リスト音楽院教授陣(M・ペレーニ他)による第20回記念ガラコンサート

〈第20回リスト音楽院セミナー〉
札幌コンサートホールが1997年の開館以来、毎年開催しているリスト音楽院セミナーが20周年を迎えた。セミナーの折に、これまでピアノやチェロの教授のデュオやリサイタルが開かれてきた。セミナーのボランティアとして7・8年前に教授陣や受講生のための受付として2回ほど活動したこともあり、彼らのリサイタルも何回か聴いたことがある。
昨年はミクローシュ・ペレーニのチェロ・リサイタルを久しぶりに聴く予定が体調不良で断念せざるを得ず残念至極であった。昨年2月は7回予定のコンサート鑑賞が2回だけに終わった。今年は慎重を期して15日と16日の2回のコンサートのチケットは数日前に購入した。

2017年2月15日(水) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

ピアノ/ シャーンドル・ファルヴァイ、 イシュトヴァーン・ラントシュ
チェロ/ ミクローシュ・ペレーニ、   ハープ/ アンドレア・ヴィーグ

二人のピアニストは各々リスト音楽院に学び、ラントシュは94-97年、ファルヴァイは97-2004年にわたってリスト音楽院学長を務めた。彼らは演奏活動と教育活動の両面で活躍し、コンクールの審査員も務めている。ヴィーグは13年11月よりリスト音楽院学長に就任している。
ペレーニは今や世界のトップ・チェリストとして知られ、近年は毎年のように東京でリサイタルを開催している。80年よりリスト音楽院教授。07、09、11年に続いて6年ぶりに彼の演奏を聴いた。

〈Program〉
 J.S.バッハ(コダーイ編曲):前奏曲とフーガ ニ短調 BWV539 (チェロ、ピアノ)
 シューベルト:即興曲 変ロ長調 作品142-3
         即興曲 変ホ長調 作品90-2 (ピアノ・ソロ)
 ワルター=キューネ:チャイコフスキーの歌劇「エフゲニー・オネーギン」
                       の主題による幻想曲(ハープ・ソロ)
 コダーイ:ハンガリーのロンド(チェロ、ピアノ)
 ドビュッシー:前奏曲集 第2集より 5曲(ピアノ・ソロ)
 ブルッフ:コル・ニドライ 作品47(チェロ、ハープ)
 パガニーニ:ロッシーニの歌劇「エジプトのモーゼ」の主題による変奏曲(チェロ、ハープ)
 ドビュッシー:小組曲 (ピアノ連弾)

バルトークとともにハンガリーの大作曲家コダーイはチェロの名手でもあり、バッハのオルガン曲をチェロとピアノのためにいくつか編曲している。ペレーニ&コチシュ(*昨年11月逝去)が編曲版をCD録音しているそうである。オルガン曲もチェロが入ると趣が変わって違った聴き方ができる。

シューベルトの「4つの即興曲 作品90と作品142」は親しみやすい曲。ハンガリーのピアノの巨匠シフのCDで聴き続けて、シューベルトのピアノ曲の中では“気に入りの曲”になっている。近年は演奏会で聴く機会も多くなった。ピアノの鍵盤を動き回る運指にも見入った。

「エフゲニー・オネーギン」はオペラ以外にオーケストラで一部分を聴くことがあったが、ハープによる演奏は珍しかった。ハープの持つ美しさや華やかさが際立った音楽を楽しめた。

ハンガリー民謡を収集してハンガリーの国民音楽をバルトークとともに作り上げたコダーイは今年は没後50年となる。「ハンガリーのロンド」は原曲の管弦楽のための作品をペレーニがチェロとピアノのために編曲して2017年に出版されるそうである。世界に先駆けて日本での初演だったのかも知れない。

ドビュッシーの前奏曲集は1・2集各12曲で全24曲構成。誰もが耳にして親しまれている「亜麻色の髪の乙女」は特別で、他の曲は何度聴いてもタイトルは全く浮かんでこない。タイトルなしで先入観を持たずに聴いたほうが良い聴き方かもしれないと思うようになった。ドビュッシー独特の色彩感に富んだ豊かな音色を想像力を働かせて聴いてみた。自然の風景の中に人間の孤独が描かれていたり、スペインや東洋の異国情緒が漂う調べとともに人の味わう感情が表現されているように思った。

「コル・ニドライ」は一度コンサートでチェロ曲として聴いたことがあるような気がする。ヘブライ語で「神の日」を意味するタイトルだそうだが、曲は重々しくなく明るい美しい旋律を持った作品で、チェロの人気作品のようである。チェロとハープの二重奏で演奏された。

日本語のタイトルがいろいろあって同一曲で何度か耳にしているのだが、違う曲かと勘違いすることがある。コンサートでは1・2度聴いたくらいである。手元にあるCDはシュタルケルとフルニエの両巨匠のチェロ小品集で「パガニーニ:モーゼ幻想曲」、「パガニーニ:ロッシーニの《モーゼ》の主題による変奏曲」となっている。タイトル名は違うが同一の曲で魅力的な作品。
ロッシーニの歌劇《エジプトのモーゼ》の中の旋律を主題として用いた変奏曲をヴァイオリン曲としてパガニーニが書いた。原曲はヴァイオリンのG線のみで演奏される作品。ピエール・フルニエがチェロ曲に編曲してチェロのレパートリーとなっている。
チェロとハープの二重奏で演奏され名演となった。客席を埋めた聴衆の感動を呼び起こした。

最後のプログラムはピアノ連弾。ピアノ2台が並列して、譜めくりストも2人。2階ほぼ中央から見る興味深い連弾だった。連弾曲は鑑賞しやすい単純明解な曲。〈小組曲〉は全4曲で各曲3部形式で、ドビュッシーの若いころの作品。「小舟にて」、「行列」、「メヌエット」、「バレエ」。前奏曲集など他のピアノ曲とは明らかに違う作品だが、若さが横溢して美しい曲が綴られた。今まであまり聴いたことの無い曲を味わった。

第一線で活躍する音楽家4人がステージに登場したガラコ・ンサートは素晴らしかった。補助席まで用意された大盛況に教授陣にも聴衆の満足度が伝わったのか、アンコール曲が2曲も披露された。
小型オルガンも用意され、ピアノ、チェロ、ハープの4つの楽器による演奏は極めて印象深いものとなった。
アンコール曲は①J.S.バッハ(コダーイ編):前奏曲とフーガ ニ短調 BWX853 ②リスト:悲歌 第1番。

