上野 真 ピアノリサイタル

ヤマハ創業125周年記念特別企画
 上野 真 ピアノリサイタル

 創業年1887年。創業者・山葉寅楠は武家の出自。
ヤマハピアノの生産台数は1960年代後半にはスタインウェイに追いついたくらいに世界に普及したようだ。しかし、コンサートホールで使われるグランドピアノは今でも断然スタインウェイが群を抜いているのが現状ではないだろうか。1998年第11回チャイコフスキー国際コンクールの優勝者・デニス・マツ―エフはヤマハのピアノを使用して話題となり、99年3月にKitaraでリサイタルを開催した。この時には多くのヤマハの関係者やヤマハ音楽教室の子供たちが会場に来ていたことが珍しい光景として記憶にある。2002年の同コンクールのピアノ部門では上原彩子が女性初、日本人初の優勝者になり、2大会連続でYAMAHAが制覇したことでヤマハピアノの優秀性が世界に知れ渡った。

 ヤマハはフラグシップモデルの開発の一大プロジェクトにより、67年に「CF」が誕生して、CFシリーズが始まり、91年「CFⅢS」、96年「New CFⅢS」、2000年には「NewCFⅢ(2000)」への改良を重ねて、世界のコンクールでの公式ピアノとしての実績を積み重ねていった。2010年には「CFX」を開発した。2010年の第16回ショパン国際ピアノコンクールでは優勝者のユリアンナ・アヴデーエワと第4位のエフゲニー・ポジャノフが「CFX」を使用した。コンサート・ピアノとしての揺るぎない評価は定着したのではないかと思う。
 残念ながら日本の優れたコンサートホールに最新のヤマハのピアノが常備されていない。アヴデーエワは優勝を成し遂げた直後と2011年の来日のコンサートではスタインウェイを使用している。ヤマハの協力がないと最新のピアノの使用がどうも難しいらしい。第16回のショパン・コンクールで第4位のエフゲニー・ポジャノフが昨年5月に来日してリサイタルを開催した時には「CFX」で弾いた。コンクールでヤマハを使ったことは知っていたが、Kitaraでヤマハのピアノを見た時には意外な感じがした。ヤマハが[主催・協力]したコンサートではなかったが、何らかの形で支援したのではないかと思った。ホアイエでピアノを習っていそうな子供たちの姿がいつもより多く目にして不思議だった訳が判った。

 上野真ピアノリサイタルを聴きに行った理由はヤマハとは関係なく、彼が私の故郷である北海道室蘭市出身のピアニストだったからである。同じ室蘭出身のピアニスト田部京子とは同年代であるが、彼は16歳で単身渡米し、バーンスタインも学んだカーティス音楽院とザルツブルクのモーツァルテウム音楽院に各4年間学び、海外の数々のコンクールで受賞しながらリサイタルの他に室内楽でも演奏活動を展開。2005年には上限の年齢制限のない第1回リヒテル国際ピアノコンクールに出場して第2位入賞。(ちなみに20世紀のピアノ界を代表する逸材で現代のリストと称されたリヒテルはYamahaを愛用したピアニストとして知られる)。現在は京都市立芸術大学准教授をしながら、リサイタルや協奏曲の演奏会を国内だけでなく、近年ではロシア、ノルウエー、フランス、オーストリア、メキシコなど海外でも開催している。国内ではやや地味な存在であるが、海外での活動での方が存在感のあるピアニストらしい。

 本日のプログラム。
  ドビュッシー:前奏曲集 第2巻
  ベートーヴェン:ピアノソナタ 第21番「ワルトシュタイン」
  ショパン:舟歌 、 アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ

 ドビュッシーの前奏曲集第2巻は第1巻と共に12曲から成り、ショパンの前奏曲24曲を念頭において構成されたのだろう。前奏曲集第1巻の第8曲「亜麻色の髪の乙女」があまりにも有名で、他の曲はあまり馴染みがない。どれも印象的でドビュッシーならではの変化に富んだ美しい音が奏でられる。思いのほか強いタッチでの力強いリズム感のある透明な響き。「CWX」が紡ぐ音の素晴らしさを満喫。

 ベートーヴェンの≪ワルトシュタイン≫。実は1820年制作のフォルテピアノで上野自身が2010年4月4日の“ピアノ調律の日”記念コンサートでこの曲を〈かでる2・7ホール〉に於いて弾いたのである。その時を懐かしく思い出して聴いたのだが、音の響きの圧倒的な違いを感じた。ベートーヴェンにこのようなピアノで弾かせてあげたいと一瞬思ったほどの美しい音の調べ。ベートーヴェンも当時の楽器制作者と競いながら新しい曲作りをして今日のピアノに近い音の出る楽器の発展に尽くしたことに想いを馳せた。

 ショパンのピアノ曲の美しさは例えようもない。ヴェネツィアのゴンドラ漕ぎの歌に由来するといわれている≪舟歌≫は軽快な曲だがどこか感傷やもの悲しさを持っている。やはり名曲の一つである。
 管弦楽とピアノのためのポロネーズの部分は1831年に完成された。1834年にピアノ独奏のためのアンダンテ・スピアナート(「滑らかな」という意味)が序奏として追加された。アンダンテ・スピアナートはショパンらしい抒情的な曲想でポロネーズを一層美しく響かせる序奏になっている。この曲は今日ではピアノ独奏曲として演奏されることが多いようだ。

 今日の演奏会が始まる前と休憩時間中に2回調律師がピアノの調律作業をしていた。聴衆に「CFX」のピアノの素晴らしさを伝えたい仕事ぶり。ポジャノフの演奏の時には彼の特異な才気と派手なパフォーマンスで魅力はあったが、これほどの素晴らしい響きのピアノで弾いたという実感はなかった。
 ピアノリサイタルでは珍しいと思うが、上野はプログラムの最初から最後まで“譜めくりすと”を脇に置いて譜面を見ながらの演奏であった。暗譜で弾けるのであろうが、大学で楽譜に従って忠実に演奏する大切さを学生に指導していることの表れかもしれないと勝手に想像した。08年にイリーナ・メジューエワが譜面台に楽譜を置いて丁寧な演奏をしたことを思い出した。勿論、コンクールの審査員であったダン・タイ・ソンから最高の賛辞を貰えるピアニストだから当然の演奏とも言えようが、今夜の素晴らしい演奏の一因は「CFX」にあったことは間違いない。
 チラシ等での宣伝は目にしなかったせいもあってか、空席がやや目立った。ヤマハ関係の客やピアノを習っている小・中・高の児童、生徒が結構多くて若い人たちが比較的に多く聴きに来ていた。前半終了後に帰った人たちは多分招待客かなと推測したが、後半の素晴らしい表現力豊かなピアニストの演奏を聴き逃してもったいないと感じた。聴衆も親しみのあるベートーヴェンとショパンの曲を堪能して盛り上がった。

 アンコール曲はリストの「巡礼の年 第2年《イタリア》より ペトラルカのソネット第104番」とドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」。1曲目のアンコール曲は初めて聴いたかなと思ったら所有しているCDに曲があった。
 新しくなったコンサート・グランドピアノ「CFX」を使用しての上野真(Makoto Ueno)のリサイタルは期待以上に楽しめた。

 
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Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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