガシー・コンサート

Bernstein Legacy Concert(バーンスタイン・レガシー・コンサート)には今まで行ったことが無かった。今回は2007年、パリで開催されたロン・テイボー国際コンクール優勝の田村響がピアニストとして出演するので聴くことにした。是非一度リサイサイタルを聴きたいピアニストであるが、オーケストラとの共演も待ち望んでいた。昨年Kitara小ホールで三浦文彰ヴァイオリンリサイタルのピアノ伴奏を務めていて、大ホールには初めての登場だと思う。

2017年7月11日(火) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
〈出演者〉指揮/大山平一郎、 ピアノ/田村 響  管弦楽/PMFオーケストラ
      お話/田中 泰
〈演奏曲目〉
 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調 作品15(ピアノ:田村 響)
 コープランド:市民のためのファンファーレ
 ミヨー:屋根の上の牛 作品58
 バーンスタイン:「ウエストサイド・ストーリー」から “シンフォニック・ダンス”

大山平一郎(Heiichiro Ohyama)は8日のPMFオープニング・コンサートでPMFに初参加して、バーンスタインの曲の演奏で経験豊かな指揮ぶりを見せた。大山はPMF芸術監督を務めたマイケル・テイルソン・トーマスとは一時期ロスアンゼルス・フィルで一緒だった。彼を通してPMFの情報を得ていた。また、バーンスタイン指揮による「シンフォニック・ダンス」のLPレコード収録にヴィオラ奏者として参加していた。
大山は九州響常任指揮者時代に園田高弘とベートーヴェン・ピアノ協奏曲全曲録音を残している。現在、米国サンタ・バーバラ室内管音楽監督・常任指揮者。

田村 響(Hibiki Tamura)は1986年、愛知県出身。愛知県立明和高等学校音楽科に学んでザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学に留学。2002年ピティナピアノ・コンペティション特級グランプリ、園田高弘ピアノ・コンクール第1位など目覚ましい活躍で03年のアリオン賞、06年出光音楽賞受賞と続き、ヨーロッパ、南米などでのリサイタルやオーケストラ共演で頭角を現す。07年のロン・ティボーコンクール優勝で一気に日本での知名度が高まった。09年ビシュコフ指揮ケルン放響のソリストとして日本ツアー。室内楽でもヴェンゲーロフ、堀米ゆず子、宮田大らと共演。2015年大阪音楽大学大学院修了。現在、京都市立芸術大学専任講師。

PMFは20世紀のクラシック音楽界を代表する指揮者・作曲家のレナード・バーンスタインが、1990年に札幌に創設した国際教育音楽祭。これまでPMFで学んだ若手音楽家は76ヵ国・地域から約3,300人、現在、修了生は200を超えるオーケストラで現役奏者として活躍しているという。
バーンスタイン・レガシー・コンサートは何年か前にPMFの恒例のコンサートなって開催されている。バーンスタインの楽曲と彼が愛した作品、まさにレガシー(遺産)を取り上げる特別企画である。

「ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番」はバーンスタインがベートーヴェンの全5曲のピアノ協奏曲の中で最もお気に入りで何度も弾き振りしていた曲という。コンサートでは「第3・4・5番」が演奏される機会が多い。「第2番」は2005年にKitaraでバレンボイムが手兵のベルリン・シュターツカペレを弾き振りした時のことは覚えているが、「第1番」は今までコンサートで聴いた記憶は無かった。CDはギレリス、バレンボイム、ブロンフマンのCDがあって、昨日の午前中に聴いてみた。5・6年は聴いていないと思ったが、聴きなれたメロディが多くて、こんな名曲だったかと一層ベートーヴェンの偉大さが解った。ただ、内容がシンプルで深みがないので、演奏会で取り上げられることが殆どないのかなと思った。

田村も初めて演奏する曲だということで念入りに練習して臨んだようである。第1楽章の長いカデンツァも印象的だったし、オーケストラと溶け合って素晴らしい演奏を繰り広げた。若手の登竜門と言われる世界的なコンクールを20歳で制して、10年が過ぎた。順調に実績を積み重ねているようで何よりである。札幌は3度目と後で話したが、1回聴き逃したことになる。俊英ピアニストの今後の活躍が大いに期待される。
オーケストラではクラリネット奏者の美しいメロディが光った。

コープランド(1900-90)はバーンスタインが敬愛するアメリカが生んだ有名な作曲家。この曲は初めて聴くが、金管楽器と打楽器だけで演奏された音楽は勇壮であった。オリンピック・ファンファーレの先駆けになったそうである。

ミヨー(1892-1974)はフランスの作曲家で、小品は聴いたことがある。バーンスタインはミヨーと共にタングル音楽祭の教授を務めた。この作品は彼がブラジルで過ごした2年間を曲に綴ったもので、異国情緒が漂いつつ、フランスの洒落た音楽も入っている感じがした。

最後に取り上げたバーンスタインの傑作「ウエストサイド・ストーリー」はシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を1950年代のニューーヨークに置き換えて作曲された作品。そのダンスナンバーを中心にオーケストラ用に編曲された「シンフォニック・ダンス」。
この曲はバーンスタインの代表作で様々なコンサートの演目になって親しまれている。
芸術の森で行われたオープニング・コンサートの盛り上がりとは違う雰囲気で聴くことになり、正直言って野外コンサートでの方が楽しめた。室内楽とオーケストラと対照的なプログラムであったし、コンサートの締めくくりとしてPMFオーケストラの登場は新鮮であった。
昨夜は9時近くに演奏が始まり、帰りの時間を気にする人の集中力も薄れていたかもしれない。演奏そのものは音響効果抜群のホールで、聴衆が堪能する曲だったことは間違いない。最後の曲をメインに聴きに来た人も多かっただろう。私自身は田村響の「ベートーヴェン第1番」を聴いて充分に満足していた。
指揮者も渾身の力を込めて指導に当たり全曲を振り終えて満足の様子であった。最後の演奏曲にベルリン・フィルのゼーガスもパーカッションのメンバーに加わって参加していたのは好感が持てた。PMFピアニストの佐久間晃子もピアノを担当していた。

※今朝パソコンを開いてブログランキングを見て驚いた。「ロシアの巨匠フェドセーエフ」と「PMF2017オープニング・コンサート」の記事が第1位と第2位を占めていた。先週の6日も「Kitaraのバースディ」と「時計台ボランティア活動2017」の記事が「第1位」と「第2位」だった。6月の記事は余り注目を浴びていなかったのだが自分のブログが評価されるのは嬉しい。





ロシアの巨匠 ウラディーミル・フェドセーエフ

九州北部の豪雨災害のニュースは心を痛めるが、札幌では4日連続の真夏日の猛暑に見舞われている。今日の午前中は時計台のボランティア活動でタイ、韓国の来館者を含めて、本州の観光客の対応に当たって充実した時間を過ごした。一日中、家にいると脚の痛みを感じて必ずしも楽になって休んでいる状態ではなく、最近では外出して身体を動かして活動している方が痛みなど忘れて仕事や音楽鑑賞に集中できるから不思議である。

昨夜はEテレ「クラシック音楽館」を鑑賞。フェドセーエフ指揮N響1861回定期公演(2017年5月)でロシア音楽を聴いた。演目は「グリンカ:カマリンスカヤ」、「ボロディン:交響曲第2番」、「チャイコフスキー:交響曲第4番」。
演奏に先立って、指揮者は「カマリンスカヤ」の説明で「婚礼歌」と「舞踊歌」で娘を手放す親の悲しみ、ロシア・ダンスの楽しさを語った。リハーサルで表情や動作で楽員に日本語を使って伝える指揮者にコンサートマスター篠崎がロシア語を交えて対応する様子も語られて興味深かった。(*「カマリンスカヤ」は「奇妙なステップ」の意味だそうである。)

モスクワ放送響を率いて何度か来札していたフェドセーエフは40年以上も同じオーケストラのシェフを務めている。この機会に過去の札幌公演の様子を振り返ってみた。
Vladimir Fedoseevは1932年、レニングラード(現サンクトペテルブルク)生まれ。1974年にモスクワ放送交響楽団(Moscow Radio Symphony Orchestra)の音楽監督・首席指揮者に就任して以来、現在に至るまで42年も同一のオーケストラを率いている世界でも珍しい存在。

彼が札幌で行った公演で聴いた4回の公演プログラムが手元にあった。
①1991年、R.コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」、チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲(*ヴェンゲーロフ独奏の予定がプリシェぺンコに代わって残念だったことを今も記憶している)、ボロデイン:歌劇「イーゴリ公」から“ダッタン人の踊り”
②1999年、ショスタコーヴィチ:交響曲第5番、チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲(独奏:レーピン)、祝典序曲「1812年」
(この時の日本ツアーからオーケストラの英語名がTchaikovsky Symphony Orchestra of Moscow Radioとなった)
③2002年、ウィ-ン交響楽団&樫本大進による[ブラームス・プログラム]
(*97年ウィ-ン響首席指揮者に就任して、ムジ―クフェラインでベートヴェン・チクルスを行って反響を呼んだとされる。)
④2004年、チャイコフスキー:ピアノ協奏曲(独奏:上原彩子)、ラフマニノフ:交響曲第2番
この時の札幌公演は〈チャイコフスキー記念モスクワ放響音楽監督首席指揮者30周年フェドセーエフ指揮、チャイコフスキー・コンクール・ピアノ部門初の日本人優勝者・上原彩子〉
(*日本ツアーの他の都市でロシア音楽以外にドビュッシーやラヴェルの曲が演奏される公演もあった。)

ロシア人指揮者がロシアのオーケストラを率いての海外ツアーではオール・ロシア・プログラムが比較的多いようである。ロシア音楽は素晴らしくて魅力がるが、ロシア国内では当然に世界の音楽が演奏されていると思う。

フェドセーエフはチャイコフスキーの曲は日本では人気が高くて、チャイコフスキーの音楽は日本人によく理解されているとインタビューに答えていた。“同じ曲を演奏していて飽きないか?”の質問に“何回演奏しても飽きない”。自分の演奏は変化しているので、過去の自分の演奏を耳にして、“いい演奏だ”と思ったら、ラジオで“只今の演奏はフェドセーエフ指揮モスクワ放響でした”とアナウンスがあって自分の演奏と知ることがあると語った。
指揮の最中は表情を変えないが、リハーサルでは細かい指示を出しているらしい。

※フェドセーエフは96年から東京フィルの首席客演指揮者も務めていたが、現在は不明。世界の一流オーケストラに客演していて、チューリッヒ歌劇場の客演指揮者としてオペラでも活躍している。
84歳でN響に客演して活躍している姿を直接に見れて良かった。フェドセーエフが音楽監督の任にあるオーケストラの日本での呼称は最近では「チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ」となっていることが多かったが、今回の放映では「チャイコフスキー交響楽団」となっていた。後者の方が適訳だと思う。



PMF2017オープニング・コンサート

世界の若手音楽家を育てる国際教育音楽祭 第28回パシフィック・ミュージック・フェスティバルが始まった。現在は世界三大教育音楽祭として知られるフェスティバルとなったがスポンサーの大企業の撤退で変化を余儀なくされている。数年前から無駄を省いて音楽祭の質を低下させない試みが続いている。
セレモニーが無くなって、コンサートだけになり内容が充実したというか、聴きごたえのあるものになった数年前から通い続けている。

2017年7月8日(土) 13:00開演  札幌芸術の森・野外ステージ
〈出演〉PMFウィーン  PMFベルリン  大山平一郎(指揮)  PMFオーケストラ
〈演奏曲目〉
 ヴィヴァルディ:2つのトランペットのための協奏曲
 モーツァルト:弦楽四重奏曲 第14番 ト長調 K.387 「春」
 J.シュトラウスⅡ:春の声
 ロッシーニ(シェーファー編):歌劇「チェネレントラ」によるハルモニームジ―クから
                   [木管五重奏版] “シンフォニア” 他5曲
 イベール:木管五重奏のための3つの小品
 ボザ:木管五重奏のためのスケルツォ 作品48
バーンスタイン:「キャンディード」序曲
           「ウエストサイド・ストーリー」から “シンフォニック・ダンス”

13時にPMFアカデミー・メンバーのトランペット・セクション4名によるファンファーレで開幕。10名の金管セクション・メンバーが第1曲目を演奏。
司会者がステージに登場したPMFヨーロッパの教授陣14名、指揮者、ピアニストを紹介。
PMFウィーンによる弦楽四重奏曲の演奏は約30分かかった。続いて馴染みのコントラバス奏者と初登場のハープ奏者が加わって6名による「春の声」。この親しまれた曲はウィ-ンの風を運んできたかのように芸術の森に広がった。アンコールに応えてキュッヒルさんが音頭を取って弦楽五重奏を演奏。彼は終了間際に自ら珍しい陽気な仕草で曲を締めくくり会場の笑いを誘った。いつも生真面目で笑顔を見せることはめったにないのに10回目の出演でのユーモアのある行動にビックリ!

PMFベルリンはフルートの前首席以外はデジタルコンサートで毎週観ている顔ぶれ。数日前にテレビで観たメンバー4名が直ぐ正面の座席から演奏する姿を目にするのは夢のようでもあった。「チェネレントラ」はイタリア語で「シンデレラ」のことで、美しいメロディが奏でられた。Kitaraでまた耳にするが、野外で聴く音楽は室内とは違う開放的な味わいがある。ホルンのサラ・ウィリスがリーダーシップを発揮していたが、彼女の明るさも札幌では欠かせない存在になっている。
木管五重奏曲の演奏後のアンコール曲はベルリン・フィルのゼーガスにアカデミー・メンバーのパーカッション奏者5名が加わって「テイコ・ティコ」。全員がサングラスをかけての演奏は暑い日差しを避けての演奏にピッタリの楽しい演奏曲。2年前のKitaraでのアンコール曲と同じだと思い出した。

最後にPMFオーケストラの演奏。総勢90名のオーケストラ・メンバーが野外ステージに登場。
指揮の大山平一郎(Heiichiro Ohyama)は1947年、京都生まれ。ロサンゼルス・フィルの首席ヴィオラ奏者を経て、同フィルを指揮し、欧米のオーケストラとも共演。日本国内の数多くのオーケストラにも客演。九州交響楽団の常任指揮者も務めた。室内楽奏者、教育者としても多くの実績を持つ。

オーケストラの1曲目は「キャンディ-ド」序曲。華やかで、吹奏楽も含めて演奏される機会の多い人気曲。
「シンフォニック・ダンス」は大山がLAフィル首席ヴィオラ奏者の頃にバーンスタインの指揮でLPレコードに録音されたそうである。まさにバーンスタインとの接点のある曲で指揮にも一段と力がこもって、オーケストラも素晴らしい見事な演奏を展開した。ベルリンフィルのゼーガーも打楽器群に加わっていた。今まで聴いた「シンフォニック・ダンス」でも非常に印象に残った心も躍る演奏であった。各楽器群のソロ奏者や木管・金管・パーカッションの響きが野外コンサートならでは開放的な雰囲気を作り上げた。
個人練習も重ねてきたのだろうが、札幌に着いて間もなくでこんな演奏ができるとはレヴェルが高い。11日の「バーンスタイン・レガシー・コンサートでも大山指揮の下で同じ曲が演奏されるが楽しみである。

※PMFアカデミー・メンバーに今年も北海道大学医学部の川村拓也の名があり、ステージでも姿が目に入った。それぞれの若者が未来を描いて札幌に集まる素晴らしさは何事にも代えがたい。若いエネルギーがほとばしる光景を目にし、彼らの今後の成長を願う気持ちが一段と強くなった。この音楽祭が平和裏に続いて行くことを願わずにはいられない。













   


札響第601回定期演奏会~祝Kitara20周年こけら落とし指揮者とともに

1997年7月4日に札幌コンサートホールKitaraがオープンして20年になる。《こけら落としのコンサート》と《オープン記念コンサート》を指揮した当時の札響常任指揮者、秋山和慶を迎えての2017年7月定期演奏会。
土曜日公演の定期会員であるが、7日の土曜日はPMFオープニング・コンサートが札幌芸術の森で同時刻に開催されるために札響定期は金曜日に振り替えて鑑賞した。

