ウォルトハウゼン デビューリサイタル(Kitara新専属オルガニスト)

札幌コンサートホールKitaraは2015年2月16日から4ヶ月間は改修工事のため休館となったため毎年9月から1年間に亘って活動するヨーロッパの若手オルガニストを招いていたプログラムを昨年の秋は招待を取りやめていた。今年の秋から新しい専属オルガニストを招く制度が再開された。今回は初めてアメリカ出身のオルガニストが専属オルガニストとなる。

第17代札幌コンサートホール専属オルガニスト 
ジョン・ウォルトハウゼン デビューリサイタル

2015年9月20日(日) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

John Walthausenは1991年、ニューヨーク生まれ。オーバリン大学でオルガンとチェンバロを学ぶ。2011年、パリ国立音楽院に入学してオルガンをオリヴィエ・ラトリー、ミシェル・ブヴァ―ルに師事。13年、最優秀の成績で修士課程を修了。欧米の各都市でリサイタルを開催し、国際オルガン・コンクールでも第1位を獲得。数多くの音楽祭にも招かれている。
現在は現代作曲家の作品を広く研究して演奏を行っている。

〈プログラム〉
 ブルーンズ(1665-97):前奏曲 ト長調
 J.S.バッハ(1685-1750):コラール「おお汚れなき神の子羊」 BWV656
                  (ライプツヒ・コラール集より)
 ヴィヴァルディ(1678-1741)(J.S.バッハ編):協奏曲 ニ短調 BWV596
 ローランド(1989- ):わたしの夢はただひとつの名を持ち
 ヴィエルヌ(1870-1937):オルガン交響曲第3番 嬰へ短調 作品28

名を初めて聞くブル-ンズはブクステフーデに師事したデンマーク出身のオルガニスト。31歳で亡くなり、生涯で遺したオルガン作品は4曲だけだった。最初に演奏されたのは5つの部分から構成された7分程度の曲。足鍵盤で2つの音を両足で同時に弾く奏法が珍しかった。

1曲目が終わって日本語で挨拶して聴衆の拍手を浴びた。
バッハのコラール集で何曲かメロディに親しんでいるものはあるが、この曲は馴染みではなかった。

ヴィヴァルディのオーケストラ作品は力強さ、華麗な演奏技術、和声の明瞭さでバッハの時代に人気があった。バッハはオーケストラでなくてもヴィヴァルディの作品が楽しめるように多くの楽曲をオルガンやチェンバロ用に編曲した。「協奏曲ニ短調」は力強い演奏であった。この曲は人気があるのか、第15代Kitara専属オルガニストのマリア・マグダレナ・カチョルがCDに収録しているのに帰宅してから気付いた。後日、聴いてみようと思う。

ウォルトハウゼンが好きな作曲家は“J.S.バッハと現代の作曲家”だそう。今回のリサイタルで彼の友人でもあるローランの作品を紹介した。ローランはフランスの作曲家で、彼が18歳の時に作曲した初めてのオルガン作品。最初から何とも独特な音の展開にビックリ。音楽祭のコンクールで特別賞を受賞した作品という。
曲を聴いた第一印象は“ニューヨークをバックグラウンドにする音楽はヨーロッパの教会音楽を基にした音楽とは土台が違う”というもの。後でプログラムの解説を読んでヨーロッパ出身の作曲家の作品と知って2度ビックリ。変な先入観は役立たずと思い知らされた。次回以降の現代の作曲家の作品を耳にする楽しみが増すことになった。

ヴィエルヌはバッハに次いでKitara専属オルガニストが演奏会やCDでその作品を多く演奏している作曲家。「幻想的小品集」と「オルガン交響曲」が特に有名な作品である。「オルガン交響曲第3番」は大曲で5楽章構成。情熱的で緊張感に満ちた作品。母親を亡くした悲しみや第一次世界大戦後の混乱に対する不安の他に、未来への希望などが表現されている。「楽器の女王」と呼ばれるオルガンを使って、管楽器を含むオーケストラの様々な音色を作り出すヴィエルヌの魅力を堪能した。

