ラトル指揮ベルリン・フィルによるフランス音楽

先日ドイツから郵便小包が届いた。ベルリン・フィルの《デジタル・コンサートホール》特典2枚組DVDが送られてきた。サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のフランス音楽である。
一昨年から《デジタル・コンサートホール》は無料視聴放送を聴いて興味を持った。高品質のヘッドフォンを予め用意したかったり、聴く時間が十分にないこともあって契約には躊躇していた。その後、一年が経過していた。2週間ほど前に発注していたDVDがチケットと共に手元に届いた。

ベルリン・フィルのCDは何十枚も所有しているが、ベルリン・フィルの演奏を生で聴いたのは2004年11月だけである。サイモン・ラトルが2002年に芸術監督に就任してからの初来日であった。最初の日本ツアーは札幌、岡山、金沢、川崎、東京(オペラを含む6公演)。当時からフランス音楽に力を入れていたのか札幌公演のプログラムは「ドビュッシー:海」、「ラヴェル:ダフニスとクロエ 第2組曲」と「リンドベルイ:オーラ」。(*当日のチケット代は42.000円+郵送料600円の高額で座席も自分で選べなく心から楽しめる演奏会にはならなかった苦い思い出のコンサート。満席でもチケット代だけではペイしないという話を当時から耳にしていた。)

サイモン・ラトル2004年 来日記念盤“THE PREMIUM”がリリースしされ9人の作曲家の作品12曲が収録されている。指揮者のCDにしては珍しく曲の一部だけの作品もあって物足りなくて聴く機会は少ない。

【DVDの収録曲】
 DVD1(99分) ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲、ラヴェル:ダフニスとクロエ 第2組曲、ルーセル:蜘蛛の饗宴、ドビュッシー:海、ブーレーズ:ノタシオン   DVD2(99分) ドビュッシー:イベリア、 フォーレ:ペレアスとメリザンド、 ベルリオーズ:幻想交響曲

2日間かけてフランス音楽を堪能した。ルーセル、ブーレーズの曲は初めて耳にした。フォーレの美しい調べに酔いしれた。ベルリン・フィルハーモニーにおける2009~16年のライブ録音。樫本大進、アンドレアス・ブラウ、エマニュエル・パユ、ジョナサン・ケリー、アルブレヒト・マイヤー、サラ・ウィリス、タマーシュ・ヴェレンツェイ、ライナー・ゼーガスなどPMFでおなじみの顔ぶれも見れて親しみが深まった。イングリッシュ・ホルンのドミニク・ヴォレンヴェーバーは久しぶりに見る美男子姿。「幻想交響曲」では惚れ惚れする旋律を奏でた。弦楽器奏者の中にもやがて顔がわかる奏者も出てくるだろう。楽しみである。(*チェロのクヴァントの姿がチョット目に入った。)

映像を通して聴く音楽は見る楽しさも加わる。

※7:30pmから2時間、BSフジで《ベルリン・フィル ドキュメント&第九演奏会》のテレビ番組を偶然見つけて観た。ベルリン・フィルのメンバーがラトルの要求を受けてベートーヴェンの交響曲に今までと違った新しい角度から挑戦する音楽つくりが理解できて刺激的で面白かった。番組中で、「第1番」「第3番」に対するラトルの解釈も説得力があった。
番組の最後に2015年10月のラトル指揮ベルリン・フィルの「第九」演奏会の模様が録画中継された。民放なので楽章間にコマーシャルが入って流れが途切れたのが残念だった。
日本で聴く「第九」とは違う印象を受けた。合唱団は約60名。最近は150名ほどの大合唱団で歌う「第九」は特別なのかとふと思った。とにかく年末に良いタイミングで思いがけずに「第九」が聴けた。

Kitaraのクリスマス2016 (井上道義&児玉桃)

