札響第596回定期演奏会(ポンマーのバッハ『管弦楽組曲』全集)

札響初のバッハ「管弦楽組曲全曲演奏」はシーズン当初のプログラム発表時から注目していた。
ポンマーにとってJ.S.バッハは神だという。“アーノンクールのバッハ演奏はウィーンのバッハ、私はライプツィヒのバッハを演奏する”と語るポンマーのバッハ解釈によるコンサート。

2017年1月28日(土) 14:00開演 札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ マックス・ポンマー(Max Pommer)
フルート/ 高橋 聖純(Seijun Takahashi)(札幌交響楽団首席奏者)
チェンバロ/ 辰巳 美納子(Minako Tatsumi)

管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV1068
管弦楽組曲 第2番 ロ短調 BWV1067 (フルート独奏/ 高橋 聖純)
管弦楽組曲 第1番 ハ長調 BWV1066
管弦楽組曲 第4番 ニ長調 BWV1069

日本で最も多く演奏されるクラシック音楽の作曲家はベートーヴェンとモーツァルト。音楽雑誌の統計によると二人が毎年1・2位を争う。3位がバッハ。私自身のCD所有枚数もベートーヴェンとモーツァルトが断然1・2位を占める。バッハの曲で最も聴きなれているのはヴァイオリン曲。管弦楽曲に関しては「ブランデンブルク協奏曲」と「管弦楽組曲」をコンサートの曲目として演奏される機会に改めてCDで聴く程度である。今回は所有しているバウムガルトナー指揮ルツェルン弦楽合奏団のCD(第2番のフルートはオーレル・ニコレ)を数回繰り返して聴いてみた。(*ニコレは昨年1月90歳で亡くなった。1969年札響4月定期に出演した際の音源を数年前に札響くらぶの会合で耳にして感激したことを思い出した。)

先日、「第3番」をデジタル・コンサートホールで“聴いて観る”機会があった。16日にベルリン・フィルハーモニーでブンデスユーゲント管(National Youth Orchestra of Germany)による宗教改革500周年記念演奏会が行われた。指揮がアレクサンダー・シェリーで12年12月札響定期に客演した英国の若手指揮者だと気づいた。全曲にバレエが付いていたのが興味を引いた。ヨーロッパの斬新な芸術的な試みだと感じた。成程と思い直したのは、この組曲はドイツの民衆の間で発展してきた舞踏音楽と華麗なフランスの宮殿音楽を組み合わせたものである。20分程度の各曲はフランス風序曲で始まる。

「第3番」は序曲、エール、ガヴォット、ブーレ、ジーグから成る。3本のトランペット、ティンパニ、2本のオーボエ、チェンバロ、弦5部の楽器編成。トランペットが高らかに響き渡る壮麗な序奏で始まり、前列に陣取ったオーボエに弦が加わる。序曲は曲の半分ぐらいを占める。第2曲「エール(アリア)」は弦楽合奏だけで演奏される抒情的な調べ。チェンバロの旋律も魅力的。ドイツのヴァイオリニスト、ヴィルへルミがヴァイオリンのG線だけで演奏できるように編曲し、「G線上のアリア」として広く親しまれている。この後で活発な舞曲が3曲続いて、明るい雰囲気を盛り上げる。勇壮で華麗な曲。

「第2番」は序曲、ロンド、サラバンド、ブレー、ポロネーズ、メヌエット、パディヌリ。独奏フルート、チェンバロ、弦5部の編成。花形楽器フルートが曲全体で主導権を握る。優雅さに溢れた曲。サラバンドではフルートとチェンバロの間でカノンが歌われ、ヴァイオリンとヴィオラも魅力的な旋律を奏でる。繊細さがあふれ出る調べ。聴いていて自然と舞曲に乗って踊りたくなるような軽やかな旋律は心地が良い。終曲のパディヌリは“冗談”を意味するフランス語で舞曲ではない。弦のスタッカート伴奏を従えて、フルートが飛ぶような軽快な旋律で曲を終える。
4曲中で最も親しまれている曲。四十路を超えた高橋が期待通りの名演。フルートの魅力が横溢した曲で聴衆を魅了。長身で堂々たる体躯でのステージ映えする高橋の容姿は名演を浮き上がらせた。実に堂々として世界一流のソリストに負けない演奏だと感じた。5年前の札響特別演奏会では尾高尚忠のフルート協奏曲を披露した。暗譜で現代曲を吹き切って素晴らしい演奏だった。今回の演奏終了後には力強いブラヴォーの声が飛び、感動した人々の途切れない拍手大喝采は近来にない名曲の演奏でホールに詰めかけた人々の心を揺さぶった。高橋聖純は札響定期演奏会での活躍ぶりを通して会員の高い評価も定着している。今回はソリスト・指揮者・オーケストラ・聴衆の一体感で音楽が作り上げられた印象を強くした。鳴りやまない拍手にカーテンコールが繰り返され、アンコール曲に第7曲「バディヌリ」を再び演奏。フルーティスト自身にも聴衆の感動の心が伝わったと思った。