アンコール曲に「クープラン:修道院のためのミサより  テノールをティエルスで」を演奏した。

ここ1週間ボランティア活動やコンサート鑑賞で休む暇もなくて疲労感を覚えていた。体調も万全でないせいもあって鑑賞能力が低下していた感じ。そんな訳でいつものパッションが欠けていたのか演奏会に今ひとつ物足りなさを感じ取った。

オルガニストは9月1日に来札してから3週間足らずで初のコンサート開催。本人にとっては準備が大変だっただろうと思った。アメリカのオルガン音楽の紹介と日本文化に高い関心を寄せている。来日以来、何事にも意欲的に取り組んでいる様子。18日のKitara ボランティアの活動日に挨拶に現れて女性群からイケメンぶりが話題になった。ここ数年は30歳前後のオルガニストが来日していたが、久しぶりに若手のオルガニスト。ボランティアとオルガニストの交流意欲が一層高まる年になりそうである。

オルガン ウィンターコンサート

札幌雪まつり期間中にKitara Organ Winter Concert が恒例のオルガンコンサートとして例年開催されている。

2014年2月8日(日)15:00開演 札幌コンサートホールKitara大ホール
 
出演/ モニカ・メルツォ―ヴァ(第5代札幌コンサート専属オルガニスト)

Monica Melcovaは1974年スロヴァキア生まれ。94年スロヴァキアの音楽院を経て、99年ウィ-ン国立音楽大学で音楽修士号を取得。同年パリ高等音楽院でオリヴィエ・ラトリーに師事。国際コンクールで数々の賞を受賞。2002年札幌コンサートホールKitara専属オルガニストに就任。サントリーホールはじめ国内の主要なホールなどでの演奏活動を積極的に展開。帰国後03~11年は教会オルガニストを務め、06-11年は音楽院にて教鞭をとるなど幅広い活動を行っている。リサイタルの他にヨーロッパや日本でのマスタークラスも担当している。
彼女のオルガン演奏をKitaraで聴いたのは04年、07年、11年、13年に続いて今回が5回目である。13年のウィンターコンサートの模様をブログで書いた時に予想以上のアクセスがあったのは日本での知名度が高かったためと思われる。
 
〈プログラム〉
 ポワヴァン:オルガン曲集より
 J.S.バッハ:フーガ ト短調 BWV578 「小フーガ」
         シューブラ―・コラール集より「ただ神の摂理に任す者」BWV647
         トッカータとフーガ ヘ長調 BWV540
 モニカ・メルツォ―ヴァ:即興演奏
 フォーレ(パイパー編曲):パヴァ―ヌ 作品50
 ヴィエルヌ:幻想的小品集より 「ウェストミンスターの鐘」 作品54-6

ボワヴァン(1649年頃-1706)はその名を初めて聞くフランスのオルガニスト。彼が残したオルガン曲集から5曲が続けて演奏された。フルートやトランペットなどの音色をもつフランスのバロック様式の作品らしいが、バッハとは違う色彩の曲。

バッハ(1685-1750)の「小フーガ」は美しくて親しみ易い旋律を主題とした4声部のフーガ。繰り返して登場するので耳慣れている。ニ短調の「トッカータとフーガ」と同じくらい有名な曲。
シュ―ブラ―・コラール集はバッハの弟子のシューブラ―が出版したためにその名で呼ばれる。全6曲(BWV645~650)から成るコラール集の第4曲がオルガン曲に編曲された作品。マリー=クレール・アランのCDでも聴いて親しんでいるが、第1曲「目覚めよ、と呼ぶ声あり」が度々コンサートで演奏されて、聴く機会が最も多い。
ヘ長調の「トッカータとフーガ」はバッハのオルガン曲の中で最も成熟した作品のひとつとされる。

モニカ・メルツォーヴァは現在スペイン在住でバスク地方の音楽院で即興演奏を担当している。ヨーロッパや日本でのマスター・クラスも行っていて即興演奏も得意である。今回はNHK朝のテレビ小説のテーマ曲「中島みゆき:麦の唄」による即興演奏を披露した。客席を埋めた聴衆誰もが知る曲を主題にしての即興演奏は丁度テレビ小説の舞台が北海道ということもありタイミングも良く彼女の知日ぶりがうかがえた。

フォーレ(1845-1924)の「パヴァ―ヌ」はオリジナルはピアノ曲で、列になって踊るスペインの宮廷のゆったりとした舞踊曲。合唱付きの管弦楽版の方がよく知られている。オルガン曲に編曲した作品も美しい音色で素晴らしい。

ヴィエルヌ(1870-1937)の「幻想的小品集」は4つの組曲が入る作品51-54.。彼の小品集の作曲によって《コンサートのためのオルガン音楽》が普及したと言われる。Kitaraの歴代のオルガニストも彼の小品集を好んで演奏している。この作品は交響楽的な響きを持つフランス製の大型オルガンのために書かれ、ロンドンのオルガン制作者に献呈された。
「ウエストミンスターの鐘」は作品54の第6曲。1929年パリ・ノートルダム大聖堂でヴィエルヌによって初演された。
「ウエストミンスターの鐘」は日本では学校のチャイムのメロディとして知られている。授業の開始時と終了時に鳴る“キーンコーンカーンコーン”。どのくらいの聴衆がこのメロディに気付いたが知りたいものである。(尚、この曲は昨年8月にオクタヴィアン・ソニエがフェアウエル・コンサートで演奏した。)

メルツォ―ヴァは適切な箇所で日本語で挨拶したり、曲の説明を入れた。アンコール曲の説明は英語でなされた。
「スカルラッティ:ソナタ ヘ長調K.466」、「スロヴァキアのポピュラーソングによる即興演奏」。
聴衆の反応を見ながら、アンコール曲を演奏する配慮なども好感が持てた。

ステージに置いたスクリーンで常時オルガン演奏の模様が映されていたのは大変良かった。手鍵盤や足鍵盤を使う様が見て取れた。また、プログラムを見なくても、演奏前にスクリーンに演目が映し出されるのは効果的であった。「トッカータとフーガ」で足鍵盤だけを使っている場面が数分間も続いた場面は画像がハッキリ見えて良かった。(女性奏者は足鍵盤の演奏ではかなり力が必要とされることを痛感した。)

1時間の充実したコンサート。雪まつり期間中の開催で孫を連れた客や観光客も目立った。3階まで埋めた客で1600名ほどの客の入り。オルガンコンサートとしては大入りと言える。生憎の雨模様で中島公園内の「ゆきあかり街道」は楽しめなかったが、コンサート開催に向けての主催者Kitara事務局の取り組み方が良くて全体として近年のウインターコンサートとして素晴らしかったと思う。

演奏終了後の聴衆の満足度も大。 メルツォ―ヴァのCDを今まで購入していなかったので、今回は買うつもりでいた。サイン会に並んでいつものように感想を英語で述べてCDにサインをして貰った。(“CDを買わなくてもサインはもらえます”と言って、オルガニストとの交流をすすめる案内も良かった。)終了後の1階ホアイエは賑わっていてコンサートの余韻が漂っていた。

クリスマス オルガンコンサート

Kitara恒例のクリスマス オルガンコンサートを聴くのは久しぶりである。今年はホルンの名手バボラークが出演して例年のオルガンと合唱のプログラムに彩りを添える楽しみなプログラム。

2014年12月14日(日) 17:00開演 札幌コンサートホール Kitara大ホール

ホルン/ ラデク・バボラーク
オルガン/ アレシュ・バールタ
指揮/大木秀一   合唱/ 北海道札幌旭丘高等学校合唱部

ラデク・バボラーク(Radek Baborak)は1976年、チェコ生まれ。ミュンヘン国際コンクール優勝。これまでチェコ・フィル、ミュンヘン・フィル、バンベルク響、ベルリン・フィルのソロ・ホルン奏者を歴任。ベルリン・フィル首席奏者を辞任して、チェコ・シンフォニエッタを創設して、より自由な演奏活動を行なっている。水戸室内管など日本での活動も相変わらずで、近年は指揮者としての活躍も目覚ましく、昨年のPMFの室内楽でも指揮活動が目立った。

アレシュ・バールタ(Alesh Barta)は1960年、チェコ生まれ。ブルノ音楽院、プラハ芸術アカデミーで学ぶ。82年、ブルックナー国際オルガンコンクール優勝。83年、リスト国際オルガンコンクール第2位。84年、「プラハの春」国際音楽オルガンコンクールで圧倒的第1位を獲得して、海外での活躍の舞台を広げた。リサイタル活動の他にチェコ・フィル等のオーケストラとも共演。95年からプラハ放送響の専属ソリストに就任。

〈PROGRAM〉
★ホルンとオルガン
  J.S.バッハ:コラール「われらが神はかたき砦」BWV720
         アリア「汝、わがそばにあらば」BWV508
         コラール「目覚めよ、と呼ぶ声あり」BWV645
  ブラウン:無伴奏ホルンのための12の前奏曲より 第7番、第8番、第11番 [ホルンソロ]
  リスト:バッハの名による前奏曲とフーガ S.260 [オルガン ソロ]
  ブルックナー(ボク編):交響曲第7番 ホ長調 作品107より 第2楽章アダージョ
  ボク:ホルンとオルガンのためのマニフィカト(新作委嘱)
  サン=サーンス:ホルンとオルガンのためのアンダンテ ヘ長調
  ボク:夢見るクリスマス・キャロル
 ★合唱とオルガン
  クリスマス・キャロル/森友紀編:もろびとこぞりて、信長貴富編:オー・ホーリー・ナイト
  フランク:天使の糧
  カッチーニ/江上孝則編:アヴェ・マリア
  ラター:エンジェルズ・キャロル

バッハのオルガン曲には“コラール”と銘打った小品が沢山ある。最も有名なコラールの1曲が「目覚めよ、と呼ぶ声あり」で演奏される機会も多くて、メロディも耳に馴染んでいる。ホルンとオルガンの共演は勿論はじめてだった。
ブラウン(1922-2014)の名も曲も初めて耳にする。彼はドイツ生まれだが、イスラエル育ちで、バボラークとの繋がりが深い作曲家であったと言う。バボラークの特殊才能を生かしての作品なのだろう。
リストがオルガン曲として残した有名な曲。今までかなりオルガン曲の生演奏を聴いてきたが、運指の速さが想像できないほど凄かった。目では見れなかったが、正に超絶技巧を要する曲で印象に残った。教会音楽というより演奏会用音楽なのではないだろうか。
ブルックナーは苦手な作曲家の一人。彼の交響曲で第4番と第7番だけは比較的に親しみ易い曲。カラヤン指揮ベルリン・フィルのCDで偶に聴くが、めったに聴かない。今日に備えて「第7番第2楽章」だけきいてみたが、このアダージョが聴いていてとても心地良かった。マーラーの「第5番」のアダージョと同じように親しめて新鮮な感じがした。今回は20分ほどの楽章が編曲されて10分ほどの曲になって演奏されたが、原曲の良さは余り感じ取れなかった。それでもブルックナーを聴き直す切っ掛けになるかも知れない演奏曲になったので良かった。バールタはブルックナーとリストが得意なようである。

バボラークの演奏は何度耳にしても素晴らしい。ホルンからどうやってあのような綺麗な音が生まれるのか不思議なほどである。

前半最後のブックナーの編曲を手がけたミロシュ・ボク(1968- )はチェコの作曲家で、指揮者・ピアニストとしても活躍していると言う。バボラークが結成した〈チェコ・ホルン・コーラス〉のためにブルックナーの声楽作品を編曲したり、バボラークのためにも編曲や作曲活動を行っているとの事。今回の演奏会で披露される委嘱新作「マニフィカト」もバボラークならではの試みだと思う。
サン=サーンス(1835-1921)は作曲家としてだけでなく、教会オルガニストを務め、ピアノの名手でもあり文学や数学にも秀でる才能の持ち主として知られた。この作品は1835年頃に書かれたらしいが、譜面が1980年代に再発見されたと言う。まだ演奏も録音の機会も珍しい曲。
昔から親しまれているクリスマス・キャロルは全8曲からなるオーケストラ作品であるが、ボクがホルンとオルガンのために編曲した。

前半が終わって18時。休憩20分。後半の「ホルンとオルガン」のプログラムが30分弱。「合唱とオルガン」のプログラムが始まったのが18時50分。

今年はクリスマスコンサートの飾りが大ホールには無かったが、合唱が始まると同時に照明器具を使ってステ―ジ横の壁にステンドグラスが描かれ教会内の雰囲気が広がった。日本で最も優秀な高校合唱部の一つとして実績のある北海道旭丘高等学校合唱部が出演。
クリスマス時期に歌われる名曲の中から5曲を披露した。フランク作曲の讃美歌がソプラノのソロと合唱で歌われた。ソリストの透明感のある美声は素晴らしかった。合唱曲も静かにクリスマスを祝う雰囲気が醸し出されてホールに優しく広がった。さすが全国で注目される合唱部の面目躍如の歌声。今回は1・2年生だけの出演ということだっだが、音楽専門の顧問の指導力もあって、見事で高度な合唱を聴かせてもらった。
アンコール・ピースは「きよしこの夜」。照明の演出で夜空に満天の星が輝く中で、空まで届きそうな優しい歌声が響き渡った。とても清々しい気分になった。
合唱部員全員が退場するまで拍手を続ける観客の姿に満足の様子と合唱部員への称賛の気持ちが読み取れた。

大ホールのホアイエでは出演者のCDを買ってサイン会に並ぶ人々の列が延々と続いていた。
17時開演で大ホールを埋めるのは難しい。前半で席を立つ人や、合唱が始まる前に帰った人は素晴らしいクリスマスの歌の響きを聴き逃して勿体ない気がした。クリスマスのコンサートは土日開催では15時開演の方が客が多く入ると思う。

*バボラーク&バールタ デュオ・リサイタルが12月8日に水戸芸術館コンサートホールで開かれ、Kitaraとほぼ同様のコンサートがあった。12月16日には東京芸術劇場でパイプオルガンコンサートがあり二人が共演する予定。

オルガン名曲コンサート (ジャン=フィリップ・メルカールト)

例年10月は札幌コンサートホール新専属オルガニストがKitaraでデビュー・リサイタルを開催してきた。2015年2月16日から6月16日までKitaraが休館することになるために、14年9月~15年8月の期間は専属オルガニストは不在となる。その間は他のオルガニストが恒例のオルガン・コンサートに出演することになる。
この秋のコンサートは第6代専属オルガニストとして活躍したメルカールトが出演する。

2014年10月4日(土) 14:00開演  札幌コンサートホール Kitara大ホール

〈プログラム〉
 フォーレ(メルカールト編曲):組曲「ペレアストとメリザンド」 作品80
 サン=サーンス(ルメア編曲):死の舞踏 作品40
 ドビュッシー(メルカールト編曲):牧神の午後への前奏曲
 フランク(メルカールト編曲):交響曲 ニ短調

ジャン=フィリップ・メルカールト(Jean-Philippe Merckaert)は1980年、ベルギー生まれ。00年にパリ国立高等音楽院に入学し、オルガンをオリヴィエ・ラトリーに師事。05年、同音楽院をプリミエ・プリを得て卒業。在学中の03年、札幌コンサートホール第6代専属オルガニストに就任。任期中、日本各地でソロリサイタルやオーケストラとの共演を行ない、オルガン教育にも携わった。08年、ブリュッセル王立音楽院にて修士号を取得。07年、ドイツ・フライベルクのジルバーマン国際音楽コンクール第2位。09年、ブルージュ国際古楽コンクールオルガン部門第2位。
11年4月~14年3月まで所沢市民文化センター・ミューズ第2代ホールオルガニストを務めた。07年から活動拠点を日本に移して、サントリーホール、東京オペラシティ、横浜みなとみらいホール、京都コンサートホールなど国内主要ホールに出演。現在、栃木県・那須野が原ハーモニーホールオルガニストを務めている。

