サー・ネヴィル・マリナー (90歳の現役指揮者)のN響出演

サー・ネヴィル・マリナー(Sir Neville Marriner)が5月11日(日)に続いて、前夜(5月18日)のNHKのEテレ《クラシック音楽館》に登場した。NHK交響楽団とは5回目の共演となった5・11の放映(2月14日のN響定期公演)は間もなく90歳を迎える世界的な指揮者ということもあって話題を呼んだ。
演奏曲目はドヴォルジャークの交響曲第7番と第8番。「第7番」は2009年にラドミル・エリシュカが札幌交響楽団の定期演奏会で紹介してくれた曲で、今では親しんで聴くようになった馴染みの交響曲。マリナーはインタビューで「第7番」は超絶技巧の曲で、ドヴォルジャークの「第8番」「第9番」の礎となった曲と評価していた。インタビューで「N響は素晴らしいオーケストラで、楽団員は一瞬指揮棒を止めると、各奏者が自由に豊かな音楽性を発揮する」という印象を述べていた。

5月18日放映(2月19日のN響定期)はオール・モーツァルト・プログラム。「交響曲第35番」、「ピアノ協奏曲第22番」、「交響曲第39番」の3曲。ピアノ独奏はティル・フェルナー。彼の若々しくフレッシュで軽やかな演奏に胸が躍った。11月3日にKitara のステージに初登場するフェルナーが待ち遠しい。

マエストロがKitaraのステージに初登場したのが、2007年10月の札響定期演奏会。「ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲」と「メンデルスゾーンの交響曲第3番」を指揮した。世界的に有名な指揮者の札幌登場に胸が躍った。オーケストラやソリストの主体性を生かした指揮ぶりで自己主張が強くない印象を受けていた。

あれから約7年経って、現在は90歳になっている。世界最高齢の現役の指揮者だと思う。とても90歳とは思えない堂々として安定感のある指揮ぶりに感動。

ネヴィル・マリナーは1924年、イングランド生まれ。ロンドン交響楽団のヴァイオリン奏者などを務めて、ピエール・モントゥーに師事して指揮活動を始めた。1959年には、ロンドンの代表的なオーケストラ奏者を集めて、「アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ」(通称、アカデミー室内管弦楽団)を結成。バロック音楽の斬新な解釈で注目を浴びた。この室内楽団は世界中で活躍して2002年、ペラィアが首席客演指揮者でKitaraにも来演している。
マリナーはミネソタ管弦楽団の音楽監督(1979-86)、シュトゥットガルト放送響の首席指揮者(1986-89)も務めた。ウィ―ン・フィルを始め世界各地のオーケストラに客演。

2週続けてマリナーの元気な姿を拝見したが、モーツァルトの曲は特に得意な印象を受ける。モーツァルト交響曲全集、モーツァルト・ピアノ協奏曲全集をアカデミー室内管と録音している。ムロ―ヴァ等、同管との共演のCDも手元に数点ある。CDを通して彼の名を知ったくらい録音数が多い。

90歳を超えて世界を周るのは大変な体力がいると思うが、まだまだ世界での活躍が期待される名匠である。


ウォルフガング・サヴァリッシュの逝去

世界的指揮者 ウォルフガング・サヴァリッシュ(Wolfgang Sawallisch)   2月22日逝去。享年89歳。
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 第2次大戦後のドイツを代表する指揮者で、歌劇場から音楽人生をスタートして1957年には当時としては史上最年少の指揮者としてバイロイト音楽祭にデビュー。71年からはバイエルン州立歌劇場の音楽監督、82~92年は音楽総監督を務め同歌劇場の水準を飛躍的に向上させたと言われる。93~2003年にはフィラデルフィア管弦楽団の音楽監督を務めた。
 NHK交響楽団には64年初客演してから毎年のように客演を続け、N響がドイツ音楽を得意とする上で多大な貢献を果たしたと評価され同団の桂冠名誉指揮者となった。日本の音楽ファンにとって最も身近なマエストロであった。06年に引退するまでN響の演奏会のほか海外のオーケストラの日本公演でも活躍した。

 私は88年12月13日 北海道厚生年金会館で行われたバイエルン国立歌劇場1988年日本公演を聴いていた。この年は特別コンサートとしてサントリーホールでワーグナー「ガラ・コンサート」やベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」の他に、大阪・名古屋・東京・横浜・札幌でベートーヴェン「交響曲第9番」。
 ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮バイエルン国立管弦楽団、バイエルン国立歌劇場合唱団(Staatsは日本語では〈国立〉、〈州立〉同じ)、他にソリスト4名。25年も前のことで具体的なことはほとんど覚えていない。

 サヴァリッシュがフィラデルフィア管弦楽団の音楽監督に就任した93年の日本公演でも幸い聴く機会があった。前回の公演では1階最後方のA席で聴いたが、この時はS席で聴いたと思う。Kitaraが開館した1997年からコンサートなどの半券はアルバムに貼って漏れなく記録してあるが、それ以前のチケットの半券などは必ずしも保管・整理をきちんとしていなかった。今回は2回ともA4版サイズ変形の立派なプログラムが出てきたので判ったのだが、それまでは自分はサヴァリッシュをフィラデルフィア管との繋がりで実演を聴いたのは1回だけと思っていた。この時のプログラムによると曲目はシューベルトの「未完成」、R.シュトラウスの「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」とドヴォルザークの「新世界より」であった。
 話は逸れるが、89年の小沢征爾指揮のロンドン交響楽団の公演はS席18.000円だったので、フィラデルフィア管の時も同じくらいしたと思う。この数年いつも思うのだが、20年以上前と比べて、コンサートのチケット代は高くはなっていない。ウイーン・フィル、ベルリン・フィルなどを別とすれば、むしろ安くなっている。いくら満席になってもチケット代だけで興行が成立しているわけではない。海外オーケストラの演奏会はスポンサーが付かないと赤字になる。今でもS席は高いので私自身もKitaraではP席やRA席を購入することが多い。

 マエストロ・サヴァリッシュはN響アワーで何度も聴いて親しみを感じていた。この後、手元にあるCDを聴いたり、札幌公演の時の、今ではあまり目にすることのない当時の立派なプログラムを読みながら今世紀の偉大な指揮者を偲んでみようと思う。

追記: サヴァリッシュが作り出す音楽は伝統に基づく安定感のある重厚で端正なものであると思っていたが、彼の人柄も温厚で誠実であったことが判る。当時のプログラムに掲載されていたN響事務局の方の文章からも、マエストロの人物像が浮かび上がる。そこで書かれているエピソードを紹介する。
「指揮者はエネルギー源として大いに食べ、大いに飲み、汗をかくのが普通であるが、N響の午前・午後に行われる練習時間でマエストロは絶対に昼食をとらなかったし、水も飲まなかった。昼食をとらない理由は《食事をすると暫くは脳の神経が鈍くなって、百人のオーケストラを指揮できなくなる》。水を飲まないのは汗をかかないためで礼儀と心得ているらしい。
サヴァリッシュはミュンヘンから来日する時は決まってニュー・デリーやバンコック、香港などに4~5泊して、時差を徐々に馴らしてから日本へ来た。日本到着と同時に体と頭をフル回転させようという周到な用意からであった。
ホールのステージで照明や空調温度、舞台の配置などでアーティストからいろいろ細かい注文が出るが、サヴァリッシュは指示や要望を出しても無理な要求はせずに文句を言わないし、トラブルを起こさなかった。マエストロは偉大な芸術家であると同時に深い常識を備えたインテリ・紳士なのである。」
 





札幌交響楽団常任客演指揮者 ラドミル・エリシュカ

 ラドミル・エリシュカ(Radomil Eliska)はチェコ出身の優れた指揮者であるが東側の旧国家体制が崩壊した後も西側の世界に出るチャンスがなく、日本では21世紀に入ってから突然脚光を浴びた名指揮者である。
 2006年12月に札幌交響楽団に初登場。スメタナ:交響詩「ボヘミアの森と草原から」、ドボルジャーク:金の紡ぎ車、リムスキー=コルサコフ:シェエラザードを演奏。

 2008年4月札幌交響楽団首席客演指揮者に就任。第508回定期演奏会(4/11・12)で、ヤナーチェク:狂詩曲「タラス・ブーリバ」、モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番 (ピアノ:伊藤恵)、ドヴォルジャーク:交響曲第6番。日本の聴衆にドヴォルジャークの定番である8番・9番ではなく、それこそ隠れた名曲を紹介してくれた。

 音楽評論家の東条碩夫氏によると、2006年の札響での評判が広がったせいか08年4月5日に行われた東京芸大奏楽堂での東京都交響楽団との演奏会は超満員になり、聴衆の熱気は並みのものではなかったそうである。その後のエリシュカの演奏会を札幌まで聴きに来る音楽の専門家も増えているのはその後の音楽評論家などの動向でわかる。

 2009年4月の札響定期では、モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番(ヴァイオリン:木島真優)、 ヤナーチェク:組曲「利口な女狐の物語」、ドヴォルジャーク:交響曲第7番 が演奏曲目であった。前年に引き続き一般に馴染みの少ない曲が演奏されたが、私にとっては嬉しいことでドヴォルジャークの他のCD収集でレコード店を探し回ることになった。7番も6番も聴いてみると魅力のある曲で、今迄8番や9番のCDだけを何枚も集めている状態がおかしく思えた。

 エリシュカは2009年N響定期(2/7)、九州交響楽団定期(10/21)でスメタナ:連作交響詩「わが祖国」をそれぞれ初共演で振った後、10月31日の札響名曲シリーズでも披露して名演を成し遂げて偉大な足跡を残した。

 エリシュカの「わが祖国」は2009年のコンサート・ベストテンに上記のN響と九響の演奏会を上げる評論家がいるほど全国的に話題となった。私は残念ながらこの回の名曲シリーズは聴き逃した。

 2010年4月の札響定期はドヴォルジャーク: 序曲「謝肉祭」、ヤナーチェク: シンフォニエッタ、
ドヴォルジャーク:交響曲第5番。ヤナーチェクのCDは何回も聴いていて親しんでいるが、ドヴォルジャークの第5番は田園的な情感が満ち溢れていてスラヴやボヘミヤ地方の雰囲気を何となく感じ取れた気がした。とにかくエリシュカの演奏は新鮮な感じがするのである。

 2011年4月はエリシュカ/チェコ音楽シリーズvol.4としてドヴォルジャーク:スターバト・マーテル。悲しみに満ちた宗教曲が東日本大震災の翌月に演奏されることになったが、指揮者自身は勿論、札響団員、ソリストや合唱団員すべてが特別な想いを込めて演奏会に臨んだであろうことは想像に難くない。
 演奏会の会場で義捐金募金に協力する人々の姿は更に感動を深めた。

 2012年4月の札響定期は「オール・ドヴォルジャーク・プログラム」
≪スケルツォ・カプリチオーソ≫、≪交響詩「野鳩」≫、≪交響曲第9番「新世界より」≫。やっと9番の登場となったが、やはり素晴らしかった。日本人にはこの曲は心に深く響き渡るものがある。

 チェコの音楽、特にドヴォルジャークの「新世界より」は日本特有の《ヨナ抜きの音階》=四七抜きの音階の旋律が含まれることで知られている。ドヴォルジャークが育ったボヘミア地方の民族音楽の多くはヨナ抜き音階でできている。つまり[ファ][シ]が抜けた5音音階でできている日本の演歌と共通するものがある。日本人がチェコの音楽を身近に感じて好きになる大きな理由の一つなのではと思う。民謡、唱歌などで短調の名曲は日本に数多い。

 エリシュカは札響出演が契機となって各地のオーケストラへの客演依頼も増え日本で旋風を巻き起こしている。80歳を超えているが、まだまだ活躍が期待される指揮者である。





過去25年間のコンサートで多く聴いた指揮者のベスト・テン

過去25年間で多く聴いた指揮者のベスト・テン

                                      1988年4月~2013年3月
日本人部門
 
 1位  尾高 忠明  (39回) (札幌交響楽団音楽監督)
 2位  高関  健  (26回) (前札幌交響楽団正指揮者)
 3位  秋山 和慶  (19回) (前札幌交響楽団常任指揮者)
 4位  小林 研一郎  (8回)
 5位  円光寺 雅彦  (7回)
    故 山田 一雄      (札響とベートーヴェン交響曲・チクルス計画成就の前に 
                   1991年逝去)
 
 7位  井上 道義   (5回)
    広上 淳一
    堤  俊作
    下野 竜也


外国人部門
    
 1位 ファビオ・ルイジ Fabio Luisi       (10回)    (PMF Artistic Director)
 2位 マイケル・ティルソン・トーマス Michael Tilson Thomas (7回) ( ditto )
    クリストフ・エッシェンバッハ Christoph Eschenbach
    ワレリー・ゲルギエフ Valery Gergiev
 5位 ラドミル・エリシュカ Radmil Eriska     (6回) (札幌交響楽団客演指揮者)
    カジミエシュ・コルト Kazimierz Kord
 7位 シャルル・デュトワ Charles Dutoi     (5回) 
    アントニー・ヴィット Antoni Wit
 9位 ウラディミール・フェドセーエフ Vladimir Fedoseev  (4回)
    ウェンピン・チエン Wen-Pin Chien                
 
プロフィール

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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