ミニコンサート(by下司貴大) in Steinway Studio

ミニコンサート(Vol.19) イン スタインウェイ スタジオ (札幌)

2014年2月23日(日)14:00~14:45  会場:井関楽器3F スタインウェイスタジオ

出演:下司 貴大/バリトン
    新堀 聡子/ピアノ

下司貴大(Takahiro Shimotsuka)というバリトン歌手の名を知ったのは、彼がファビオ・ルイジに見い出されて、2010年PMFシンガーズに選ばれ、歌劇「ラ・ボエーム」にマルチェッロ役で出演した時であった。彼は当時、北海道教育大学岩見沢校に在学中の学生であったが、他のプロの歌手に交じって堂々たる歌声を披露した。12年7月にはKItaraオペラ・プロジェクトにおいて歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」にグリエルモ役で出演。演奏会終了後、ホアイエで挨拶して顔見知りになった。同年8月、第1回ハイメスオーケストラ演奏会において歌劇「リゴレット」から第3幕、四重唱と三重唱でバリトンとして熱唱。
13年4月の札幌西区オーケストラの演奏会ではベートーヴェンの「第九」のソリストとしてKitara のホールに素晴らしい歌声を響かせた。大学院卒業後はフリーランサーとして幅広い活躍をしている様子である。

ピアニストの新堀聡子(Satoko Shimbori)は北海道教育大学札幌校を経て、ドイツ・ヴュルツブルグ音楽大学、同大学院を首席で卒業。コンクール歴はスタインウェイコンクール第2位(ドイツ)、ブラームス国際コンクール第5位(オーストリア)など。ドイツ各地でソロ、及び室内楽活動を行った後、11年より活動拠点を日本に移した。ヴュルツブルグ音楽大学講師を経て、現在は北翔大学非常勤講師、井関楽器ピアノ講師を務めながら、ピアニストとして札幌を中心に様々なコンサートに出演している。第1回ハイメスオーケストラ演奏会ではソリストとして「ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲」を弾いた。

Kitaraでのチラシで下司のミニコンサートの開催を知った。オーケストラをバックにしての歌声しか聴いていなかったので、ピアノ伴奏で彼の歌声を聴いてみたいと思っていた。限定80席の小さな会場でのコンサートは彼の歌声をより身近に楽しめると期待して出かけた。

〈プログラム〉
 デンツァ:フニクリ・フニクラ、 ブロドスキー:Be my love,   グリーグ:君を愛す
 中田喜直:雪の降る街を、 木菟(みみずく)、 新井満:千の風になって
 ヴェルディ:乾杯、 湯山昭:電話、 モーツァルト:酒で頭がカッとなるまで、 ビゼー:闘牛士の歌                                       

「フニクリ・フニクラ」という馴染みの登山電車の歌が始まるや否や彼の声量のある圧倒的な歌声がホールを包んだ。第1番を日本語、第2番を原語で歌った。続いて英語、ドイツ語で「愛の歌」を熱唱。

下司は2週間前に旭川で行われた《第13回中田喜直記念コンクール》で大賞受賞。コンクールで歌った課題曲の「雪の降る街を」を叙情味あふれる温かさで歌い上げた。私が大好きでよく口ずさむ歌である。自由曲は聴いたことが無い曲であったが、心を揺さぶるドラマティックな熱唱で感動を呼び起こすような歌となった。グランプリに輝くのが納得できる熱唱。続いてオペラ歌手が歌うような声量が必要とされる一世を風靡した「千の風になって」。

最後のプログラムは[酒]をテーマにした歌。下司はこのミニコンサートをトークを入れながら展開したが、話術も極めて巧みである。かしこまって聴かないように聴き手をリラックスさせながら歌った。3曲は聞いたことも無い曲だった。「電話」は日本語で演技を入れながら、最後には〈落ちが付いて〉笑いを誘う歌唱ぶりには感心した。会場には一瞬笑いが広がった。「闘牛士の歌」はオペラ≪カルメン≫で有名な曲。コンサートの最後を飾るのに相応しい選曲。聴衆の手拍子も入って大団円。

アンコール曲も[酒]に因んで「ラヴェルの《シャンペンの歌》(?)」。酒にまつわる曲が多かったが、本人は酒が一滴も飲めないとのこと。それでも酒のうまさを知っているような歌いぶり。歌唱力だけでなく演技力も備わっている。声量だけでなく、声に艶があって、包容力のある歌いぶり。ルイジの眼鏡にかなったのも当然と再確認した次第。いずれ海外に留学して経験を積んで欲しい逸材。

期待以上のコンサートでとても楽しかった。日曜の午後のひとときーーーとても良い気分に浸れた。ピアニストが適度な司会役をつとめ、下司は新進バリトン歌手とも思えない、まるでプロのヴェテラン歌手並みの堂々とした演唱。また、彼のコンサートを聴いてみたい。

*今日のスタジオは初めて訪れたが、ユンディ・リが来札の折には練習場として使っていたらしい。スタインウェイのコンサートグランドモデルD-274が常設されている。

   

佐藤美枝子 & 堀内康雄 Joint Recital

7月はPMFのコンサートが沢山あり、札幌コンサートホール主催のプログラムも加わって忙しいスケジュールになっている。チラシで上記のコンサート開催を知って聴き逃せないという想いが強く、キャンセルのコンサートが出たこともあって思い切ってチケットを購入した。7月は13回Kitaraに通う予定。

佐藤美枝子は1998年、第11回チャイコフスキー国際音楽コンクール声楽部門で日本人初の第1位を受賞。03年9月、Kitaraで開かれたソプラノ・リサイタルに出かけた。
丁度10年前のことで、当時のプログラムを見ると團伊玖磨、山田耕筰の日本の歌のほかに、ロッシーニ、ヴェルデイ、ドニゼッティなどの歌劇のアリアが歌われている。ヘンデルの「懐かしい木陰で」はいろんな歌手の歌で聴いたことあるので懐かしい。彼女の歌声が響いてくるほどの印象は残っていない。
日本の歌手では90年代から《佐藤しのぶ》の歌声は4・5回聴いていることもあり、その歌のイメージが湧いてくる。《中丸三千繪》も3回ほど聴いている。やはりオペラ歌手は華やかな雰囲気も求められるので、歌声と共に彼女のステージに期待したい。

堀内康雄はKitaraのステージには、イヴェントの折のソリストとして度々登場している。Kitaraがオープンした頃、北海道出身の歌手と共にバリトン歌手として客演した時の彼の歌声に惹きつけられた。その時から一度リサイタルで聴いてみたいと思っていた。慶応大学卒業後、ミラノ・ヴェルディ音楽院へ留学して音楽の道に進み、トゥ―ルーズ国際声楽コンクールほか数々の国際コンクールで優勝。海外で活躍していたが2年ほど前に武蔵野音楽大学教授に就任して日本を活動の本拠地にした。

二人ともに海外でのオペラ出演も多く、国内では藤原歌劇団団員として活躍している様子は想像できた。今回は武蔵野音楽大学同窓会道央支部主催のコンサートで幸いに彼らのリサイタルを聴くチャンスに恵まれた。堀内康雄は今年の初めモーツァルトの「皇帝ティートの慈悲」で主役をこなしたはずである。

本日のプログラム:
 
 佐藤 美枝子(ソプラノ)、 堀内 康雄(バリトン)、 三ッ石 潤司(ピアノ)

[第1部]
 平井康三郎:≪日本の笛≫より 「祭りもどり」、「親船小船」
 畑中良輔:まるめろ                      (Br)

 山田耕筰:赤とんぼ、 小林秀雄:落葉松            (S)
 グルック:ああ、私の優しい熱情が、 ヴェルディ:孤独な部屋で (Br)
  
 チェスティ:私の偶像のまわりにある人よ、  ドナウディ:ああ愛する人の (S)
 トスティ:君なんかもう                    (Br)
[第2部]
 ドニゼッティ:オペラ≪シャモニーのリンダ≫より 「おお、この魂の輝きよ」 (S)
 ドニゼッティ:オペラ≪愛の妙薬≫より 「愛らしいパリスのように」(Br)
 ベッリーニ:オペラ≪夢遊病の女≫より「ああ、信じられないわ」  (S)
 ヴェルディ:オペラ≪椿姫≫より「プロヴァンスの海と陸」     (Br)
 ヴェルディ:オペラ≪椿姫≫より「天使のように清らかな娘が」   (S, Br)

彼らは大ホールの3階まで届くほどの声量を持ち合わせている。第1部は声量は十分すぎるぐらいであったが、堀内の声に力が入り過ぎているのか、勢いのある歌詞の為か、抒情味が足りないような感じがした。日本の歌や歌曲は言葉が特に大事なので、伝え方や聴き方が難しいこともあって、いまひとつ心に響かないものがあった。

ところが第2部に入ると、オペラのアリアなので聴かせどころがたっぷりで、バリトンの歌声も声量に加えて極上のつややかさが伴って素晴らしい響き。歌うごとに乗ってきた感じ。堂々としていて貫禄充分。海外での活躍ぶりが判る歌唱力と演技力。
ソプラノは声質が何種類かに分けられるが、いくつかの歌では《佐藤しのぶ》と同じような声質を持っているように感じた。勿論、いろいろな声の出し方が出来るので、コロラトゥラとしても相当な声が出ていて、普通の人では出せない範囲まで伸びやかに声が出るのは流石であった。彼女は華やかさも持ち合わせていた。

本日の圧巻は何と言っても「椿姫」。第2幕、第5場。ここで歌われるジェルモンとヴィォレッタの二重唱はオペラ全体の中でも聴きどころでもあり、その後の展開の重要な場面。息子と別れてくれと頼むジェルモン。心からアルフレードを愛していると告げ、ヴィオレッタは拒むが最終的には受け入れる。実際のオペラの場面が17分ほど演じられたが、迫力に満ちたオペラの情景であった。

1人だけのリサイタルでは味わえない感動。日本を代表するバリトンとソプラノのジョイント・リサイタルを聴きに来た甲斐があった。実はこれと全く同じ場面が昨年のPMFのマリス・ペーターゼン(S)とロベルト・セルヴィーレ(Br)のデュオ・リサイタル(ピアノ:ファビオ・ルイジ)でも演じられて感動したのである。今日のプログラムには具体的な内容が載っていなかったので、二重唱が入るとは思っていても歌の展開が判っていなかった。それだけに予想もしない展開と海外で身に着けた彼らの熱演が聴く者の心を揺さぶった。交互に1曲ずつ歌うやり方は単調に陥りがちである。プログラム最後の演目に満員の聴衆全員が満足感を覚えたと思う。

当日券を売り出していたので、客入りは大したことがないのかと思ったら、指定席(453席)では売り出さない予備の席まで用意しなければならないほどの状態。小ホールには今迄120回は来ていると思うが、ステージ横2階の予備席が使用されたのを見たのは2回目で珍しいことである。(予備席は20席ある。)指定席で売り出す場合は多分こんな事はなく、自由席でチケットを売り出した時に予備の席を使うのかなと思った。全席完売でも、予備の席は売り出さないのを不思議に思っていたが、どうやら自由席の際に満席になった場合に予備席を使用するのかも知れない。

中丸三千繪 ソプラノ・リサイタル

 中丸三千繪のソプラノ・リサイタルを初めて聴いたのはKitaraが開館して1年目の1998年4月のことであった。

1987年単身イタリアに渡り、マリア・カラスと最も多く共演し世界最高のメゾ・ソプラノ歌手として名高かったジュリエット・シミオナートに直訴してレッスンを受けた。88年パヴァロッティ・コンクールに優勝して、「ラ・ボエーム」のミミ役でヨーロッパ・デビュー。89年世界三大テノールの一人パヴァロッティと「愛の妙薬」で共演し、アメリカ・デビュー。90年「マリア・カラス国際声楽コンクール」に優勝。イタリア人以外の外国人として初の快挙となり欧米の注目を浴びて出演依頼が殺到した。以来、世界各国の歌劇場でドミンゴを始め世界的な歌手と共演している。92年の日本では全国ツアー全公演完売を記録して追加公演するほどの人気ぶりであった。(近年の辻井伸行現象に当たる状況だったかも知れない。)
 94年の日本公演も完売となった。ロリン・マゼール指揮フィルハーモニア管によるベートーヴェンの「第九」のソリストとして出演。マゼール指揮フィルハーモニア管とは97年の日本公演でも共演した。(今月14日にマゼールはミュンヘン・フィルと札幌公演。)当時、彼女はイタリア、ニューヨーク、パリに在住して世界各地で活躍していた。

 98年の全国公演の際にコンサートでは見たことも無いようなプログラム(プロフィールや曲目解説のほかに数々の美しい写真が上質の紙に載せられ装丁もしっかりしていて、まるでアルバムと言ってもいいようなもの)が販売されていたのが下の画像である。当時よりも今回その良さを味わった気がする。(多分、今では高すぎて買わないと思うが、、、)

プログラムによると曲は素人の私にとって聴き慣れた曲ではなかったが、当時は会場の雰囲気と世界のディーバの歌声に満足したに違いない。

 08年6月、中丸三千繪が10年ぶりにKitaraのステージに姿を見せた。「池辺晋一郎&上杉春雄 ジョイントコンサート」に友人として特別出演した。ベートーヴェンや池辺作曲の歌曲、プッチーニやヴェルディの歌劇からアリアを歌ってくれた。「歌に生き、愛に生き」と アンコールに歌ってくれた「日本の歌」(北原白秋作詞ばかり数曲だったと思うが、、、)の印象は今でも記憶に残っている。

 この頃、彼女のマリア・カラス・コンクール優勝までの道程を綴った自叙伝を興味深く読んだ。いろいろなエピソ―ドは非常に面白かった。特にイタリアでは男性歌手に“Bravo”、女性歌手には“Brava”、複数の歌手には“Bravi”と拍手喝采するのが慣例の掛け声であると書かれていた。Kitaraのコンサートで“Bravi”と声が掛かった場面があったが、その時の様子は別な機会に紹介したい。

 近年は日本での活動も増え、2008年には三枝成彰作曲モノオペラ「悲嘆」を初演。2010年トルコやイタリアのミラノ大聖堂、ローマのバチカンでもコンサートを開催。2011年、モノオペラ「悲嘆」とプーランク作曲モノオペラ「人間の声」の2つのモノオペラ(奥田瑛二演出)を一晩で一人で演じTV放送された。
 
 2013年4月6日、Kitaraでの15年ぶりのリサイタル。 ピアノは菊池真美。
  Program
    シューベルト:≪アヴェ・マリア≫、 カッチー二:≪アヴェ・マリア≫、
    ヘンデル:歌劇「リナルド」より≪私を泣かせてください≫
    ヘンデル:歌劇セルセ」より≪オンブラ マイ フ≫
    ドヴォルザーク:≪わが母の教え給いし歌≫
    ドヴォルザーク:歌劇「ルサルカ」より≪月に寄せる歌≫
    ヴェルディ:歌劇「シチリア島の夕べの祈り」より≪有難う愛する友よ≫
    プッチーニ:歌劇「ジャン二・スキッキ」より≪私のお父さん≫
    ラフマニノフ:「12の歌」Op.14より≪春の洪水≫
   ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    野口雨情作詞・本居長世作曲・三枝成彰編曲:≪赤いくつ≫
    竹久夢二作詞・多 忠亮作曲・三枝成彰編曲:≪宵待ち草≫
    石川啄木作詞・越谷達之助作曲:「一握の砂」より≪初恋≫
    モリコーネ:映画「ニュー・シネマ・パラダイス」より≪チネマ・パラディーゾ≫
    ヴェルディ:歌劇「椿姫」より≪さようなら過ぎ去った日よ≫
    プッチーニ:歌劇「トスカ」より≪歌に生き、愛に生き≫
    チレア:歌劇「アドリアーナ・ルクヴルール」より≪私は芸術の下僕≫
    べッリー二:歌劇「ノルマ」より≪清らかな女神よ≫

 中丸三千繪は真紅のロング・ドレスで登場。ピアニストの黒の衣装とピアノの黒と対照的な色合いで、まるでステージに花が咲いたようだった。

 ≪アヴェ・マリア≫は同名の曲が沢山あるが、英国の詩人ウォルター・スコットの詩に「歌曲王」と呼ばれるシューベルトが曲をつけたものが最も親しまれている。
 ≪私を泣かせてください≫は15年前のリサイタルでも歌ったイタリア古典歌曲。≪オンブラ マイ フ≫は「ヘンデルのラルゴ」として有名なイタリア古典歌曲で日本でも広く歌わている。Ombra mai fu はペルシャ王セルセが歌う「木陰への愛」。イタリア語歌詞 Ombra mai fu di vegetabile, cara ed amabile, soave piu.[かって木陰がこんなに親しく愛すべき甘美なものであったことはない]の歌い出しの部分から題名がとられている。いろいろな楽器にも編曲されて親しまれている曲。
 ドヴォルザークの声楽曲は殆ど聴く機会がないが、旋律が美しい。彼は人魚姫の物語を土台に「ルサルカ」というオペラを書いた。歌劇の名は聞いたことがあるだけで、意識して聴いたのは初めてだが、切ない想いが心に響く歌声で盛り上がった。

 ヴェルディの曲が始まるとステージの下手に移動、階段を下りて客席の間を周りながら歌うサーピス。「シチリア島の夕べの祈り」序曲は何回かコンサートで演奏され、この曲もCDを持っていて偶々耳にするが、実演で聴くと迫力が違う。≪ありがとう愛する友よ≫はボレロ調のアリア。
この曲を歌い終るとマイクを使って挨拶。階段が目に入ったので急に動き回る気持ちになったそうである。北海道が大好きで、いつか移住したい計画もあるとか。演奏家はいつも何らかのトレーニングをして身体を鍛えておく必要があると話していた。彼女はスポーツ好きのようである。話も淀みなくて心地よく響いた。
 ≪私のお父さん≫は数あるプッチーニの中でも特に広く親しまれていて、たびたび聴く機会のある名曲。
 前半のプログラム最後の曲≪春の洪水≫は長い冬が終って、春の始まりを告げる川のせせらぎのきらめく様子が目に浮かぶ。雪解け水が川に洪水のように流れ込む様子が激しいピアノで表現されるのも印象的。ラフマニノフはピアノ曲に次いで声楽曲の作品が多いらしい。彼女は前回のリサイタルでもこの曲を歌っている。

 後半には鮮やかなオレンジ色のドレスで登場。まだ雪で覆われている北海道に一足早く春が訪れた感じ。
 
 最初の3曲は日本の歌。越谷達之助(1909~85)は名ソプラノ三浦環の伴奏ピアニストとしても知られていた、1938年に歌曲集「啄木によせて歌える」の第1曲に収めた代表作が≪初恋≫で、歌曲の題名は作曲家が命名。この曲も15年前に歌われている。日本でのリサイタルでは日本語の歌を披露するように心がけているようである。作曲家の三枝が中丸のために編曲した曲を今回のリサイタルで披露した。子音と母音から成る日本語の特徴を生かした歌は美しくて抒情性にあふれている。
 ≪チネマ・パラディーゾ≫は1988年公開のイタリア映画のテーマ曲。
 
 一端ステージを下がって、再登場した時には衣装の早替り。宮廷での舞踏用の白いドレス姿で髪をアップにしてリボンをつけて、ステージに姿を現すと周囲からその見事な早業に溜息。別な歌い手が登場したように思えて、顔を見ると違う人物に見えるから不思議。最後のオペラのアリア4曲にあった舞台衣装。
 ヴェルディの≪さようなら過ぎ去った日よ≫は「椿姫」でヴィオレッタが幸せの日々を思い返して歌うアリア。
 
 ≪歌に生き、愛に生き≫は昨年のバーデン劇場の公演やMETビューイングでも鑑賞したので、極めて身近に感じてオペラの場面を思い浮かべながら聴けた。感情移入もできて、盛り上がったアリアは最高潮に達した。曲が終ったところで客席後方から“Bravo”の掛け声、1・2秒差で私も思わず“Brava”と叫んでいた。ステージ上の彼女の真正面で1階5列目の座席からの掛け声だったので彼女の耳に届いたはずである。人生で初めて、勿論Kitaraでの初めての経験であった。彼女の著書で知った単語を彼女のコンサートで発するのに少々の勇気は必要だったが躊躇しないで発音できたことに違和感は覚えなかった。グッド・タイミングだったと思う。

 一端ステージを下がって最後の2曲を歌った。
チレアは初めて聞く名前だったが、盛り上がりのある曲で楽しめた。
≪清らかな女神よ≫はマリア・カラスのCDで何度か聴いているので馴染みのある名曲中の名曲。べッリー二の壮大なメロディは歌手の特別な技巧を求めるが、それゆえに名歌手の聴かせどころでもある。聴衆を魅了する迫力ある歌声と演技力がうまく噛み合って感動的なフィナーレ。中丸三千繪は中高音が得意なのかと思った。

 今回はP席やステ―ジ両脇のRA,LA席は販売せずに(歌手本人の説明)歌声がきちんと明瞭に届くような座席の販売方法をとって全席指定5,000円。1階席は満席、2階席は8割ほどの入りで、全体で900名未満か。しかし、あちこちに客が散らばるよりも密度の濃い客の配置になったと思う。

 アンコール曲はラフマニノフの「美しい人よ、決して歌わないで」とマスカー二の「アヴェ・マリア」。
北海道の釧路でロシア人に教えてもらった曲で、北海道との縁があると話して歌ったのがラフマニノフの曲。推測すると90年代の公演で何回か北海道を訪れて札幌を含めて道内での公演が開催されていて、北海道との繋がりがある印象を受けた。
「アヴェ・マリア」で始まり「アヴェ・マリア」で終わったが、これもプログラミングの妙。

