福間洸太朗のマイアミ国際音楽祭での演奏

数日前に「Twitter のハイライト」ということで私のメールに福間洸太朗(KOTARO FUKUMA)が2017年2月19日に米国フロリダ州マイアミ音楽祭に参加した時の様子がyoutubeで流され、福間のtwitterが届けられた。3月1日に電波にのり拡散し始めているようだ。「ショパン:バラード第1番」を早速聴いてみた。

福間は1982年、東京生まれ。都立武蔵高校卒業後、01年パリ国立高等音楽院に学んでディプロマ取得後、ベルリン大学・同大学院でも学んだ。14歳でジーナ・バッカウアー国際コンクールに入賞するなど、1998年にはPTNAを含む4つの国内コンクールで優勝。2003年クリーヴランド国際ピアノコンクールで日本人初優勝の快挙が注目を集めた。ベルリン在住で国際的に活躍している将来を嘱望される中堅ピアニスト。
今から5・6年前にシューマンのピアノ曲や室内楽曲を中心にCDをかなり買い求めた。その内の一枚が2004年カナダで録音された〈期待の新進演奏家シリーズ/福間洸太朗(ピアノ)〉。NAXOSのシューマン。収録曲が「アベック変奏曲」、「8つのノヴェレッテ」、「3つの幻想的小曲」。力任せに弾かない演奏でシューマンの魅力的なロマンティシズムに溢れた調べを時たま耳にする。

札幌で一度は聴きたいピアニストが何人かいるが、福間はその一人である。丁度よい機会だと思って聴いて観た「バラード1番」の後に「スメタナ(福間編):モルダウ」、「ショパン:英雄ポロネーズ」、「グリーグ:5つの抒情小品」。40分程度の演奏に対するマイアミの聴衆の熱狂的な反応もあって盛り上がった満足のいくコンサート。好感度の良いピアニストだと思っていたが、堂々たる演奏に日本を代表する若手の一人としてアメリカでの知名度も高いようであった。予定せずに急に耳にしたが、ホールの迫力が伝わって来る聴き方ができて予想外の収穫を得て嬉しい気持ちになった。

毎年、札幌で聴いているピアニストは小山実稚恵、外山啓介、及川浩治、近藤嘉宏である。札響との共演などで聴いてはいるが、小菅優、田村響、北村朋幹などの若手のリサイタルは是非聴きたい。金子三勇士、萩原麻未などはなかなか聴く機会が無くて残念である。今一番楽しみにしているのが反田恭介のリサイタル。8月3日の札幌公演が待ち遠しい。

仲道郁代 マイ・フェイヴァリット(デビュー30周年を彩るピアノ名曲集)

仲道郁代のピアノ演奏を初めて聴いたのが1989年4月(第302回札響定期)。山田一雄指揮札響と共演して「ベート―ヴェン:ピアノ協奏曲第4番」を弾いた。ベートーヴェンのピアノ協奏曲は「皇帝」しか聴いていなかったので、「第4番」も素晴らしい曲と印象づけられたコンサートとして忘れ難い。
2000年2月にはヤマハ・ピアノ100周年記念コンサート(Kitara大ホール)でリサイタルが開かれた。同年にはKitara札響特別演奏会として「皇帝」が演奏されたこともあった。その後、09年にソプラノとピアノのデュオ・リサイタルを聴いたが、その後はこの日本を代表するピアニストの演奏を聴く機会がなかった。出来れば本格的なプログラム構成の演奏会が好みではあったが、今回のピアノ名曲集を聴いてみることにした。彼女のコンサートを聴くのは7度目である。

Ikuyo Nakamichiは1963年、仙台生まれ。12歳の時に父親の仕事の関係でアメリカに渡り、その後、桐朋学園大学1年在学中に日本音楽コンクール優勝。1985-87年ミュンヘン音楽大学に留学。この間、ジュネーヴ国際コンクールなどで好成績を収め、国内外で活発な活動を展開。海外のオーケストラとの共演も数多く、実力と人気を兼ね備えて常に新たな試みに挑戦し続けているピアニスト。
仲道は札幌コンサートホールでは2014年から3年にわたって【Kitara Kidsミュージック&アーツクラブ】で音楽とアートのワークショップを通じ、子どもたちと温かい交流を重ねている。今回のプログラムは【Kitaraクラシック入門講座】として開催されたが一連の活動と繋がる催しの趣旨があったのかもしれない。