11日のウィンター・オルガンコンサートが“ハンガーリの贈りもの”となったが、第20回記念ガラ・コンサートと合わせてリスト音楽院教授が5人も登場する画期的なイヴェントになった。ハンガリー・オーストリア帝国として一時代を築いた歴史のある国の文化が今日も息づいているのは感慨深い。19日まで続くリスト音楽院セミナーの成功を期待する。

※2000年8月のイタリア・ギリシャ観光を思い出した。当時はイタリアからギリシャに何故か直行できずにローマのレオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港からハンガリーのブダペスト国際空港に立ち寄ったことがいまだに記憶として残っている。ブタペスト空港内の土産店で買い求めたハンガリーの小物の民芸品が今も飾り戸棚に入っている。空港でフロリダのNaples(ナポリ)から来た高校生と空港内で待ち時間に話し合った思い出も今思えば懐かしい。(*アメリカにはヨーロッパの都市名と同じ地名が数多くある。フロリダにはヴェニスという地名もある。) 過去を思い出して懐かしさにふける日々が多くなった。



 

チェコ・フィル・ストリング・カルテット2017

昨年に続いてのチェコ・フィル弦楽四重奏団のコンサート。
クラシックの名曲をちりばめた珠玉の名曲集コンサート Vol.3

前回のリーダーだったチェコ・フィル・コンサートマスターに代わって、今回はチェコ・フィル・第2アシスタント・コンサートマスターを務めるマグダレーナ・マシュラニョヴァーが第1ヴァイオリンを担当した。他の3人のメンバーは前回と同じ。

出演/ マグダレーナ・マシュラニョヴァー(Vn)、 ミラン・ヴァヴジーネク(Vn)
    ヤン・シモン(Va)、ヨゼフ・シュパチェク(Vc)
〈PROGRAM〉
 モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジ―ク 第1楽章、  バッハ:G線上のアリア、
 バッヘルベル:カノン、 ハイドン:セレナード、  シューマン:トロイメライ、
 レスピーギ:シシリアーナ、  マスカーニ:カヴァレリア・ルスティカーナ~間奏曲、
 クライスラー:愛の喜び、  チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ、
 ハチャトゥリアン:剣の舞、  シュトラウス2世:美しく青きドナウ、 エルガー:愛の挨拶、
 リスト:ラ・カンパネラ、  サン=サーンス:白鳥、  ショパン:ノクターン第2番、
 モンティ:チャールダーシュ、 ビートルズ:イエスタデイ、 グレン・ミラー:ムーンライト・セレナーデ、
 ピアソラ:リベルタンゴ、  エリントン:A列車で行こう

弦楽四重奏団演奏会はKitaraでは近年、本格的な弦楽四重奏曲を中心にして小ホール(定員453名)が使用されている。チェコ・フィルのメンバーは多種多様な室内楽を組織しているが、チェコ・フィル・ストリング・カルテットは1992年結成以来、クラシック音楽のみならずポピュラー音楽の人気作品までレパートリーに取り込んでいる。初来日は2007年。札幌は2014年初来札後3回目の公演。最初の札幌公演が人気が高くて北海道公演も今回は釧路でも開催される。聴きなれた名曲ばかりで今回も大勢の客で賑わった。

リーダーが女性の第1ヴァイオリニストで、きれいな日本語で挨拶をしながら時折英語で話し、団員も自己紹介しながら和やかにコンサートが進められた。前回のリーダーほど多弁でなかったが、適度な言葉をはさみながら前回同様の進行状況であった。みなさん日本食が好きで、料理名を上げるたびに会場が湧いた。リーダーは“私はお酒が好きです”と言ったが、たぶんビールだと思った。(*チェコは国民一人当たりのビールの消費量は世界一である。)

前回と同じく前半10曲、後半10曲。原曲が弦楽四重奏曲や弦楽合奏曲のもあったが大部分は原曲をストリング・カルテット用に編曲しての曲。人々の耳に親しんだ名曲ばかりで、いちいち曲の言及は避ける。曲にまつわる知らなかったことなどを書き留めて置く。

「3声のカノンとジーグ」のカノンの部分のみが「バッヘルベルのカノン」として有名になった。カノンとは、主題(第1声部)が奏でる旋律を他声部が間隔を置いて正確に模倣する形式のことだと知った。

ハイドンの弦楽四重奏曲第17番第2楽章アンダンテ・カンタービレは「ハイドンのセレナード」として長く親しまれてきたが、後の研究により、同時代のホフシュテッターの作と判明した。

イタリアのシシリア島の舞曲「シシリアーナ」は数多くの作曲家が同名の曲を書いている。レスピーギの曲は知らないと思っていたら、この曲は彼の「リュートのための古風な舞曲とアリア(全4組曲)」の中の第3組曲の第3曲と判明。小澤征爾指揮ボストン響のCDもあってKitaraのコンサートでもかなり以前に聴いたことがあった。

原曲がヴァイオリン曲や管弦楽曲は聴きやすいが、「白鳥」はチェロで聴くことが多くて、この曲ではチェロのパートが目立った。
全体としては主旋律は第1ヴァイオリンが歌うことが多い。そんなことでヴァイオリンの原曲では違和感は全然なかった。
ショパンのノクターンはやはりピアノでないと曲の味わいが半減すると感じた。

最後のポピュラー音楽4曲の中で「イエスタデイ」には陶酔するほどの感銘を受けた。50年前に一世を風靡した音楽が名曲として一層の味わい深い曲として聴けた。クラシック音楽と言っても何の違和感もないと思った。
1965年のアルバム「HELP!}に収録されたポール・マッカートニーがギターとヴォーカルを担当、弦楽四重奏を伴奏に使ったという。
(*他のメンバーは録音に参加。していない。)

アンコール曲は①ロッシーニ:「ウイリアム・テル」序曲、 ②ニーノ・ロータ:ロメオとジュリエット。
2曲で終わりかと思ったら、メンバーがリーダーの肩を抑えて引き留めてもう1曲。これも演出で、マグダレーナは“皆さん、お楽しみいただけましたでしょうか。最後に、皆さんよくご存じの曲を演奏します”と日本語で説明したのも見事。CDの宣伝もしていた。日本語は難しいと言いながらも巧みな日本語を使って日本人の好感度は大であった。
③シュトラウス1世:ラデツキー行進曲。
チェロ奏者が笛を吹き、聴衆の手拍子も入って楽しい雰囲気のうちに終了。帰りのホワイエではサイン会に並ぶ人たちも結構いた。

8時半ごろに演奏会が終わったので、3ヶ月ぶりに名曲 mini Bar OLD CLASSICに立ち寄った。前回はライヴで内田光子のモーツァルト協奏曲を聴いて、Barではコンセルトへボウでの内田光子のベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を聴いて不思議な気分を味わった。今回も同じようなことを経験した。マスターがチェコ・フィルの「ドヴォルザーク:交響曲第4番と第3番」をかけてくれたのである。数日前のクラシカ・ジャパンの映像で場所は由緒あるドヴォルザーク・ホール。CDはあるが1回耳にした程度である。聴いて観るとなかなか良い。演奏しているメンバーの中に今日のリーダーを務めたマグダレーナ・マシュラニョヴァーの顔を数度テレビが映し出すので嬉しくなった。チェロ奏者の中にモヒカンの人を見つけてビックリ。若いメンバーの姿も多く目についた。
指揮者ピエロフラーヴェクは90年チェコ・フィル首席指揮者に就任したが2年後に辞任、93年にはプラハ・フィルを創設してKitara にもプラハ響やプラハ・フィルを率いて3度登場している。数年前にチェコ・フィルのシェフに就任して今や世界の巨匠としてメジャー・オーケストラを指揮している。10年以上も経過していて、見たことのある指揮者だと思ったがすぐには気づかなかった。チェコ・フィルを率いて札幌公演を実現してもらいたいものである。愛弟子のヤクブ・フルシャを育て上げたが、来日ではドヴォルジャークは定番の曲でなく若い番号の交響曲を披露してもらえると嬉しい。







 

プラジャーク弦楽四重奏団2016

〈Kitara弦楽四重奏シリーズ〉

弦の国、チェコが誇る伝統のアンサンブル、プラジャーク弦楽四重奏団が2年ぶりのKitara登場。前回はシューベルト、ヤナーチェク、チャイコフスキーの弦楽四重奏曲を演奏した。今回は第1ヴァイオリンが若き女性に交代した。2003年の来札時も2夜にわたっての連続演奏会だったが、今回も別プログラムで2夜の演奏会で第1夜を聴いた。

2016年11月30日(水) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

〈出演〉 第1ヴァイオリン/ ヤナ・ヴォナシュコーヴァ、第2ヴァイオリン/ ヴラスティミル・ホレク
      ヴィオラ/ ヨセフ・クルソニュ、 チェロ/ ミハル・カニュカ
〈プログラム〉
 モーツァルト:弦楽四重奏曲 第20番 ニ長調 「ホフマイスター」 K.499
 ブルックナー:弦楽四重奏曲 ハ短調 WAB.111
 ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第10番 変ホ長調 「ハープ」 作品74

モーツァルトが書いた23曲の弦楽四重奏曲のうち所有しているCDは第17番「狩り」のみ。ストリング・カルテットの演奏会では聴く機会の多い作曲家だが記憶に残る曲が殆ど無い。モーツァルトのフルート、オーボエ、ピアノの四重奏曲や弦楽五重奏曲、クラリネット五重奏曲のCDは手元にある。彼の協奏曲のCDはピアノ、ヴァイオリンは当然ながらフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペットと揃っている。自分でも振り返ってみて不思議に思うが、多分ハイドンやモーツァルトの弦楽四重奏曲は曲数が多くてタイトルのない曲に親しめなかったのだろう。
「第20番」が楽譜出版社のホフマイスターの依頼による作品であることから名称が付いたらしい。モーツァルトらしい美しい旋律も余りないので余韻が残らない。生で聴くカルテットはCDとは比べものにならないほど心地よい。一過性の曲になってしまうのは残念ではある。

ブルックナーの弦楽四重奏曲を意識して聴いたのは多分初めてである。彼の38歳の作品というが従来のカルテット曲と違う味が出ていて面白かった。新鮮な気分で曲が鑑賞できた。

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は初期の6曲を除いて、度々コンサートの前後に繰り返し聴いて今では結構親しんでいる。ベートーヴェンの手による曲はサロン的な気分ではなくて厳しい深い音楽になっているので一層心に響くものがある。彼が残した16曲の弦楽四重奏曲のうち「第7-11番」は中期、50代に書かれた「第12-16番」が後期作品とされコンサートで取り上げられる機会が多い。
「ラズモフスキー3曲」の後に作曲された《運命》、《田園》の波に乗って、「第10番」は1809年38歳の時に〈ピアノ協奏曲・皇帝〉、〈ピアノソナタ・告別〉と同時期に書かれた。3曲の調性が同じ「変ホ長調」というのも面白い。
「第10番」を作曲した時期は戦乱の外的要因もありベートーヴェンの心も動揺していたとされる。しかし個人的な恋愛感情に包まれる状況も曲に反映しているようにも感じた。激しい感情の揺れがなく透明で安らかな表情が感じ取れる曲になっていた。
「ハープ」の呼称が付いているがピッツイカートによる演奏法がハープの音に似ていることから付いているように思えた。

客席後方は埋まっていないようだったが、カルテットが大好きな聴衆の集まりで曲への集中度が高くて、演奏終了後のマナーも控えめながらも拍手に心が籠っていて良い演奏会となった。カーテンコールが続いて、アンコール曲も2つの楽章。「ハイドン:弦楽四重奏曲 第66番 ト長調 作品77-1 第3楽章」と「同曲 第2楽章」。

※Kitaraは1997年開館で来年20周年を迎える。開館当初より自主運営事業で〈古楽演奏〉や〈弦楽四重奏シリーズ〉を主催して独自のプログラムを展開してきている。
今回のブラジャーク四重奏団の招聘も画期的な事業で、第2夜はロータス・カルテットの山碕智子を加えての弦楽五重奏曲を含む演奏会。「音楽の友コンサート・ガイド」によれば12月2日~9日まで神奈川、東京、京都、大阪でもこのカルテットのコンサートが組まれている。Kitaraが発信して他に広がっているのだとすると嬉しいことだと思う。

クァルテット・エクセルシオ 第9回札幌定期演奏会

Quartet Excelsiorは2008年以来、札幌で定期的に演奏会を開催するようになった。前回は第1ヴァイオリンの西野の休演のため弦楽三重奏団としての演奏会となった。ただし、近藤嘉宏をゲストに迎えてピアノ四重奏曲が聴けて良かった。
今年は西野も復帰して、結成23目の活動でサントリーホールではベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏を完遂し、ドイツ公演も大成功だったという。ドイツの音楽祭には20名ものファンが同行したというから凄い。

2016年11月22日(火) 19時開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

〈出演〉 ヴァイオリン/ 西野ゆか、 山田百子
      ヴィオラ/ 吉田有紀子、  チェロ/ 大友 肇
〈Program〉
 ハイドン:弦楽四重奏曲 第81番 ト長調 作品77-1
 ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第11番 「セリオーソ」 作品95
 メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第5番 変ホ長調 作品44-3

ハイドンは生涯で全68曲の弦楽四重奏曲を残した。「皇帝」が有名でCDでも所有している。ハイドンの作品はPMFでウィ―ン・フィル弦楽四重奏団が演奏会に取り上げることが多い。今年のPMFでも「ハイドン:弦楽四重奏曲 作品77-2 “雲がゆくまで待とう”」が演奏された。
ハイドンの曲は明るい曲が多い。この曲も明るい行進曲で幕を開け、ハンガリーの流行歌やクロアチア民謡も用いられていると解説には書かれていた。第1ヴァイオリンの活躍が目立った。

ベート―ヴェンの弦楽四重奏曲は演奏会で聴く機会が断然多い。全17曲の中でアルバン・ベルク四重奏団、スメタナ四重奏団のCDを多く所有している。タイトルのある曲は聴きやすく、特に「セリオーソ」は第4楽章のメロディが親しみやすい。20分程度の曲で気軽に聴くには長さも適当である。ハイドンとは曲の重みが全然違う。ベートーヴェンの内なる声が聞こえる。

メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲を聴くことはめったにない。そういう意味ではいろいろな作曲家の曲を耳にする良い機会となった。彼の2つの交響曲やヴァイオリン協奏曲は充分に親しんでいる。室内楽曲でチェロソナタ第2番はマイスキー演奏のCDがあって心地よく聴ける。ロマン派の大作曲家としては特定の曲以外はあまり演奏会で取り上げられていないかなとふと思った。

クァルテットの定期演奏会を毎回多くの聴衆に聴いてもらうのはやはり難しいのだなと感じた。もう少し客が入ってくれればもっと盛り上がる気がした。
北星学園大学、同短期大学の学生たちの姿が多くみられた。クァルテット・エクセルシオはNPO法人を目指してアウトリーチ活動も行って室内楽文化の普及振興にも努めているそうである。

アンコール曲は「シューマン:トロイメライ」(弦楽四重奏版)

室内楽の夕べ(内田&MCOのメンバー)

内田光子が2001年12月、Kitaraのステージに初登場した時のコンサートのタイトルが『室内楽の夕べ』であった。その時はリサイタルなら良かったのにと思ったものだ。この時は自分が苦手とする現代作曲家のシェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」が曲目の一つだったのは今でも忘れない。他の演奏曲は覚えていなかったが、当時のプログラムによると「モーツァルト:ピアノ協奏曲第12番(弦楽四重奏版)」、ハイドン:弦楽四重奏曲第35番」。

内田光子withマーラー・チェンバー・オーケストラ(MCO)による『室内楽の夕べ』が今回の日本ツアー札幌公演の最後を飾った。

2016年10月31日(月) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

〈Program〉
 モーツァルト:フルート四重奏曲 第1番 ニ長調 K285
 武満 徹:アントゥル=タン~オーボエと弦楽四重奏のための
 シューベルト:華麗なるロンド ロ短調 D895
 メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲 変ホ長調 作品20

『室内楽夕べ』 出演者 (Musicians of the Chamber Music Concert)
 Piano:内田光子(Mitsuko Uchida)
 Flute:キアラ・トネッリ(Chiara Tonelli)、Oboe:吉井瑞穂(Mizuho Yoshii-Smith)
 Volin:イタマール・ゾルマン(Itamar Zorman)、シンディ・アルプラハト(Cindy Albracht)、エンヤ・ゼムラー(Henja Semmler)、ソーニャ・シュタルケ(Sonja Starke)
 Viola:ジョエル・ハンター(Joel Hunter)、フロラン・ブルモン(Florent Bremond)
 Violoncello:クリストフ・モリン(Christophe Morin)、
         フィリップ・フォン・シュタイネッカー(Philipp von Steinaecker)

今夜のプログラムで比較的に親しんでいる曲は「フルート四重奏曲」だけである。ジェームズ・ゴールウェイ&東京クヮルテットのCDで良く聴いたものである。最近は耳にしていなくて今朝しばらくぶりで聴いて懐かしい思いだった。
編成はフルート、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ。第1楽章はアレグロで主題はいずれもフルートが提示により、ソナタ形式。第2楽章はアダージョで3部形式。弦楽器がピッチカートで伴奏。悲壮感が漂う緩徐楽章。第3楽章はロンドー。ロンド形式で華麗なフィナーレ。

今年はモーツァルトの生誕260年だったが、日本の作曲家として西欧でも演奏機会の多い武満は2016年は没20年の記念年である。ブログラムの解説によると、作品はイーストマン音楽院の委嘱で1986年に作曲された。この曲は詩集からインスピレーションを得て、「鳥の主題」の緩やかな旋律を奏でて聴く者の空想を広げる感じがした。吉井は世界で活躍するオーボエ奏者として知られるが、聴衆の期待にたがわぬ素晴らしい演奏であった。武満の作品は何曲か聴いているが、こんなに魅力あふれる曲と出会ったのは初めてと思うような強烈な印象を受けた。聴く者の心に響くオーボエ演奏に感動した聴衆の反応はひと際目立った。

内田は“シューベルト弾き”と呼ばれる時代もあった。今夜はピアノとヴァイオリンのための小品が取り上げられた。彼の亡くなる2年前の作品。単一楽章で書かれた長大な曲。ロ短調の悲劇的な幕開けから華麗なロ長調のロンドへ。更にテンポが速くなって壮大なコーダ。ヴァイオリンの技巧的な演奏が華やかで協奏曲の様相を呈してピアノとの対話が印象的であった。シューベルトのヴァイオリン曲は今まで聴いたことが無かった。シューベルトの作品とは思えないような激しいリズムと華麗な曲を楽しく聴けた。
イスラエル出身のゾルマンは魅力的な演奏で聴衆の心を掴んだ。内田が譜めくりスト用の椅子に座って彼にアンコール曲の演奏を促した。イタマール・ゾルマンはMCOのコンサートマスターに抜擢された新進気鋭のヴァイオリニストかなと思った。30代前後の若くて初々しい印象を受けた。アンコール曲は「バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第3番より“ラルゴ”」。