2017年7月7日(金) 19:00開演  札幌コンサートKitara大ホール

指揮/ 秋山 和慶      ヴァイオリン/ 神尾 真由子

88年から札響定期会員だったこともあってマエストロ秋山の指揮は今回で22回目(*尾高は先日の指揮で51回、高関が30回)。
秋山和慶(Kazuyoshi Akiyama)はオープン記念コンサートでレスピーギのローマ三部作を指揮し、札響300回定期演奏会でも「ローマの松」を演奏した。札響を離れてからも客演の機会の多い指揮者で端正で品格のある指揮ぶりは定評がある。

神尾の演奏は2年ぶり4回目。神尾真由子(Mayuko Kamio)は2007年チャイコフスキー国際コンクール優勝以来、札幌での凱旋公演が09年3月の札響定期。ドイツ人指揮者、ハンス=マルティン・シュナイトとの協演で「ブラームス:ヴァイオリン協奏曲」。12年1月の札響定期はウィーン生まれのサーシャ・ゲッツェル指揮のもとで「ハチャトゥリアン::ヴァイオリン協奏曲」、15年はフィンランド人のオッコ・カム指揮ラハテイ響と「シベリウス:ヴァイオリン協奏曲」。過去3回の演奏の指揮者が外国人ばかりで、演奏曲も指揮者と関係のある国との選曲が目立った特徴。
彼女はロシア人ピアニストのクルティシェフと結婚してサンクトペテルブルクが本拠地なはずで、ヨーロッパをはじめ海外での活躍が多いようである。今度はリサイタルを聴きたいと思っている。プログラムによると札響とは2000年に初共演を果たしているから、札響との繋がりは深いようである。神尾は札響定期で集客力ナンバーワンのソリストだそうである。

〈Program〉
 チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
 ショスタコーヴィチ/交響曲第5番 ニ短調 作品47

クラシック音楽をLPレコードで聴き初めて最も親しんでいたヴァイオリン協奏曲と言えるチャイコフスキーの曲。ロシアの民族性にあふれたロマン派の名作。土曜日の昼公演より少なめの聴衆がヴァイオリンの逸材の演奏を聴こうと押しかけてホールの座席がかなり埋まった。
ステージに登場してから最初から最後まで神尾の圧倒的な演奏に聴衆の集中力の高まりも凄かった。
憂愁を帯びた第1主題を独奏ヴァイオリンが呈示して、楽想が展開され、物憂げで美しい第2主題が続く。第1主題が管弦楽の強奏で力強く歌われ、幻想的雰囲気を作って、長い華やかなカデンツァに入る。フルートが優美な旋律を奏でる。パッションとメランコリーの繰り返しのうちに力強い第1楽章が結ばれる。
第2楽章はカンツォネッタ、アンダンテ。管楽器だけの静かな序奏に伴って、弱音器を付けた独奏ヴァイオリンが切ない旋律を奏でる。“軽い気分の小歌曲”と言える緩徐楽章。
第3楽章はチャイコフスキーの民族主義的傾向が示されたフィナーレ。独奏ヴァイオリンがカプリッチョ風に歌いだし、ロシアの民俗舞曲トレパークの明るい第1主題。第2主題も民族舞曲風の旋律。ロシア風の魅力ある音楽つくりが見られる。イタリアの影響を受けた明るい曲調がうかがえる楽章。コーダが入って管弦楽の躍動的なフィナーレ。りかいしやすくて

神尾真由子のオーラを放ちながら演奏する姿は世界的なトップ・ヴァイオリニストとしての存在感を見せた。外国でのメジャー・オーケストラの共演やリサイタルを通して、確固たる地位を築いているのが実感できる演奏であった。演奏終了後の聴衆の反応は予想以上に凄いもので、感嘆を超えて余りに強烈な演奏に度肝を抜かれた感じであった。今、神尾はヴァイオリニストとして絶頂期を迎えているといっても過言ではないだろう。
アンコール曲は《パガニーニ:「24の奇想曲」より 「第24番」》。超絶技巧に満ちた素晴らしい演奏で、カーテンコールが続く普段に例を見ないくらいの聴衆の熱狂と感動ぶり。

ショスタコーヴィチの交響曲を札響定期で取り上げるのは4シーズン連続である。近年は「第15番」、「第10番」、「第8番」に続く演奏曲。「第5番」はショスタコーヴィチの全15曲の交響曲の中で最も人気のある交響曲である。
ショスタコーヴィチの音楽は鑑賞が難しいとされているが、この「第5番」は理解しやすくて人々に親しまれている。1937年の作曲で、曲の構成も変化があり、力強くて重厚な作品で面白さもある。

第1楽章は低音弦楽器と高音弦楽器の印象的な対話で始まる。前半は深刻な悲劇的な気分が漂う。ヴァイオリン、オーボエ、フルートによる応答主題は美しい。途中から勇壮な行進曲となり、最後はフルートのメロディも入って静かに終わる。
第2楽章は伝統的なスケルツォ。ブラック・ユーモアが入って、おどけた楽章。
第3楽章は金管は無く、弦楽器と木管、ハープ、チェレスタ、鐘だけでの演奏。深い悲しみを讃え、情緒に溢れた楽章。
第4楽章は「暗」から「明」への歓喜の楽章ともされる。それまでの暗い雰囲気を一掃するような金管とティンパニの力強い行進曲で始まる。力強いフィナーレ。

曲の発表時にはソヴィエトでは大成功をおさめたが、当時の社会情勢でいろいろな解釈が行われている。ショスタコーヴィチの社会体制への批判とも受け取られる解釈もされているが、いろんな解釈が可能な作品ではある。
個人的には悲劇的な要素を中心に鑑賞することが多いが、今回は白紙に戻って先入観の無い聴き方をした。

秋山はこれまでに札響共演が119回にもなるが、ショスタコーヴィチの第5番は初めての指揮だったようである。曲に変化もあるせいか、いつもより大きな指揮ぶりのように思えた。
演奏終了後にブラヴォーの声があちこちから飛び、感動した聴衆の様子がホール中に広がって大声援が巻き起こった。端正な指揮ぶりで、終了後も礼儀正しい拍手喝采で終わる印象が今回は違った。

興奮が冷めない帰りのホワイエには神尾のサインを貰おうと並ぶ人々の列が続いていた。




オリジナル楽器で聴くブラームス(佐藤俊介X鈴木秀美Xスーアン・チャイ)演奏会

先月末の朝日新聞で浜離宮朝日ホール主催による室内楽コンサートの広告が目に入った。出演者と演奏曲目を見て札幌でも開催されたら良いのにと思っていた。先月27日のKitara小ホールで開かれた《クァルテット・エクセルシオ札幌定期演奏会》の会場で渡されたチラシに札幌でも東京と同じ演奏会があることを知った。7月はもう9回のコンサート鑑賞の予定が入っているが、当日は空いているので是非チケットを手に入れようと思った。
入場料に使用できる六花亭ポイントカードを妻から借りて近くにある支店で購入できた。店員の対応も感じが良くて、現金を使わないで済んで非常に得をした気分になった。

2017年7月4日(火) 午後7時開演  六花亭札幌本店 ふきのとうホール
〈出演〉佐藤俊介(Vn)、鈴木秀美(Vc)、スーアン・チャイ(フォルテピアノ)
〈曲目〉ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 op.100
            チェロ・ソナタ第1番 ホ短調 op.38
            ハンガリー舞曲より(抜粋) 3曲
            ピアノ三重奏曲第3番 ハ短調 op.101  

佐藤俊介(Shunsuke Sato)は1984年、東京生まれ。モダン、バロックの双方の楽器を弾きこなす世界的に有名なヴァイオリニスト。2歳からヴァイオリンを始め、4歳の時に父親の米国留学に伴って渡米し、カーティス音楽院教授に師事したあと、ジュリアード音楽院のプレ・カレッジでドロシー・ディレイと川崎雅夫に師事。10歳でフィラデルフィア管にデビュー。ボルティモア響、ナショナル響、シアトル響などと共演。2002年のディレイの死後、03年パリ移住。、パリ市芸術大学やエコール・ノルマル音楽院の特別奨学生に選ばれてジェラール・ブーレの下で更なる研鑽を積む。10年J.S.バッハ国際コンクールで第2位。13年よりアムステルダム音楽院古楽科教授。古楽のオーケストラのコンサート・マスターを務め、オランダ・バッハ教会の次期音楽監督に就任予定。オランダ在住で、国内オーケストラとの共演も多い。現在はヨーロッパを中心に活躍中で、日本に滞在中はソリスト、室内楽奏者として活動。

鈴木秀美(Hidemi Suzuki)は1957年、神戸生まれ。79年第48回日本音楽コンクールに優勝し、その後ハーグ王立音楽院でアンナー・ビルスマに師事。パリの第1回国際バロック・チェロ・コンクールで第1位。「18世紀オーケストラ」や「ラ・プティット・バンド」のメンバーを務め、兄の鈴木雅明が率いるBCJで創立以来、2014年まで首席ソロ奏者を務めた。チェリスト自身が創設した「リベラ・クラシカ」(*ハイドンの交響曲CDを何枚か所有)の指揮者としても活躍し、ヴェトナム、オーストラリア、ポーランド、オランダなどでも客演。13年、山形響首席客演指揮者に就任。現在、東京藝術大学非常勤講師、東京音楽大学客員教授として後進の指導にも当たる。

スーアン・チャイ(Shuann Chai)は中国出身の演奏家。ボストンのニューイングランド音楽院とオランダのハーグ王立音楽院に学ぶ。モダン・ピアノとヒストリカル・ピアノの双方の楽器の活動で注目を浴びている。最近ではオランダやパリの教会でベートーヴェンのリサイタルを開いている。中国、台湾、スコットランド、アメリカなどの音楽院や大学でマスター・クラスを開催。2013-14年シーズンの大部分はベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏に打ち込む。現在、ハーグ王立音楽院客員講師。(*音楽雑誌「ぶらあぼ」によると佐藤俊介の奥様という。)

午前中にブラームスのヴァイオリン・ソナタ第2番をはじめ、ピアノ四重奏曲やピアノ五重奏曲、チェロ・ソナタ、チェロとヴァイオリンのための協奏曲など手元にあったモダン楽器でのCDをたっぷり聴いて、バロック楽器との違いを把握しようとした。ブラームスがピアノを得意にしていたことを改めて認識することにもなった。

今回のコンサートは今までにない自由席で会場にはいつもより早めに出かけた。長い間、待ち望んだ佐藤俊介のコンサートでもあったので気持ちが高揚していた。

コンサートの開始前に鈴木秀美がステージに登場して、ステージのピアノについて話した。ブラームスが愛用していたピアノでブラームス博物館に展示されていたこともある1871年製の同型のウィーン式ピアノ。当時のピアノを日本の江森ピアノが購入して、彼の工房から借り出してきたとのこと。ブラームス時代のピアノで、まさにオリジナル楽器のヴァイオリン、チェロを含めて、曲が作られた当時の様子を優れた音楽家の演奏で楽しめる趣向になった。外観が黒でなく木製のピアノから受ける感じもいつものコンサートとの違いを浮きだたせた。

1曲目は今では“My favourites”となったヴァイオリン・ソナタ。第1番「雨の歌」は先日の千住真理子のストラデヴァリウスで聴いたばかり。今回はバロック・ヴァイオリンで聴く「第2番」。曲の規模も雰囲気も第1番に似ていて抒情的で美しいメロディが心に響く。2009年に寺神戸亮がバロック・ヴァイオリンやヴィオラ・ダ・ガンバを用いて弾いたバッハの曲の印象とは全然違った。モダン楽器で弾いているような感じがしたのが率直な印象。佐藤の演奏は生き生きとして柔らかく艶やかな演奏でロマンティックな気分に浸り、聴き惚れてしまった。
ピアノとも非常に良く調和していて素晴らしかった。ブラームスをオリジナル楽器で聴いて何の違和感もなかった。ブラームスの時代に使われていた弦は羊の腸をよじったガット弦だから、現在使われているスティール及びナイロン弦ではない。演奏技法も違うが、響く音に違いがあるのは何となく判っていた。

