マリア・ジョアン・ピリス&アントニオ・メネセス デュオ・リサイタル

マリア・ジョアン・ピリス &アントニオ・メネセス デュオ・リサイタル

 Kitara 5周年シリーズとして2002年4月 ≪マリア・ジョアン・ピリス ピアノの世界≫が大ホールで開かれた。2002年ピリスが出演する日本公演は全部で14公演あったが、「ピアノの世界」はテナーのルーフス・ミュラーとの共演で3公演。札幌のほか東京、福島でも開催された。
 CDで音楽を聴くようになった2000年に偶々ピリスが弾くモーツァルトのCDを購入した。そのピアニストがKitaraに来るとあって早速チケットを買ったのだが、チケットが「ピアノ・リサイタル」として販売されていたので、つい最近までソロでのコンサートだと記憶していた。
 プログラムはシューベルトとべートーヴェンの「ピアノ・ソナタと歌曲」。ピリスがシューベルトとベートーヴェンを弾く時、二つの世界を繋ぐのがミュラーの歌うリート。この演奏会は残念ながら殆ど印象に残っていない。当時、ピリスはヴァイオリニストのオーギュスタン・デュメイ(Augustin DUMAY)とコンビを組んで演奏会と録音の両面で活躍して、世界的に名声を博していた。2002年の日本公演でも4公演は彼らのベートーヴェン・プログラムがあって、そちらの方に魅力を感じていたことも当時の印象が薄れていた一因である。
 ただこの折にピリスがポルトガルの郊外に「芸術センター」を設立して、若い音楽家や芸術家を集めて共同生活をしながら全人的な教育を行っている活動のことは良く覚えている。

 Maria Joao PIRESは1944年、ポルトガル生まれの名ピアニスト。国際的には1970年のベートーヴェン生誕200年記念コンクールに優勝して注目された。これまでウイーン・フィル、ベルリン・フィルはじめ世界の一流オーケストラと共演。ソリストとしての活躍もさることながら、室内楽演奏にも情熱を注いでいる。1989年からのデュメイとのデュオ・コンサートはヨーロッパ各地だけでなく日本でも人気となっていた。

 2回目の札幌でのコンサートは2009年5月。この時も「ピアノ・リサイタル」として開催されたが、共演は24歳ロシアの若手チェリストのパヴェル・ゴムツィアコフ(Pavel GOMZIAKOV)。
 プログラムは後期のショパン作品。ショパン(1811~1849)の亡くなる前の3年間に作られた作品が演奏された。「ピアノ・ソナタ第3番 Op.58」、「2つのマズルカ Op.67-2, Op.67-4」、 「チェロとピアノのためのソナタ Op.65」、 そして最後の曲はショパンが最後に書いた「マズルカ Op.68-4」。

 魅力あるプログラムを集中度の高い演奏で聴衆の心に深く刻む演奏会であった。プログラムに「演奏者の強い希望により、曲間の拍手はご遠慮ください」とあり、館内放送でも「楽章間の拍手はご遠慮ください」と案内があったが、要請の意味が解らずに曲間、楽章間でも拍手が起こったのはいささか残念であった。休憩後の演奏ではお客さんも気が付いたようで終盤は会場の雰囲気も盛り上がって余韻を静かに楽しむ演奏会であったことを思い出す。2002年のプログラムを読んで気が付いたが、ピレスは演奏会の全体を一つのドラマとして構成・演出しているのではないだろうかと思った。2009年の演奏会を振り返ってそのことが何となく解った気がしたのである。

 今夜は文字通り≪ピリス&メネセス デュオ・リサイタル」
アントニオ・メネセス(Antonio Meneses)は1957年ブラジル生まれ。1977年ミュンヘン、1982年チャイコフスキーの両国際コンクールのチェロ部門で優勝。これまでベルリン・フィル、コンセルトへボウ管、ロンドン響、ニューヨーク・フィルなど世界のオーケストラと共演。
 
演奏曲目:
  シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ D.821
  ブラームス:3つの間奏曲 Op.117
  メンデルスゾーン:無言歌 二長調 Op.109                                                        ブラームス:ピアノとチェロのためのソナタ第1番 Op.38
 
 シューベルトの「アルぺジオーネ・ソナタ」は今までに聞いたこともない曲名。1823年に発明された楽器、アルぺジオーネ(ギターのように指板にフレットがついた6本の弦を弓で弾く楽器)のために作られたそうである。しかし、この楽器はウィ―ンで流行しないうちに姿を消し、この作品も今日では主にチェロによって演奏されるということである。
 チェロが優美で且つ憂いの漂うメロディを奏でるのだが、チェロの持つ本来の低音の美しい響きを思う存分に味った気はしなかった。アルペジオーネはチェロよりも音域が高いためのようだ。演奏者にとっては難曲らしいが、聴く者にとっては直ぐ感動できるものにはならなかった。

 ブラームスの「間奏曲」は子守歌のような韻律とリズムで奏でられるが荘重な曲でもある。ブラームスは1892年の30歳の時にピアノの作曲に別れを告げたが、その折に作品番号116~119まで20曲ほど作った。主に“Intermezzo”と呼ばれる間奏曲であった。先月27日に逝去したヴァン・クライバーン(1958年第1回チャイコフスキー国際コンクールの優勝者で、1962年からヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールを創設し、2009年辻井伸行が優勝したことで脚光を浴びた。)のレコーディングで私が唯一持っているCDを何回も予め聴いて出かけたのでかなり親しめる曲になった。

 メンデルスゾーンが「無言歌」“LIEDER OHNE WORTE”の呼び名で作曲した小品が50曲以上ある。「春の歌」、「狩の歌」などは誰でも耳にしたことのあるピアノ曲である。〈今夜はピアノのソロかな? Op.109は遺作かな?〉と疑問に思っていた。田部京子が弾く「無言歌集」にも載っていない曲だった。演奏会当日になってやっと判った。彼の死後、出版社たちはこの無言歌と、同じく1845年のチェロとピアノのための作品との間に相関関係があることを発見し、「無言歌」Op.109と名付けたそうである。5分ほどのチェロの小品であるが、チェロの奏でる抒情的な旋律をピアノが明るく支える感じの曲であった。

 チェロ・ソナタとして有名なブラームスの第1番。チェロの名曲であってもピアノ曲ほど聴く機会がないのでこの曲もデュ・プレとバレンボイムによる演奏のCDを事前に何回も聴いてみた。チェロとピアノが対等に対話しながら曲を盛り上げている。チェロの低音域が頻繁に使われおり、特に第1楽章のチェロの冒頭の最低弦から歌われる哀愁漂う旋律は印象的である。ハンガリー舞曲に似た旋律も現れるが、優しい子守歌を想起させるメロディも奏でられる。この上ない重厚なチェロの魅力を堪能できた。ピリスが毎回使うヤマハのピアノ。同じヤマハでも最新のYAMAHA CFX(多分)の奏でる音は素晴らしい。特に高音の響きが美しい。このピアノがこの曲の魅力を一段と際立たせたと思った。

 アンコールに応えて、バッハ:「パストラレ」とカザルス/カタロニア民謡:「鳥の歌」。
「鳥の歌」は久しぶりに耳にしたが直ぐに曲名が判った。パブロ・カザルスによるチェロのための小品。〈カタロニア人の心の痛みを表したもの〉と言われる曲。ピアノのトリルが哀しみを見事に体現して聴く者の心を揺さぶる感動的なフィナーレになった。

 ピリスは1970年以来、芸術が人生、社会、学校に与える影響を研究して、1999年ポルトガルに芸術研究センターを設立したが、その後、彼女は活動をスペインやブラジルにも拡げている。

 尚、ピリスは今月14日に東京のヤマハホールで札幌と同じプログラムでの演奏会を開催。18日は東京のすみだトリフォ二―ホールで別なプログラムでメネセスとのデュオ・リサイタル。ベルナルト・ハイティング指揮ロンドン交響楽団と共演で3日(大阪)と9日(東京)にモーツァルトのピアノ協奏曲第17番、7日(東京)と10日(横浜)にベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番をそれぞれ演奏。
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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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