ドゥネーヴ指揮ブリュッセル・フィル管withモナ=飛鳥・オット

《Kitaraワールドオーケストラシリーズ》

ベルギーのオーケストラのKitara公演は初めてだと思う。1935年創立の国立放送交響楽団が前身。フランドル系とフランス系の放送局が別々にオーケストラを所有して複雑なようである。2008年にブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団(Brussels Philharmonic )となり、2015年9月にステファヌ・ドゥネーヴが音楽監督に就任して世界の注目を浴びるオーケストラとして来日公演に繋がったらしい。近年のツアーでは、ウィーン、ベルリン、ロンドン、パリの檜舞台で大成功を収めているという。

ステファヌ・ドゥネーヴ(Stephane Deneve)は1971年フランス生まれ。88年サイトウ・キネン・オーケストラで小澤征爾のアシスタントを務め日本のオーケストラへの客演も増えた。2003年新日本フィルを指揮して日本デビュー。その後、都響やN響などとも共演。
11年シュトゥットガルト放送響首席指揮者として13年に来日公演し、14年フィラデルフィア管首席客演指揮者に就任、15年ブリュッセル・フィルハーモニー管首席指揮者に就任。15年のN響と客演した「ラヴェル:ボレロ」は反響を呼んだという。

2017年6月12日(月) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
〈Program〉
 コネソン:フラメンシュリフト(炎の言葉)
 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 「皇帝}(ピアノ:モナ=飛鳥・オット)
 ドビュッシー:交響詩「海」
 ラヴェル:ボレロ

指揮者が指揮台に上がって演奏を始める前に、ヴァイオリン奏者一人を呼び寄せ挨拶があった。指揮者より先に女性が“Good evening.”、続いてドゥネーヴが“こんばんは”。予想外の演出に会場に笑いが起こった。あとは、ドゥネーヴの英語と通訳の日本人奏者(*オーケストラには日本人奏者2人が在籍)のプレトーク。
コネソン(1970- )は初めて名を聴く現代音楽作曲家。ベートーヴェンを尊敬し、「運命」と同じ楽器編成で管楽器と弦楽器を対比させてリズミカルな作曲要素を高い次元に高めようとした曲。漠然としてハッキリした意図は理解できなかったが、曲として違和感のあるものではなかった。ドイツ・グラモフォンからリリースされCDにも入っていて購入の宣伝もしていた。

ここ2年ほどはベートーヴェンの「皇帝」が演目になっていて聴く会が多い。モナ=飛鳥・オットは白いドレス姿で颯爽と姿を現した。技巧的で華やかな曲を最初から最後まで聴衆の耳を釘付けにした演奏はこの上なく魅力的であった。鍵盤の上を彩る手の動きや打鍵の強弱で曲が絢爛豪華に彩られた。カデンツァも含め見事な集中力で弾き切り、演奏を聴き惚れた。最初から最後まで40分弱のドラマが見事に展開され、ベートーヴェン魅力満載のコンチェルトを堪能した。最近の「皇帝」では最も気に入ったベートーヴェンのピアノ協奏曲になった。陰から支えたオーケストラとドゥネーヴの指揮ぶりが貢献したことも確かであろう。

ブラヴォーの声も上がり大拍手に包まれて、モナはアンコール曲に「リスト:巡礼の年 「ヴェネツィアとナポリ」(第2年補遺)より“カンツォーネ”。右手と左手で同時に違うリズムを刻む難曲を見事な技で披露して聴衆の度肝を抜いた。(*姉アリスと同様に素足で登場する姿は、性格は違っていて演奏スタイルも別であるが、姉妹でやはり似ていると思った。)

後半はこのオーケストラに期待したフランス音楽。13年前に聴いたベルリン・フィルの「海」の印象は強く残っていない。(*その時は現在ほど鑑賞力が高まっていなかった所為もある。)PMF2017 でアクセルロッド指揮で聴いた時には心構えができていてドビュッシーの音楽に浸った。
葛飾北斎の浮世絵の影響も受けてイメージしたと思われる海の情景がフランス音楽の印象主義作曲家ドビュッシーによって描かれた。第1曲「海の夜明けから真昼まで」はゆったりとした低弦の響きに2台のハープが応える薄あかりで始まり、絵画的で光の増大の様が感じられた。第2曲「波の戯れ」は風と泡の動きが弦や管で表現され、ハープの響きも神秘的であった。第3曲「風と海との対話」はティンパニと大太鼓のトレモロに始まり、変容する海の風景が描かれる。風の弦と海の管が対話しているように思えた。第1曲に出てきた讃美歌らしいモチーフが入って、熱狂的なトッティでフィナーレ。
今までにない色彩豊かなオーケストレーションで作り上げられた音楽をドゥネーヴは堂々とした体躯を生かした大きな指揮ぶりで繊細な音楽を鮮やかに彩った。

最終曲「ボレロ」は2014年のケント・ナガノ指揮モントリール響で堪能して以来、初めて聴く。バレエ音楽「ボレロ」は1990年にジョルジュ・ドンと東京バレエ団創立25周年記念特別札幌公演で観た神の踊りが忘れられない。
ドビュッシーと共にフランス印象派音楽を代表するラヴェルは生涯に5曲のバレエ音楽を書いたが、1928年に完成された「ボレロ」は最後を飾る傑作である。
このバレエ音楽は主題、副主題、小太鼓が絶え間なく刻み続けるリズム・パターン、という3つの要素だけから成る。ボレロはスペイン起源のダンス。バレーのストーリーはセヴィリアの酒場で一人の踊り子が最初は静かに、そして次第に興奮して激しく踊りだし、酒場の客も一緒に踊りだすというもの。
小太鼓(=スネアドラム)が最初から最後まで同じリズムを繰り返す中で、フルートが旋律を最初に静かに演奏し、木管楽器からサクソフォンを含む金管楽器、そして弦楽器がその旋律を繰り返しながら響きを増大し圧倒的な迫力の中で曲が閉じられる。
極めて単純な素材を執拗なまでに繰り返しすが、飽きることはない。 その見事なオーケストレーションの曲を堂々とした体躯のドゥネーヴの大きなタクトの下でオーケストラの存在感も増した感じ。

前回のモントリオール響の演奏では小太鼓がステージ中央に配置されていたが、今回は下手後方の配置。結果的にそれぞれの管楽器奏者の演奏が際立つように思えて良かった。第1ヴァイオリンとチェロの対抗配置もあって指揮者の音作りの配慮もうかがえた。やはりフランス音楽の魅力は独特のものがあると思った。
演奏終了後の拍手は極めて盛大で聴衆の感動の様子が広がった。(*2階席LA半分とRA半分を空席にしてP席を販売してほぼ満席にした珍しい座席の売り方は珍しいと思ったが、面白い販売方法だと思った。)

ドゥヌーヴは経歴からも分かるが親日家で日本人の鑑賞態度も心得ている。「盛大な拍手を有難うございます」と上手な日本語で挨拶して、「もう1曲お楽しみください」と言って《ビゼー:劇音楽「アルルの女」第2組曲より “ファランドール”》を演奏。迫力ある演奏に大歓声が沸き起こった。時間は9時半近くになっていたが、席を立つ人も人もほとんどいなくて大ホールは感動の渦。
ステファヌ・ドゥネーヴの実力と人気の理由が分かった。世界のどこでも期待される実力とパーソナリティを兼ね備えた指揮者だと思った。期待以上の演奏会となって思わず満足感で笑みもこぼれた。

※ベルギーの首都ブリュッセルはEU本部のある都市として知られる。ベルギーの公用語はオランダ語、フランス語、ドイツ語。ベルギーにベルギー語は無く、言語境界線が公式に設定されている。北部のフランダース地域(*“フランダースの犬”で親しまれた)がオランダ語の方言フラマン語。南部のワロン地域がフランス語方言のワロン語。東部がドイツ語。人口の60%がオランダ語、40%がフランス語、約1%がドイツ語。
ベルギーは国内で言語紛争が起きるくらいの複雑な状況にある国。オランダから分離・独立した国で、一時期フランスの領土でもあった歴史がある。ブリュッセルはフランダース地域にあるがオランダ語とフランス語の併用地域。住民の8割近くがフランス人系。国際的な都市であり、英語を話す住民が多い。ブリュッセル周囲の地域はオランダ語圏でオランダ語しか話せない人も多いそうである。産業構造の変化によって、フランス系の住民が近郊の市町村に移住する場合は言語紛争の事態が発生している(*例えば、オランダ語圏の公園ではフラマン語が解らないものは利用できない。)

カナダもモントリオールはフランス語圏なのでフランス音楽の本場といえるが、ベルギーもフランス音楽が盛んな地域は限られているのかもしれない。

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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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