「第1番」は序曲、クーラント、ガヴォット、フォルラーヌ、メヌエット、ブレー、バスピエ。楽器編成はオーボエ2、ファゴット、チェンバロ、弦5部。バロック時代にはクラリネットの楽器はまだ無く、オーボエが主要な木管楽器だったことが分かる。
流れるようなリズムのクーラント、快活なガヴォット、ヴェネツィアの踊りに由来する活発な動きのフォルラーヌ、平明なメヌエット、軽快で歯切れのよいブレー、終曲はブリュターヌ起源の陽気なバスキエ。オーボエの響きが心地よかった。

「第4番」は序曲、ブレー、ガヴォット、メヌエット、レジュイサンス。4曲中で最も大きな楽器編成。3本のオーボエとファゴットの独奏グループと弦楽器群の対比が特徴。3本のトランペット、ティンパニ、チェンバロも加わる。今回が札響初演とはいえ、昨年10月末にムジカ・アンティカ・サッポロがKitara小ホールで演奏している。
トランペットのファンファーレで始まる威風堂々たる華やかな序曲。ブーレではオーボエ群とファゴットだけのアンサンブルもあって違う雰囲気が醸し出される。ガボットは全楽器による演奏。メヌエットは組曲中のオアシスともいえる典雅な調べ。レジュイサンスは舞曲ではなく“歓喜”を意味する言葉で、明るく溌溂としてユーモアに富んだフィナーレ。テンポが速くて勢いのある娯楽性に富んだ曲。

バロック音楽を存分に満喫できた演奏会となった。30名程度のオーケストラ・メンバーだけで全曲目が演奏されるのも珍しい。大編成のオーケストラによる音楽とは違う楽しい陽気な雰囲気の札響演奏会も変化があって良かった。バッハ当時の楽譜をめぐって専門的にはいろいろな経過はあるようであるが、ともかくライプツィヒ生まれでバッハ音楽研究に基づいてポンマーが満を持して札響と演奏した《管弦楽組曲》は素晴らしかった。

客の入りも最近ではいつもより良く3階席も結構埋まっているように思えた。毎回同じ決まった席だが今回は周囲にいつもと違う人の姿も少し見えた。定期演奏会で目にする招待の中学生の姿の代わりにバロック音楽とフルート奏者に関心が集まって聴きに来た学生の姿にも多く出会った。

Kitaraのレセプショニストの対応が一段と向上しているのがコンサートの入退場時に気づく。開館以来、他のコンサート会場ではない客への心のこもった対応は20年も経つと退化しがちだが、入退場での温かい言葉や心遣いには感心している。“お寒い中よくいらっしゃいました”、“お気をつけてお帰りください”などの言葉かけは素晴らしい。ホール内やホワイエの対応は開館当初と基本的に変わらないが、エントランス・ホールでの対応が見違えて良くなった。お客様対応の人数を増やしているのかもしれない。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて“おもてなし”の心に一段と磨きがかかるとしたら喜ばしいことである。
東京サントリーホールをモデルにして始まったレセプショニストの活動が気持ちの良い音楽鑑賞に関わる影響は大である。関係者のご努力に感謝するとともに今後も進化した活動を目指してほしい。

Kitaraランチタイムコンサート 《モーツァルトはお好き?》

1月27日はモーツァルトの誕生日。彼の261回目の誕生日にあたる。【モーツァルトはお好き?】のコンサートを聴くのは2014年、16年に続いて3度目。札幌音楽協議会メンバーによるオール・モーツァルト・プログラム。

2017年1月27日(金) 13:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

指揮/ 阿部博光     ソプラノ/ 土谷 香織、 矢野 愛実
管弦楽/ 札幌音楽協議会室内オーケストラ    お話/ 八木 幸三

〈プログラム〉
 歌劇《フィガロの結婚》より
     「序曲」、「やっと待ってた時が来た」、「さあ早く来て、愛しい人よ」
 歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》より
     二重唱「ねえ、見てよほら」、 「岩のように動かずに」
 交響曲 第39番 変ホ長調 K.543

札幌の音楽界で作曲家・音楽評論家として八面六臂の活躍を見せる八木幸三氏が進行役を務めて楽しい雰囲気のうちに進められるコンサートもすっかりお馴染みになった。
色鮮やかなドレスに身を包んだ女性演奏陣の姿を初めて目にする観客から一瞬どよめきが起こった。ステージでオーケストラ・メンバー大勢の華やかな衣装を見る機会など稀である。

今回のプログラムの特徴はオペラ。演奏会のアンコール曲としても聴くことも多い《フィガロの結婚》序曲で幕開け。喜歌劇の陽気で浮き立つ雰囲気が醸し出された。
オペラの第4幕の山場で歌われるスザンナの歌が2曲。ソプラノは矢野愛実。初々しい姿で登場して、透明感のある歌声でレチタティーボ「やっと待ってた時が来た」とアリア「さあ早く来て、愛しい人よ」を熱唱した。まだ舞台慣れしていない新人のようであったが、場を踏んでの成長を期待したい。

《コジ・ファン・トゥッテ(女はみんなこうしたもの)》も《フィガロの結婚》と同じように他愛もないストーリーだが、どの時代にも当てはまる人間の恋愛模様を描いたオペラ。モーツァルトのオペラ作品でも人気が高く上演機会も多い。女は貞淑なわけがないと主張する老哲学者が、互いの恋人の気持ちを試そうと、二人の男たちに別人のふりをさせるオペラ・ブッファ。内容はつまらないがオペラ中の音楽が聴きものではある。
歌劇の第1幕で歌う土谷香織の歌声は艶やかで声量があり、堂々とした二重唱となった。華やかなコロラトゥーラは素晴らしかった。アリア「岩のように動かずに」もコロラトゥーラを駆使して魅力ある歌声となってホールに響いた。土谷の名は聞いたことがあるので経験豊富で実力のあるソプラノ歌手だと思った。

「交響曲第39番」はモーツァルトの晩年に書かれた後期三大交響曲の一つ。明るくてロマンティックな雰囲気の曲。この曲の楽器編成ではオーボエが使われていなく、木管ではクラリネット2本の音色を際立たせているようである。
緩やかなアダージョの序奏後は明るい旋律がアレグロで駆け抜ける。第2楽章はアンダンテ、第3楽章がメヌエット。第4楽章は躍動感のあるフィナーレ。

1時間のコンサートがアッという間に過ぎた。1週間ほど前に今まで罹ったことのないインフルエンザで病院に通った。幸い軽くて高熱が出ないうちに治ったが、その間、書斎に床をとって睡眠時間も多くして体を休めた。通院を除いて家に籠りっきりで体も何となくだるくて体調が良くなかった。昨夜は早寝して今日のコンサートに備えた。今日も音楽が体調を戻してくれたようであった。





Kitaraのニューイヤー2017(広上淳一&三浦文彰)

2012~15年まで4年連続して〈Kitaraのクリスマス〉に登場していたマエストロ広上が、今年は新年を祝う〈Kitaraのニューイヤー〉のステージに登場。十年ほど前までは世界を舞台に欧米で大活躍していたマエストロが本拠地を日本に移した。08年から京都市交響楽団の常任指揮者に就任して同響のレヴェルを飛躍的に押し上げた。国内では日本フィル正指揮者(1991-2000)を務め、札響との共演も増え2012年からは毎年途切れることなく来演が続いている。京都市響ではミュージック・アドヴァイザーも兼任。東京音楽大学指揮科教授も務めながら後進の指導に意欲的に取り組んでいる。私の好きなタイプの指揮者である。パーヴォ・ヤルヴィとともに指揮者を目指す若者の指導に当たっている様子をテレビで見て一層頼もしく感じている。

昨年のNHK大河ドラマのメイン・テーマの演奏で一層人気を高めた三浦文彰は昨年5月のリサイタルに続いてのKitaraのステージ。6歳で師事した日本ヴァイオリン界の大御所、徳永ニ男が三浦の成長に刺激を受けて現役を続けているというから、三浦の実力は計り知れないものがあるのだろう。三浦は今回が3回目のKitaraのステージ。

2017年1月14日(土) 15:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
  
指揮/ 広上 淳一     ヴァイオリン/ 三浦 文彰
管弦楽/ 札幌交響楽団

〈Program〉
 モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲
 クライスラー:中国の太鼓(ヴァイオリン独奏/三浦文彰)
 サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ( 〃 )
 服部隆之:大河ドラマ「真田丸」メイン・テーマ( 〃 )
 ヨハン・シュトラウスⅡ:ワルツ「楽しめ人生を」 作品340
 ヨーゼフ:シュトラウス:ポルカ・マズルカ「燃える恋」 作品129
 ヨハン・シュトラウスⅡ:ヴェルディの歌劇「仮面舞踏会」によるカドリーユ 作品272
 チャイコフスキー:バレエ音楽「眠りの森の美女」より “ワルツ”
 リヒャルト・シュトラウス:歌劇「ばらの騎士」組曲より “ワルツ”
 ヨハン・シュトラウスⅡ:ワルツ「美しく青きドナウ」 作品314

陽気で浮き立つ雰囲気のモーツァルトの序曲で始まったコンサート前半は2016年NHK大河ドラマでクラシック・ファン以外の人々の関心も惹きつけた若き俊英ヴァイオリニスト三浦文彰のステージ。
ヴァイオリンの名手であったクライスラーは「愛の喜び」や「愛の悲しみ」などが最も有名だが、「中国の太鼓」は歯切れの良いリズムで異国情緒に溢れる旋律で知られる。サンフランシスコのチャイナタウンで耳にした旋律をもとに書いたとされる作品。
パガニーニと並び称される名バイオリニスト、サラサーテのために書かれた「序奏とロンド・カプリチオーソ」はスペイン情緒が漂うヴァイオリンと管弦楽のための名曲。
「真田丸」メイン・テーマの演奏前に指揮者が三浦にインタヴュー。広上も大河ドラマのメインテーマでN響を指揮した際に視聴者から“毎週、大変でしたね。”と言われたことを前提に、放送のために何回演奏したかを尋ねていた。(勿論、返答は“1回”)。
興味深い質問は作曲家の注文は何? “美しくとか上手とかでなく、土臭く”というようなドラマでの戦の雰囲気が滲むような演奏を依頼されたらしい。ヴァイオリン独奏で始まるメイン・テーマの音楽は近年の大河ドラマのテーマ曲でも最も印象に残る曲。オーケストラに尺八が加わったのも非常に良かった。

例年にない大雪で最低気温がマイナス10度以下が3日も続く札幌。1ヶ月前には今日のコンサートのチケットは完売だったようで、空席は殆ど見当たらない満席状態。巧みな演出と熱演で会場の雰囲気も盛り上がった。ソリストのアンコールはパガニーニの曲。

5・6年前からKitara New Year Concertにおける後半のプログラムは「ワルツ」や「ポルカ」など新年を祝う軽くて楽しい曲で構成されるようになった。7・8年ぐらい前には重たい曲で客の入りが5割程度の時もあって寂しい感じさえしたが、最近は客の入りも上々である。ウィーン・フィルが正月に演奏する曲目がいくつか並んだ。オペラやバレエ音楽からワルツの曲も演奏された。二人のシュトラウスのワルツの選曲が興味を引いた。R.シュトラウスの《ばらの騎士》は全曲を聴いたことがない。METライブビューイングで観たいと思っているがまだ実現していない。本日の「ワルツ」を聴いて実際のオペラへの関心が募った。
後半の6曲中、馴染みのある曲は《「眠りの森の美女」よりワルツ》と「美しく青きドナウ」だけ。聴いたことの無さそうな曲がいくつか入っている方が興味が湧く。6曲の小品からなる「劇場カドリーユ」も面白かった。久しぶりで耳にするチャイコフスキーのワルツも豪華絢爛でオーケストラ曲として満喫。
恒例の締めの曲「美しき青きドナウ」の後に、広上が“今年も良い年でありますように!”と話して、アンコール曲に恒例の「ラデッキー行進曲」。指揮者・オーケストラ・聴衆が一体となってフィナーレを飾った。
 
今回は2階CB席の中央に席を取った。大ホールに入って隣の席に座る上品な御婦人に気づいてビックリ。Kitaraボランティアとして活動して毎月のように会って親しく話をする機会の多い方。私のブログも毎回読んでくださっているようで恐縮している。長いブログを読むのは音楽に相当の関心がないと難しいと思うのだが、彼女は辛抱強く読み続けているという。ブログを書き始めて4年半ほどになるが、私自身はそろそろ止めようかと思っている。
コンサートが始まる20分ほど前に座席についたので、指揮者やヴァイオリニストの話題を中心にして話が弾んだ。いつも一人で来て静かに聴いて帰ることが多いので、今日はいつもと違う楽しみ方ができて良かった。Kitaraボランティアを含めて友人にホールやホワイエで会う機会は多々ある。小ホールで友人と偶然に席が隣り合わせになったことはあるが、2008席の大ホールで偶然に席が隣り合う確率は極めて低い。人口195万人の街での出来事である。



ラトル指揮ベルリン・フィルによるフランス音楽

先日ドイツから郵便小包が届いた。ベルリン・フィルの《デジタル・コンサートホール》特典2枚組DVDが送られてきた。サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のフランス音楽である。
一昨年から《デジタル・コンサートホール》は無料視聴放送を聴いて興味を持った。高品質のヘッドフォンを予め用意したかったり、聴く時間が十分にないこともあって契約には躊躇していた。その後、一年が経過していた。2週間ほど前に発注していたDVDがチケットと共に手元に届いた。

ベルリン・フィルのCDは何十枚も所有しているが、ベルリン・フィルの演奏を生で聴いたのは2004年11月だけである。サイモン・ラトルが2002年に芸術監督に就任してからの初来日であった。最初の日本ツアーは札幌、岡山、金沢、川崎、東京(オペラを含む6公演)。当時からフランス音楽に力を入れていたのか札幌公演のプログラムは「ドビュッシー:海」、「ラヴェル:ダフニスとクロエ 第2組曲」と「リンドベルイ:オーラ」。(*当日のチケット代は42.000円+郵送料600円の高額で座席も自分で選べなく心から楽しめる演奏会にはならなかった苦い思い出のコンサート。満席でもチケット代だけではペイしないという話を当時から耳にしていた。)

サイモン・ラトル2004年 来日記念盤“THE PREMIUM”がリリースしされ9人の作曲家の作品12曲が収録されている。指揮者のCDにしては珍しく曲の一部だけの作品もあって物足りなくて聴く機会は少ない。

【DVDの収録曲】
 DVD1(99分) ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲、ラヴェル:ダフニスとクロエ 第2組曲、ルーセル:蜘蛛の饗宴、ドビュッシー:海、ブーレーズ:ノタシオン   DVD2(99分) ドビュッシー:イベリア、 フォーレ:ペレアスとメリザンド、 ベルリオーズ:幻想交響曲

2日間かけてフランス音楽を堪能した。ルーセル、ブーレーズの曲は初めて耳にした。フォーレの美しい調べに酔いしれた。ベルリン・フィルハーモニーにおける2009~16年のライブ録音。樫本大進、アンドレアス・ブラウ、エマニュエル・パユ、ジョナサン・ケリー、アルブレヒト・マイヤー、サラ・ウィリス、タマーシュ・ヴェレンツェイ、ライナー・ゼーガスなどPMFでおなじみの顔ぶれも見れて親しみが深まった。イングリッシュ・ホルンのドミニク・ヴォレンヴェーバーは久しぶりに見る美男子姿。「幻想交響曲」では惚れ惚れする旋律を奏でた。弦楽器奏者の中にもやがて顔がわかる奏者も出てくるだろう。楽しみである。(*チェロのクヴァントの姿がチョット目に入った。)

映像を通して聴く音楽は見る楽しさも加わる。

※7:30pmから2時間、BSフジで《ベルリン・フィル ドキュメント&第九演奏会》のテレビ番組を偶然見つけて観た。ベルリン・フィルのメンバーがラトルの要求を受けてベートーヴェンの交響曲に今までと違った新しい角度から挑戦する音楽つくりが理解できて刺激的で面白かった。番組中で、「第1番」「第3番」に対するラトルの解釈も説得力があった。
番組の最後に2015年10月のラトル指揮ベルリン・フィルの「第九」演奏会の模様が録画中継された。民放なので楽章間にコマーシャルが入って流れが途切れたのが残念だった。
日本で聴く「第九」とは違う印象を受けた。合唱団は約60名。最近は150名ほどの大合唱団で歌う「第九」は特別なのかとふと思った。とにかく年末に良いタイミングで思いがけずに「第九」が聴けた。

Kitaraのクリスマス2016 (井上道義&児玉桃)

井上道義は2007年から11年まで5年連続して〈Kitaraのクリスマス〉に出ていた。今回は5年ぶりの同プログラム登場となった。井上は1946年12月23日生まれ。〈Kitara のバースディ〉をはじめ毎年開催のKitara主催のコンサートの開催日は必ずしも固定されていない。〈Kitaraのクリスマス〉だけが12月23日に固定されていると感じていたが、その理由が分かった気がした。今年は彼の70歳の記念すべき誕生日に当たる。Happy Birthday! (*平成元年から28回目の祝日だが、年末のため他の祝日に比して休日の気分がしない。83歳を迎えた天皇陛下が皇居の一般参賀で述べるお言葉に国民を思う気持が滲み出ていて感動を覚えた。)

Michiyoshi  Inoueは71年にイタリアのカンテルリ国際コンクールで優勝。76年に日本フィルを指揮して国内デビュー。ニュージーランド国立響首席客演指揮者(77-82) 、新日本フィル音楽itaria 監督(83-88)、京都市響音楽監督・常任指揮者(90-98)を歴任。2007年からオーケストラ・アンサンブル金沢音楽監督および石川県立音楽堂アーティスティック・アドバイザーを務め、〈ラ・フォル・ジュルネ金沢〉をはじめ多くの画期的なプロジェクトを実施。これまでにロイヤル・フィル、シカゴ響など海外オーケストラの客演指揮も数多い。「日露友好ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト」を企画・開催するなど独自の音楽活動を展開し、13年にはサンクトペテルブルク響と日本国内ツアーを実施。14年より大阪フィル首席指揮者も兼任。

私は2001年に2日間連続の日フィル札幌公演、09年オーケストラ・アンサンブル金沢のニューイヤーコンサート、10年のKitaraのクリスマス以来、彼の指揮によるコンサートは5回目。

児玉 桃(Momo Kodama)は1972年、大阪生まれ。1歳で家族とともにヨーロッパに移住。13歳でパリ音国立高等楽院に入学し、数々のフランス国内のコンクールに優勝。17歳でカントロフと共演してパリ・デビュー。ぺライア、シフなどに師事。91年ミュンヘン国際コンクールで1位なしの2位で最年少入賞。92年に東京フィルと共演して日本デビュー。同年、大阪でリサイタル。その後、ケント・ナガノ指揮ベルリン・フィル、小澤征爾指揮ボストン響などメジャー・オーケストラと共演。バッハから現代作曲家までレパートリーが幅広く、特にショパン、メシアン演奏で評価が高い。パリ在住。

1997年Kitaraオープニング・シリーズでフォスター指揮N響と共演して「ショパン:ピアノ協奏曲第1番」を弾いた。2000年円光寺指揮札響と「ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番」。前回の12年2月札響定期で「メシアン:トゥーランガリラ交響曲」で高関と共演。札響との共演が続くのは興味深い。彼女のピアノをKitaraで聴くのは5回目。

2016年12月23日(金・祝) 15:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ 井上 道義       ピアノ/ 児玉 桃   
管弦楽/ 札幌交響楽団

〈プログラム〉
 ビゼー:小組曲「子どもの遊び」
 グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 作品16
 ドビュッシー:バレエ音楽「おもちゃ箱」(井上道義カット版)
 アンダーソン:クリスマス・フェスティバル

歌劇「カルメン」や組曲「アルルの女」で有名なビゼーだが、他の作品はほとんど知らない。この小組曲もよく演奏されるらしいが、今までに耳にした記憶がない。12曲からなるピアノ連弾用組曲が5曲編成の管弦楽組曲に編曲されたという。第1曲 行進曲「ラッパと太鼓」、第2曲 子守唄「人形」、第3曲 即興曲「コマ回し」、第4曲 二重奏「小さな夫と妻」、第5曲 ギャロップ「舞踏会」。タイトルを読んだだけで曲想が浮かぶ。指揮者は各曲の演奏前に説明を加え、ステージでコマ回しをしながら指揮をする巧みな技も披露。子供に対する愛情に溢れた作品を通して聴衆に子供時代を想起させた。

ノルウェーらしい郷土色が全編に感じられ溌溂として雄大なグリーグのピアノ協奏曲は6年前に行われた札響リクエストコンサート~3大ピアノ協奏曲にも選ばれた。(“1番好きなピアノ協奏曲”のアンケートで総得票数303票中で第1位はチャイコフスキー第1番、第2位はラフマニノフ第2番、第3位がグリーグ。ちなみに第4位がショパン第1番、第5位がベートーヴェン第5番だった。)
児玉の演奏はこの曲をあまり聴いたことがないと思われる客をも魅了した(*スケールの大きなコーダのある第1楽章の終りにかなり多くの人が拍手をした)。久しぶりに聴くグリーグの協奏曲に曲の素晴らしさを改めて味わった。
盛大な拍手に応えてアンコール曲として耳慣れた旋律を奏で始めた途端にメロディが“Happy Birthday to you”に変わった。気づいた聴衆の拍手にマエストロ井上がステージへ。カーテンコールに“70歳になりました”と挨拶して聴衆から再び祝いの拍手が送られた。

ドビュッシー作曲の「子どもの領分」はしばしば聴くが「おもちゃ箱」は初めて耳にする曲でタイトルさえ知らなかった。彼の晩年に書き上げたという子どもたちへの愛情を込めた作品。(*「英雄的子守歌」という管弦楽曲がピアノ曲の編曲として1916年に書かれているが、同じ作品でタイトルだけが違うのかも知れない)。
タイトルにふさわしい子どもの夢心を思わせる楽しい音楽。おもちゃ箱の中での出来事が綴られる。音楽に合わせてのステージ上での小道具と仕掛けも指揮者の期待以上の工夫が凝らされているようであった。マエストロ井上の優れた音楽企画が生かされて、Kitaraのスタッフやバレリーナたちも彼の期待に充分に応えた作品になっていた。
バレエ音楽はマエストロの語りと指揮で30分弱の音楽。児玉がこの曲のピアノを担当したのにも驚いた。曲の中でオーボエ首席奏者やコンマスなども寸劇に参加。小学生と思われるバレリーナは札幌舞踊会のメンバーで井上の3日間の振り付けによる踊りで指揮者から感心されていた。定期公演並みのリハーサルを行っているのをKitaraのtwitterで知っていたが成程と思った。

指揮者のプロフィールにも書いたがユニークな音楽つくりは既成のクラシック音楽の垣根を越える試みだと思った。100年前に作られたドビュッシーの作品を新しい角度から表現したように感じた。

コンサートの最後はクリスマスの時期に歌われる10分弱のアンダーソン作曲のクリスマス名曲集。「もろびとこぞりて」、「ジングル・ベル」、「きよしこの夜」などがメドレーで演奏された。アンコールに「きよしこの夜」のオーケストラ演奏に続いて聴衆全員の斉唱。

Kitaraで5年ぶりの演奏会を行ったマエストロも満足そうであった。公園の中に立地するKitaraと大ホールの素晴らしさを何度も言及していたが、80回ほど足を運んだKitaraホールも今年は今日が最後。レセプショニストの対応にも感謝しつつホールを後にした。外は朝からの雪が止む気配がなく深々と降り続いていた。

昨日から間断なく降り続く雪のためコンサート会場に来れない聴衆も多くいたようであった。それでも9割以上の客が恒例のコンサートに駆け付けた。12月の積雪も90cmを超えた札幌も50年ぶりの記録的な大雪となって帰路も道が一段と狭くなっていた。このような悪天候でも地下鉄が時間通りに発着しているのは有難いことである。

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fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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