メルカールトはKitaraではメルケールと呼ばれていた。(ベルギーの北半分のフランダース地方ではオランダ語、南半分のワロン地方ではフランス語が話されている。 07年までKitaraでは彼の名をフランス語読みにしていた。所沢ミューズでオランダ語読みになったので、Kitaraでも11年以降の出演の際はオランダ語読みになったと思われる。)
私は彼が出演するコンサートを初めて聴いたのが03年のクリスマス・オルガンコンサート、04年のオルガンフェスティヴァルとKitaraのバースディ、07年のリサイタルの4回。ドイツ、フランスの作曲家の他にベルギーの作曲家の曲も取り上げ、協奏曲の演奏も行うなど意欲的なプログラミングが目立った。

今回はオーケストラの編曲ものばかりのプログラムで期待大であった。作曲法も学び、オルガンという楽器の可能性を広げる活動で、有名なオーケストラ曲を自らオルガン曲に編曲して演奏する能力は誰しも出来ることではない。Kitaraのオルガンの特徴を生かした曲の選定がうかがえた。

日本在住で日本語も不自由しないのか、上手で丁寧な日本語で挨拶。3年ぶりのKitara出演で今回のコンサートを楽しみにしていたとのこと。挨拶の内容から日本の聴衆の求めているものを充分に知っている様子であった。聴衆の再三の拍手を浴び、プログラムを告げて演奏開始。

メーテルリンクの戯曲「ぺレアスとメリザンド」はオペラになっているが、その抜粋による管弦楽組曲としても知られている。「前奏曲」、「糸を紡ぐ女」、「シシリエンヌ」、「メリザンドの死」の4曲が演奏された。3曲目が何回か聴いたことのある馴染みのメロディだった。フォーレはオルガニストでもあったせいか、オルガン曲にもアレンジしやすかったらしい。

交響詩「死の舞踏」は真夜中に骸骨たちが現れて踊る情景が描かれ、夜明けに墓に戻って静寂になるストーリー。原曲は知らないが、オルガン編曲はとても面白かった。

ドビュッシーがマラルメの詩「牧神の午後」にインスピレーションを得て作曲し、当時は大きな反響を呼んだ作品。甘美なまでに美しい音色に満ち溢れ、印象派の絵画を思わせる色彩感で幻想的な雰囲気を持つ管弦楽曲。あまりにも有名な原曲をオルガン曲に編曲して良さを出すのは難しかったように思った。

前半3曲はそれぞれ10分前後の曲で、全体的に楽しめた。譜めくりすとをメルカールトの妻であるオルガニストの徳岡めぐみが務めた。オーケストラ曲の編曲には沢山の音色を使うので、レジストレーションを記録するメモリーが足りなくなって準備が大変だった様子。休憩時間に後半のプログラムのために音色を記録しなおす作業を強いられたらしい。アシスタントを務めた妻の裏方の仕事も評価される演奏会。(*Kitara「オルゲル新聞」からの情報による)
譜面をめくる作業は通常オルガニストの右側で行われるが、今日は時折左側からも行っていた。オルガニストの手鍵盤や足鍵盤の使い方を演奏中に観たい場合にRA席のオルガンに一番近い席に座る客には行き届いた配慮だった。(左側から譜めくりしていた理由は知らないが、、、。オルガン演奏会でRA席を選んで困惑している客をよく見かける。)

後半はベルギー出身のフランクの唯一の交響曲。通常の交響曲とは趣の違う曲。交響曲には珍しい3楽章構成。フランクは長年オルガニストを務めてオルガンの名手であっただけに、オルガン的技法が壮麗な響きに現れている。
今まで生演奏で聴いたこともあるが、今日のオルガン編曲の方が感動しやすい曲に感じられた。40分を越える大曲の編曲であったが、編曲作業にかなりの時間を要したと思われる。今回のコンサートのメイン曲となった。

アンコール曲に「サン=サーンス:組曲「動物の謝肉祭」より第13曲「白鳥」。「白鳥」は独立したチェロの作品として演奏されることが多い馴染みの曲。このような名曲をオルガン曲にすると、オルガン演奏会に足を運ぶ人も増えるのではないかと常日頃思っている。今日は客の入りは良かった方である。

演奏終了後ホアイエでメルカールトのCDを買ってサインを貰った。サイン会ではいつものように感想を述べたが、丁寧にフル・ネームでサインしてくれた。デビューから10年も経つが若くて爽やかな印象は変わらなかった。最後に“I hope you will come back.”と言うと“Me,too.”と答えてくれた。後方に思ったより多くの人がサイン会の列に並んでいた。

オクタヴィアン・ソニエ フェアウェル オルガンリサイタル

Kitara第16代専属オルガニスト、オクタヴィアン・ソニエの1年間の任期の締めくくりとなるサヨナラ公演。

2014年8月24日(日) 14:00開演 札幌コンサートホール Kitara大ホール

〈プログラム〉
 メシアン:永遠の教会の出現、 天上の宴
 J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調 BWV565
 ヴィヴァルディ(J.S.バッハ編曲):協奏曲 ニ短調 BWV596
 J.S.バッハ:トリオ・ソナタ 第6番 ト長調 BWV530より 第1楽章
 ヘンデル(ギュー編曲):オルガン協奏曲 ニ短調 作品7-4 HWV309より 第2楽章
 メシアン:キリストの昇天
 デュリュフレ:オルガン組曲 作品5
 ヴィエルヌ:幻想的小品集より 「ウェストミンスターの鐘」 作品54-6

オクタヴィアンは昨年9月の専属オルガニスト就任以来、東京・京都でのコンサート・ホールや道内の教会での演奏会を含めてこの1年間で30以上ものコンサートに出演してエネルギッシュな活動を続けてきた。本日が文字通りのサヨナラ公演。

13年10月のデビューリサイタルではメシアンの曲で締めたが、今日はメシアンの曲から始まった。
メシアン(1908-92)は2008年の生誕100年記念で「トゥ-ランガリラ交響曲」など彼の曲を聴く機会が増えた。鑑賞が難しい作曲家と思っていたが、この2つのオルガン曲は意外と心に沁みた。
パリ音楽院でメシアンの教えを受けた加古隆が数年前にパリを訪れ、メシアンが弾いていたノートルダム大寺院のオルガンに耳を傾けるテレビ番組を見た。その時の教会のイメージを目を閉じながらオクタヴィアンの演奏に聴き入った。普段のKitaraのオルガンと違った聴き方が出来た。現代のオルガンの持つ音量や演奏者の高度な演奏技法とはあまり関係のない宗教音楽が美しく流れた。 純粋で清楚な温かい響きがした。

打って変って、最も馴染みのあるオルガン曲である「バッハ:トッカータとフーガBWV565」は今まで何十回と聴いてきた演奏で一番印象に残った。前2曲と対照的な演奏となったので、なおさらこの曲がダイナミックで新鮮に感じられたのだと思う。

ヴィヴァルディ(1684-1741)からイタリア音楽の影響を受けたバッハ(1685-1750)のこの編曲は明るい雰囲気でヴィヴァルディらしさがあると感じた。何となく聴いたことがあると思ったら、この曲は第15代の専属オルガニストのマグダレナ・カチョルが録音したCDに入っていた。

休憩直後の2曲はオルガン曲としては大曲になると思う。

メシアンの「キリストの昇天」はその一部を聴いたことがあるが全曲は初めてである。オクタヴィアンの解説によると、この曲集は元々オーケストラのために書かれたものがオルガン用に編曲されたと言う。この曲は何度か聴かないと良さが伝わってこないと感じた。

デュリュフレ(1902-86)の名はオルガン曲は好みではなくても判るほどになった。何度か彼の小品は演奏会で耳にしている。《オルガン組曲 作品5》は彼の最も有名な作品のひとつだそうである。「前奏曲」、「シチリアーナ」、「トッカータ」の3つの楽章から成る。ドラマティックで緊張感に満ちた「前奏曲」に続いて、清らかな旋律で詩情豊かな「シチリアーナ」。最後の「トッカータ」は技巧的で非常に力強い主題が足鍵盤で演奏された。
第11代の専属オルガニストのシンディ・カスティーヨが「シチリアーナ」の楽章をCDに録音していた。オルガン曲は詳しくないので手元のCDで演奏会前後に聴いて親しむようにしている。

ヴィエルヌ(1870-1937)の名もKitaraでオルガン曲を聴いて知った。彼は小品を多く作曲しているためか、オルガンリサイタルで演奏されたり歴代の専属オルガニストがCDに好んで録音している。
「幻想的小品集」は4つの組曲がある。作品51~54。オクタヴィアンによると、彼の小品集の作曲によって「コンサートのためのオルガン音楽」が普及したそうである。
「ウェストミンスターの鐘」は作品54の終曲である。ヴィエルヌはチャイムのメロディをモチーフとして作曲した。荘厳で力強い作品になっている。
日本で学校などで放送されている「キーンコーンカーンコーン」のチャイムのメロディとして知られている。(ウエストミンスターの鐘は日本では学校のチャイムとして始業、終業のチャイムとして親しまれ、今日でも使っている学校があるのではないか。)
 
演奏終了後に日本語で丁寧な挨拶があり、彼のオルガン伴奏に合わせて聴衆が「金子詔一:今日の日はさようなら」を歌った。日本のメロディと歌詞が気に入って日本の聴衆と一緒に音楽を楽しみたいと思ったようである。「今日の日はさようなら またあう日まで」の最後の歌詞に想いを込めたのではないだろうか。

アンコールとして上記の曲を最後にした方が良かったと思ったが、最後のアンコール曲として「モーツァルト:アンダンテ ヘ長調 K.616」を演奏した。この曲は〈自動オルガンのための〉曲として作られた。誰でも耳にした曲としてそのメロディが親しまれている。自動オルガンのため長々と続いた感があったのが少々気にかかった。本人にとっては時間がまだまだ欲しい演奏会だったのだろう。終演時間が16時半近くになっていた。彼のCDを購入しようかと思ったが、時間的余裕がなかったので別の機会にすることにした。多分、サイン会に多くの人が並んだのではないかと思った。5、6年前にKitaraボランティアとして演奏会当日にサイン会を開いたらどうかと提案したことがあった。

異文化に接し、日本語、日本の数々の文化を積極的に吸収した意欲的な日本でのこの1年間はオクタヴィアンにとって掛け替えのない経験になったことに祝意を表したい。 きっとKitaraに帰ってこれるだろうし、帰ってきてほしいと願う。

***ロンドンにあるウェストミンスター宮殿(英国国会議事堂)に付属する時計塔(ビッグ・ベン)が奏でるメロディが「ウェストミンスターの鐘」。時計塔は1859年に創設され、正式名は“Clock Tower”。通称“Big Ben”として親しまれている。ビッグ・ベンは中にある鐘の名前であるが、現在では時計塔全体、時計本体の名称として知られている。2012年6月にエリザベス2世の在位60周年を記念して、同年9月に時計塔の正式名が“Elizabeth Tower”に改称された。ただ「エリザベス・タワー」が正式名になったとは言え、長年に亘ってロンドン市民に親しまれてきている「ビッグ・ベン」の愛称が変わらないかも知れない。
「札幌市時計台」(旧札幌農学校演武場)でボランティア活動に携わって6年目になる。札幌市時計台の時計は米国ボストン市ハワード社製で1881年に設置された。133年を経た現在も、重り巻き上げ方式で正確に時を刻んでいる。明治時代に創設された唯一の日本最古の塔時計である。
上記の「クロック・タワー」の正式名を知らなかったイギリス人も、現在では「エリザベス・タワー」と呼ぶ人が増えていると思う。今後、定着するかどうかはわからない。今月、ボランティア活動でたまたま話題が時計塔に及んだ時に初耳だという人が多かったのでここで言及してみた。






プロフィール

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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