 15年前と比べて半額の価格で聴けたが安かった感じ。7月3日東京の紀尾井ホール(800席)では6000~10000円で今回と同様なリサイタルが開かれる。(会場でのチラシの情報による。)



 
 

 
 


 

鮫島有美子(ソプラノ)/ 愛の讃歌~岩谷時子の世界~

 今夜はソプラノ歌手、鮫島有美子のコンサート。

 1990年1月に北海道厚生年金会館で行われたニュー・イヤー・コンサートで鮫島はウイーン・フォルクス・オパーのメンバーと協演。レハールの「メリー・ウィドウ」より≪ウイリアの歌≫、J,シュトラウスⅡ世の「ウイーン気質」より≪酒・女・歌≫、≪ハンガリー万歳≫などを歌い、アンサンブルが≪メリー・ウイドウ「序曲」≫などを演奏。
ウイーンで毎年正月に開かれていて風物詩となっているニュー・イヤー・コンサートを札幌市民にその香りを届けてくれました。
 
 1991年2月には夫君のヘルムート・ドイチェ(Helmut Deutsch)(ピアノ・指揮)が卒いるヴィルトオーゾ・カンマ―・アンサンブル・ジャパンと協演。 《美しき日本の歌》を札幌市民会館で披露した。

 札幌にはその後何回も訪れているが、私が彼女の歌声を聴くのは多分20年ぶりでKitaraでは初めてになる。
 
 鮫島有美子は東京芸大を卒業した後ベルリン音楽大学に留学。ドイツの歌劇場の専属歌手として活躍。
1990年の紅白歌合戦に出場。ウイーン在住で、90年代には日本で頻繁にコンサートを開催。最近ではオペラ≪夕鶴≫などオペラへの出演やリサイタル・ツアーの他、宮川彬良とのコラボレーションなど活動の幅を広げている。日本の歌の良さを広める活動が特に目立つ。

 今夜のコンサートのタイトルは 愛の讃歌岩谷時子の世界
 
 クラシックの枠に囚われない構成・演出で普段のコンサートとは違っていた。 ピアノ、ベース、アコーディオン、パーカッションと3名のコーラスの編成。
ザ・ピーナッツの「ウナ・セラデイ・東京」、「恋のバカンス」は学生時代にヒットした曲で懐かしかったし、ピンキーとキラーズの「恋の季節」は当時とほぼ同じ振付で歌って面白かった。岸洋子の「夜明けの歌」の歌唱力は流石だった。 
 
 プログラムの前半は岩谷時子作詞のヒット曲でポップスが中心だったが、元歌を歌った歌手のイメージが強すぎるせいか、原曲の歌手の歌がベストという感じは否めなかった。これはテレビでたまに聴く歌謡曲についてもいつも持つ印象である。

 プログラムの後半はシャンソンを岩谷時子訳で越路吹雪が歌った曲で構成された。鮫島はシャンソンもかなり歌い込んでいる様子で、シャンソンの雰囲気がとてもよく出ていた。しかし、越路のあの圧倒的な声量には及ばないと思った。後半の最初に岩谷時子作詞・宮川彬良作曲の「眠られぬ夜の長恨歌」は作詞者の慟哭が聴く者の心に響き、作曲家がピアノ演奏で伝える迫力に心を揺さぶられた。今日一番の収穫。

 アンコールに今日のコンサートのタイトルになった≪愛の讃歌≫(Hymne a l'amour)。

 
 私が通うコンサートはクラシックだが音楽は日本の歌謡曲も含めてジャズやロックも一応聞きはする。ポール・アンカ、ニール・セダカ、アンディ・ウイリアムズ、ドリス・デイなど当時の歌手名や曲の一部が頭に浮かんでくる時もある。好んで聴くことはしないが今では名曲になったビートルズのCDは持っていて、たまに"Yesterday"を聴くと名曲だと思って口ずさむこともある。

 かっては会合などでフランク永井の「君恋し」をアカペラで歌って十八番にしていたこともあったが、現在スナックのカラオケで歌う曲は美川憲一の「柳ケ瀬ブルース」や千昌夫の「夕焼け雲」である。といってもここ暫くは歌うことはめったにない。
 
 



プロフィール

fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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