最後を飾ったメンデルスゾーンの曲は彼が16歳の時に書いた作品。楽器編成はヴァイオリン4、ヴィオラ2、チェロ2。4楽章構成の大曲。室内楽と言っても交響的なスケールを持ち、流麗で豊かな色彩感と幻想的なロマン溢れる曲となっている。7年後の1832年に補筆、改定が施されているというが、若さが横溢する曲として満足感を味わえた。
メンデルスゾーンは恵まれた家庭環境で子供時代を過ごし、8歳でピアノと作曲を習い、9歳で演奏会を開いて天才ぶりを示したという。17歳の時に、かの有名な「真夏の世の夢 序曲」を作曲したことは知っていたが、この「弦楽八重奏曲」の演奏を聴いて改めて彼が天才肌の音楽家であったことを再認識した。
曲の素晴らしさを伝えるMCOのメンバーの質の高さにも魅せられた。何度ものカーテンコールに応えてアンコールに第3楽章を再び演奏した。

今夜の小ホールはほぼ満席で札幌公演の最後を飾るにふさわしい盛況となった。
尚、昨日の内田光子のアンコール曲は「モーツァルト:ピアノ・ソナタ第10番より 第2楽章 “アンダンテ・カンタービレ”」。


   

札幌文化芸術劇場 プレコンサート~オペラ・バレエ名曲集

本格的なオペラやバレエ、ミュージカルなどの公演に適する北海道初の多面舞台を備えた劇場(2300席)が2018年10月にオープンの予定である。開館が未だ2年先の事であり、プレコンサートと銘打つのは少々大袈裟な感じがしないわけでもない。札幌市民にいち早く情報公開をして市民のための劇場運営を目指して運営に備える試みなのだろうと思う。当日は映像による「札幌市民交流プラザ」の施設紹介もあることで興味を抱き、妻と一緒に参加することにした。

~札響メンバーによる珠玉のオペラ・バレエ名曲集~

2016年8月14日(日) 開演13:30  札幌コンサートホールKitara小ホール

出演/ 大平まゆみ、織田美貴子(ヴァイオリン)、青木晃一(ヴィオラ)、坪田亮(チェロ)

〈プログラム〉
 ビゼー:歌劇「カルメン」より
        アラゴネーズ、セギディーリャ、闘牛士の歌 ほか メロディ
 マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より 間奏曲
 ヨハン・シュトラウス2世:喜歌劇「こうもり」より 序曲
 ワーグナー:歌劇「ローエングリン」より 結婚行進曲
 チャイコフスキー:バレエ「くるみ割り人形」より 小さな序曲、トレパック、花のワルツ
 チャイコフスキー:バレエ「白鳥の湖」より 情景、4羽の白鳥の踊り
 ヴェルディ:歌劇「アイーダ」より 凱旋行進曲

コンサートに先立って映像による《札幌市民交流プラザ》(Sapporo Community Plaza)の紹介が行われた。札幌市民交流プラザは札幌の都心に誕生する新しい文化施設。札幌文化芸術劇場(3階~9階)、札幌文化芸術交流センター(1階・2階)、札幌市図書・情報館(1階・2階)の3つの施設から成る。隣接する高層棟には放送局やオフィスが入居するほか、地下には駐車場や公共駐輪場などが整備される。

札幌文化芸術劇場はオペラ、バレエ、ミュージカルなどのほかにポップス、歌謡コンサートなど様々なジャンルの公演に利用される。他都市の劇場や地元文化芸術団体との共同制作などを通して、札幌の舞台芸術の振興を図る。講演会、入学式、卒業式など大規模な集会にも利用される。
こけら落とし公演はオペラ「アイーダ」。神奈川県民ホール、兵庫県立芸術文化センター、iichiko総合文化センター、東京二期会との共同制作。札幌からスタートして北から南まで日本縦断のオペラ公演。指揮はイタリアの若手指揮者アンドレア・バッティスト―ニが務める。(*今、日本で注目のバッティスト―ニの名を聞いてワクワクした。札幌公演のオーケストラは札響。)

10分ほどの映像の後、1時間のコンサート。札響コンサートマスター大平の巧みな話術でフランス、イタリア、オーストリア、ドイツのオペラの名曲が演奏された。大平まゆみがコンサートマスターを務める札響の定期演奏会は何十回も聴いていて、コンマスの仕事ぶりには好感を持っているが、彼女が何度も定期的に開いているリサイタルは聴く機会がない。彼女は人気のある演奏家でリサイタルでも巧みなトークを繰り広げていることが想像された。妻の話では講演会で彼女の話を聴いたことがあるという。演奏だけでなく、トークも得意なようである。適度な説明をしながら演奏会を進めた。他の3人にも話をする機会を与えてコンサートを進行した事にも感心した。マイクの使い方も上手で後方の席でも明瞭に彼女の話は聞こえた。
チャイコフスキーのバレエ音楽から名曲を演奏した後、終曲は《アイーダ》より凱旋行進曲。カルテットの演奏曲としては無理だったと思うが、2年後の〈こけら落とし公演〉を意識して選曲したのだろう。
アンコール曲に《ヴェルデイ:椿姫より 「乾杯の歌」》を演奏してコンサートを締めくくった。予想していたよりは良いコンサートとなった。新劇場のイメージを心に描きながら聴けただけでも良かった。










ふきのとうホール 夏のフェスティバル2016 シューベルト弦楽三重奏曲・ピアノ五重奏曲

昨年7月にオープンした《ふきのとうホール》が夏のフェスティヴァルを3日間にわたって開催する。今月の札幌では好みのコンサートが少なくて何となく物足りない感じがしていた。外国の奏者の名は耳にしたことはなかったが、国内の室内楽の分野での活躍が目立つ演奏家の名と演奏曲目を見て急に思い立ってチケットを2日前に購入した。

2016年8月12日(金) 午後7時開演  ふきのとうホール(六花亭札幌本店6階)
 
ふきのとうホール 夏のフェスティバル 第2日 シューベルトの内なる声

〈出演〉 ゴットリープ・ヴァリシュ(ピアノ)、マオロ・カローリ(フルート)、白井圭(ヴァイオリン)、佐々木亮(ヴィオラ)、花崎薫(チェロ)、吉田秀(コントラバス)
 
〈曲目〉 シューベルト:弦楽三重奏曲 変ロ長調 D471、  フルートとピアノのための「しぼめる花」による序奏と変奏曲 op.160, D802、  ピアノ五重奏曲 イ長調 「ます」 op.114, D667 

開演に先立って〈ふきのとうホール音楽監督、岡山潔〉から本日のプログラムについて10分程度のプレトークがあった。
シューベルトの二重奏曲、三重奏曲、五重奏曲が取り上げられた演奏会。特にフルートとピアノによる二重奏曲にはシューベルトの過去の作品の旋律が数多く使われ演奏も難曲で知られるという。

