小山実稚恵 「音の旅」第23回(シューマン、ベートーヴェン、シューベルト)

12年間・24回リサイタルシーリズ2006~2017の最終年に入った。シリーズのスタート前に全演奏曲を決めて一切の変更なしに実施し続けてきた企画力と実行力に敬意を表するばかりである。札幌では回を増すごとに聴衆の関心が増して満席の状態が続いていることは喜ばしい。シューマン没後150年の年に始まった「音の旅」を毎年のように聴き続けて今回が17回目となった。ここ4回ほどは重量感のあるプログラムで非常に聴きごたえのあるコンサートの連続であった。

2017年6月8日(木) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

第23回 祈りを込めて [くすんだ青緑/湿気・さらに奥深くへ]
 シューマン:幻想小曲集 作品12
 ベートーヴェン:ソナタ 第31番 変イ長調 作品110
 シューベルト:ソナタ 第21番 変ロ長調 D960

シューマンの「幻想小曲集」は8曲編成であるが、全曲を聴く機会は殆どない。そういう意味では貴重な機会となった。
①夕べに、②飛翔、③なぜに、④気まぐれ、⑤夜に、⑥寓話、⑦夢のもつれ、⑧歌の終わりに。第1・3曲は静かに、しなやかに歌われ、第2・4曲では躍動感があり、速いテンポ。第7曲は優れたテクニックと爽快なリズム感が味わえた。明暗や動静がはっきりした立体感のある演奏として聴けた。小山の曲の紹介には“クララへのシューマンの想いがファンタジーで羽ばたいた小品集”と書かれていたが、文字通り詩情とファンタジーに満ちた作品だった。

ベートーヴェンの後期3大ソナタは近年の演奏会で聴く機会が多い。ベートーヴェンが到達した心境がうかがえる抒情的で味わい豊かなソナタ。詩情豊かで幻想的な美しさを持つ第1楽章。スケルツォ的な第2楽章。第3楽章は独創的で多彩な表現効果に満ちて壮麗なフィナーレとなって終結した。
さすが、力のこもった堂々たる深みのある演奏に魅了された。小ホールの座席に余りこだわりはないが、やはり正面のやや左で手の動きがよく見える場所は満足感が大きい。演奏終了後にブラヴォーの声も上がったが、声には出さないまでもホールには大きな感動が生まれた。偉大なピアニストが醸し出す瞬間は尊い。

シューベルトは歌曲王としてのイメージが強すぎて「未完成交響曲」や「ます」などを除いて彼の曲には親しむ機会が余り無かった。シューベルトのピアノ曲で「即興曲」や「楽興の時」のメロディには親しんでいたが、ソナタの良さを知ったのは思い返すと紗良・オットの「第17番」の演奏を聴いてからだった。シューベルトに親しむ決定的な瞬間は2012年11月に東京で聴いたラドゥ・ルプー演奏のシューベルト・プログラム。「第21番」は圧巻であった。2014年にKitara で田部京子のリサイタルを聴いた時にはD.960の曲をかなり理解できるようになっていた。

この作品はシューベルトの死の直前に完成された最後のピアノ曲。彼の死(1828年)から10年も経った1839年に出版された遺作。ベートーヴェンが完成させたウィーン式4楽章制(急ー緩ースケルツォー急)のピアノ・ソナタ。アカデミックではあるが、独自の歌が曲中に溢れているシューベルトらしいソナタ。苦悩、優しさ、悲しみなど自己を吐露する気持ちの表現が率直に綴られ、やがて上手く調和して祈りが実って超越の域に達する“さすらい人の旅”が描かれているような気がした。自己の先入観を投入し過ぎたかもしれないが、歌心のある祈りも込められた曲は小山実稚恵の演奏を通してシューベルトの声が聞こえてくるようであった。

※シューベルトはモーツァルトやベートーヴェンのようなピアノの名手だとは伝わっていないが、「歌心」が作曲において極めて重要な要素なのだろうと痛感した。

演奏終了後の万雷の拍手に応えて演奏されたアンコール曲は3曲。①ショパン:ノクターン第21番 ②ショパン:ノクターン第13番
③バッハ:平均律クラヴィーア曲集より第1番。
3曲ともに聴き慣れたメロディの名曲に心も一層癒された。こんなに良い気分に浸って家路に着けたのも嬉しかった。
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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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