札幌交響楽団 第558回 定期演奏会

 チェコ指揮界の隠れた逸材であったラドミル・エリシュカ(Radomil Eliska)
2006年12月に札幌交響楽団に客演したのが縁で、彼は2008年4月から札幌交響楽団首席客演指揮者となった。以降、日本各地のオーケストラ客演も大成功を収めている。チェコ国内ではチェコ・ドヴォルジャーク協会の会長を務めており、これまで主としてチェコ音楽の紹介に努めてきた。

 08年4月 ~R.エリシュカ 首席客演指揮者 就任記念演奏会~
   ヤナーチェク:狂詩曲「タラス・ブーリバ」
   モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番(ピアノ:伊藤恵)
   ドヴォルジャーク:交響曲第6番
  09年4月 ~ラドミル・エリシュカ/チェコ音楽シリースvol.2~
   ヤナーチェク:「利口な女狐の物語」組曲(ターリッヒ編曲)
   モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番(ヴァイオリン:木嶋真優)
   ドヴォルジャーク:交響曲第7番
 
 2年目まではソリストと共演したプログラムであった。ドヴォルジャークの交響曲が演奏機会の少ない曲だったのでCDを購入して準備した。意外と聴きごたえのある良い曲。演奏会でも極めて新鮮な感じを受け、聴衆の反響も大きかった。ヤナーチェクの曲と共に大いに楽しめた。
 
  10年4月 ~ラドミル・エリシュカ/チェコ音楽シリーズvol.3~
   ドヴォルジャーク:序曲「謝肉祭」
   ヤナーチェク:シンフォニエッタ
   ドヴォルジャーク:交響曲第5番
  11年4月 ~ラドミル・エリシュカ/チェコ音楽シリーズvol.4~
   ドヴォルジャーク:スターバト・マーテル
  
 「スターバト・マーテル」は悲しみと痛みに満ちた宗教曲。4人のソリストと札響合唱団、札幌アカデミー合唱団、札幌放送合唱団と三つの合同合唱団での演奏会は3月の東日本大震災の犠牲者に捧げるコンサートとなった。キャンセルする外国人演奏家が相次いだ年だったが、エリシュカは日本人への深い想いをこの宗教曲を通して表現してくれた。

  12年4月 ~ラドミル・エリシュカ/チェコ音楽シリーズvol.5~
   ドヴォルジャーク:スケルツォ・カプリチオーソ
            交響詩「野鳩」
            交響曲第9番「新世界より」
 
 日本で最も親しまれている「交響曲第9番」と「交響曲第8番」を最後の2回のシリーズにプログラミングする感覚にプロデュ―スの巧みさを感じ取った。
 
 13年4月 ~ラドミル・エリシュカ/チェコ音楽シリーズvol.6
   ドヴォルジャーク:序曲「自然の王国で」
              交響詩「水の精」
              交響曲第8番
 チェコ音楽シリーズの最終回だったかもしれない今日の演奏会はオール・ドヴォルジャーク・プログラム

 この序曲はドヴォルジャークがアメリカへ行く前年の1891年に書き始められた作品で、序曲3部作《自然と人生と愛》の第1作。小澤征爾指揮ウィーン・フィルのCDを久しぶりに今日の演奏会に備えて何度か聴いたが、とても味わいのある印象深い曲。札響にとって今回が初演だそうである。ドヴォルジャークが愛してやまなかった自然への想いが描かれ、静かな安らぎのなかにも内面的な深い味わいを読み取れる感じがした。
 10年4月の《序曲「謝肉祭」》は第2作にあたる。

 交響詩「水の精」は今迄に聴いたことのない曲。札響演奏歴も1回だけで、1981年以来の演奏とのこと。
ドヴォルジャークはアメリカから帰った翌年の1896年に、チェコの国民的詩人であったエルベンの《花束》という詩集のなかのバラードにもとづいて、4曲の交響詩を作曲した。その第1作が「水の精」。
{水界の悪魔が1人の娘を誘惑して妻にする。悪魔から里帰りを許されて母親のもとに帰ったこの女が、自分のところへ戻ろうとしないのをみた悪魔は、女にはらませた子供を殺してしまう話}
 ドヴォルジャークはこの物語の筋を忠実にメロディに翻訳して、素晴らしい音で曲を色取っていく。ストーリーに合わせて様々な旋律が浮かび上がってくる。彼の創造性に改めて驚きを覚えた。悪魔というより曲の英語名“The Water Goblin ”から「いたずらっぽい水の小妖精」のイメージ。
 12年4月の≪交響詩「野鳩」≫は第4作にあたる。{夫を毒殺した女が罪の意識にさいなまれて自殺へと追い込まれる話}を曲にしたもので、この曲はしばしば演奏されている。
  
 「第8番」は今や名曲中の名曲。ドヴォルジャークは矛盾相克を含んだ様々な作品を書いた。ト長調の第8番は喜びに溢れた明るい曲。彼の家の庭、周りの野原、森のかおりが漂う田園風景が弦楽器でその様子が伝わる。暑い日差しを浴びながら農作業に携わる人々の表情も眼前に広がる。鳥のさえずりなど生き生きとした小動物の様子もフルートやオーボエの木管楽器の表情豊かな旋律で表現された。低音弦楽器の特徴とともに、金管楽器、打楽器の特徴も各楽章で伸びやかな旋律で大自然を歌い上げた。
 第1楽章が終った後にエリシュカが拍手をしていたが、オーケストラの演奏にとても満足した様子。今日の演奏は今迄聴いてきた「8番」で最も印象に残った。今シーズンから座席が2階後方の中央から1階前方やや右に変った。ホール全体を見渡すには2階後方が良かったが、より良い音響と緊迫感を得るために座席を変えた。違う角度から集中して音楽に没入できて久しぶりの充実感を味わえた。

 エリシュカは今年82歳になるが、年齢を感じさせない若々しい指揮ぶりであった。オーケストラとの呼吸もピッタリで相互の信頼関係の上に基づいた音楽が構築されていたように思う。ラファエル・クーベリック以来のチェコが誇る名匠と言えないだろうか。前半終了後の聴衆の拍手も凄かったが、8番が終った後の熱狂的な拍手は感動的であった。今日の演奏に対しての称賛に加えて、チェコ音楽シリーズが一区切りついたことに対する感謝の意の表現でもあったように思った。エリシュカは喜怒哀楽を大きく表さないが、最後にコンサートマスターや各楽器の首席・副首席奏者に丁寧に握手を求め、女性陣には欧米流に頬を寄せあって喜びを分かち合っていたのは微笑ましかった。今日の演奏のライヴ録音も実施され5番~9番まで全曲CD化されることになるが、発売されたら手に入れたい。

 エリシュカはこの後、27日には東京佼成ウインドオーケストラと共演して「新世界より」全曲と「シンフォニエッタ」などを演奏する予定。極めてユニークな演奏になるだろうが注目に値する。成功を祈りたい。
 
 ***エリシュカさんは奥さんを伴って毎回来札しているが、中島公園で遭遇した時の様子を記してみたい。昨年の12月2日(日)の午後1時頃、地下鉄の中島公園駅を降りた客の全員がKitaraへ向けて隙間もないくらいに道路を埋めて一斉に歩き出した。1時30分開演の五嶋龍ヴァイオリン・コンサートを聴く人の群れが切れ目なく続いていた。公園内の藤棚のあるあたりで、突然列が半分ほどになって反対側から来る人のために空間を作った。気が付くと背の高い外国人女性、その後方に男性が2人見えた。外国人女性のために広く道を空けた様子で、いつもの対応とは少し違っていた。すれ違う前に外国人の男性がエリシュカさんと判った。11月末に札響との名曲シーリーズに出演し、12月の初めに札響との「第九」特別演奏会が予定されていた。多分Kitaraからの帰り道で公園を通りかかったのではないかと推測した。日本人の欧米人に対する特別な反応だったが、エリシュカ夫妻はどんな印象を受けたのだろうか。
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Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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