札響第606回定期演奏会(首席指揮者ポンマー最後の定期、共演は小菅優)

~北の自然と管弦楽がとけあう・・・「極北の歌」 札響初演~

ポンマーは札響首席指揮者に就任した最初のシーズンにフィンランドの作曲家、ラウタヴァ―ラ(1928-2016)の曲を定期公演で取り上げた。指揮者は30年ほど前に作曲家と知り合い、彼の交響曲をCDにする仕事を引き受けた。レコーディングにあたって彼と親交を深め、彼の作品が好きになって札響で紹介する機会を持った。作曲家も喜んでくれたそうだが、その吉報を得た後に逝去した。ポンマーは札響首席指揮者を退任する最後の定期演奏会で、北国の自然と深く関わり合うラウタヴァーラの作品を再度、演奏することになった。
Pommerはライプツィヒ出身でライプツイヒ音楽院に学び、小澤と共にカラヤンに師事した経歴を持つ。札響在任中にバッハ、メンデルスゾーン、シューマンなどライプツィヒと深く関わる作曲家やモーツァルト、R.シュトラウス、レ―ガ―の作品を数多く演奏した。3年間の首席指揮者在任中に札幌にバッハの伝統を作り上げたいという強い意志とドイツの音楽を伝えたいという伝道師のような働きをした。

小菅優は1983年、東京生まれ。93年にドイツに渡り、9歳でリサイタルを開き、オーケストラと共演したという。その後、音楽の才能を順調に伸ばしてヨーロッパで大活躍。世界各地の著名なオーケストラと共演を続け、05年にカーネギーホール・デビュー、06年にはザルツブルク音楽祭でリサイタル・デビュー。日本では、05年に自主リサイタルを開催し、サカリ・オラモ指揮フィンランド放送響と全国ツアー。07年4月広上指揮札響定期に初登場して、「ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番」を演奏。今回の札響共演は2回目。Kitaraには12年、シェレンベルガー指揮カメラータ・ザルツブルグとの日本ツアーのソリストとして、「モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番」を弾いて以来、6年ぶり3回目の登場。スケールの大きな演奏スタイルだが、繊細さも持ち合わせて、室内楽でも一流演奏家と共演を続けている。2010年から開始した日本でのベートーヴェン「ピアノ・ソナタ全曲演奏会」(全8回)を15年に完結。まだ30代半ばだが、日本を代表するピアニストとして名高い。札幌でリサイタルを聴きたいと願うピアニストである。

2018年1月27日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

 指揮/ マックス・ポンマー(Max Pommer)   ピアノ/ 小菅 優(Yu Kosuge)
〈Program〉
 ラウタヴァーラ:鳥と管弦楽のための協奏曲「極北の歌」(1972)
 モーツァルト:ピアノ協奏曲 第24番 ハ短調 K.491
 メンデルスゾーン:交響曲 第3番 イ短調 op.56 「スコットランド」

鳥の声を素材にした作曲家はメシアンが心に浮かぶが、ラウタヴァーラの音楽には北欧の澄んだ大気と大自然を感じさせるものがある。前回の「交響曲第3番」でも鳥の声を思わせる印象的な場面もあった。「極北の歌」は小鳥の鳴き声と生のオーケストラを共存させた作品。作曲家自身が北極に近い場所で渡り鳥の声を録音したという。録音された何種類もの鳥の声が和声のような響きとなり、オーケストラの演奏と混じり合って一つの音楽となる珍しい試みである。
銅鑼、ハープ、チェレスタも効果的に使われ、管弦楽の響きと調和して北欧の澄んだ空気と大自然の様子が不思議な感じで伝わってきた。

モーツァルトは交響曲も短調作品は2曲だけだが、ピアノ協奏曲も27曲中で短調の曲は2曲のみ。前回、小菅が弾いた「第20番ニ短調」と今回の「第24番ハ短調」は対をなす。予約演奏会のために作曲に追われる環境の中で、モーツァルトは充実した作品を書き続けた。この「ハ短調」の作品もピアノ協奏曲の傑作として知られる。当時の調性感覚を超えた技法で書かれ、美しい旋律が全編を覆う。カデンツァはモーツァルトは書いていないのでピアニストが自由に弾ける。モーツァルトはクラリネットという楽器を曲にあまり使わなかったと記憶しているが、ピアノ協奏曲第22、23,24番にはクラリネットを珍しく用いている。彼の後期3大交響曲(*ポンマーが札響600回定期で演奏)に通ずる内容を持った作品と言えるので、ポンマーが選曲にかかわったのかな(?)と余計なことを考えてしまった。
いずれにしても、緩徐楽章での木管とピアノの対話は美しかった。最終楽章のコーダも力強く、久しぶりで聴く小菅の非の打ちどこるの無いピアニズムに満足した。曲全体を通して、多様なリズム感、繊細な感情や深みのある華やかさなど曲を鮮やかに浮き出させていた。堂々たる演奏であった。ポンマーも満足そうであった。
会場から沸き起こる最大な拍手に応えて、アンコール曲は「メンデルスゾーン:ヴェネツィアの舟歌 第3番」。

※「ピアノ協奏曲第24番」の札響初演が1973年でピアノがラドゥ・ルプーと知ってビックリ。札響定期では76年にペライアが弾いている。前回の定期ではルケシーニが弾いたのは聴いていて記憶していた。特に70年代に海外の演奏家の日本ラッシュがあったようで、札響の記録にも、アルゲリッチ、ホリガー、フレイレ、ゴールウェイ、パールマンなど多くの著名音楽家の名が載っている。

1829年3月、バッハの死後初めて「マタイ受難曲」を再演指揮し、バッハ再評価の口火を切ったメンデルスゾーンはロンドンでの演奏会の後にスコットランドを旅した。その時に序曲「フィンガルの洞窟」と「交響曲第3番」の楽想を得た。番号の付いている交響曲は5曲であるが、「スコットランド」は完成までに13年の歳月を要して楽譜の出版が1842年になり、メンデルゾーン最後の交響曲になった。(*メンデルスゾーンは1843年にライプツィヒ音楽学校を設立。シューマンも作曲とピアノの教授として加わった。)

スコットランド特有の自然・文化を背景に5音音階や民謡的素材を生かしてメンデルゾーンがロマンティックな表現で音楽にしている。スコットランド民謡を素材にして造形された主題は魅力的である。バグパイプ風の感じもするスケルツォ。神秘的な雰囲気も描かれる曲はアタッカで切れ目なして演奏されるのが普通だと思っていたが、最終楽章の前にポンマーは休みを入れた。第4楽章はアレグロ・ヴィヴァチッシモでソナタ形式の終曲。凱歌が奏でられた場面はスコットランドの諸部族の争いの歴史を暗示するものであったようである。フィナーレとして聴きごたえがあった。ある程度イギリスの歴史や民族については知っているつもりだが、スコットランドが1707年までは独立した王国であって、現在もイギリスからの独立を目指しいることと曲が直ぐに繋がらないのが口惜しくもある。

来月3日の札響名曲シリーズにもポンマーは出演するが、首席指揮者としての定期は最後ということで、普段よりもオーケストラの首席・副首席奏者を含め楽団員全員に対する感謝の様子が伝わった。日本人らしい礼儀の正しさも身に着けておられる姿は指揮者としてだけでなく人間としての心の豊かさを感じ取れた。

※日本でイギリス、英国と呼ばれる国の正式名は“The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland”。略してU.K.。
England+Wales=Britain。Britain+Scotoland =Great Britain。Great Britain+Northern Ireland =United Kingdom。イングランドは国の一部で、人を表す語はそれぞれ Englishman, Welshman, Scotsman, Irishman と区別される。BritishはBritain、Great Britainに対応する。スコットランド人に対してEnglishmanという語は適切でない。狭い意味では男性語だが、女性はwomanにすると良い。一例を挙げただけであるが、それそれが英語以外に独特の方言、文化を持つ誇り高い民族である。フットボールの発祥地で現在のWorld Cupでも特別ルールが出来上がっているほどである。ゴルフの聖地がスコットランドであることも有名である。
シェイクスピアの時代のスコットランドは現代とは違って独立国だったのである。知っておいた方が良い知識もまだまだたくさん有ることを今回のコンサートを通して実感した。
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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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