服部百音 ヴァイオリン・リサイタル

服部百音という天才的ヴァイオリニストの名は彼女がティーンエイジャーになる前から耳にしていた。現今では4・5歳からピアノやヴァイオリンを始める子は珍しくなく、環境に恵まれて本人の才能・努力があればティーン・エイジャーで世界に羽ばたく演奏家も現れる時代である。ただピアノとヴァイオリンでは大人と互角に競える年齢に違いがあるようである。例えば、日本音楽コンクールのピアノ部門の最年少優勝者は高校生であるが、ヴァイオリン部門は中学生が快挙を成し遂げている。
服部の名が“もね”と呼ぶのに気づいたのは半年前のことで、それまでは“ももね”と覚えていた。11歳で世界デビューしていたことも、昨日のYouTubeの映像で知った。
日本の若手のヴァイオリニストの活躍が頼もしいと思う昨今であるが、今回のリサイタルは発表時から楽しみにしていた。プログラミングが魅力的で、難曲と思われる曲がずらりと並んで、聴いたこともない曲も数曲演奏されるのが愉しみを倍加させた。

服部百音(Mone Hattori)は1999年生まれで、8歳よりザハール・ブロンに師事(*ブロンはレーピン、樫本、ヴェンゲーロフなど世界的ヴァイオリニストを綺羅星のごとく育て上げている指導者)。09年ヴィエニャフスキ国際コンクールのジュニア部門で史上最年少優勝。13年ノヴォシビルスク国際ヴァイオリンコンクールでグランプリに輝き、15年にはアシュケナージ指揮EUユース管と共演し、16年にはマリインスキー劇場でも演奏、国内リサイタル・ツアーも行った。

2017年11月14日(火) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール
〈Program〉
 エルンスト:《夏の名残りのばら》による変奏曲
 プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第1番 ヘ短調 作品80
 エルンスト:シューベルトの《魔王》による大奇想曲 作品26
 ショーソン:詩曲 作品25
 マスネ:タイスの瞑想曲
 ジンバリスト:R=コルサコフの《金鶏》の主題による演奏会用幻想曲
 ラヴェル:ツィガーヌ

エルンストとジンバリストはヴァオリニストとして知っていたが、作曲家としての作品を聴くのは初めてだと思う。
エルンストはヤナーチェクと同じチェコ・モラヴィア地方のブルノ出身。神童としてウィーンでヴァイオリンを学ぶ。アイルランドの詩人、ムーアの詩による「夏の名残りのばら」は日本では「庭の千草」として知られている。いろいろな変奏で繰り返し馴染みのメロディも出てくるが、ピツィカートを使いながら演奏するテクニックは最高に難度の高いものに見えた。
曲は「無伴奏ヴァイオリンのための重音奏法の6つの練習曲」の中の第6曲。超絶技巧を駆使した曲に聴衆が魅了され、ブラヴォーの声が沸き起こった。

プロコフィエフが書いたヴァイオリン・ソナタ「第1番」は1938年に着手されたが、第二次世界大戦の混乱もあって再着手が1946年で、同年に完成してオイストラフ&オボーリンのコンビで初演され、スターリン賞を受賞した。
シゲティが弾くCDを所有していて、以前の演奏会の前にも聴いたことがあるが、今回は真っ白な状態でコンサートに臨むことにした。プロコフィエフらしい現代音楽の味がした。ヴァイオリンの持つ幅広い表現力が発揮され、ピアノのドラマティックな伴奏も力強く、ピアニストの実力も試される曲のように感じた。4楽章構成で演奏時間は30分ほどの聴き応えのある曲。

エルンストはパガニーニの影響を受け、彼の作品を上回るような超絶技巧が必要なヴァイオリン曲を次々と書いたといわれる。ゲーテの詩によるシューベルトのドラマティックなストーリーに沿ってヴァイオリン独奏用の作品に仕上げた。

ショーソンの「詩曲」は元々はヴァイオリンとオーケストラのための作品であるが、ふつうはピアノ伴奏で演奏される。演奏会で取り上げられる機会も多い。ツルゲーネフの小説「愛の勝利の歌」に基づく作品で、文学的要素がある。美しい調べをヴァイオリンが歌いまくる詩情に満ちた曲。

「タイスの瞑想曲」は30年ほど前に出勤の行き帰りにカーステレオで毎日のように聴いていた曲。珠玉の名曲集の小品には必ず組み込まれる曲で最も親しまれているヴァイオリン曲のひとつ。
マスネの歌劇「タイス」に出てくる間奏曲だが、単独の名曲として知っているだけで、オペラは観たことがない。

ジンバリストはロシア生まれのヴィルトゥオーゾで、後年アメリカに移住。来日公演も度々重ねた。リムスキー=コルサコフのオペラ《金鶏》はタイトルも今まで知らなかった。「演奏会用幻想曲」はオペラ音楽の編曲作品。今回のプログラムの解説を読んで寓話の内容も初めて知った。
ヴァイオリンとピアノのための演奏会用幻想曲は冒頭のファンファーレの部分から始まって、オペラのストーリーを追う形で音楽が進んだ。10分程度の曲だが、難曲と思える演奏技術をスピード感をもって軽々と弾きこなす力は何とも凄い。

最後の「ツィガーヌ」はヴァイオリン独奏部による情熱的な長い導入部があって無伴奏ヴァイオリン曲のよう。ハンガリーのロマ(ジプシー)のヴァイオリニストの即興演奏を思わせる部分。超絶技巧を要する作品でヴァイオリニストの力量や個性が表れる作品。後半にピアノも入る幻想的なパートも印象的だった。

聴衆からため息が出るような感動的な演奏が繰り広げられた。ピアノ伴奏を務めた三又瑛子(みまた あきこ)も好演。
アンコール曲は「イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番 第4楽章」。

今回のリサイタルはヴァイオリニストが演奏したい曲を自ら選曲して開催されたように思えるが、私個人としては素晴らしいプログラミングに感謝したい。これほどワクワク感と満足感を覚えたヴァイオリン・リサイタルも珍しい。
服部百音は11月の国内公演を1日にN響コンサートでスタートして、井上道義指揮でチャイコフスキーの協奏曲を演奏。その後、リサイタル・ツアーを名古屋、大阪、札幌、東京で開催。来年以降の来札を期待したい。

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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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