大平由美子ピアノ・リサイタル

大平由美子のピアノ・リサイタルを聴いたのは2010年に続いて2度目ではないかと思う。その間に札響チェロ首席奏者石川祐支とのデュオ・リサイタルは2度ほど聴いてブログに書いたことはある。
彼女は東京藝術大学卒業後はドイツに渡り、ベルリン芸術大学卒業。ベルリン芸術大学で講師を務めながら、20年もヨーロッパ各地で多岐にわたる演奏活動を続けて2008年に帰国。現在は札幌在住で新たな室内楽活動の幅も広げている。

2017年9月8日(金) 7:00PM開演  札幌コンサートホールKitara小ホール
〈Program〉
 J.S.バッハ(ペトリ編):「狩のカンタータ」BWV208より“羊は安らかに草を食み”
 J.S.バッハ(ケンプ編):コラール前奏曲「来たれ、異教徒の救い主よ」BWV659
 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 Op.109
ショパン:舟歌 嬰ホ長調  Op.60
シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D960(遺作)

バッハの2曲のタイトルは知っていて2・3回聴いたことはあったが、編曲で聴くと印象が違った。好みの問題だろうが、原曲の方が味わいがあると感じた。ピアニストのプログラム・ノートでの解説は参考になった。“羊は安らかに草を食み”は領民を羊、領主を羊飼いに例えたクリスティアンの善政を讃える歌だという。コラール前奏曲とは教会の礼拝で歌われる讃美歌の導入として演奏されるオルガン曲。

ベートーヴェンの「第30番」は冷静に彼自身の心に問いかけた内省的な曲として知られる。落ち着いた美しいソナタで、特に第3楽章が印象的だった。主題と6つの変奏から成り、最後に主題が奏でられて閉じられた。非常に味わい深い曲として聴けた。

ショパン唯一の「舟歌」はメンデルゾーンが書いた数曲のヴェニスのゴンドラの歌とは異なる趣のあるメロディアスな曲。ただ単なる情景描写ではなく、水の流れが激しくなる描写などではショパンの内面をも表現しているように感じられた。この曲はショパン晩年の傑作として演奏機会も多く親しまれている。曲の素晴らしさにはいつも心を奪われる。前半最後の曲で心地よさに身をゆだねた。

今日の演奏曲目で一番期待していたのがシューベルトの最後のソナタ。5年前にラドゥ・ルプーの演奏でこの曲に魅せられ、3年前には田部、今年の春は小山の演奏で曲の素晴らしさに惹かれた。歌曲王として認識はしていたがシューベルトのピアノ曲の良さが分るようになってまだ数年である。死の2ヶ月前に書いたとは思えない歌心のある見事な魅力あふれるピアノ曲。豊かな詩情だけでなく、孤独感や移り行く心情などが綴られた音楽が気高く、美しく聴く者の心に響き渡った。
大平は7年前のリサイタルで「第19番」を弾いていた。繊細で深みのある落ち着いた演奏ぶりには強い印象を受けていた。今回は彼女の集大成として演奏するのだろうかと予想していた。「第21番」は期待通りの演奏で会場を埋めた聴衆の喝采を浴びた。

ピアニストは40分強の大曲を暗譜で弾くのは大変だったと率直に語った。10年前のKitaraでのリサイタルの後に自宅で手を骨折してベルリンに復帰するのを断念して札幌に留まることになった経緯は初めて知った。結果的に、素晴らしい音響を持つKitaraで演奏する機会が増えたことで現在の喜びに繋がったようで、今後も札幌での演奏を続けていく心構えを力強く話した。
彼女のような経験豊かな実力のある演奏家が地元で活躍してくれることは嬉しいことである。

アンコールに「シューベルト:楽興の時 第3番」と「シューマン:トロイメライ」。帰りのホワイエはサイン会に並ぶ多くの人々でコンサートの余韻が漂っていた。

※Kitaraボランティアは80数名の会員がいてダイレクトメールの発送作業以外の活動も行っているが、編集部は月1回“Symphonia”を発行してKitara Club会員にも配布している。大平由美子さんは10年前から5・6年に亘って編集部の依頼で《ベルリン通信》、《ベルリンの思い出》のタイトルで寄稿していた。今回のコンサートの前に手元に保管してある“Symphonia”に寄せた10回ほどの寄稿文を読み返してみた。「カラヤン チケット争奪戦」や「ベルリンの壁の崩壊」など当時のベルリンの情報を楽しく読んだ記憶が蘇った。1990年前後のベルリンの音楽事情の一端を知れて面白かったが、記憶に残っていない記事も改めて再読できて良かった。学生時代は彼女はシューマンのソナタを得意としていて、歌曲は当時の世界の最高峰の歌手フィッシヤー=ディスカウに習い、彼やシュワルツコップのマスタークラスに出て身近に特別なレッスンを受けていたことも知った。
彼女のコンサートを聴き続ける上でもモティヴェーションが高まる情報であった。

 
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

最新記事
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム
最新コメント
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR