木野雅之 ヴァイオリンの魅力 Vol.8

木野雅之は日本フィルのコンサートマスターを務めていた20年以上前から札幌には毎年来ていたのだろうが、彼の師イヴリー・ギトリスの2回目のKitaraでのヴァイオリン・リサイタル(2007年)の折に、ギトリスのサポートで共演していたのが切っ掛けで木野のコンサートに通うようになった。(*1922年イスラエル生まれの世界的なヴァイオリニストのギトリスは毎年のように東京公演を開催)。木野のリサイタルは09年から聴き始めて、14年から連続して聴きに来ている。「木野雅之を聴く会」の主催でKitara公演も8月恒例の演奏会になっている。彼のプログラムは定番の曲が少なくて未知の曲が多いのが魅力である。

2017年8月16日(水) 7:00PM 開演 札幌コンサートホールKitara小ホール
〈Program〉
 ストラヴィンスキー(ドゥシュキン編曲):田園
 グラナドス:ヴァイオリン・ソナタ
 チャイコフスキー:懐かしい土地の思い出 OP.42
 シマノフスキー:ロマンス ニ長調 OP.23
 シベリウス:6つの小品 Op.79
  ヴュータン:ファンタジア・アパッショナータ Op.35

今回のプログラムで知っているのはチャイコフスキーの曲だけで、珍しい曲が多いのに興味を抱いた。
ストラヴィンスキー(1882-1971)が25歳の若い時に書いた歌曲が、その後ヴァイオリン奏者ドゥシュキンの協力を得て「ヴァイオリンとピアノのための曲」に編曲された。時代を反映して現代的な音作りで、3分程度の独特な曲で面白かった。

グラナドス(1867-1916)はスペインを代表する作曲家。昨年が没後100年、今年は生誕150年で演奏会で取り上げられる機会が増えているように思う。スペイン舞曲集などのピアノ曲を多く耳にする。このヴァイオリン曲はフランスの名ヴァイオリニストであるジャック・ティボーに献呈されたと言われ、フランス風の雰囲気を漂わせる曲に仕上がっていた。単一楽章のソナタだが、ピアノ(藤本史子)もなかなかの好演だった。第2楽章以降は未完に終わったらしいが、ヴァイオリンとピアノの掛け合う曲想は聴きごたえがあった。

チャイコフスキー(1840-93)の《懐かしい土地の思い出》は彼の支援者メック夫人の所有するウクライナを指すらしい。曲は「瞑想曲」、「スケルツォ」、「メロディ」の3曲から成る。第3曲「メロディ」はレーピンとMidori のCDで何度かその旋律に親しんでいる。第1曲「瞑想曲」は昔のスラヴ音楽の特徴が入った旋律でロシアの色彩がどことなくある感じがした。グラナドスがオーケストラ用に編曲したほど魅力的な調べ。第2曲は軽快なテンポでピッツイカートも入ってスケルツォらしいムード。第3曲は単独で演奏されることもある親しまれた「メロディ」。優美なメロディに溢れた組曲は実にチャイコフスキーらしい作品で心地よい気分に浸った。

シマノフスキー(1882-1937)はポーランド出身の作曲家として名前は知っていたが、作品は殆ど知らない。プログラムの解説によると、現ウクライナに領地を持つポーランド貴族の家庭で育った環境で、彼の作風は後期ドイツロマン派、印象主義の影響を受けたようである。「ロマンス」は流麗でロマンの香り漂う小品だった。

シべリウス(1865-1957) の管弦楽曲は親しんでいるが、ヴァイオリン曲は協奏曲しか聴いたことがない。シベリウスはベルリン・フィルのヴァイオリン奏者を目指して努力を積み重ねたが、試験の場では緊張して実力を発揮できずに作曲家になったという話はよく知られている。ヴァイオリン曲は協奏曲以外にはCDも持っていなくて小品を今までコンサートで聴く機会も全然なかったように思う。木野の話によると、シベリウスが作曲家の道を選んでくれたお陰で、彼は数多くのヴァイオリン曲を書き残してくれた。
「6つの小品」は50歳ころに書かれた作品。①思い出 ②メヌエットのテンポで ③特徴的なダンス ④セレナード ⑤田園風舞曲 ⑥子守唄。フィンランドの自然や情景に寄せるシベリウスの想いが美しく表現された小品集。
ヴァイオリンのヴィルトオーゾへの憧れもあってか技巧的にも工夫が凝らされヴァイオリンが活躍する場面が目立った曲作り。シベリウスの交響曲や管弦楽曲などにも共通する美しい調べが豊かで、それぞれのタイトルから連想できる雰囲気を感じ取りながら演奏を聴いた。

ヴュータン(1820-81)はベルギー生まれで幼くして演奏会デビューを果し、ヴィルトオーゾ・ヴァイオリニストとしてヨーロッパ各地で華々しく活躍。作曲家として彼の名を知ったのは15年ほど前のことで、韓国の世界的ヴァイオリニストのチョン・キョンファのCDを通してだった。ローレンス・フォスター(*97年N響札幌公演でKitara登場)指揮ロンドン響&Kyung・Whaの「ヴァイオリン協奏曲第5番」。昨日のコンサートに先立って単一楽章のこの曲を何年振りかで聴いてみた。
ヴュータンの作品はパリ音楽界だけでなく、ロシアやアメリカでも評価されたらしい。
「ファンタジア・アパッショナータ」(熱情的幻想曲)は1860年ころのロシア滞在中に書かれ、元は管弦楽とヴァイオリンのための作品。この解説を読んでヴァイオリン協奏曲第5番との繋がりも感じれた。3部から成る曲で“情熱的で華麗な”ヴァイオリン・ソナタ風の曲だった。躍動感に溢れ、ヴァイオリンのヴィルトオーゾらしい高度な技巧も散りばめられて、フィナーレがタランテラで魅力的な終曲となった。

小ホールの1階だけが使われ、客は200名強だった。小学生低学年の子どもとその母親たちの姿が目立った。元気な男の子は演奏前や休憩時間中にあちこち動き回っていたが、演奏中は静かにして集中力を高めて音楽を聴いていた。音楽教室に通ってヴァイオリンを習っている子供たちのようだった。コンサートだけでなく、支援者との交流の機会も設けている様子がうかがえた。
毎年一度の演奏会は真夏の大阪や熊本と比べて北海道の涼しさは一服の清涼剤になっている様子。演奏会のチラシで曲目解説が載っているので、最低限必要なトークを交えてのコンサートは個人的には聴きに来やすい。
耳にする機会の少ない珍しい曲ばかりだったこともあって、アンコール曲は「サラサーテ:チゴイネルワイゼン」。盛大な拍手に応えて、アンコールにもう1曲「パガニーニ:カンタービレ」。
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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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