PMF GALAコンサート2017(ゲルギエフ指揮「ザ・グレイト」他)

PMF GALA コンサートが2012年にスタートしてから6年目に入った。ガラ・コンサートにはPMFオーケストラ・Cプログラムが含まれるが、以前は独立していた。Cプログラムも2公演で会場はKitaraと芸術の森。必ず、どちらかには参加していた。14年と15年は両方に出かけていた。昨年は事情があって両方のコンサートに行かなかった。その後、PMFオン・デマンドでプログラムCがハイビジョン映像でストリーミング配信されて幸い楽しむことができた。何よりもカヴァコスの演奏を聴き逃したのが残念に思っていたので、何とか気持ちが晴れた。

2017年7月29日(土) 15:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
【第1部】
①モーツァルト:エクスルターテ・ユピラーテK.165から“アレグロ”、“アレルヤ”
 〈出演〉天羽明恵(ソプラノ)、ダニエル・マツカワ(指揮)、PMFオーケストラ

ガラ・コンサートが始まった当初から司会(MC)はソプラノ歌手の天羽(Amou)が務めている。歌のタイトルには「踊れ、歌え」のような意味があるらしい。“アレルヤ”は1937年のアメリカ映画「オーケストラの少女」で歌われたらしい。天羽自身は詳しく知らないと話したが、映画のタイトルから当時のフィラデルフィア管弦楽団指揮者レオポルド・ストコフスキー(1882-1977)のことを思い出した。彼は映画に出演していたが、指揮棒を使わないで両手の指を使って指揮する指揮者として有名であった。学生時代(たぶん1960年)に札幌狸小路の名画座で鑑賞した記憶がある。曲が馴染みだったわけではないが、何となく親しみを感じる音楽だった。天羽の歌の上手さは言うまでもない。

日系アメリカ人のMatsukawaはフィラデルフィア管の首席ファゴット奏者でPMFには2001年以降17回目の参加。09年から指揮活動も活発に展開している。司会の天羽がマツカワに日本語でインタヴュー。マツカワは“モーツァルトを聴くとIQが高くなる”と真面目に持論を語った。

②モーツァルト:弦楽五重奏曲第5番 ニ長調 K.593 から第1・4楽章
 〈出演〉ライナー・キュッヒル(ヴァイオリンⅠ)、伊藤瑳紀(ヴァイオリンⅡ)、
       Nayoung Kim (violaⅠ)、 Zhongkun Lu(violaⅡ)、Ryan Donohue(cello)

2年前にもアカデミー生と室内楽を演奏したキュッヒルは今年も楽しそうに一緒に演奏していた。共演のアカデミー・メンバーにとっては一生の財産になることであろうことは疑いない。天羽もそんな印象を話していた。
キュッヒルは前半のファカルテイの活動を終えた後も、PMFに関わって帯広や苫小牧での演奏活動を行い、司会者のインタビューに日本語で答えて来年のバーンスタイン生誕100年にもPMFに参加すると力強く話した。多分、PMF30周年の再来年も来札が続きそうである。

③ヴォーカル・アカデミーによるオペラ・アリア
 〈出演〉黒田詩織(ソプラノ)、アンナ・ミガロス(ソプラノ)、サミュエル・ヒンクル(バリトン)、チョンファ・キム(バリトン)、PMFピアニスト岩淵慶子
今年のヴォーカル・アカデミー生は4名。 担当教授はイタリア出身で世界の一流歌劇場で活躍したガブリエラ・トッチで2015年以降3回目の参加。日本公演でのマリオ・デル・モナコとの共演に触れて天羽が興奮した様子でTucciを紹介していた。彼女ははイタリア語の通訳を介して札幌の素晴らしさを語った。
 〈曲目〉ベッリーニ:歌劇『清教徒』から「ああ、永遠にお前を失ってしまった」(Samuel Hinkle)
      プッチーニ:歌劇『ボエーム』から「あなたの愛の呼ぶ声に」(Anna Migallos)
プッチーニ:歌劇『トゥ-ランドット』から「お聞きください、王子様」(Shiori Kuroda)
ヴェルデイ:歌劇『マクベス』から「あわれみも、誉れも、愛も」(Chonghwa Kim)

4人ともに歌の持ち味を生かして、それぞれ素晴らしい歌声を披露した。フィリピンとアメリカの国籍を持つマガロスは体躯を生かした堂々たる歌声が印象に残った。韓国のバリトンも恵まれた体躯で難曲と思われる変化のあるアリアを圧倒的な熱唱で聴衆を魅了して一段と大きな喝采を浴びた。

④PMF賛歌~ジュピター~(ホルスト/田中・カレン編、井上項一作詞)
 〈出演〉ワレリー・ゲルギエフ(指揮)、PMFオーケストラ、札幌大谷大学合唱団

恒例の聴衆を巻き込んでのPMF賛歌の斉唱は6回目ともなると慣れてきている人が多くなった。このプログラムはそれなりに充実感が湧くが、第1部が時間厳守で余計なトークが減ってスムーズに流れたとはいえ、GALA・CONCERTの内容は少しマンネリ化した感は否めない。

【第2部】
 〈演奏曲目〉
  ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲(ドレスデン版)
  ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26
          (ヴァイオリン独奏:ダニエル・ロザコヴィッチ)
  シューベルト:交響曲 第8番 ハ長調 D.944 「ザ・グレイト」

歌劇『タンホイザー』は13世紀の初頭ワルトブルクの城を背景に騎士タンホイザーと城主の娘エリザベートの悲恋物語。愛の女神ヴェーヌスと清純な女性の間で揺れるタンホイザーの精神的葛藤とお互いの激しい愛の闘争。「序曲」ではこの物語の内容が描かれる。
「巡礼の合唱」として名高い聖歌で始まるが耳にする機会が多く親しまれているメロディが次々と出てくる。夜の世界の狂乱と朝の巡礼の聖歌の響きが対照的である。この序曲のメロディは有名でもコンサートで近年耳にしたのは第12代Kitara専属オルガニストのオルガン演奏を通してであった。トロンボーン3本の勇壮な音を含めて久しぶりに壮大なオーケストラ曲を楽しめた。

ブルッフ(1838-1920)は19世紀後半を代表するドイツの作曲家のひとりであるが、現在では演奏機会の多い曲として「ヴァイオリン協奏曲第1番」と「スコットランド幻想曲」が有名である。「ヴァイオリン協奏曲第1番」はPMF2013でレーピンが同曲を演奏した。今回の演奏で日本デビューを飾った弱冠16歳のロザコヴィッチは聴衆全員の耳を虜にした。曲全体のメロディが生き生きとして美しい。カデンツァにも若いエネルギーがほとばしる。彼の奏でる音がまるで歌のような優しさでホールに広がった。
Daniel Rozakovichは2001年ストックホルム生まれ。10年にスピヴァコフ指揮モスクワ・ヴィルトオージ室内管と共演というから天才児。以降、王立ストックホルム管、モスクワ・フィルなどヨーロッパ全域のオーケストラと共演を重ね、ヴェンゲーロフやギトリスと室内楽でも共演している様子は驚くばかりである。
演奏終了後の割れんばかりの聴衆の拍手に応えてアンコール曲に「バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番より“アルマンド”を弾いた。ゲルギエフが2年前と同じようにステージ下手で彼の演奏を聴いていたのが印象的でもあった。

※今回初めてロザコヴィッチの名を耳にしたが、ゲルギエフの様子を見ていて思い出した。ゲルギエフはソ連時代の1987年にレ-ピンとキーシンを西側諸国に先駆けて日本に彼らをデビューさせた。彼らは共に1971年生まれで当時15歳であった。Kitaraにもロシアの若手をどんどん連れてきていたことを思い出した。ロザコヴィッチはスウェーデン生まれであるがロシアとのつながりが深いのは彼のプロフィールから判る。優れた音楽家を日本に次々と紹介してくれることは嬉しい。

昨日のメイン・プログラムはシューベルトの第8番。「ザ・グレイト」をPMFで聴くのは10のきょうそう年ぶりのことで、前回はムーティがKitaraに初登場した2007年だった。ゲルギエフはロンドン響、マリインスキー劇場管を率いて何度もKitaraに登場してロシアものを演奏し続けていたが、近年は必ずしも拘っていない。現在はミュンヘン・フィルの首席指揮者も兼任していて、あらゆる曲を指揮しているのは当然であろう。彼はマリインスキー劇場でコンサート、オペラ、バレエに全て対応している。トランス・シベリア芸術祭にも関わっていて、来年オープンする札幌文化芸術劇場にも将来出演することも期待できる指揮者である。彼は世界を股にかけて八面六臂の活躍をしていた時期もあったが、指揮界ではカリスマ性を持つ偉大なマエストロとの評価が高い。

シューベルトの集大成となった「The Great」は文字通り偉大な交響曲と実感して、最近は聴いていて惚れ惚れする気分になるお気に入りの曲になっている。
第1楽章アンダンテはホルン2本で始まるノーブルな感じのイントロが気分を高揚させる。クロアチア民謡に由来するらしい調べも印象的。第2楽章アンダンテ・コン・モートはオーボエが奏でるメロディが歌謡的で実に美しい。第3楽章スケルツォ、アレグロ・ヴィヴァーチェはオーボエ、フルートなど管楽器の美しい響きが心を踊らす。長大なスケルツォとなっているが、シューベルトが亡くなる直前に完成された曲として4楽章がほぼ同じ長さで各楽章が念入りに描かれた巧みな構成力がうかがえる。第4楽章は壮麗で華やかな終楽章。オーボエ(*サンフランシスコ響首席イゾドフ演奏)の美しさがここでも際立ったが、トロンボーンが全曲で使われているのも目立って印象に残った。リズム感のある歌謡性に富んだ曲作りは歌曲に優れた作品を数多く書いたシューベルトならではの歌心に満ちたオーケストラ曲になっていた。曲が終わって“GREAT”と心で叫んだ。満足のいく席から、演奏者の姿も視線に入れながら曲を堪能した。

ゲルギエフのタクトは第1部最後の「PMF賛歌」からオーラを放っていたが、第2部の全3曲で期待通りの指揮ぶりだった。身体全体を使ってのダイナミックなタクトもエネルギッシュで疲れを知らない超人的な指揮者ぶりを遺憾なく発揮していたのは良かった。

昨日の座席は2階CB3列15番。ステージ全体が見渡せ各奏者の動きが判って曲の醍醐味を味わえた。友人は予め隣り合わせのチケットを購入していたが、当日は偶然にKitaraボランティアが隣り合う席になり休憩時間中に話ができて良い交流となった。彼とはホワイエで今までに何十回も会っているが大ホールで座席が隣り合う確率は極めて低く珍しいことだと思って一層楽しくて思い出に残るコンサートになった。

今年は7回PMFのコンサートに通って楽しんだ。天候に恵まれれば本日のピクニックコンサートに出かけるつもりはしていたが、無理はしないことにした。会場で録画中継をしていたが、たぶん昨年と同様にPMFオン・デマンドで10月初旬にはパソコンで観れるのではと予想している。今頃、ピクニックコンサートで演奏中だろう。今日はアカデミー・メンバーだけで演奏しているはずだが、続く川崎・東京公演で有終の美を飾ってほしい。
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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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