2017年1月21日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール
〈Program〉
 グリーグ:《抒情小曲集》より 「アリエッタ」、「蝶々」、「ノクターン」
 シューマン:《子供の情景》より 「トロイメライ」 作品15-7
 シューマン(リスト編):歌曲集《ミルテの花》より「献呈」 作品25-1 S.566
 リスト:愛の夢 第3番 変イ長調 S.541
     メフィスト・ワルツ第1番 「村の居酒屋での踊り」 S.514
 ショパン:ワルツ第1番 変ホ長調 「華麗なる大円舞曲」 作品18
       ワルツ第3番 イ短調 作品34-2 
       スケルツォ第2番 変ロ長調 作品31
       ポロネーズ第6番 変イ長調 「英雄」 作品53

仲道は作曲家と演奏曲の解説や魅力を話しながらコンサートを進めた。彼女が音楽の魅力にはまったエピソードなどを織り交ぜながら名曲(Her Favorites)を紹介した。
彼女の母は彼女が胎児のころにグリーグのピアノ協奏曲を好んで弾いていたという。その影響か彼女は北欧のショパンと呼ばれることもあるグリーグの曲に親しんだそうである。「抒情小曲集」は10集70曲ほどの中から3曲。聴いたことがあるのは「蝶々」だけ。聴く者の心にしみる短い曲を続けて演奏した。

クララとの9年にわたる恋が実って結婚に至ったシューマンが結婚前夜にクララのために書いた歌曲。リストから贈られたピアノ独奏用の編曲が余りにも華やかだったので、クララは“私たちの愛をこんなにゴージャスにして”と怒ったという。この彼女の反応は初耳であった。
「トロイメライ」と「愛の夢」は「夢」が共通している。「夢」や「憧れ」を4度や6度の音程の違いで表現する話は興味深かった。
仲道はミシガン州に滞在していた折にホロヴィッツの演奏を聴く幸運に恵まれたという。(*彼がニューヨーク以外で演奏する機会は稀有のことであり、演奏会のチケットを手にするのも容易ではない時代であった。)彼の弾いた2音を聴いただけで涙がこぼれたという。2音だけで人の心を動かす音楽に出会って彼女の人生の行方が決まった。ホロヴィッツの「トロイメライ」演奏に感銘を受けたエピソード。

「メフィスト・ワルツ第1番」はリストならではの超絶技巧が凝らされたピアノ独奏曲。演奏する姿を観ながら今ではすっかりこの曲の魅力に取り込まれている。10分余りの運指の速さにピアニストの技量と表現力に魅了された。演奏終了後に歓声が沸き起こった。

後半のプログラムはショパンの曲。彼がワルシャワを離れ、ウィーンに移り、ウィンナー・ワルツとは違う独自の芸術的香りに満ちたワルツを作り上げていく様子が語られた。パリへ移住した後も故国ポーランドに想いを馳せながら過ごした作曲家の人生は曲とともに人々の心を打つ。ショパンの人生の一端を初めて聞いた子どもたちもいたように思う。対照的な2曲のワルツの紹介も良かった。
ショパンが残した4曲のスケルツォ。交響曲の第3楽章に使われていた曲調でショパンが独自のジャンルを作り上げた。「第2番」は聴く機会が多くて4曲中で最も親しまれている。緊迫した雰囲気を持ち、ドラマティックな展開で魅力的な作品。仲道はこの曲を“黒いマント”と何度か呼んだ。

「ポロネーズ」や「マズルカ」はポーランドの民族舞曲。ポロネーズは全16曲のうち、タイトルがついた「第3番 軍隊」、「第7番 幻想ポロネーズ」の他に、「第6番 英雄」が有名である。最も有名で演奏機会の多い第6番は「英雄ポロネーズ」として親しまれている。勇壮な行進曲で2列となって戦争に備えて堂々と行進する姿が印象的である。ポーランドは他国に支配される不幸な状況下に置かれてきた歴史がある。ショパンとポーランドは音楽では切り離せない繋がりである。

アンコール曲は3曲。①ショパン:エチュード「革命」、 ②ショパン:エチュード「別れの曲」、(*「別れ」は短調が多いのが当然と思っていたが、この曲は長調と説明があった。明るい曲として長年にわたって聴き親しんでいるが、改めて調性を意識した。) ③エルガー:愛の挨拶。

チケットは完売であったが、1階席中央の数列で空席が何席も続いているのが気になった。1階席の端や2階バルコニーも埋まっている中でチョット嫌な感じがした。招待券が無駄になっているとしたら勿体ない。


※先週の「クラシック音楽館」(1月15日)の放送で10:30pm~11:00pmまで仲道郁代がゲストでプレイエル(1827年製)とスタインウェイの2台のピアノを使って興味深い演奏を行った。(*彼女は自宅にピアノを4台所有しているはずだから彼女所有のピアノで演奏したと思った)。ピアニストのデビュー30周年を祝ってのオール・ショパン・プログラム。演奏曲は「ノクターン op.9-2」、「練習曲 op.10-3」、「前奏曲 op.28-7」、「練習曲 op.25-1」(以上プレイエル)、「幻想即興曲」、「ワルツ op34-2」(以上スタインウェイ)。ショパンが使っていた時代のピアノと現代のモダン・ピアノでの響きの違いが出ていて面白かった。

チョ・ソンジン ピアノ・リサイタル

ライヴ・コンサートは昨年12月23日以来で、2週間以上も間が空いたのは稀である。TVh北海道とオフィイス・ワン主催の《ニュー・イヤー・スペシャル・コンサート2017》。札幌では『2015年ショパン国際ピアノ・コンクール優勝記念』として開催され、【チョ・ソンジン ピアノ・リサイタル】はその後、福岡・大阪・東京・川崎・名古屋でも開かれ、2月には同プログラムでニューヨーク・カーネギーホールでのリサイタル・デビューも行われる予定という。

チョ・ソンジン(Seong-Jin Cho)は1994年ソウル生まれ。09年浜松国際ピアノコンクールでは15歳で最年少優勝。10年PMFオープニングコンサートに出演して「チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番」をPMFオーケストラと共演。11年チャイコフスキー国際コンクール第3位入賞、その後はパリ国立高等音楽院でミシェル・ベロフ(*辻井伸行のクライバーン・コンクール優勝時の審査員、2013年Kitara来演)に師事。14年ルービンシュタイン・コンクール第3位。15年10月に行われた第17回ショパン国際コンクールの後、11月にはフェドセーエフ指揮N響と共演、直後にアムステルダムでフルシャ指揮ロイヤルコンセルトへボウ管とも共演して別々のコンチェルトを演奏。16年1・2月にはショパン・コンクール以前から決まっていた日本公演に加えて、ショパン・コンクールの入賞者ガラ・コンサートなども重なってハード・スケジュールをこなしていた。

10年、16年に続き3回目のKitaraのステージ。

2016年1月9日(月・祝) 1:30開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
〈Program〉
 ベルク:ピアノ・ソナタ ロ短調 Op.1
 シューベルト:ピアノ・ソナタ 第19番 ハ短調 D.958
 ショパン:24の前奏曲 Op.28

ベルク(1885-1935)はシェーンベルク、ヴェーベルンと共に「新ウィーン学派」と呼ばれる作曲家。彼の名を名乗ったアルバン・ベルク弦楽四重奏団は世界最高のカルテットとして親しまれた。ベルクの「ヴァイオリン協奏曲」は渡辺玲子のCDがあって何回か耳にするが、鑑賞が難しい。
ベルクのピアノ・ソナタは初めて聴いた。7・8分程度の単一楽章の曲で古典的なソナタ形式。ロ短調となっているが調性を超えた曲作り。現代音楽として特別な違和感は無く聴けた。

シューベルトは最近は歌曲よりピアノ曲を聴く機会が断然多くなった。全21曲のソナタの中で近年は「第21番」は度々聴く。彼が亡くなる1828年11月の2ヵ月前に書き上げられた3曲(第19・20・21番)はシューベルト最後の作品。「ピアノのための3つの小品」は遺作となった。3作とも各4楽章構成で大作となっている。
「第19番」は前年に死去したベートーヴェンの影響が特に色濃く表れている曲とされる。ベートーヴェンを想起させる力強い第1主題とコラール風の柔らかい第2主題を中心に展開される第1楽章。シューベルトらしい歌謡的な美しさ溢れる第2楽章。第3楽章は素朴な味わいの短いメヌエット。第4楽章は主題が多彩に展開される長大なフィナーレ。
ポピュラーな曲ではないが、演奏終了後にブラヴォーの声があちこちから上がるほどに聴衆を魅了したチョ・ソンジン。

ショパンの《24の前奏曲》の中でも「第15番 雨だれ」は最も有名で親しまれている曲。演奏時間が一番短い30秒から一番長い5分程度の曲が24曲。この作品は第1番のハ長調から第24番のニ短調まで24の調をすべて用いて書かれた。長調と短調が交互に現れる。第15番は何度も同じ音が繰り返されるところが雨のしずくを表しているように聞こえるところから、後に「雨だれ」と名づけられた。他に親しんでいる曲は1分足らずの「第7番 アンダンティーノ」、「第24番 アレグロ・アパッショナート」の2曲ぐらいだった。昨年のユンディ・リのリサイタルでも<24の前奏曲〉を聴いたこともあって、身近に感じれる曲も増えた。対比が面白い「第10番」やドラマティックな演奏の「第18番」など。

卓越したテクニックと透明な美しい音色で綴られる変化に富んだ曲の流れに最初から最後まで集中度を保ち続けた聴衆も素晴らしかった。演奏終了後のホールは歓声に湧いた。近現代の曲も含め必ずしも耳慣れた曲ではないプログラムにも関わらず、今日のオーディエンスの反応は凄かった。心が揺さぶられる演奏に浸れて感動を覚えて胸が高鳴った。
アンコール曲は「ドビュッシー:月の光」と「ブラームス:ハンガリー舞曲第5番」。誰もが耳にしたことのあるポピュラーな曲が本格的なプログラミングのコンサートに華を添えた。
集客を重視して、ともすれば安易に陥りがちなプログラミングも演奏家と聴衆の要求度が一致すると成功するのではないかと痛感した。22歳の若い韓国人ピアニストの日韓文化交流に果たす役割も小さくない。

及川浩治ピアノ・リサイタル2016

98年以来、日本のピアニストの中で及川浩治のコンサートを聴く機会は多い方である。今回は2年ぶり15回目となる。

2016年12月18日(日) 1:30pm開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

〈ロマンティック・ヴィルトゥオーゾプログラム〉
 デビュー21年目のスペシャル・プログラムとして人々に親しまれている曲ばかりを並べての名曲コンサート。

 J.S.バッハ(ブゾーニ編):シャコンヌ ニ短調 BWV1004より
 ショパン:ラルゲット(ピアノ協奏曲第2番op.21より第2楽章)
       練習曲《別れの曲》 ホ長調 op.10-3
 リスト(ブゾーニ編):ラ・カンパネラ 嬰ト短調
 リスト:愛の夢第3番 変イ長調、 メフィストワルツ第1番
 ドビュッシー:月の光、 アルぺジョのための練習曲
 ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ、 ラ・ヴァルス
 ラフマニノフ:前奏曲《鐘》 op.3-2、 ヴォカリーズ(コチシュ編)op.34-4
 クライスラー(ラフマニノフ編):愛の喜び
 ラフマニノフ:練習曲《音の絵》 ニ長調 op.39-9

昨年デビュー20周年を迎えた及川浩治は彼の音楽の原点であるブルガリア・ソフィアを訪れ、かの地で20数年ぶりにコンサートを開催したという。新たな出発の年にふさわしい若さと夢とロマンに溢れた作品でプログラムを構成したようである。
前半6曲、後半8曲。

第1曲目の「シャコンヌ」のブゾーニ編曲によるピアノ曲はこの数年リサイタルで聴く機会が非常に多い。バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番の最終楽章はいつ聴いても感動する。今回のピアノ編曲での演奏は今までに無いほどの強烈な印象を受けた。強い打鍵を用いての深い感情移入が新鮮な曲となった感じがした。編曲の範囲を超えたブゾーニ(1866-1924)のピアノ音楽の素晴らしさを味わった。

ショパンの2曲は及川のCDでもよく耳にした。15年前の2001年、及川はブルガリアのゲオルギエヴァ(Vn)とデュエットを組んで国内ツアーを行った。妻と一緒に出掛けた札幌公演で私はゲオルギエヴァ、妻は及川のCDを買った。どちらも小品集であった。及川のCDに収録されていた「ラルゲット」はその当時から珍しいと思っていた。ショパンのピアノ協奏曲で第1番と第2番は各12名のピアニストのCDを所有しているが勿論すべて全楽章の演奏盤。及川にとって「ラルゲット」は特に思い入れのある楽章なのだろう。
「ラルゲット」は当時ショパンが恋心を抱いていた女性への想いを表現した楽章と言われる。美しい旋律の中に織り込まれる情感と合い通じるものがあるのかも知れないなどと勝手に推し量ってみた。

「ラ・カンパネラ」は最も親しまれている曲の一つで、超絶技巧による演奏も魅力であるが、ブゾーニがここでも自身のヴィルトオーゾぶりを存分に発揮している。原曲が歌曲の「愛の夢 第3番」は改めて言及するまでもないピアノ独奏版の名曲で美しい調べが心に染み入る。
上記の2曲に比べてポピュラーではないが「メフィストワルツ第1番」はリストならではの作品。管弦楽曲がピアノ独奏用に編曲された。十数年前からアルゲリッチのCDで聴くようになった。リストの曲の中でも難易度が高い曲と言われ、演奏の様子を観ていると超絶技巧ぶりが良く分かる。
演奏終了後に迫真の演奏に対して一斉にため息交じりの歓声が沸き起こった。及川浩治は演奏中の“間”の取り方が巧みで、自身の集中力をコントロールすると同時に聴衆の心も掴んでいる感じがする。連続してほかの曲に入る場合に余計な拍手が入らなくて済むのは聴く者の集中度も高まって非常に良かった。

比較的ピアノタッチの力強い演奏が目立った前半とは対照的に後半のスタートは柔らかな繊細なタッチのドビュッシーの曲。2曲目のタイトルが余り馴染みではないと一瞬思ったが、〈12の練習曲集〉の1曲でドビュッシーならではの音の世界に引き込まれた。

ピアノ曲として演奏機会の多い「亡き王女のためのパヴァーヌ」はラヴェル自身が管弦楽曲にも編曲している。ラヴェルが20代の頃に書いたピアノ曲。パヴァーヌはヨーロッパの宮廷で流行った舞踊。この曲は様々な楽器編成のためにも編曲されている。

ワルツという意味の「ラ・ヴァルス」は管弦楽曲として演奏されることが多い。ラヴェル自身がピアノ曲に編曲しているが、ピアノリサイタルで聴くのは珍しい。目まぐるしく華麗に変化するラヴェルの世界が独奏ピアノで見事に繰り広げられる演奏はまさに圧巻であった。
後半の静かな3曲とは打って変わった曲の展開に聴衆もすっかり魅了された。

最後の4曲はラフマニノフがメイン。ラフマニノフは“鐘”を様々な楽曲に用いている。このピアノ曲の冒頭の楽想はクレムリン宮殿の鐘にインスピレーションを得たといわれる。詩情あふれる曲だが、この曲はリストの「鐘」のようにはポピュラーな曲ではない。

“ヴォカリーズ”とは歌詞の無い歌曲全般を指すが、現在では『ヴォカリーズといえばラフマニノフ』と言われるほど親しまれている。
原曲はソプラノまたはテノールのための【14の歌曲集】の終曲。ピアノ独奏曲だけでなく多くの編曲版がある。
編曲者のゾルタン・コチシュ(1952-2016)はアンドラーシュ・シフ、デジュ・ラーンキとともに“ハンガリーの三羽烏”のピアニストとして名を成した。83年にイヴァン・フィッシャーとともにブタペスト祝祭管を創設、指揮者として今年10月予定の来日が病気で中止となり先月死去。コチシュ演奏のドビュッシーのCDを持っていて親しみのあるピアニストだった。作曲家としての活動は知らなかったので、今日の編曲版を聴いて一層感慨の想いに浸った。

クライスラーの「愛の喜び」はヴァイオリン曲として最も演奏される機会の多い名曲。ピアノ曲としては聴くのは初めてである。ラフマニノフがピアノ曲に編曲したとは全然知らなかった。二人はマネージャーが同じ間柄で親しかったそうである。
この曲は即興的に編曲されたらしい。有名な旋律が何度も繰り返し変奏されて原曲の2倍ほどの長さになっている。意外性のある選曲で面白かった。

《音の絵》はラフマニノフのロシア時代の最後の作品。演奏技術と表現力習得のための練習曲集が2集全17曲。17曲中のうち数曲は外山啓介や小山実稚恵のCDに入っていたが、5年前に小山の[音の旅]の演奏会の折に全曲入りのCDを買い求めた。タイトルから想像する抒情的な旋律が出てくる曲ではないので簡単に素人が親しめない。何回か演奏会やCDで聴いているが深く印象に残っていない。
作品39-9は練習曲集の終曲。華やかで交響的な曲の感じで、コンサートの最後を飾るにふさわしい壮大な演奏となった。
いつものリサイタルより曲数が多くて焦点が定まらないかと思ったが、経験豊富なピアニストだけにプログラミングは充分に説得力のあるものになっていた。

アンコール曲は「プーランク:エディットピアフへのオマージュ」。

小山実稚恵「音の旅」第22回 ベートーヴェン・ブラームス・シューベルト

小山実稚恵の12年間・24回にわたるピアノリサイタルシリーズも今回を含めて残すところ3回となった。

第22回 2016年 秋
~心の歌~ イメージ〈グレーベージュ:深い森の中へ分け入っていく

2016年11月3日(木・祝) 15:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

〈Program〉
 ベートーヴェン:ソナタ 第30番 ホ長調 作品109
 ブラームス:6つの小品 作品118
 シューベルト:ソナタ第20番 イ長調 D.959 

演奏前のプレトーク。24回のリサイタル・シリーズのうち最後の3回のプログラムは構想当初にいち早く決定していたという。ベートーヴェン後期三大ソナタ、シューベルト最晩年の2つのソナタ、ブラーム晩年の小品。
今回はシリーズの中で最も優しさ溢れる「静」のプログラムであると小山は語った。

「ハンマークラヴィーア」でピアノ・ソナタの巨大性を追求したベートーヴェンは「第30番」のソナタでは深い精神性を表現した。非常に落ち着いた内省的な作品。“歌うように心の底から感動を持って”とのベートーヴェンの言葉が添えられている第3楽章が象徴的。美しい主題と6つの変奏、最後にテーマに戻る重厚な作品。小山はゴルトベルク変奏曲に通じる心の底からの感動がある「心の歌」と述べている。

ブラームスの晩年に書かれたピアノ小品はクライバーンとムソルグスキーのCDで聴いていた程度であった。コンサートのアンコール曲に演奏される度に親しみを持ってCDを聴き直したりしていた。ブラームスの作品ではピアノ協奏曲のほかにピアノ小品の良さも分るようになってきて、数年前には田部京子のCDを演奏会の折に購入した。今回もコンサート前に予め聴いておいた。
第1、2、4、6曲は「間奏曲」で第3曲「バラード」、第5曲「ロマンス」。形式は小規模で簡素であるがブラームスの心情が吐露されて心にしみる味わい深い作品。バラードで急に曲調が変わったがほのかな希望の表れだろう。
地味で華やかさには欠けるが、何回か聴いていると聴きごたえのある作品だと思う。

シューベルトのピアノ作品に親しむようになったのは紗良・オットの演奏会が切っ掛けで、ラドゥ・ルプーのオール・シューベルト・プログラムによるコンサートで魅力が一気に開花した。今回も彼のCDを聴いて演奏会に備えた。まだ、ベートーヴェンやショパンの曲ほどには聴きこなせていない。
「第20番」のソナタはシューベルトが亡くなる2ケ月前に書かれた“3つのソナタ”の2番目の作品。3曲の中では最も明るく華やかさもあるが、忍び寄る死の影が感じられるという。
壮大なソナタに相応しい力強さと幻想的な第1楽章。抒情的な第2楽章。第3楽章は即興的なスケルツォ。第4楽章は幸福感に満ちた歌謡主題を持つ長大な最終楽章。
シューベルトの音楽もベートーヴェンやショパンに比べると聴いている頻度が違うので曲の良さが分りつつも心地よい親しみのあるまでには至っていないような気がする。

小山実稚恵「音の旅」を聴き続けて16回。この数年のKitaraでの「音の旅」は満席に近い状況が続く盛り上がりを見せている。来年の秋で今シリーズは終了するが、早くも2018年以降の小山の新しいコンサート企画に関心が集まっているようである。

アンコール曲は①シューベルト:即興曲 Op.90-4 、②シューマン:トロイメライ。2曲とも最も親しまれている心地よい曲だった。
プロフィール

fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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