近藤嘉宏 ピアノ・リサイタル(ピアノ名曲ベスト2013)

近藤嘉宏 ピアノ・リサイタル 2013

 近藤嘉宏は1968年生まれ。1987年日本音楽コンクール第2位入賞。91年桐朋学園大学を首席で卒業後、ミュンヘン国立音楽大学に入学してゲルハルト・オピッツに師事。同年ミュンヘン国際音楽コンクールのセミ・ファイナリストになり聴衆の熱い支持を得て、92年ミュンヘン交響楽団と共演。95年国内デビュー。翌年CDデビュー。04年ニューヨークのカーネギーホールに、06年にウィ―ンのムジークフェラインにデビューを果たした。ショパン、リストのCDが多くリリースされているが、現在ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集録音進行中。
 
 近藤が札幌コンサートホールKitaraに初登場したのが98年9月。ショパン:ノクターン第8番と第13番、エチュード「別れの曲」、「黒鍵」、「革命」。ブラームス:ピアノ小品Op.118-1,3と119-4。ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ「月光」、「熱情」。 適切な解説を加えながら演奏して小ホールを埋めた満員の聴衆に鮮烈な印象を与えた。

 99年11月には大ホールでショパン没後150年を記念してオール・ショパン・プログラム。華麗なテクニックと溢れる歌心で聴衆の心を掴んだ。02、03年にはショパン、リスト、ドビュッシー、ベートーヴェンの親しまれている曲を演奏。04年には〈ベートーヴェン3大ソナタを弾く〉と銘打ってのリサイタル。この間、国内外のオーケストラと共演を数多く行なっている。

 その後、しばらく札幌でのリサイタル活動が無くて気にかかっていた。彼は一時期ピアノが弾けない状況に陥っていたらしい。09年5月にKitara大ホールに戻ってきてから毎年春にリサイタルを聴くのが恒例になった。ショパンの「幻想即興曲」、「バラード第1番」、「スケルツォ第2番」などの名曲の他に、ラフマニノフの前奏曲「鐘」、リストの「ピアノ・ソナタ ロ短調」などが新たに聴けた。

今回の演奏曲目:
 ◎ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」
   劇的な緊張と悲劇性、劇場性と苦悩の影に満ちた曲でベートーヴェン前期を代表する傑作。
 ◎ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女、 月の光       
   「亜麻色の髪の乙女」は≪前奏曲集第1集≫の第8曲。演奏機会が最も多く、その詩的で情緒に溢れたメロディは聴けば直ぐ判るほどの名曲。「月の光」は≪ぺルガマスク組曲≫の第3曲。柔らかく降り注ぐ月の光とその輝きを目にして沸き起こる心象が表現された優れた作品。2曲ともアンコール曲として演奏されることも多い。
 ◎ブラームス:パガニーニの主題による変奏曲 第2部
   パガニーニ作曲の無伴奏ヴァイオリン曲「24のカプリ―ス」の第24番を主題にして全28曲の変奏曲が作られた。14曲ずつ2巻に分けて出版されたが今日の演奏はその第2巻。超絶技巧が注ぎ込まれためくるめくる変奏が展開され、豊かな色彩感を湛えたエネルギッシュな最後の変奏でフィナーレ。ラフマニノフが第24番の主題を借用して書いた「パガニーニの主題による狂詩曲」もピアノ協奏曲として有名である。
   近藤がKitaraで初めて弾く曲であり、今まで殆ど聴く機会もなかったので2001年にガヴリリュクがリサイタルで弾いた曲を彼のCDで今朝久し振りに聴いてみた。
 ◎ショパン:ノクターン第20番、 バラード第1番
   「ノクターン第20番」は〈遺作〉の呼び名が付いているが実際は20歳頃の作品。ホロコーストを奇跡的に生き抜いたユダヤ人のピアニストの実話に基づく映画《戦場のピアニスト》で10年ほど前に一気に話題となった。映画の冒頭、放送局でピアニストが奏でるノクターン、逃亡中にドイツ将校と出会った時にピアニストの証明に弾いたのもこのノクターン。この美しい旋律が流れるたびに、映画の映像の場面がよみがえる。美しくも何とも言えない感情が伴って耳を傾ける。数あるノクターンの中でアンコール曲として演奏される回数も断然多い。自分にとって最も心が揺さぶられる曲になっている。
   「バラード第1番」は音楽と叙事詩を結びつけたピアノ曲として4曲のバラードを残しているが、実に美しい旋律で紡がれ日本人に最も人気のあるショパンの曲の一つである。この曲の演奏後に客席から“ブラボー”の歓声も上がり、この曲の人気度と演奏の感激が伝わった。今日の演奏曲で聴衆の反応が1番良かった。この曲も《戦場のピアニスト》の中で演奏された。
 ◎リスト:愛の夢第3番、ラ・カンパネラ、メフィスト・ワルツ第1番
   「愛の夢第3番」は≪ピアノ独奏曲集「愛の夢~3つのノクターン」≫の第3番で、ショパンのノクターンを思わせる美しい旋律を持つ作品。冒頭の夢見るような甘美なメロディが曲全体を通して流れて愛を賛美するこの第3番はとても人気があり、一般的に「愛の夢」と言えばこの曲を指す。「ラ・カンパネラ」は≪パガニーニによる大練習曲≫の第3曲。パガニーニ作曲のヴァイオリン協奏曲第2番終楽章《鐘のロンド》から採られた鐘の音を模した主題が美しく軽やかに変奏される。
   「メフィスト・ワルツ第1番」は失った青春を求めた学者ファウストが、若さの代償として魂を売り渡す約束をした悪魔メフィストフェレスとともに人々の憩う村の居酒屋にやってきた場面が描かれる10分あまりの曲。悪魔的で官能的な音楽。近藤が札幌で初めて披露したリストの曲。超絶技巧の演奏に万雷の拍手が送られた。

 アンコールに2曲。ショパンの「幻想即興曲」と「ポロネーズ 《英雄》」。

 十年前と違ってKitaraも毎年のように公演する演奏家のリサイタルが満席になることは少なくなった。P席と3階席が販売されなかったが、1階は満席で2階も8割程度の入りで幅広い年齢層の聴衆が客席を占め全体として約1200名でピアノ・リサイタルでは結構な客の入り。近藤の人気度の高さがうかがえた。

 近藤はデビューした当初、極めて個性的な演奏活動を繰り広げていたようだ。私自身はKitaraを通しての音楽しか知らないが、彼は映画音楽から井上陽水に至るまでの作品を取り上げていたらしい。大阪フェスティバルホールでの人気ぶりや若者のフアンが多いのはクラシックのイメージ、ピアノ音楽のイメージを幅広く捉えて演奏活動を行なっているからかなと最近気付いた。ショパン、リストをこよなく愛し、一般の人が広く楽しめるコンサートを目指しているように思われる。演奏会のコンセプトとして名曲を中心に据えるのも良いが、個人的には、もっと大曲にも挑戦してもらいたいし、持っているレパートリーの曲を披露してくれることを望みたい。(ピアニスト本人の意向だけでコンサートが成立しているとは考えていないが、、、)。 日本を拠点にして存在感を増しているオピッツに師事したピアニストとして、ベートーヴェンのソナタ全集のレコーディングが順調に進んでいるのは喜ばしいニュ―スである。今回で彼の演奏をリサイタルばかり10回聴いたことになるので、オーケストラとの共演も含めて新しい近藤嘉宏をKitaraで聴いてみたいと思う昨今である。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR