MET ライブビューイング 第10作 パルjジファル

MET Live Viewing ワーグナー≪パルジファル≫ 新演出

 今シーズンは第1、4、5、6作を鑑賞したが、第10作はワーグナーの作品である。オペラというより、オラトリオの色彩を持ち、神話を取り入れた宗教劇。ヴェルディとは対照的な作曲家。
 
 ワーグナーの歌劇・楽劇は「序曲」や「前奏曲」などを管弦楽名曲集で親しむことがあっても、演奏時間の長いオペラを鑑賞する機会は殆どない。2010年、Kitaraでトヨタコミュニティコンサートとして「ニーベルングの指輪」~4部作よりハイライト~が上演された。《北海道交響楽団 創立30周年記念演奏会》で演出は渋谷文孝、音楽監督は三枝成彰であった。壮大なプログラムでワーグナーのオペラに詳しくない自分にとって作品全体の複雑な構成を理解するのが難しかった。この時がワーグナーの楽劇を見る初めての機会だったと思う。
 
 今回の≪パルジファル≫はシーズンのプログラムが公表されてから鑑賞を計画していた。“PARSIFAL”については全く知識がなかったので検索を利用して《あらすじ》を調べ、作曲家の生涯について書かれた本を読んで鑑賞前に予備知識を蓄えておいた。

 ≪パルジファル≫はワーグナーの最後の作品であり、彼の晩年独特の宗教的理想を象徴的に表現した傑作と言われている。亡くなる前年の1882年にバイロイト祝祭劇場で初演されて好評を博し、16回にわたり上演されたそうである。バイロイト祝祭劇場では現在でも毎年ワーグナーのオペラが上演されていて、バイロイト音楽祭は世界中から音楽愛好者が集まる音楽祭として有名である。
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 *バイロイトの町(左)とバイロイト音楽祭の開かれている祝祭劇場(右)
 
 この「舞台神聖祝典劇」と銘打たれた楽劇は10世紀ごろのスペインの城が舞台で、台本としては無知な若者パルジファルが奪われた聖槍(十字架上のキリストの脇腹を刺した槍)を取り戻すというだけの話であるが、登場人物が複雑な背景を持っていてストーリーが組み立てられている。聖槍を奪われた時に被った傷のために瀕死の状態に陥って苦悩している王を、成長して知を得たパルジファルが王の苦悩を共有して一人前の騎士になって聖槍を奪還し、聖杯(キリストが最後の晩餐でワインを飲んだ器。彼が十字架で傷を受けた時その血を受け入れたとされる。)守護の王となる話。

 今回のMETでの上演は新演出で近未来の場面設定でキリスト教の価値観も変えて描いている。現代における人間性の喪失にも焦点をあて、人の心や苦悩が共有することの大切さを表現していた。男性の服装は白いワイシャツと黒のズボンでまるで現代を思わせる。女性も薄い白いドレスが基本。 
 第2幕の舞台装置には驚いた。舞台には4500リットルもの水が使われ、一瞬血の海になるが水温40度で加熱パットも使用される装置がなされ、幕が下りた後の清掃や女性のシャワーの配慮などを考えると途方もない演出である。

 ワーグナーの生誕200年に合わせて彼の作品を見ようと思ったもう一つの理由は主役が、ヨナス・カウフマンだったからである。カウフマンは昨年グノーの「ファウスト」で観たが、今回のパルジファル役はイタリア歌劇を得意にした世界三大テノールとは違った素晴らしい歌唱力に胸が打たれるほど感動した。ヘルデンテノールという言葉は初めて目にしたが今回初めて納得がいった。ワーグナー作曲の歌劇・楽劇における英雄的な役どころを演じるのに適した声質を持つテノールのことを指すらしい。
 カウフマンの劇的で力強い歌唱力で歌う“パルジファル”は精神的な強さ、英雄的資質、霊的な力を発揮するので、“はまり役”と言えよう。ドイツのドラマティックなレパートリーを得意とするカウフマンに対する「世界最高のヘルデンテノール」の賛辞は相応しい。

 METで今回カウフマンの主役デビューを支えたのはK.ダライマン、R.パーペ、P.マッティら最強のワーグナー歌手たち。特に、聖杯守護の騎士団の長老役のパーペの説得力のある歌唱が見事で印象に残った。指揮はダニエーレ・ガッティ。計画から5年がかりでのMET公演。インタビューワーから暗譜での指揮を驚嘆されていたが、指揮者は肝心なのは「作品をどう解釈するか」であると強調していた。演出家のF.ジラールは現代の苦悩や誘惑との関連、キリスト教だけでなく仏教にも通じる解釈を求め、パルジファルの旅路、彼の悟りの道と人間の成長のドラマを描こうとしたのだろう。

 第1幕が115分、第2幕が70分、第3幕が89分。休憩2回を含めて、上映時間:5時間40分。


 
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Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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