シューベルト(1797-1828)は弦楽四重奏曲の作品を数多く残している。PMF2016でも「第9番」、「第12番」を聴いたばかりである。八重奏曲も聴いた。彼の「弦楽三重奏曲」(Vn,Va,Vc)は1曲のみで19歳の時に書かれた。作品は未完で第1楽章のみである。実際は第2楽章の一部が書き残されているので、その部分も演奏された。結構、聴くに値する曲だと思うが何らかの理由で完成せなかったり、破り捨てたりした作品がシューベルトには少なからずあるようである。

Gottlieb Wallischは12歳でウィーン楽友協会大ホールでデビューして以降、欧米を中心に世界各地でリサイタルを行い、ウィーン・フィル、ウィ-ン響などと共演。現在はジュネーヴ高等音楽院教授。
Mario Caroliはイタリア生まれ。フィルハーモニア管、東京フィル、フランス国立放送管などと共演。録音では40枚のCDをリリース。ポリーニやパユからの評価も高く、“フルートのパガニーニ”の評もある。
 
“歌曲王”シューベルトは自作のドイツ歌曲を室内楽の素材として用いている。早世したシューベルトが晩年ともいえる27歳の時に書いた作品。“美しき水車小屋の娘”、“ロザムンデ”、“死と乙女”の旋律も入れている。これまでの彼の短い人生で起きた様々なことを振り返っての想いが込められてるような気がした。(*冒頭の解説ではベートーヴェンの第7交響曲の第2楽章のメロディも使われているという話もあった。)

背の高い細身のカロ―リは踊るような仕種で楽器を吹きながらリズムを取ってフルートから美しい音を自由自在に引き出していた。音の魔術師のような世界に浸れた。ピアノのヴァリッシュもヴェテランで様々な色合いの音を生み出せる達人に思えた。

後半の「ます」は何十年も前から聴き親しんだメロディがふんだんに出てくる。このピアノ五重奏曲は1819年、シューベルト22歳の時の作品。この作品の楽器編成は特徴的である。ヴァイオリンがひとつでコントラバスが使われている。ピアノと弦楽器が対照的な音となってバランス良く聴こえた。コントラバスの低音が素晴らしい調和を生み出したように思えた。5楽章編成。全曲が明るい雰囲気に満ち溢れた魅力的な作品。第4楽章で弦楽のみの合奏で《歌曲「ます」》の主題が奏されたのが特に印象に残った。

弦楽器奏者は4人ともに東京藝術大学卒。白井 圭(Kei Shirai)は1983年、トリニダートトバゴ生まれ。2001年日本音楽コンクール第2位、2009年ミュンヘン国際音楽コンクール第2位、ハイドン国際室内楽コンクール・ピアノトリオ部門第2位。ソリストとしてはウィ-ン楽友協会でのリサイタルやチェコ・フィルなどと共演。2011年ウィ-ン・フィル日本ツァーに現地から参加。現在、いくつかの室内楽のメンバーとしてヨーロッパで活躍して、神戸室内管のコンマスも務める。

佐々木 亮(Ryou Sasaki)は1969年生まれ。ジュリアード音楽院卒業。91年日本現代音楽協会室内楽コンクール第1位、92年東京国際音楽コンクール室内楽部門第2位、アスペン音楽祭、マールボロ音楽祭に参加。2つの大学卒業後はソロ、室内楽、オーケストラ奏者として全米各地で演奏活動を行う。ニューヨーク・リンカーンセンターでのリサイタル、内田光子やヒラーリー・ハーンなどとの共演は特筆される。2004年N響入団、08年首席奏者、同時にソリスト、室内楽奏者として幅広く活動している。

花崎 薫(Kaoru Hanazaki)は1981年第50回日本音楽コンクールチェロ部門第3位。東京芸大在学中にベルリン芸術大学に2年間留学。86年にもドイツ留学。89年エルデーディ弦楽四重奏団結成。11年、長年にわたって首席チェロ奏者を務めた新日本フィルを退団。現在、愛知県立芸術大学教授。

吉田 秀(Shu Yshida)は1963年生まれ。東京藝術大学管弦楽研究部首席奏者を経て、91年N響に入団。現在、首席奏者を務める。デュメイ、ズーカーマン、キュッヒル、クレーメル、ピリス、アルゲリッチ、カルミナ弦楽四重奏団などと共演。霧島国際音楽祭、宮崎国際音楽祭に参加。東京藝術大学準教授、東京音楽大学客員教授。

弦楽四重奏団の演奏会は増えているが、珍しいデュエット、トリオ、クインテットの演奏機会は多くない、今回のプログラミングは大変良かった。音楽監督が力を入れて取り組んだ成果と言えよう。今年のPMFでコントラバスとハープの二重奏が楽しめたが、コントラバスを生かしたプログラムがあると面白い。素晴らしい室内楽ホールの良さが生きる意欲的なプログラミングを今後とも期待したい。



PMFアメリカ演奏会

PMFヨーロッパが指導する前半のプログラムが終了した。16日から24日まで5つのコンサートに参加した。22、23、24の三日連続のコンサート鑑賞は特徴ある演奏会で楽しめた。前後の21、25日に時計台ボランティア活動が入っていたので、さすがに疲れが出て翌日は一日中家にいた。
今週初めからPMFアメリカが指導する後半のプログラムが用意されている。
例年開催されていたPMFアメリカ演奏会(PMF AMERICA Concert)は昨年Kitaraではなく地方で開催された。

出演/ PMFアメリカ
    David Chan, violin/Metropolitan Opera Orchestra, Stephen Rose, violin/Cleveland Orchestra, Daniel Foster, viola/National Symphony Orchestra, Raphael Figueroa, cello/Metropolitan Opera Orchestra, Alexander Hanna, double bass/Chicago Symphony Orchestra, Timothy Hutchins, flute/Orchestre symphonique de Montreal, Nathan Hughes, oboe/Metropolitan Opera Orchestra, Stephen Williamson, clarinet/Chicago Symphony Orchestra, Daniel Matsukawa, bassoon/Philadelphia Orchestra, William Caballero,horn/Pittsburgh Symphony Orchestra, Mark J. Inouye, trumpet/San Francisco Symphony, Denson Paul Pollard,trombone/Metropolitan Opera Orchestra, David Herbert, timpani/Chicago Symphony Orchestra
佐久間晃子(PMFピアニスト)

〈Program〉
 ロドニー・ニュートン:3つのバス・ダンス(*世界初演)
 クーツィール:トランペット、トロンボーンとピアノのための協奏曲 作品17
 ヒナステラ:フルートとオーボエのための二重奏曲 作品13
 シューベルト:八重奏曲 ヘ長調 D.803

第1曲はコントラバスとティンパニ。「バス・ダンス(Basse Dance)」は15,16世紀に人気のあった威厳に満ちた踊り。作品名に演奏する楽器がかけられている。5分強の曲。面白い楽器の組み合わせで、奏者が同じオーケストラ所属であることに注目した。アレクサンダー・ハンナはPMF初参加。

PMFにはイノウエは9回目、ポラードは7回目で気の合ったブラス・セクションのファカルティ。15分強の3楽章構成の曲。力強いピアノ伴奏を得て2人は息継ぎの大変な演奏曲を魅力的に吹いた。聴きごたえのある曲だった。

最初の2曲の作曲家名は初めて耳にするが、ヒナステラは何となく聞いたことがありそうな名前。南米の作曲家らしい名。フルートとオーボエのための二重奏曲は馴染んではいないがPMFの演奏会で数度は聴いている。2年前のモントリオール響の札幌公演でハッチンズとバスキンが世界一流のコンビと知った。PMFアメリカにカナダのオーケストラの重鎮ハッチンズが加わって新鮮さと重厚感が出た。ヒューズもPMFには初参加。
木管楽器の室内楽の方が聴きやすいのは好みのせいだろう。

後半のプログラムは「OCTET for Clarinet, Horn, Bassoon, String Quartet and Contrabass」。ベートーヴェンかシューベルトの七重奏曲か八重奏曲を以前に聴いたことがあった。演奏に1時間もかかったので、記憶とは違っていたようだ。室内楽で1曲1時間かかる曲はコンサートで聴いた記憶がない。
デイヴィッド・チャンはメトロポリタン歌劇場管のコンサートマスターでPMFには6回目の参加。ローズ、フォスター、カバレロは10回目、最多参加マツカワは16回目。弦楽器奏者5人と木管・金管奏者3人による八重奏曲。6楽章構成で演奏時間60分の大曲。聴きごたえのある曲で聴衆を魅了した。何となく聞いたことのある親しみのある曲ではあった。
演奏終了後にアカデミー生から沸き上がった歓声で会場の雰囲気も盛り上がった。
JRの一部区間不通のためか空席が少々目について鑑賞できなかった人には気の毒であった。

帰宅して調べてみるとシューベルト(1797-1828)が1824年に八重奏曲を書いていてCDを所有していることが分かった。探したCDが見つからずに時間を要した。室内楽のコーナーにはなくて、D・オイストラフの10CDのうちの1枚に収められていた。まさかヴァイオリン協奏曲やピアノ三重奏曲以外にoctetが収録されていることに気づかなかった。購入時に必ず一度は聴いているので3年前には耳にしていたことになる。(EUでの制作で原盤の録音年は1955年)。

※新聞夕刊でピアニスト中村紘子が亡くなったことを知って衝撃を受けた。彼女がガンを患って入退院を繰り返していたことは承知していたがリサイタルを再開して安心していた。《「音楽の友」8月号》の連載も読み終えたばかりだった。
彼女は中学3年時の1959年日本音楽コンクール第1位。翌年N響の初の海外ツアー(70日間世界1周)にソリストとして同行。65年ショパン国際コンクール第4位入賞。ピアニストとして国際的な活動を繰り広げるだけでなく、文才を発揮した。「チャイコフスキー・コンクール」、「ピアニストという蛮族がいる」の2作の連続受賞で話題を呼んだ。彼女は指導者として浜松国際ピアノコンクールを世界的なコンクールに育て上げ、音楽界に多大な貢献を果たした。彼女のCDは5・6枚は所有していて、彼女のコンサートも89年から9回聴いてきた。2年前のデビュー55周年コンサートを聴いたばかりで次回を楽しみにしていた。
惜しい人材を亡くした。心から冥福をお祈りします。





PMF無料コンサート

PMFは1990年の創設から27年目に入ったが、近年は野外コンサートだけでなく屋内で行われるコンサートの無料公演が増えてきている。3週間余りにわたって繰り広げられる音楽祭で約半分の公演が無料である。室内での公演は定員があって混み合うので今までに参加したことはなかった。
今年は時計台コンサートや豊平館コンサートは魅力的で開場時間には長蛇の列が出来そうである。〈フリーコンサート〉はPMFで学ぶアカデミー生たちがレッスンの成果を示す場でもある。
私はKitara小ホールで行われる《オープン・ドア・コンサートⅡ》に行ってみたくなった。ハープの演奏をぜひ聴いてみたいと思った。

開演20分前には会場に着いた。Kitara会員対象の先行発売のチケットを購入してからホールに入って間もなく1階343の客席は満席となってしまった。2階は使われなくて入場できない人が多く出たようであった。

2016年7月23日(土) 15:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

〈出演〉 PMFオーケストラ・メンバー、ミヒャエル・ブラーデラー(double bass)PMFウィーン、安楽真理子(harp)PMFアメリカ
〈Program〉
 シュルホフ:フルート、ヴィオラとコントラバスのための小協奏曲
      Haruyo Ohira、Japan (flute)、Howard Cheng、Taiwan (viola)、Sebastian Zinca、USA (double bass)
 バックス:フルート、ヴィオラとハープのための悲歌三重奏曲
      Hyunseo Cheon、Korea (flute)、So Hyun Chung、Korea (viola)、Sonia Bize、France(harp)
 ラヴェル(エスコサ編):マ・メール・ロワ より 「眠れる森の美女のパヴァーヌ」、「親指小僧」、「パゴダの女王ドロネット」、「妖精の園」
      Mariko Anraku、Metropolitan Opera Orchestra (harp)、Sonia Bize (harp)
 サルゼード:古代様式の主題による変奏曲 作品30
      Mariko Anraku (harp)
 フランセ:バロック風二重奏曲
 フォーレ(ツィンマーマン編):夢のあとに
 サン=サーンス:白鳥
      Michael Bladerer、Wiener Philharmoniker (double bass)、Mariko Anraku (harp)

最初は4楽章構成で20分弱の曲。フルート奏者(大平治世)は第2楽章でピッコロに持ち替え第4楽章の冒頭でもピッコロで演奏した。コントラバスは小ボールで使われることは比較的に少ないので楽器の大きさを改めて感じた。
第2曲は10分弱の単一楽章の曲。ハープの奏でる悲しみに満ちた旋律が切ない感じを出していた。