井上道義は2007年から11年まで5年連続して〈Kitaraのクリスマス〉に出ていた。今回は5年ぶりの同プログラム登場となった。井上は1946年12月23日生まれ。〈Kitara のバースディ〉をはじめ毎年開催のKitara主催のコンサートの開催日は必ずしも固定されていない。〈Kitaraのクリスマス〉だけが12月23日に固定されていると感じていたが、その理由が分かった気がした。今年は彼の70歳の記念すべき誕生日に当たる。Happy Birthday! (*平成元年から28回目の祝日だが、年末のため他の祝日に比して休日の気分がしない。83歳を迎えた天皇陛下が皇居の一般参賀で述べるお言葉に国民を思う気持が滲み出ていて感動を覚えた。)

Michiyoshi  Inoueは71年にイタリアのカンテルリ国際コンクールで優勝。76年に日本フィルを指揮して国内デビュー。ニュージーランド国立響首席客演指揮者(77-82) 、新日本フィル音楽itaria 監督(83-88)、京都市響音楽監督・常任指揮者(90-98)を歴任。2007年からオーケストラ・アンサンブル金沢音楽監督および石川県立音楽堂アーティスティック・アドバイザーを務め、〈ラ・フォル・ジュルネ金沢〉をはじめ多くの画期的なプロジェクトを実施。これまでにロイヤル・フィル、シカゴ響など海外オーケストラの客演指揮も数多い。「日露友好ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト」を企画・開催するなど独自の音楽活動を展開し、13年にはサンクトペテルブルク響と日本国内ツアーを実施。14年より大阪フィル首席指揮者も兼任。

私は2001年に2日間連続の日フィル札幌公演、09年オーケストラ・アンサンブル金沢のニューイヤーコンサート、10年のKitaraのクリスマス以来、彼の指揮によるコンサートは5回目。

児玉 桃(Momo Kodama)は1972年、大阪生まれ。1歳で家族とともにヨーロッパに移住。13歳でパリ音国立高等楽院に入学し、数々のフランス国内のコンクールに優勝。17歳でカントロフと共演してパリ・デビュー。ぺライア、シフなどに師事。91年ミュンヘン国際コンクールで1位なしの2位で最年少入賞。92年に東京フィルと共演して日本デビュー。同年、大阪でリサイタル。その後、ケント・ナガノ指揮ベルリン・フィル、小澤征爾指揮ボストン響などメジャー・オーケストラと共演。バッハから現代作曲家までレパートリーが幅広く、特にショパン、メシアン演奏で評価が高い。パリ在住。

1997年Kitaraオープニング・シリーズでフォスター指揮N響と共演して「ショパン:ピアノ協奏曲第1番」を弾いた。2000年円光寺指揮札響と「ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番」。前回の12年2月札響定期で「メシアン:トゥーランガリラ交響曲」で高関と共演。札響との共演が続くのは興味深い。彼女のピアノをKitaraで聴くのは5回目。

2016年12月23日(金・祝) 15:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ 井上 道義       ピアノ/ 児玉 桃   
管弦楽/ 札幌交響楽団

〈プログラム〉
 ビゼー:小組曲「子どもの遊び」
 グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 作品16
 ドビュッシー:バレエ音楽「おもちゃ箱」(井上道義カット版)
 アンダーソン:クリスマス・フェスティバル

歌劇「カルメン」や組曲「アルルの女」で有名なビゼーだが、他の作品はほとんど知らない。この小組曲もよく演奏されるらしいが、今までに耳にした記憶がない。12曲からなるピアノ連弾用組曲が5曲編成の管弦楽組曲に編曲されたという。第1曲 行進曲「ラッパと太鼓」、第2曲 子守唄「人形」、第3曲 即興曲「コマ回し」、第4曲 二重奏「小さな夫と妻」、第5曲 ギャロップ「舞踏会」。タイトルを読んだだけで曲想が浮かぶ。指揮者は各曲の演奏前に説明を加え、ステージでコマ回しをしながら指揮をする巧みな技も披露。子供に対する愛情に溢れた作品を通して聴衆に子供時代を想起させた。

ノルウェーらしい郷土色が全編に感じられ溌溂として雄大なグリーグのピアノ協奏曲は6年前に行われた札響リクエストコンサート~3大ピアノ協奏曲にも選ばれた。(“1番好きなピアノ協奏曲”のアンケートで総得票数303票中で第1位はチャイコフスキー第1番、第2位はラフマニノフ第2番、第3位がグリーグ。ちなみに第4位がショパン第1番、第5位がベートーヴェン第5番だった。)
児玉の演奏はこの曲をあまり聴いたことがないと思われる客をも魅了した(*スケールの大きなコーダのある第1楽章の終りにかなり多くの人が拍手をした)。久しぶりに聴くグリーグの協奏曲に曲の素晴らしさを改めて味わった。
盛大な拍手に応えてアンコール曲として耳慣れた旋律を奏で始めた途端にメロディが“Happy Birthday to you”に変わった。気づいた聴衆の拍手にマエストロ井上がステージへ。カーテンコールに“70歳になりました”と挨拶して聴衆から再び祝いの拍手が送られた。

ドビュッシー作曲の「子どもの領分」はしばしば聴くが「おもちゃ箱」は初めて耳にする曲でタイトルさえ知らなかった。彼の晩年に書き上げたという子どもたちへの愛情を込めた作品。(*「英雄的子守歌」という管弦楽曲がピアノ曲の編曲として1916年に書かれているが、同じ作品でタイトルだけが違うのかも知れない)。
タイトルにふさわしい子どもの夢心を思わせる楽しい音楽。おもちゃ箱の中での出来事が綴られる。音楽に合わせてのステージ上での小道具と仕掛けも指揮者の期待以上の工夫が凝らされているようであった。マエストロ井上の優れた音楽企画が生かされて、Kitaraのスタッフやバレリーナたちも彼の期待に充分に応えた作品になっていた。
バレエ音楽はマエストロの語りと指揮で30分弱の音楽。児玉がこの曲のピアノを担当したのにも驚いた。曲の中でオーボエ首席奏者やコンマスなども寸劇に参加。小学生と思われるバレリーナは札幌舞踊会のメンバーで井上の3日間の振り付けによる踊りで指揮者から感心されていた。定期公演並みのリハーサルを行っているのをKitaraのtwitterで知っていたが成程と思った。

指揮者のプロフィールにも書いたがユニークな音楽つくりは既成のクラシック音楽の垣根を越える試みだと思った。100年前に作られたドビュッシーの作品を新しい角度から表現したように感じた。

コンサートの最後はクリスマスの時期に歌われる10分弱のアンダーソン作曲のクリスマス名曲集。「もろびとこぞりて」、「ジングル・ベル」、「きよしこの夜」などがメドレーで演奏された。アンコールに「きよしこの夜」のオーケストラ演奏に続いて聴衆全員の斉唱。

Kitaraで5年ぶりの演奏会を行ったマエストロも満足そうであった。公園の中に立地するKitaraと大ホールの素晴らしさを何度も言及していたが、80回ほど足を運んだKitaraホールも今年は今日が最後。レセプショニストの対応にも感謝しつつホールを後にした。外は朝からの雪が止む気配がなく深々と降り続いていた。

昨日から間断なく降り続く雪のためコンサート会場に来れない聴衆も多くいたようであった。それでも9割以上の客が恒例のコンサートに駆け付けた。12月の積雪も90cmを超えた札幌も50年ぶりの記録的な大雪となって帰路も道が一段と狭くなっていた。このような悪天候でも地下鉄が時間通りに発着しているのは有難いことである。

札響の第9(2016) 秋山和慶

年末恒例の〈札響の第9〉は元札響首席指揮者の秋山和慶を迎えて開催された。昨年から「第九」の他に1曲が加わることになった。今年の追加プログラムは「ヴィヴァルディ:四季]より。

秋山和慶(Kazuyoshi Akiyama)は1941年生まれの日本指揮界の大御所。63年に桐朋学園大学卒業後、64年東京交響楽団に迎えられ、68年音楽監督・常任指揮者に就任。北米の主要オーケストラ(クリーヴランド管、フィラデルフィア管、ボストン響、ロスアンゼルス・フィルなど)を中心にヨーロッパでも活躍。68年からトロント響副指揮者、アメリカ響音楽監督(73-78)、バンクーバー響音楽監督(72-85)などを歴任。国内では2004年東京響を勇退して桂冠指揮者となる。その間、86年札響首席客演指揮者となり、88年~98年まで札響ミュージック・アドバイザー・首席指揮者に就任。98年より広島響首席指揮者を経て16年まで広島響音楽監督を務める。
現在は東京響桂冠指揮者の他にバンクーバー響桂冠指揮者、シラキューズ響名誉指揮者、九州響桂冠指揮者など。日本指揮者協会会長。

私は88年に札響会員となって94年までは年2回は彼の指揮に親しんできた。Kitaraがオープンした1997年7月4日の落成記念式典やオープニングコンサートは忘れられないイヴェントである。鮮やかなバトン・テクニックで品の良い整然とした音楽作りが特徴だったように思う。札響の第300回定期の曲が「ローマの松」、Kitara開館年のオープン記念コンサートの曲が「ローマ三部作」、11年6月札響定期の曲も「ローマ三部作」。全くの偶然とはいえマエストロ秋山はレスピーギが大好きなのだろうと思った。彼は近年何度が札響に客演しているが、私自身は秋山の指揮を観るのは5年ぶり20回目である。

2016年12月10日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara 大ホール

指揮&チェンバロ/ 秋山 和慶    管弦楽/ 札幌交響楽団
ヴァイオリン独奏/ 田島 高広(札響コンサートマスター)
ソプラノ/ 川島 幸子、  メゾ・ソプラノ/ 坂本 朱
テノール/ 福井 敬、   バリトン/ 山下 浩司 
合唱/ 札響合唱団、 札幌放送合唱団、 札幌大谷大学合唱団
合唱指揮/ 長内 勲

〈Program〉
 ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集 op.8 《四季》より「春」「冬」
 ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 op.125《合唱付き》

4日前のKitaraの行き帰りの歩道路面はツルツル状態だった。今年の北海道の冬の到来は例年になく早い。今日の札幌は間断なく雪が降り60㎝を越えて、この時期としては29年ぶりの1日の降雪量を記録した。こんな悪天候にもかかわらず、「第九」第1日目のコンサートには9割程度の客がホールを埋めた。厳しい冬の様子を描いたヴィヴァルディの曲はこの時期にはタイムリーな選曲となった。20名の弦楽合奏だったが、弾き振りでチェンバロを弾いた秋山和慶の姿は初めて見て興味深かった。
田島高宏(Takahiro Tajima)は桐朋学園大学卒業後、2001年から3年間、札響コンサートマスターに就任。2004年よりドイツ・フライブルク大学に留学。日本では和波孝禧、ドイツでR.クスマウルに師事。08年北西ドイツ・フィルのコンマスに就任し、ドイツ各地のオーケストラで客演コンマスも務める。14年9月より札響コンサートマスターに再就任。経験豊富なヴァイオリスト。
「春」、「冬」と各3楽章から成り、人々に親しまれている旋律を生き生きと綴った。“冬きたりなば春遠からじ”というが、まだ冬を迎えたばかりで春は遠い。

19世紀はオペラの時代で、ヨーロッパでは劇場が市民の重要な娯楽となっていた。演奏会でも歌やアリア、合唱が好まれていたと聞く。交響曲に合唱を加えた作品で、シンフォニーの形式を広げたベートーヴェンは新しい時代を築いた。日本では12月には全国各地で「第九」の演奏会が開かれている。この曲を聴かないと“年を越せない人”もいる。私もその一人である。

今日の演奏会では4人のソリストが第1楽章が始まる前からステージに上がっていた。第3楽章の前にソリストが入場する場合もあるが、聴衆の拍手が入るので個人的には好まない。楽章間の拍手は音楽鑑賞のマナーに反すると思うからである。そんな訳で最初から好感を持って安心して聴けた。コーラスは以前と比べ近年は男性のパートが充実してきている。今日は2階CBブロック中央の真ん中の席から聴いたが、140名ほどの女性男性合唱陣のバランスもとれて素晴らしい歌声となって「合唱」が一層ダイナミックに心に響いた。
ソリストは出番が少ないとはいえ、バリトンがいつも目立つが今日はテノールの福井敬の美しい声が印象に残った。Kei Fukuiは日本テノール界の第一人者で札響で耳にする機会も多い。特に08年札響定期の「ピーター・グライムズ」役は名演であった。
秋山和慶は久しぶりに観たが、安定感のあるドラマティックな指揮ぶりでオーケストラの力強い演奏を作り上げた。

※追記:「第九」の演奏会での指揮回数が世界中の指揮者の中で一番多いのではないかと思われる指揮者が小林研一郎である。彼は〈音楽の友12月号〉でインタヴューに答えて次のように語っているエピソードを読んで思わず笑ってしまった。
「1980年5月、オランダのコンセルトへボウでのネーデルランド・フィルとの生放送中の出来事。第3楽章に登場したソリストが3人だけ。第4楽章が始まってもテノールは現れずに、仕方なく4人のソリストが歌い始める前に演奏を止めた。すると、ディレクターが“テノールが近くのホテルを出たまま行方不明のため本日の演奏会はここで取り止めとさせて頂きたい”と告げた。聴衆は直ちに“演奏を続けろ”のコール。10分ほどの中断のあと演奏を再開して、何とか第4楽章を無事に終了。客席から“テノールがいないはずでは?”との声が漏れた。実はマエストロが指揮をしながらテノールのパートを歌っていた。」という面白いエピソード。










札響第595回定期演奏会 “バイロイトの伝説 飯森泰次郎”(ゲスト/ホジャイノフ)

新国立劇場第6代オペラ芸術監督を務める飯森泰次郎がワーグナーの《ニーベルングの指環》の名曲を指揮する。1970年以降20年以上にわたってバイロイト音楽祭で助手と務めて研鑽を積み、ワーグナーの伝統を受け継ぐ指揮者は彼の右に出る者がいないほどの日本のワーグナー・オペラの第一人者。
09年、12年に次いで3回目のKitara 登場。

ニコライ・ホジャイノフは2010年のショパン国際ピアノコンクールでファイナリスト。このコンクールでは予選が終わって優勝の呼び声が高まったが、経験不足で協奏曲がうまくいかなくて入賞できなかった。その後、日本での人気は高くなって各地でリサイタルを開いている。札響との共演は前回14年2月名曲シリーズ(*チャイコフスキー第1番)に続いて2度目。14年ダブリン国際ピアノコンクール優勝。14年11月に飯森範親指揮山形響と共演して「ベートーヴェン:第4番」を山形で聴いた。日本の文化にも詳しく、日本語も理解できる知識人。

2016年11月26日(土) 14:00開演  札幌コンサートKitara 大ホール
〈Program〉
 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
 ワーグナー:『ニーベルングの指環』より
          「ワルハラ城への入場」、「ワルキューレの騎行」、「魔の災の音楽」、
          「森のささやき」、「ジークフリートの葬送行進曲」、「ブリュンヒルデの自己犠牲」

「皇帝」はベートーヴェンの5曲のピアノ協奏曲の中で最もポピュラーな曲。前回は6月オルフェウス室内管の札幌公演で辻井伸行が弾いた。同じ曲でもピアニストやオーケストラの違いによって印象も異なる。今回はロシアの逸材ホジャイノフの強烈で個性的な演奏で絢爛豪華なピアニズムが展開された。「第3番」や「第4番」も味のある曲なのだが、「第5番」の華やかさが聴衆を圧倒する。指揮者もソリストと充分にコミュニケーションをとっていた。聴き慣れたメロディが聴衆を惹きつけ聴く者の集中力を高めたように思った。
ブラヴォーの声が上がり盛大な拍手の後、アンコールに応えて『ビゼー(ブゾーニ編):カルメン』が弾かれた。聴き慣れた旋律が様々な変奏をしながら繰り返し幻想曲風に弾かれた。超絶技巧が続く見事な演奏に聴衆の心も奪われた。演奏後の鳴りやまぬ拍手と歓声に応えての2曲目のアンコール曲は『リスト:グランド・ギャロップ・クロマティック』(*輸入盤リスト全集にこの曲が収録されていた。曲のタイトルの日本語は“半音階的大ギャロップ”になるらしい)。 この曲もリストならではの超絶技巧による曲で度肝を抜かれる演奏だった。演奏が終わって、もうアンコール曲はないと思っても暫しの間、割れんばかりの拍手が続いた。こんな聴衆の反応は未だかって無いほどだった。(*前日とは違うアンコール曲を披露するレパートリーの広さに恐れ入った。)

楽劇『ニーべルングの指環』の4部作より〈ハイライト〉の上演が2010年10月Kitaraで開催された。トヨタ・コミュ二ティ・コンサートとして北海道交響楽団創立30周年記念演奏会であった。
当時はワーグナーの楽劇の知識が殆どなくてストーリーも余りよく解らずに鑑賞した。ナレーション付きでジークリンデ、ブリュンヒルデ、ジ―クムント、ジークフリート、ヴォータンの歌唱の場面は眼前に浮かんでくる。ストーリーは今でも詳しくは理解していない。《ラインの黄金》、《ワルキューレ》、《ジークフリート》、《神々の黄昏》の4つのオペラから成る超大作。世界を支配する魔力を持つ指環をめぐって繰り広げられる神々族とニーベルング族や人間たちの死闘が描かれた作品。この程度の知識で登場する人物の名も上記の数人しか知らない。
最も聴き慣れた曲は「ワルキューレの騎行」で4管編成で聴く生の音楽は壮大であった。ストーリーは考えずに聴き入ったのは「森のささやき」。大音響で響く雄大な曲の中で特に印象に残った美しい旋律に満ちた曲。「ジークフリートの葬送行進曲」はCDがあって耳にしていた旋律であった。とにかく50分程度の管弦楽曲は聴きごたえあって大変良かった。とても満足した。
さすがオペラで人後に落ちない第一人者は暗譜で通した。上演時間が15時間近くもかかる『指環』全曲からすると朝飯前なのだろう。聴衆の満足度はもちろんのこと、指揮者自身も得意のワーグナーもので満足そうであった。

名古屋フィル第440回定期演奏会(小泉&オピッツ)と名古屋城見学

2006年に結成された日本プロオーケストラファンクラブ協議会(JOFC)の今年度総会が11月19日(土曜日)名古屋で行われた。第10回JOFC総会の主催は名フィル・ファン・クラブ。総会の会場はSMBCパーク栄 会議室で7団体から約50名が参加して午後1時~3時までグールプ討論。
総会終了後に《名フィル第440回定期演奏会》鑑賞に備えて【愛知県芸術劇場コンサートホール】に歩いて移動。セントラルパークとなる大通りに建つテレビ塔も目立ち、名古屋の都心、栄地区にある大型文化施設も交通に便利な場所に立地する。

愛知県芸術劇場の建物全体は本格的3面舞台がある大ホール、コンサートホール、小ホールを持つ芸術劇場の他に美術館、アートライブラリーで構成されている。1992年開館の建物に入ったのは今回が初めてである。コンサートホールの映像は写真で何回か目にしているが実際に見てホールの素晴らしさを実感した。
コンサートホールは正面にオルガンが設置され、バルコニーがアリーナ型ステージと平土間席を取り囲む形式。客席は1800席。白いカーテンを連想させるコンクリート製の天井が印象的。

2016年11月19日(土) 4:00pm  愛知県芸術劇場コンサートホール

指揮/ 小泉 和裕 (Kazuhiro Koizumi)(名フィル音楽監督)
ピアノ/ ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz)
管弦楽/ 名古屋フィルハーモニー交響楽団

〈Program〉
 ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15
 バルトーク:管弦楽のための協奏曲 Sz.116

小泉和裕は1949年、京都生まれ。72年第3回カラヤン国際指揮者コンクール優勝を果たし、ベルリン・フィル、フランス国立管、ウィ―ン・フィルなどのヨーロッパのメジャー・オーケストラと共演。その後もバイエルン放送響、シカゴ響でも客演指揮。新日本フィル音楽監督(75-79)、カナダ・ウィ二ペグ響音楽監督(83-89)、九州響首席指揮者(89-96)を歴任。東京都響では首席指揮者(95-98)、首席客演指揮者(99-08)、レジデント・コンダクター(08-13)を務め、日本センチュリー響音楽監督も歴任。現在は東京都響終身名誉指揮者、九州響音楽監督、仙台フィル首席客演指揮者、神奈川フィル特別客演指揮者。2016年4月より名フィル音楽監督。
マエストロ小泉の指揮ぶりを観るのは92年札響定期、07年と09年は都響札幌公演、12年札響定期に続いて今回が5度目となる。

ゲルハルト・オピッツは1953年、ドイツ出身のピアニスト。ヴィルヘルム・ケンプの後を継ぐドイツ伝統のピアニスト界の巨匠。77年第2回ルービンシュタイン国際ピアノコンクール優勝。ウィ-ン・フィル、ベルリン・フィルをはじめ世界のオーケストラと共演。90年代に日本での知名度が高まり、特に2005年~08年まで東京のステージで〈ベートーヴェン・ピアノソナタ全曲演奏会〉を企画して大成功を収めた。その後の日本国内ツアーに繋がったと思う。
初めてオピッツのリサイタルを聴いたのが08年でべート―ヴェンの4大ピアノ・ソナタ。12年のピアノ・リサイタルではベートーヴェン、シューマン、シューベルトを弾いた。彼の得意な主要分野はドイツ古典派とロマン派の作品のように思われた。日本での音楽活動が多く親日家として知られる。ドイツ人気質と生真面目な性格が彼の演奏とステージマナーからも伝わってくる。日本人との相性が合う印象を深くしている。第3回目が昨年12月の札響定期で「ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番」を弾いて聴衆から嵐のような大喝采を受けた。オピッツの日本での人気の高さを改めて認識した。

名古屋フィルハーモニー交響楽団は1990年3月に札響tと合同演奏を行った。毎日新聞北海道印刷30周年記念として「マーラー:千人の交響曲」が当時の北海道厚生年金会館で演奏があったことを記憶している。(*指揮は高関健、ソリストは二期会会員8名、合唱は札幌の大合唱団。) 名フィルは「トヨタ・マスター・プレイヤーズ、ウィ―ン」との年1回の合同演奏で親しみのあるオーケストラ。今回は単独の生演奏を聴ける滅多にない機会で楽しみにしていた。

ブラームス(1833-97)はピアノ協奏曲を2曲残している。1858年に完成された『第1番』はピアノ協奏曲として着想されたものではなかった。最初は2台のピアノのためのソナタとして書かれたが、第1楽章にオーケストレーションを施して交響曲にしようとした。最終的にはピアノ協奏曲に仕上げられ、ブラームスがオーケストラを用いた最初の作品となった。
華やかで色彩感豊かな曲ではないが、重厚感のある作品だと思う。悲劇的で情熱的な力強い表現に富む調べで長大な第1楽章。第2楽章は静かな情感を湛えた緩徐楽章。第3楽章はエネルギッシュな躍動感に満ちたフィナーレ。
オピッツによる生演奏のブラームスを聴いたのは初めてであるが重厚感あふれる演奏で指揮者との阿吽の呼吸もピッタリ。3階のほぼ中央に近い席からホール全体を見渡せ、ピアニストの運指も見れて曲の醍醐味を味わえた。

バルトーク(1881-1945)は1940年にハンガリーからアメリカに亡命したが、新天地では彼の名声は届かずに不遇な生活を送っていた。1943年に同じハンガリー出身でアメリカで活躍中の指揮者フリッツ・ライナーら友人たちの支援があり、ボストン響音楽監督クーセヴィツキーから現代音楽普及のための作品の委嘱を受けた。当時、バルトークは白血病で病床にあったが、3ヶ月足らずでこの『管弦楽のための協奏曲』を完成させたと言う。
曲のタイトルが面白い。「協奏曲」は一般には独奏楽器とオーケストラによる作品を指す。バルトークのこの作品では独奏は“オーケストラ全体”。曲が多彩に展開されて、いろいろな楽器にスポットが当てられる。極めて独創的な曲作りで、初演時から大成功を収め、現代音楽の傑作として評価されている。バルトークの管弦楽作品の中で最も演奏機会の多い作品。

実は昨年9月のホリガー指揮札響定期でも聴いているが、座席が1階11列で弦楽器奏者の後ろに位置する木管・金管奏者の姿が全て明瞭に見渡せる状況ではない。今回は3階席ほぼ中央からステージ上の演奏者の姿が全てハッキリと視界に入った。独奏楽器の演奏の際に耳と目の両方で確かめることができた。曲の面白さが倍加した。独奏楽器の響きを聴き分けることができて、第1楽章から終曲の第5楽章まで曲を堪能できた。今まで何回か耳にしている曲がこんなに興味深く鑑賞できたことはない。
普段と違った環境のもとで気分も高揚して聴けたとは思うが、とにかく2日連続の公演が毎回満席状態が続く名フィルの演奏も素晴らしかった。演奏終了後の万雷の拍手に包まれたホールを後にして外に出た。清々しい気持ちになって演奏会の感想を友人と話しながら懇親会会場に向かった。
毎年“TOYOTA MASTER PLAYERS, WIEN”との共演を含めた演奏会の積み重ねによって、名フィルのレヴェルも確実に向上しているのではないかと思った。マエストロ小泉や若手の指揮者、川瀬賢太郎たちの下で成長を続ける名フィルの今後に注目したい。
(*12月の名フィル・コンサートの客演指揮者が尾高忠明と知って、いっそう名フィルに親しみを感じた。

JOFC懇親会はSMBCパーク栄1階ロビーで開催されたが嬉しいことにマエストロ小泉も20日の名フィル大阪公演のため出発直前に会場に姿を見せて挨拶した。今年は名フィル創立50周年に当たり、大阪・新潟・上田での特別公演が続くが、名フィル・シェフの仕事が最後になると語った。品格がにじみ出る姿を間近にして感激した。
更にビックリして感激したことが起こった。演奏会終了後のサイン会が終ってからオピッツが懇親会会場に姿を見せた。英語と日本語で挨拶して小泉先生との共演は嬉しかったと述べた。名フィルとは22年ぶりの共演で懐かしそうであった。20日からの名フィル特別3公演で「ベートーヴェン:皇帝」を演奏する予定などを詳しく話した。実直に語る姿も予め抱いていた印象の通りであった。通り一遍の挨拶ではなくて愛情のこもった話に出席者一同は感激した面持ちで耳を傾けて退出する姿を見送った。

懇親会の後に同じ会場で二次会も行なわれてお開きとなる9時20分ごろまで会合に出席した人々と懇談した。札響くらぶから17名の会員が参加して三次会に向かう人もいたが、私も含め半数がタクシーでホテルに帰った。
翌日は犬山城・明治村に出かける人が多いようだったが、私は25年ほど前に出かけ場所なので単独行動にした。名古屋市は初めて訪れたので名古屋城を中心に観光した。「なごや観光ルートバス」を利用して名古屋城と徳川美術館を観て回った。それぞれ2時間以上の時間をかけてゆっくり鑑賞できた。

名古屋城では11時開始のボランティアが案内してくれるグループに加わっての観覧。親切なボランティアの案内で効率的に見学できて良かった。本丸御殿の復元工事が2018年の完成を目指して進められている。2013年5月から「玄関・表書院」の公開が始まり、
今年の6月からは「対面所・下御膳所」などの公開も始まっていた。本丸御殿復元工事の一部を観覧できるとは思っていなかったので大収穫であった。
予想以上に見ごたえのある城で天守閣は正午ごろには階段を上り下りする人々で混雑した。当日は日曜日だったので外国人の姿も多く見られ、行きかう言語もさまざまであった。

※札幌では10年ぶりの日本一に輝いた日本ハムファイターズのパレードが行われ、サッカーJ2の北海道コンサドーレ札幌が優勝を飾って5年ぶりのJ1昇格を決めた日でもあった。
プロフィール

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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