2曲目のチェロ・ソナタはデュ・プレ&バレンボイムのCD(68年録音の輸入盤)で時折聴くがモダン楽器による演奏だと思う。鈴木秀美のバッハの無伴奏チェロ全曲演奏会が二夜連続で2001年Kitaraで開かれた。多分、古楽器だったのだろうが、当時は意識していなかった。ブラームスの曲ではやはり、古楽器とモダン楽器の違いが出ていた。チェロの音が弱く、ピアノの綺麗な音が勝っている感じがした。
演奏終了後にブラヴォーの声を上げる人もいたので、コンサートの受け取りは人それぞれである。素晴らしい演奏には変わりがなくても、人々の鑑賞力には違いがあるのは当然と思った。

ハンガリー舞曲から抜粋されて演奏された3曲は「第1番」、「第14番」、「第2番」。ハンガリー舞曲21曲の原曲はピアノ連弾用。20歳ころから作られた曲は1872年にはピアノ曲編曲版が書かれ、ブラームス自身が管弦楽用に編曲した曲もある。ヴァイオリン曲への編曲版も親しまれているが、「第12番」は初めて聴いた。ハンガーリ舞曲は心を浮き立させる曲で楽しかった。

ピアノ曲は大好きだが、2台ピアノのための曲やピアノ三重奏曲にはそれほど親しんでいない。これらの曲は多くの作曲家が作品を遺しているらしい。ここニ三年はピアノ三重奏曲の演奏会が市内のあちこちで開かれるようになった。曲にタイトルが付いているベートーヴェン、チャイコフスキー、ドヴォルジャークのピアノ三重奏曲は知っていても、今回のブラームスの「ピアノ三重奏曲」は聴くのが初めてだった。
ブラームスはピアノ三重奏曲を3曲書いているが、今回の「第3番」はヴァイオリン・ソナタ第2番、チェロ・ソナタ第1番と同じ1886年に書かれた曲。当時のブラームスが慣れ親しんでいたシュトライヒャーピアノの馴染んだ音色が出ている作品と思われる。
第1楽章がアレグロで始まる力強い調べ、第2楽章はプレストでヴァイオリンは弱音器を付けて演奏され、文字通り全楽章とは違う対照的な低い音。第3楽章はアンダンテの緩徐楽章で美しい旋律、最終楽章はアレグロで動きのある激しいリズム。20分程度の曲で、ヴァイオリン・ソナタやチェロ・ソナタと趣が異なる曲で聴きなれないと今一歩良さが分からないと感じた。

演奏会終了後のサイン会に備えて、休憩中に佐藤俊介のCDを2枚購入した。話題を呼んだパガニーニとイザイの無伴奏曲は他のヴァィオリニストのCDを所有しているので、「テレマン:ヴァイオリンのための12の幻想曲」と「preludes(佐藤卓史とデュオの名曲集)」を手に入れた。佐藤俊介と佐藤卓史がデュオで7・8年ぐらい前に札幌市内の奥井理ギャラリーでコンサートを開いたことがあったが、その時は聴き逃した。いずれKitaraに来演すると思っていた。ピアニストは日本に本拠地を移してKitaraで聴く機会があったが、ヴァイオリニストは本拠地がオランダで一時的に帰国しても東京中心で札幌での演奏機会が無かった。念願のコンサートが聴けて凄く嬉しくなっていた。しばらく買わないようにしていたCDは一度に2枚も求めることになった。

サイン会に現れたチェリストと16年前のリサイタルやバッハ・コレギウム・ジャパンの話ができた。ヴァイオリニストはtelemannのCDに注目して、2枚も買ってくれたことに嬉しそうに快くサインをしてくれた。ピアニストにも英語で挨拶して場所を後にした。テーブルにはサインペンが用意してあったので、彼らのCDは買わなかったがプログラムにでもサインをもらえば良かったと後悔した。



           
プロフィール

fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR