Kitaraのニューイヤー2017(広上淳一&三浦文彰)

2012~15年まで4年連続して〈Kitaraのクリスマス〉に登場していたマエストロ広上が、今年は新年を祝う〈Kitaraのニューイヤー〉のステージに登場。十年ほど前までは世界を舞台に欧米で大活躍していたマエストロが本拠地を日本に移した。08年から京都市交響楽団の常任指揮者に就任して同響のレヴェルを飛躍的に押し上げた。国内では日本フィル正指揮者(1991-2000)を務め、札響との共演も増え2012年からは毎年途切れることなく来演が続いている。京都市響ではミュージック・アドヴァイザーも兼任。東京音楽大学指揮科教授も務めながら後進の指導に意欲的に取り組んでいる。私の好きなタイプの指揮者である。パーヴォ・ヤルヴィとともに指揮者を目指す若者の指導に当たっている様子をテレビで見て一層頼もしく感じている。

昨年のNHK大河ドラマのメイン・テーマの演奏で一層人気を高めた三浦文彰は昨年5月のリサイタルに続いてのKitaraのステージ。6歳で師事した日本ヴァイオリン界の大御所、徳永ニ男が三浦の成長に刺激を受けて現役を続けているというから、三浦の実力は計り知れないものがあるのだろう。三浦は今回が3回目のKitaraのステージ。

2017年1月14日(土) 15:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
  
指揮/ 広上 淳一     ヴァイオリン/ 三浦 文彰
管弦楽/ 札幌交響楽団

〈Program〉
 モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲
 クライスラー:中国の太鼓(ヴァイオリン独奏/三浦文彰)
 サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ( 〃 )
 服部隆之:大河ドラマ「真田丸」メイン・テーマ( 〃 )
 ヨハン・シュトラウスⅡ:ワルツ「楽しめ人生を」 作品340
 ヨーゼフ:シュトラウス:ポルカ・マズルカ「燃える恋」 作品129
 ヨハン・シュトラウスⅡ:ヴェルディの歌劇「仮面舞踏会」によるカドリーユ 作品272
 チャイコフスキー:バレエ音楽「眠りの森の美女」より “ワルツ”
 リヒャルト・シュトラウス:歌劇「ばらの騎士」組曲より “ワルツ”
 ヨハン・シュトラウスⅡ:ワルツ「美しく青きドナウ」 作品314

陽気で浮き立つ雰囲気のモーツァルトの序曲で始まったコンサート前半は2016年NHK大河ドラマでクラシック・ファン以外の人々の関心も惹きつけた若き俊英ヴァイオリニスト三浦文彰のステージ。
ヴァイオリンの名手であったクライスラーは「愛の喜び」や「愛の悲しみ」などが最も有名だが、「中国の太鼓」は歯切れの良いリズムで異国情緒に溢れる旋律で知られる。サンフランシスコのチャイナタウンで耳にした旋律をもとに書いたとされる作品。
パガニーニと並び称される名バイオリニスト、サラサーテのために書かれた「序奏とロンド・カプリチオーソ」はスペイン情緒が漂うヴァイオリンと管弦楽のための名曲。
「真田丸」メイン・テーマの演奏前に指揮者が三浦にインタヴュー。広上も大河ドラマのメインテーマでN響を指揮した際に視聴者から“毎週、大変でしたね。”と言われたことを前提に、放送のために何回演奏したかを尋ねていた。(勿論、返答は“1回”)。
興味深い質問は作曲家の注文は何? “美しくとか上手とかでなく、土臭く”というようなドラマでの戦の雰囲気が滲むような演奏を依頼されたらしい。ヴァイオリン独奏で始まるメイン・テーマの音楽は近年の大河ドラマのテーマ曲でも最も印象に残る曲。オーケストラに尺八が加わったのも非常に良かった。

例年にない大雪で最低気温がマイナス10度以下が3日も続く札幌。1ヶ月前には今日のコンサートのチケットは完売だったようで、空席は殆ど見当たらない満席状態。巧みな演出と熱演で会場の雰囲気も盛り上がった。ソリストのアンコールはパガニーニの曲。

5・6年前からKitara New Year Concertにおける後半のプログラムは「ワルツ」や「ポルカ」など新年を祝う軽くて楽しい曲で構成されるようになった。7・8年ぐらい前には重たい曲で客の入りが5割程度の時もあって寂しい感じさえしたが、最近は客の入りも上々である。ウィーン・フィルが正月に演奏する曲目がいくつか並んだ。オペラやバレエ音楽からワルツの曲も演奏された。二人のシュトラウスのワルツの選曲が興味を引いた。R.シュトラウスの《ばらの騎士》は全曲を聴いたことがない。METライブビューイングで観たいと思っているがまだ実現していない。本日の「ワルツ」を聴いて実際のオペラへの関心が募った。
後半の6曲中、馴染みのある曲は《「眠りの森の美女」よりワルツ》と「美しく青きドナウ」だけ。聴いたことの無さそうな曲がいくつか入っている方が興味が湧く。6曲の小品からなる「劇場カドリーユ」も面白かった。久しぶりで耳にするチャイコフスキーのワルツも豪華絢爛でオーケストラ曲として満喫。
恒例の締めの曲「美しき青きドナウ」の後に、広上が“今年も良い年でありますように!”と話して、アンコール曲に恒例の「ラデッキー行進曲」。指揮者・オーケストラ・聴衆が一体となってフィナーレを飾った。
 
今回は2階CB席の中央に席を取った。大ホールに入って隣の席に座る上品な御婦人に気づいてビックリ。Kitaraボランティアとして活動して毎月のように会って親しく話をする機会の多い方。私のブログも毎回読んでくださっているようで恐縮している。長いブログを読むのは音楽に相当の関心がないと難しいと思うのだが、彼女は辛抱強く読み続けているという。ブログを書き始めて4年半ほどになるが、私自身はそろそろ止めようかと思っている。
コンサートが始まる20分ほど前に座席についたので、指揮者やヴァイオリニストの話題を中心にして話が弾んだ。いつも一人で来て静かに聴いて帰ることが多いので、今日はいつもと違う楽しみ方ができて良かった。Kitaraボランティアを含めて友人にホールやホワイエで会う機会は多々ある。小ホールで友人と偶然に席が隣り合わせになったことはあるが、2008席の大ホールで偶然に席が隣り合う確率は極めて低い。人口195万人の街での出来事である。



ラトル指揮ベルリン・フィルによるフランス音楽

先日ドイツから郵便小包が届いた。ベルリン・フィルの《デジタル・コンサートホール》特典2枚組DVDが送られてきた。サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のフランス音楽である。
一昨年から《デジタル・コンサートホール》は無料視聴放送を聴いて興味を持った。高品質のヘッドフォンを予め用意したかったり、聴く時間が十分にないこともあって契約には躊躇していた。その後、一年が経過していた。2週間ほど前に発注していたDVDがチケットと共に手元に届いた。

ベルリン・フィルのCDは何十枚も所有しているが、ベルリン・フィルの演奏を生で聴いたのは2004年11月だけである。サイモン・ラトルが2002年に芸術監督に就任してからの初来日であった。最初の日本ツアーは札幌、岡山、金沢、川崎、東京(オペラを含む6公演)。当時からフランス音楽に力を入れていたのか札幌公演のプログラムは「ドビュッシー:海」、「ラヴェル:ダフニスとクロエ 第2組曲」と「リンドベルイ:オーラ」。(*当日のチケット代は42.000円+郵送料600円の高額で座席も自分で選べなく心から楽しめる演奏会にはならなかった苦い思い出のコンサート。満席でもチケット代だけではペイしないという話を当時から耳にしていた。)

サイモン・ラトル2004年 来日記念盤“THE PREMIUM”がリリースしされ9人の作曲家の作品12曲が収録されている。指揮者のCDにしては珍しく曲の一部だけの作品もあって物足りなくて聴く機会は少ない。

【DVDの収録曲】
 DVD1(99分) ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲、ラヴェル:ダフニスとクロエ 第2組曲、ルーセル:蜘蛛の饗宴、ドビュッシー:海、ブーレーズ:ノタシオン   DVD2(99分) ドビュッシー:イベリア、 フォーレ:ペレアスとメリザンド、 ベルリオーズ:幻想交響曲

2日間かけてフランス音楽を堪能した。ルーセル、ブーレーズの曲は初めて耳にした。フォーレの美しい調べに酔いしれた。ベルリン・フィルハーモニーにおける2009~16年のライブ録音。樫本大進、アンドレアス・ブラウ、エマニュエル・パユ、ジョナサン・ケリー、アルブレヒト・マイヤー、サラ・ウィリス、タマーシュ・ヴェレンツェイ、ライナー・ゼーガスなどPMFでおなじみの顔ぶれも見れて親しみが深まった。イングリッシュ・ホルンのドミニク・ヴォレンヴェーバーは久しぶりに見る美男子姿。「幻想交響曲」では惚れ惚れする旋律を奏でた。弦楽器奏者の中にもやがて顔がわかる奏者も出てくるだろう。楽しみである。(*チェロのクヴァントの姿がチョット目に入った。)

映像を通して聴く音楽は見る楽しさも加わる。

※7:30pmから2時間、BSフジで《ベルリン・フィル ドキュメント&第九演奏会》のテレビ番組を偶然見つけて観た。ベルリン・フィルのメンバーがラトルの要求を受けてベートーヴェンの交響曲に今までと違った新しい角度から挑戦する音楽つくりが理解できて刺激的で面白かった。番組中で、「第1番」「第3番」に対するラトルの解釈も説得力があった。
番組の最後に2015年10月のラトル指揮ベルリン・フィルの「第九」演奏会の模様が録画中継された。民放なので楽章間にコマーシャルが入って流れが途切れたのが残念だった。
日本で聴く「第九」とは違う印象を受けた。合唱団は約60名。最近は150名ほどの大合唱団で歌う「第九」は特別なのかとふと思った。とにかく年末に良いタイミングで思いがけずに「第九」が聴けた。

Kitaraのクリスマス2016 (井上道義&児玉桃)

井上道義は2007年から11年まで5年連続して〈Kitaraのクリスマス〉に出ていた。今回は5年ぶりの同プログラム登場となった。井上は1946年12月23日生まれ。〈Kitara のバースディ〉をはじめ毎年開催のKitara主催のコンサートの開催日は必ずしも固定されていない。〈Kitaraのクリスマス〉だけが12月23日に固定されていると感じていたが、その理由が分かった気がした。今年は彼の70歳の記念すべき誕生日に当たる。Happy Birthday! (*平成元年から28回目の祝日だが、年末のため他の祝日に比して休日の気分がしない。83歳を迎えた天皇陛下が皇居の一般参賀で述べるお言葉に国民を思う気持が滲み出ていて感動を覚えた。)

Michiyoshi  Inoueは71年にイタリアのカンテルリ国際コンクールで優勝。76年に日本フィルを指揮して国内デビュー。ニュージーランド国立響首席客演指揮者(77-82) 、新日本フィル音楽itaria 監督(83-88)、京都市響音楽監督・常任指揮者(90-98)を歴任。2007年からオーケストラ・アンサンブル金沢音楽監督および石川県立音楽堂アーティスティック・アドバイザーを務め、〈ラ・フォル・ジュルネ金沢〉をはじめ多くの画期的なプロジェクトを実施。これまでにロイヤル・フィル、シカゴ響など海外オーケストラの客演指揮も数多い。「日露友好ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト」を企画・開催するなど独自の音楽活動を展開し、13年にはサンクトペテルブルク響と日本国内ツアーを実施。14年より大阪フィル首席指揮者も兼任。

私は2001年に2日間連続の日フィル札幌公演、09年オーケストラ・アンサンブル金沢のニューイヤーコンサート、10年のKitaraのクリスマス以来、彼の指揮によるコンサートは5回目。

児玉 桃(Momo Kodama)は1972年、大阪生まれ。1歳で家族とともにヨーロッパに移住。13歳でパリ音国立高等楽院に入学し、数々のフランス国内のコンクールに優勝。17歳でカントロフと共演してパリ・デビュー。ぺライア、シフなどに師事。91年ミュンヘン国際コンクールで1位なしの2位で最年少入賞。92年に東京フィルと共演して日本デビュー。同年、大阪でリサイタル。その後、ケント・ナガノ指揮ベルリン・フィル、小澤征爾指揮ボストン響などメジャー・オーケストラと共演。バッハから現代作曲家までレパートリーが幅広く、特にショパン、メシアン演奏で評価が高い。パリ在住。

1997年Kitaraオープニング・シリーズでフォスター指揮N響と共演して「ショパン:ピアノ協奏曲第1番」を弾いた。2000年円光寺指揮札響と「ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番」。前回の12年2月札響定期で「メシアン:トゥーランガリラ交響曲」で高関と共演。札響との共演が続くのは興味深い。彼女のピアノをKitaraで聴くのは5回目。

2016年12月23日(金・祝) 15:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ 井上 道義       ピアノ/ 児玉 桃   
管弦楽/ 札幌交響楽団

〈プログラム〉
 ビゼー:小組曲「子どもの遊び」
 グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 作品16
 ドビュッシー:バレエ音楽「おもちゃ箱」(井上道義カット版)
 アンダーソン:クリスマス・フェスティバル

歌劇「カルメン」や組曲「アルルの女」で有名なビゼーだが、他の作品はほとんど知らない。この小組曲もよく演奏されるらしいが、今までに耳にした記憶がない。12曲からなるピアノ連弾用組曲が5曲編成の管弦楽組曲に編曲されたという。第1曲 行進曲「ラッパと太鼓」、第2曲 子守唄「人形」、第3曲 即興曲「コマ回し」、第4曲 二重奏「小さな夫と妻」、第5曲 ギャロップ「舞踏会」。タイトルを読んだだけで曲想が浮かぶ。指揮者は各曲の演奏前に説明を加え、ステージでコマ回しをしながら指揮をする巧みな技も披露。子供に対する愛情に溢れた作品を通して聴衆に子供時代を想起させた。

ノルウェーらしい郷土色が全編に感じられ溌溂として雄大なグリーグのピアノ協奏曲は6年前に行われた札響リクエストコンサート~3大ピアノ協奏曲にも選ばれた。(“1番好きなピアノ協奏曲”のアンケートで総得票数303票中で第1位はチャイコフスキー第1番、第2位はラフマニノフ第2番、第3位がグリーグ。ちなみに第4位がショパン第1番、第5位がベートーヴェン第5番だった。)
児玉の演奏はこの曲をあまり聴いたことがないと思われる客をも魅了した(*スケールの大きなコーダのある第1楽章の終りにかなり多くの人が拍手をした)。久しぶりに聴くグリーグの協奏曲に曲の素晴らしさを改めて味わった。
盛大な拍手に応えてアンコール曲として耳慣れた旋律を奏で始めた途端にメロディが“Happy Birthday to you”に変わった。気づいた聴衆の拍手にマエストロ井上がステージへ。カーテンコールに“70歳になりました”と挨拶して聴衆から再び祝いの拍手が送られた。

ドビュッシー作曲の「子どもの領分」はしばしば聴くが「おもちゃ箱」は初めて耳にする曲でタイトルさえ知らなかった。彼の晩年に書き上げたという子どもたちへの愛情を込めた作品。(*「英雄的子守歌」という管弦楽曲がピアノ曲の編曲として1916年に書かれているが、同じ作品でタイトルだけが違うのかも知れない)。
タイトルにふさわしい子どもの夢心を思わせる楽しい音楽。おもちゃ箱の中での出来事が綴られる。音楽に合わせてのステージ上での小道具と仕掛けも指揮者の期待以上の工夫が凝らされているようであった。マエストロ井上の優れた音楽企画が生かされて、Kitaraのスタッフやバレリーナたちも彼の期待に充分に応えた作品になっていた。
バレエ音楽はマエストロの語りと指揮で30分弱の音楽。児玉がこの曲のピアノを担当したのにも驚いた。曲の中でオーボエ首席奏者やコンマスなども寸劇に参加。小学生と思われるバレリーナは札幌舞踊会のメンバーで井上の3日間の振り付けによる踊りで指揮者から感心されていた。定期公演並みのリハーサルを行っているのをKitaraのtwitterで知っていたが成程と思った。

指揮者のプロフィールにも書いたがユニークな音楽つくりは既成のクラシック音楽の垣根を越える試みだと思った。100年前に作られたドビュッシーの作品を新しい角度から表現したように感じた。

コンサートの最後はクリスマスの時期に歌われる10分弱のアンダーソン作曲のクリスマス名曲集。「もろびとこぞりて」、「ジングル・ベル」、「きよしこの夜」などがメドレーで演奏された。アンコールに「きよしこの夜」のオーケストラ演奏に続いて聴衆全員の斉唱。

Kitaraで5年ぶりの演奏会を行ったマエストロも満足そうであった。公園の中に立地するKitaraと大ホールの素晴らしさを何度も言及していたが、80回ほど足を運んだKitaraホールも今年は今日が最後。レセプショニストの対応にも感謝しつつホールを後にした。外は朝からの雪が止む気配がなく深々と降り続いていた。

昨日から間断なく降り続く雪のためコンサート会場に来れない聴衆も多くいたようであった。それでも9割以上の客が恒例のコンサートに駆け付けた。12月の積雪も90cmを超えた札幌も50年ぶりの記録的な大雪となって帰路も道が一段と狭くなっていた。このような悪天候でも地下鉄が時間通りに発着しているのは有難いことである。

札響の第9(2016) 秋山和慶

年末恒例の〈札響の第9〉は元札響首席指揮者の秋山和慶を迎えて開催された。昨年から「第九」の他に1曲が加わることになった。今年の追加プログラムは「ヴィヴァルディ:四季]より。

秋山和慶(Kazuyoshi Akiyama)は1941年生まれの日本指揮界の大御所。63年に桐朋学園大学卒業後、64年東京交響楽団に迎えられ、68年音楽監督・常任指揮者に就任。北米の主要オーケストラ(クリーヴランド管、フィラデルフィア管、ボストン響、ロスアンゼルス・フィルなど)を中心にヨーロッパでも活躍。68年からトロント響副指揮者、アメリカ響音楽監督(73-78)、バンクーバー響音楽監督(72-85)などを歴任。国内では2004年東京響を勇退して桂冠指揮者となる。その間、86年札響首席客演指揮者となり、88年~98年まで札響ミュージック・アドバイザー・首席指揮者に就任。98年より広島響首席指揮者を経て16年まで広島響音楽監督を務める。
現在は東京響桂冠指揮者の他にバンクーバー響桂冠指揮者、シラキューズ響名誉指揮者、九州響桂冠指揮者など。日本指揮者協会会長。

私は88年に札響会員となって94年までは年2回は彼の指揮に親しんできた。Kitaraがオープンした1997年7月4日の落成記念式典やオープニングコンサートは忘れられないイヴェントである。鮮やかなバトン・テクニックで品の良い整然とした音楽作りが特徴だったように思う。札響の第300回定期の曲が「ローマの松」、Kitara開館年のオープン記念コンサートの曲が「ローマ三部作」、11年6月札響定期の曲も「ローマ三部作」。全くの偶然とはいえマエストロ秋山はレスピーギが大好きなのだろうと思った。彼は近年何度が札響に客演しているが、私自身は秋山の指揮を観るのは5年ぶり20回目である。

2016年12月10日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara 大ホール

指揮&チェンバロ/ 秋山 和慶    管弦楽/ 札幌交響楽団
ヴァイオリン独奏/ 田島 高広(札響コンサートマスター)
ソプラノ/ 川島 幸子、  メゾ・ソプラノ/ 坂本 朱
テノール/ 福井 敬、   バリトン/ 山下 浩司 
合唱/ 札響合唱団、 札幌放送合唱団、 札幌大谷大学合唱団
合唱指揮/ 長内 勲

〈Program〉
 ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集 op.8 《四季》より「春」「冬」
 ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 op.125《合唱付き》

4日前のKitaraの行き帰りの歩道路面はツルツル状態だった。今年の北海道の冬の到来は例年になく早い。今日の札幌は間断なく雪が降り60㎝を越えて、この時期としては29年ぶりの1日の降雪量を記録した。こんな悪天候にもかかわらず、「第九」第1日目のコンサートには9割程度の客がホールを埋めた。厳しい冬の様子を描いたヴィヴァルディの曲はこの時期にはタイムリーな選曲となった。20名の弦楽合奏だったが、弾き振りでチェンバロを弾いた秋山和慶の姿は初めて見て興味深かった。
田島高宏(Takahiro Tajima)は桐朋学園大学卒業後、2001年から3年間、札響コンサートマスターに就任。2004年よりドイツ・フライブルク大学に留学。日本では和波孝禧、ドイツでR.クスマウルに師事。08年北西ドイツ・フィルのコンマスに就任し、ドイツ各地のオーケストラで客演コンマスも務める。14年9月より札響コンサートマスターに再就任。経験豊富なヴァイオリスト。
「春」、「冬」と各3楽章から成り、人々に親しまれている旋律を生き生きと綴った。“冬きたりなば春遠からじ”というが、まだ冬を迎えたばかりで春は遠い。

19世紀はオペラの時代で、ヨーロッパでは劇場が市民の重要な娯楽となっていた。演奏会でも歌やアリア、合唱が好まれていたと聞く。交響曲に合唱を加えた作品で、シンフォニーの形式を広げたベートーヴェンは新しい時代を築いた。日本では12月には全国各地で「第九」の演奏会が開かれている。この曲を聴かないと“年を越せない人”もいる。私もその一人である。

今日の演奏会では4人のソリストが第1楽章が始まる前からステージに上がっていた。第3楽章の前にソリストが入場する場合もあるが、聴衆の拍手が入るので個人的には好まない。楽章間の拍手は音楽鑑賞のマナーに反すると思うからである。そんな訳で最初から好感を持って安心して聴けた。コーラスは以前と比べ近年は男性のパートが充実してきている。今日は2階CBブロック中央の真ん中の席から聴いたが、140名ほどの女性男性合唱陣のバランスもとれて素晴らしい歌声となって「合唱」が一層ダイナミックに心に響いた。
ソリストは出番が少ないとはいえ、バリトンがいつも目立つが今日はテノールの福井敬の美しい声が印象に残った。Kei Fukuiは日本テノール界の第一人者で札響で耳にする機会も多い。特に08年札響定期の「ピーター・グライムズ」役は名演であった。
秋山和慶は久しぶりに観たが、安定感のあるドラマティックな指揮ぶりでオーケストラの力強い演奏を作り上げた。

※追記:「第九」の演奏会での指揮回数が世界中の指揮者の中で一番多いのではないかと思われる指揮者が小林研一郎である。彼は〈音楽の友12月号〉でインタヴューに答えて次のように語っているエピソードを読んで思わず笑ってしまった。
「1980年5月、オランダのコンセルトへボウでのネーデルランド・フィルとの生放送中の出来事。第3楽章に登場したソリストが3人だけ。第4楽章が始まってもテノールは現れずに、仕方なく4人のソリストが歌い始める前に演奏を止めた。すると、ディレクターが“テノールが近くのホテルを出たまま行方不明のため本日の演奏会はここで取り止めとさせて頂きたい”と告げた。聴衆は直ちに“演奏を続けろ”のコール。10分ほどの中断のあと演奏を再開して、何とか第4楽章を無事に終了。客席から“テノールがいないはずでは?”との声が漏れた。実はマエストロが指揮をしながらテノールのパートを歌っていた。」という面白いエピソード。










札響第595回定期演奏会 “バイロイトの伝説 飯森泰次郎”(ゲスト/ホジャイノフ)

新国立劇場第6代オペラ芸術監督を務める飯森泰次郎がワーグナーの《ニーベルングの指環》の名曲を指揮する。1970年以降20年以上にわたってバイロイト音楽祭で助手と務めて研鑽を積み、ワーグナーの伝統を受け継ぐ指揮者は彼の右に出る者がいないほどの日本のワーグナー・オペラの第一人者。
09年、12年に次いで3回目のKitara 登場。

ニコライ・ホジャイノフは2010年のショパン国際ピアノコンクールでファイナリスト。このコンクールでは予選が終わって優勝の呼び声が高まったが、経験不足で協奏曲がうまくいかなくて入賞できなかった。その後、日本での人気は高くなって各地でリサイタルを開いている。札響との共演は前回14年2月名曲シリーズ(*チャイコフスキー第1番)に続いて2度目。14年ダブリン国際ピアノコンクール優勝。14年11月に飯森範親指揮山形響と共演して「ベートーヴェン:第4番」を山形で聴いた。日本の文化にも詳しく、日本語も理解できる知識人。

2016年11月26日(土) 14:00開演  札幌コンサートKitara 大ホール
〈Program〉
 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
 ワーグナー:『ニーベルングの指環』より
          「ワルハラ城への入場」、「ワルキューレの騎行」、「魔の災の音楽」、
          「森のささやき」、「ジークフリートの葬送行進曲」、「ブリュンヒルデの自己犠牲」

「皇帝」はベートーヴェンの5曲のピアノ協奏曲の中で最もポピュラーな曲。前回は6月オルフェウス室内管の札幌公演で辻井伸行が弾いた。同じ曲でもピアニストやオーケストラの違いによって印象も異なる。今回はロシアの逸材ホジャイノフの強烈で個性的な演奏で絢爛豪華なピアニズムが展開された。「第3番」や「第4番」も味のある曲なのだが、「第5番」の華やかさが聴衆を圧倒する。指揮者もソリストと充分にコミュニケーションをとっていた。聴き慣れたメロディが聴衆を惹きつけ聴く者の集中力を高めたように思った。
ブラヴォーの声が上がり盛大な拍手の後、アンコールに応えて『ビゼー(ブゾーニ編):カルメン』が弾かれた。聴き慣れた旋律が様々な変奏をしながら繰り返し幻想曲風に弾かれた。超絶技巧が続く見事な演奏に聴衆の心も奪われた。演奏後の鳴りやまぬ拍手と歓声に応えての2曲目のアンコール曲は『リスト:グランド・ギャロップ・クロマティック』(*輸入盤リスト全集にこの曲が収録されていた。曲のタイトルの日本語は“半音階的大ギャロップ”になるらしい)。 この曲もリストならではの超絶技巧による曲で度肝を抜かれる演奏だった。演奏が終わって、もうアンコール曲はないと思っても暫しの間、割れんばかりの拍手が続いた。こんな聴衆の反応は未だかって無いほどだった。(*前日とは違うアンコール曲を披露するレパートリーの広さに恐れ入った。)

楽劇『ニーべルングの指環』の4部作より〈ハイライト〉の上演が2010年10月Kitaraで開催された。トヨタ・コミュ二ティ・コンサートとして北海道交響楽団創立30周年記念演奏会であった。
当時はワーグナーの楽劇の知識が殆どなくてストーリーも余りよく解らずに鑑賞した。ナレーション付きでジークリンデ、ブリュンヒルデ、ジ―クムント、ジークフリート、ヴォータンの歌唱の場面は眼前に浮かんでくる。ストーリーは今でも詳しくは理解していない。《ラインの黄金》、《ワルキューレ》、《ジークフリート》、《神々の黄昏》の4つのオペラから成る超大作。世界を支配する魔力を持つ指環をめぐって繰り広げられる神々族とニーベルング族や人間たちの死闘が描かれた作品。この程度の知識で登場する人物の名も上記の数人しか知らない。
最も聴き慣れた曲は「ワルキューレの騎行」で4管編成で聴く生の音楽は壮大であった。ストーリーは考えずに聴き入ったのは「森のささやき」。大音響で響く雄大な曲の中で特に印象に残った美しい旋律に満ちた曲。「ジークフリートの葬送行進曲」はCDがあって耳にしていた旋律であった。とにかく50分程度の管弦楽曲は聴きごたえあって大変良かった。とても満足した。
さすがオペラで人後に落ちない第一人者は暗譜で通した。上演時間が15時間近くもかかる『指環』全曲からすると朝飯前なのだろう。聴衆の満足度はもちろんのこと、指揮者自身も得意のワーグナーもので満足そうであった。
プロフィール

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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