千住真理子ヴァイオリン・リサイタル

千住真理子のヴァイオリン・リサイタルを聴いたのが彼女のデビュー35周年記念として開催された2010年だった。史上最年少の15歳で優勝した日本音楽コンクールで全国的な脚光を浴び、20世紀後半までに国際的な活動をしていた。2012年にストラディヴァリウス「デュランティ」を手にしてから彼女は一層積極的な活動を始めた。
12歳でN響デビュー、87年ロンドン、88年ローマ・デビューして、日本国内ではプラハ響、ベルリン室内管、スーク室内オーケストラ、ワルシャワ国立フィルなど海外オーケストラのソリストとしての活躍が比較的多かった。そのようなコンサートのタイトルが〈千住真理子&うんぬん〉と銘打たれるほど彼女の知名度は高い。4大ヴァイオリン協奏曲の他にリサイタルで弾かれる小品も含まれる演奏会もあったが、今回のリサイタルを聴くのは7年ぶりで2回目だった。

2017年6月23日(金) 7:00PM開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
 〈Program〉
  J.S.バッハ:アダージョ(無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番より)
  モーツァルト:アンダンテ・グラティオーソ~トルコ行進曲
  ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」
  ブラームス:ハンガリー舞曲第1番
  ドヴォルザーク:我が母の教え給いし歌
  メンデルスゾーン(ハイフェッツ編):歌の翼に
  アイルランド民謡(クライスラー編):ロンドンデリーの歌
  岡野貞一(朝川朋之編):故郷
  サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン

コンサート活動以外にも、著書を出版したり、講演会やラジオのパーソナリティーを務めるなど知性的で多才ぶりを発揮して好感度大のヴァイオリニスト。彼女の言葉によると“憧れのKitara”でのリサイタルの演奏曲目はKitaraホールの素晴らしい響きを生かすように慎重に選んだようである。語り慣れた話し方で曲の解説などを織り交ぜながらコンサートを進めた。(*予備知識があるので彼女の話は大部分は理解できたが、マイクの使い方が良くなかったのか、1階6列正面席にもかかわらず耳のせいもあってか7割程度しか聴きとれなかったのは残念であった。)

バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番第1楽章のみの演奏は初めてかもしれない。「アダージョ」と言っても直ぐピンと来ていなかった。幻想的、即興的な調べでコンサートのスタートに相応しい壮麗な世界が広がって非常に良かった。

2曲目はピアノ曲として親しんでいるが、「アンダンテ・グラティオーソ」が第1・2楽章のどちらかが分からなかった。第3楽章は短くて有名なメロディ。ヴァイオリン曲として聴いたことがなく、第1楽章は長大で、どのように編曲してあるのかワクワクしていた。結果的には第1楽章の主題と6つの変奏のうち主題だけが取り上げられ、トルコ風な第3楽章がメインの編曲になっていた。演奏者自身か兄が編曲に関わっていたのかもしれない。トルコ軍楽隊の行進が超絶技巧を駆使した力強い音楽のリズム・パターンとなって繰り返し反復されて楽しい見事な演奏だった。
演奏終了後にブラヴォーの声が上がるほど聴衆を歓喜させた。

前半最後の曲がメインとなるヴァイオリン・ソナタ。ブラームスは「ヴァイオリン・ソナタ」を3曲しか遺していないが、3曲とも名曲で味わい深い。曲にタイトルが付く「第1番」はブラームス自身の歌曲「雨の歌」の主題をそのまま用いているための呼称。
穏やかに語りかけるように始まる美しいメロディ。ピアノとヴァイオリンの対話で愛情あふれる親密な雰囲気が生み出される。雨を背景にして様々な感情の動きも読み取れる。
この曲の演奏では樫本大進とリフシッツの名演が思い出される。デュオと違って千住に視点が偏りがちだが、ピアニストも好演だった。

ピアニストの丸山滋は東京藝大大学院修了後、ミュンヘン音楽大学に学ぶ。コンクールで歌曲伴奏特別賞を受賞するなど国際的経験を積む。97年国際歌曲コンクール(東京・大阪)で優秀伴奏者賞を受賞。2014年Kitaraで開いたリサイタルで札幌市民芸術祭大賞を受賞。現在、東京藝術大学非常勤講師。

プログラムの後半は珠玉の名曲小品集。千住は各曲の演奏前に解説を加えながら演奏した。
◎ブラームスがハンガリーの民族色の濃いジプシー音楽をピアノ連弾用に書いた作品が原曲。
◎ドヴォルザークの歌曲集「ジプシーの歌」の第4曲が原曲。4年前に母を亡くした千住が想いを込めて弾いた。
◎メンデルスゾーンがハイネの詩に曲をつけた歌曲が原曲。
◎ロンドンデリーとはアイルランドの州の名前。英国の北アイルランドでは事実上の国歌として扱われているという。「ロンドンデリーの歌」には様々な歌詞によって歌われているが、「ダニー・ボーイ」が最も有名である。

◎唱歌「故郷」は大正時代以降、日本の自然風景の象徴的な歌として親しまれているが、東日本大震災後は特にコンサートなどで歌われる機会が増えた。高野辰之作詞、岡野貞一作曲の唱歌は、他に「春が来た」、「春の小川」、「朧月夜」、「もみじ」などがある。昨日の演奏はクラシック風の編曲によるもので、千住が個人的に委嘱してヴァイオリン曲に編曲してもらったらしい。
◎プログラムの最後を飾るに相応しい技巧の限りを尽くした超絶技巧の連続の曲。名手サラサーテならではの名曲。「ツィゴイネルワイゼン」とはドイツ語で「ジプシーの歌」の意。情熱的で哀愁を帯びた第1部、甘美で抒情的な第2部、急速で技巧的、華麗な第3部から成る。
曲の途中で弱音器をつけ、また外す場面をヴァイオリニストが演奏前に解説で説明してくれた。今まで何回もこの曲を聴いているが、弱音器をつけた時の音が急に変わったので直ぐに反応できた。弱音器を落として華麗な第3部に入る様子を観察出来て非常に興味深かった。
演奏終了後に千名以上の客席を埋めた聴衆の大歓声は凄かった。

拍手大喝采に応えてのアンコール曲は3曲。①マスネ:タイスの瞑想曲 ②クライスラー:愛の喜び ③バッハ:G線上のアリア。
マイクなしだったが、地声の曲の紹介は全て聴きとれた。安らぎを感じる曲ばかりで名曲に浸った。
周囲で“素晴らしかった”と声を上げる女性があちこちで見られた。帰りのホワイエにはサインをもらう人の列が長くつながっていた。
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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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