ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 札幌公演

 ロリン・マゼール指揮
 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 札幌公演
 
 ロリン・マゼールは1930年3月6日、ロシア系アメリカ人としてフランスで生まれた。幼い頃にアメリカのピッツバーグに移住して音楽の天才少年として育った。5歳の時からヴァイオリン・ピアノ・指揮法を学び、8歳でアイダホ州立大学オーケストラを指揮、シューベルト《未完成》を演奏。9歳でロスアンジェルス・フィルを指揮、11歳でトスカニーニのNBC交響楽団やニューヨーク・フィルを指揮して「神童」と言われた。17歳でピッツバーグ大学で哲学と語学を専攻、ピッツバーグ交響楽団のヴァイオリン奏者としても活動。49年から同楽団の副指揮者を務め、フルブライト留学試験に合格した後、イタリアに留学した。留学中の53年には代役でヨーロッパ指揮デビュー。(昨年N響との共演時にマゼール本人がN響アワーで“プロでない学生の身分なのに指揮の依頼があった”当時の話を語っていた。) 58年にはベルリン・フィルを指揮して初のレコーディングを行っている。
 
 60年にはバイロイト音楽祭に史上初の米国人指揮者および最年少指揮者としてデビュー。その後、一気に名声を高めて世界中のオーケストラでオペラやコンサートの指揮をしている。
 指揮者としての正式のポストは1964~75年ベルリン放送交響楽団(現ベルリン・ドイツ交響楽団)首席指揮者、1965~71年ベルリン・ドイツ・オペラ音楽監督、1972~82年クリーヴランド管弦楽団音楽監督、1976~88年フランス国立管弦楽団首席客演指揮者、1982~84年ウィ―ン国立歌劇場総監督、1988~90年フランス国立管弦楽団音楽監督、1988~96年ピッツバーグ交響楽団音楽監督、1993~2002年バイエルン放送交響楽団首席指揮者、2002~09年ニューヨーク・フィルハーモニック音楽監督、06年~現在トスカニーニ交響楽団音楽監督。

 私は2000年までは主としてLPで音楽を聴いていたが、CDを集めるようになってマーラーやワーグナーなどの音楽も聴き始めた。マゼールの指揮するマーラー第1番やワーグナーの管弦楽名曲集にも親しむようになっていた。
 2003年マゼールがバイエルン放送交響楽団を率いて札幌公演を行うことを知って直ぐチケットを買った。バイエルン放送響は1992年のPMFで演奏会を開催していた。丁度いいタイミングでの期待のコンサートであった。
 
2003年のマゼール指揮バイエルン放送交響楽団の日本公演は4月1日の札幌から始まって、大阪、所沢、横浜、東京の5都市7公演。プログラムは≪ブラームス・チクルス≫。札幌でのプログラムは「ヴァイオリン協奏曲」と「交響曲第1番」。
 マゼールは初めてKitaraで指揮をしたが、会場に入った時のArtist Entranceが一般客の出入り口と思ったらしい。楽屋に入る前にエントランスやホアイエなどホールの中を全部見て歩いて、Kitaraの施設の素晴らしさに感動したエピソードが伝わっている。Kitara大ホールでの演奏の記念に、色紙にサインと共に次の文を書き残している。“The concert hall of Kitara is magnificent---it is one of the finest in the world.”
 バイエルン放送響は戦後1949年創立のオーケストラであるが、ヨッフム、クーベリック、コリン・デイヴィス、マゼールに次いで、2003年9月からマリス・ヤンソンスが首席指揮者を務めて現在に至っている。世界でトップテンに入るオーケストラになっている。

 マゼールはKitaraがお気に入りのホールらしく、05年10月と07年9月にも世界中から厳選された20代から40代までの名手によって編成されたオーケストラを率いて日本公演を行っている。05年はトスカニーニ・フィルハーモニー管弦楽団としての来日だったが、パルマでの活動拠点がミラノに移って07年にはトスカニーニ交響楽団と名称が変わった。トスカニーニ没後50年記念世界ツアーとしての開催、日本では日中国交正常化35周年記念、札幌ではKitara10周年記念としての開催。

 07年も日本公演は5都市7公演。東京、西宮、名古屋、横浜、札幌。
札幌公演プログラムはベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第3番、プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番(ピアノ:ユンディ・リ)、ブラームス:交響曲第1番

 このコンサートではユンディ・リがプロコフィエフのピアノ協奏曲第2番に挑戦した理由が述べられていたが今でも印象に残っている。〈ホロヴィッツがラフマニノフの第3番を人気曲にしたように、自分もプロコフィエフの第2番を人気曲にしたい〉という想いで、小沢征爾指揮ベルリン・フィルとの共演でレコーディングもしていてCDを後で購入したのを思い出す。意欲的で、とても魅力的な演奏であった。

 マゼールが作り出す音楽の性格が1970年代から変わったと言われている。それまでの大胆でシャープな表現力が後退して、演奏が安定して角がとれて丸くなったというのである。演奏会で聴いた時には彼は70歳を過ぎていたから、確かにそれほど強いインパクトは感じなかった。偉大な指揮者がKitaraに来てくれるだけで嬉しい気分だった。
 10年12月31日のマゼール指揮岩城宏之メモリアル・オーケストラと一晩でのベートーヴェン交響曲全曲演奏会は物凄く感動的な演奏会であったらしい。彼は80年代にヨーロッパでこの試みを経験していたと聞く。聴衆は80歳の指揮者の作る素晴らしい音楽に感動し、特に3・5・7番は圧巻でウイーン・フィルにも負けない演奏との印象を受けた人も多かったと聞く。今までマゼールの音楽をあまり高く評価しない人々も先入観を捨てる機会になったようだ。報道によると昨年のN響での客演指揮も評判が良かった。ただ彼の演奏は出来・不出来が激しいという評もある。私自身は83歳になる指揮者をKitaraで目にすることだけでも満足である。

ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団は世界のメジャー・オーケストラでKitaraを訪れていない数少ないオーケストラの一つであった。半年以上前にチケットの先行発売が実施されて直ちに購入していた。長年に亘って本日の公演を待ち望んでいた。

今回の日本ツアーは名古屋・東京・札幌・大阪の4都市6公演。札幌公演はHTB開局45周年 札幌・ミュンヘン姉妹都市提携40周年記念として開催。

 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団は創立1893年で歴史は古いが、ミュンヘンでは1949年創立のバイエルン放送響の後塵を拝してきた。79年に芸術監督チェリビダッケの時代から評価が上がり、チェリビダッケ亡きあと、99年にアメリカからレヴァインを首席指揮者に迎え、04年からティ―レマンが音楽総監督を務めて更にメジャー・オーケストラとしての評価が固まったと言われている。12年からマゼールが首席指揮者となって活発な海外での演奏活動を展開し始めたと思われる。
 
 演奏曲目  レスピーギ:交響詩「ローマの噴水」
       パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番(ヴァイオリン:五嶋 龍)
       ベートーヴェン:交響曲第7番
 
 「ローマ3部作」はトスカニーニが得意にしていた作品。その第1作が≪ローマの噴水≫。 夜明け、朝、昼、黄昏の時間帯における4つの噴水に施された彫刻から広がるイメージを詩的に描いている。第3楽章のローマで最も有名な「トレヴィの噴水」からの幻想的なタッチが印象的だった。

 07年の札幌公演でのソリストはユンディ・リだったが、名古屋公演と東京2公演では五嶋龍がソリストでパガニーニの第1番を弾いた。その時の共演の強烈な印象を受けて、マゼールは今回の札幌公演では予めパガニーニの曲に決めていたようである。7歳の時のPMFでの演奏曲であったことは知らなかったかもしれない。
 長大な第1楽章は華やかな管弦楽のイタリア風の明るく軽快な旋律の合奏が5分ほども続いて、いよいよヴァイオリン独奏が始まった。ヴァイオリンが様々な技巧を駆使して美しい旋律を奏でながら曲が展開された。ヴァイオリン独特のカデンツァも見事だった。ただ、同じような旋律が何回も現れて少し冗長だったかなと感じる楽章であった。こんな印象を持ったのは今迄になかった。第2楽章はオペラ・アリア風。ヴァイオリン独奏のカンタービレで美しいメロディを紡いだ。第3楽章は躍動的なスタッカート奏法による軽快な調べ。独奏が思う存分に超絶技巧を披露した。五嶋龍のコンサートは3度目だが、今日は聴き方が悪かったのか残念ながら感動までには至らなかった。 アンコール曲にパガニーニの《「ネルコルピオ」変奏曲》を弾いたが、これは初めて聴く珍しい曲でとても興味深く聴けて素晴らしい印象を受けた。
五嶋龍ファンは今は姉のみどりより多く集客力は凄くて、昨年12月のコンサートは満席であった。今日も彼らは満足したに違いない。
 
 ベートーヴェンの「第7番」は今年Kitaraで聴くのが3度目。全楽章を通してリズム感が横溢して、生命感・躍動感あふれる曲に感動した。ヴィオラ、チェロ、コントラバスの低音域の楽器が奏でて始まる緩徐楽章の美しさも琴線に触れた。ティンパニーとホルンの響きがオーケストラが発する音をより豊かにしていて、この曲の壮大さを力強く印象づけていた。聴きどころは沢山あるが何と言っても最終楽章のダイナミックな演奏が圧巻。マゼールの渾身の力を振り絞った第4楽章の指揮ぶりは聴衆の心を一つにした。ベートーヴェンの曲の中でも舞踏的リズムは親しみやすく、若者も含めて親しまれる曲になっていることを改めて認識した。以前はベートーヴェンと言えば5番か6番を聴く機会が多かったが、最近は7番が随分と聴く機会が増えた。今年は7番初演の200年の記念年なので特に多い。今日のKitaraは満席状態でオーケストラへの歓迎ムードもあって会場の雰囲気も良かった。83歳とは思えない迫力ある指揮ぶりでミュンヘンフィルの底力を引き出したマゼールの凄さにほぼ満員の聴衆から割れんばかりの拍手が起こった。ベートーヴェンはやはり凄い。
 最後の曲、特に第4楽章では全力を振り絞ってマゼールは指揮に当ったので、さすがに疲れたようだったが、アンコールにベートーヴェンの「エグモント」序曲を演奏してくれた。聴衆はドイツのオーケストラが演奏するベートーヴェンの素晴らしさを満喫した。
 演奏終了後に演奏者と聴衆がお互いに感謝し合う場面は感動的であった。2011年に札幌交響楽団が創立50周年を記念してヨーロッパ公演を行い、ミュンヘンでも公演を開催した。今回のコンサートは姉妹都市の交流事業の一環でもあったが、ドイツ人と日本人が共に持ち合わせている心を感じ取る場面にもなった。

 

 
 




 
 
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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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