子供のためのピアノ連弾曲として書かれた《マ・メール・ロワ》はオーケストラ組曲として演奏される機会が多い。解りやすい曲想で神秘的な世界に誘い込まれた。ハープの美しい音色に導かれでフィナーレは別世界に連れて行かれたようだった。

安楽のハープ・ソロは魅力的な演奏で素晴らしかった。天使のような清らかな澄んだ音色は他の楽器では表現できない美しさを醸し出していた。

最後にハープとコントラバスの共演を存分に楽しめた。予定されていた曲のほかにチェロで聴く機会の多い「夢のあとに」と「白鳥」を聴けたのが凄く良かった。チェロが出す音をコントラバスが奏でるのに何の違和感もなかった。世界一流の演奏を聴けた満足感を味わった。休憩のない75分がアッと言う間に過ぎた。有料でも聴くに値するコンサートになった。

※オープン・ドア・コンサートは入退場自由となっていたが、今日のようなコンサートでは中途で退場する人が少なくて空席待ちの人が僅か十数人入場できただけで大部分の人は折角会場に来て鑑賞できずに終わったのは気の毒であった。














    

PMFベルリン演奏会

2016年7月22日(金) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara 小ホール

出演/ PMFベルリン(Members of the Berliner Philharmoniker)
アンドレアス・ブラウ(flute)、ジョナサン・ケリー(oboe)、アレクサンダー・バーダー(clarinet)、フォルカー・テスマン(bassoon)、サラ・ウィルス(horn)、タマーシュ・ヴェレンツェイ(trumpet)、シュテファン・シュルツ(trombone)
*ブラウは前ベルリン・フィル首席奏者、テスマンはベルリン音楽大学教授。ケリーとテスマンはPMFには初めての参加。

    佐久間晃子(PMFピアニスト)

〈Program〉
 モーツァルト(シェーファー編):歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」によるハルモニ―ムジ―クから 6曲 〔木管五重奏版〕
 テレマン(ギュンター編):協奏曲 ヘ短調 TWV51:f1 [トランペットとトロンボーン〕
 ベートーヴェン(レヒトマン編):弦楽五重奏曲 変ホ長調 作品4 〔木管五重奏版〕
 ヒルドガード(マルバッド編):コンチェルト・ボレアリス〔バス・トロンボーンとピアノ〕
 リスト(ドクシツェル編):コンソレーション 第3番 〔トロンボーンとピアノ〕
 ドビュッシー(リンケルマン編):「子供の領分」から 3曲 〔木管五重奏版〕
 ピアソラ(シェーファー編):「タンゴの歴史」から 2曲 〔木管五重奏版〕 

モーツァルトの歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」は「フィガロの結婚」と並んで彼の喜劇的ブッファの代表作。オペラは他愛もないストーリーが多いが、“女はみんなこうしたもの”の意味のこの歌劇も荒唐無稽な物語。演奏会形式も含めて今までに2・3度オペラ上演を観る機会もあった。「序曲」はCDで度々聴いている。編曲ものとはいえ耳慣れたメロディで心地よく聴けた。

ベートーヴェンの弦楽五重奏曲は2・3曲書かれているようだが聴いたことはない。弦楽曲が管楽器で演奏されると曲の印象がかなり変わる。フルートが第1ヴァイオリン、チェロのパートは何かな?と想像を巡らせながら聴いた。
演奏終了後に“ブラヴィー”の声が上がった。“ブラヴォー”の声も聞こえたが、力強い“ブラヴィー”の掛け声が数度続いた。多分イタリア人だろうと思った。PMFの演奏会で数年前に初めて耳にした言葉、“ブラヴィー(Bravi)”。男女混合の複数のアーティスト対象に使われる。プログラムで確認するとイタリア出身のファゴット奏者と思われた。(*イタリアでは男性に“Bravo”、女性に“Brava”) 

会場にはPMFアカデミー・メンバーの姿も見えた。休憩時間中のホワイエでPMFウィーン教授陣3人がコーヒーを飲みながら談笑している姿も目にした。国際音楽祭の雰囲気が漂う会場に何となく心も躍る。

トロンボーン奏者のシュルツは2006年以降5回目のPMF参加。4楽章から成る20分ほどのトロンボーンの大曲を熱演。小ホールに鳴り響くトロンボーンの豪快な演奏を久しぶりに耳に出来て良かった。

トランペット奏者のヴェレンツェイは2006年以降9回目のPMF参加でベルリン・フィル奏者として一番参加回数が多くて顔なじみの教授。彼の選んだ曲はリストの有名なピアノ曲。“慰め”の意を持つ「コンソレ―ション」6曲中の「第3番」。原曲はショパンのノクターンに似た雰囲気がしたが、トランペットでは曲調が違ったが吹き続けるのは難曲と思われた。5分程度の曲をいつもとは違った鑑賞で楽しめた。(*Kitaraのボランテイアで彼の追っかけをしている女性がいる。)

木管奏者による最後の2つのプログラム。
ドビュッシーの6曲のピアノ組曲から3曲。彼の娘に捧げられた小品集から編曲された曲が楽しい。3曲中でゴリウォーグの人形がケークウォークで躍る姿が5つの楽器で表現され生き生きとした音楽となっていた。聴き慣れたメロディでも人形が楽しく踊っている様子が想像できて非常に面白かった。
ピアソラの1900年と1960年作のタンゴなのだろう。南米のタンゴの調べが会場の雰囲気を高揚させて再び“ブラヴィー”の声があがって盛大な拍手。
演奏終了後にホルン奏者のサラ・ウィリスが日本語で丁寧な挨拶。彼女はPMFには14年から3回目の参加だが、明るい性格で毎回リーダーとして振る舞い元気溌剌とした様子で周囲を楽しませている。
アカデミー・メンバー(パーカッション2名)を加えてのアンコール曲は「アブレウ:ティコ・ティコ」。3名がサングラスをつけての演奏でサービス満点。サラはエンタテイナーの要素を備えたアーティストと言えよう。

※オーボエ奏者Jonathan KellyはPMF初登場ではあるが、オーケストラメンバーとしてKitaraのステージには何度か登場している。2002年9月バーミンガム市響、2004年11月ベルリン・フィルのメンバー、2016年2月ベルリン・バロック・ゾリステンと共演。彼のような偉大な演奏家がソリストとして来札している時は忘れるはずもないが、楽団員としてKitaraのステージに上がっている音楽家は意外と他にも多くいるように思った。



 
 

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Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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