BUNYA TRIO Concert Vol.4 (ピアノ・トリオ)

30年ほど札幌交響楽団チェロ奏者として活躍していた文屋治実(BUNYA Harumitsu)は以前からチェリストとして幅広い活動を展開してきた。リサイタルや室内楽のコンサートを毎年開催して、92年から現代チェロ音楽コンサートを年1回開催し、現在まで20世紀以降に作曲された90曲以上の現代音楽を演奏していることは「音楽の友」でも高く評価されている。彼は14年7月に札響を退団して、チェリストしての活動のほかに指揮者・文筆家としても活躍している。
つい先年“BUNYA TRIO”が結成されてピアノ三重奏曲の演奏会が開かれることになって注目していた。日程が折り合わずに聴く機会を逸していて今回やっと聴けた。

2017年3月28日(火) 19:00開演  ザ・ルーテルホール
 
〈Program〉
 モーツァルト:ピアノ三重奏曲 第5番 ハ長調 K.548
 トゥリーナ:ピアノ三重奏のための幻想曲 「環」 Op.91
 ラフマニノフ:ピアノ三重奏曲 第2番 ニ短調 作品9 「悲しみの三重奏曲」

『ピアノ三重奏曲』として最も有名な曲としてベートーヴェンの「大公」、ドヴォルジャークの「ドゥムキー」、チャイコフスキーの「偉大な芸術家の思い出」は名曲として親しんでいる。コンサートでピアノ三重奏曲を聴く機会は多くない。カルテットに比べてピアノ・トリオは室内楽として今までは少なかった。強い関心を持ち始めたのはここ一二年である。池辺晋一郎によると、ベートーヴェン11曲、ハイドン45曲、モーツァルト7曲、シューマン3曲、ブラームス3曲、メンデルスゾーン2曲、シベリウス4曲、ラフマニノフ2曲、ショスタコーヴィチ2曲、サン=サーンス2曲、ショパン、フォーレ、ドビュッシーが各1曲。
自分であまり意識していなかったがショパン、メンデルスゾーン、フォーレ、ラヴェル、スメタナも名演奏家のオイストラフやチョ・キョンファなどのCDに入っていた。

BUNYA TRIOのメンバーは文屋のほかは、札響のヴァイオリニスト岡部亜希子、井関楽器講師の新堀聡子。それぞれ緑と赤の色鮮やかなドレスに身を包んだ女性二人は容姿端麗な演奏家。もちろん文屋がトリオ結成で選んだ共演者で相当に腕の立つソリスト。岡部は2009年に札響入団で13年にはソロ・アルバムをリリース。ピアニストの新堀は札響メンバーを中心として様々な楽器奏者のピアノ伴奏で活躍し、オーケストラとの共演でラフマニフを演奏するなど経験豊富な実力派ピアニスト。

1788年完成の「ピアノ三重奏曲」はモーツァルトの後期三大交響曲のころの作品。歌劇《フィガロの結婚》の「もう飛ぶまいぞこの蝶々」のアリアに似たメロディで始まる第1楽章はこの曲を聴く親しみを倍加させた。チェロを室内楽器として用い、3つの楽器を対等に扱う工夫がされている感じを受けた。ハ長調でモーツァルトらしい軽快で明るい溌溂とした曲。

トゥリーナ(1882-1949)は初めて耳にする名。セヴィーリャ生まれでマドリ-ドで音楽を学び、パリに留学してフランクやドビュッシーの影響を受けたという。パリ滞在中にスペインの大御所アルベニスと知り合い、アンダルシア地方のスペイン音楽の興隆を諭されて親友のファリャと一緒に帰国。アンダルシア地方の民俗音楽に影響を受けた作品を発表し、その後マドリード音楽院教授に就任。
この作品はスペイン内乱が始まった1936年に書かれた。「夜明け」「昼」「黄昏」の3楽章構成。モーツァルトとはガラッと変わった暗い雰囲気で始まる曲に現代曲の響きを感じた。同時に当時のスペイン内乱の頃の一日の様子が見事に描かれていた。日中の賑やかなスペインの街中の人々の動きも感じられた。不安の中で生活する人々が翌日以降の無事を願う気持ちも読み取れるようであった。10分余りの曲に、フランコ政権が独裁政治を行った当時のスペインの時代背景がうかがえた。
フランコの死後、トゥリーナの作品が演奏される機会が殆ど無くなってしまったが、最近になって彼の作品が再評価されて世界中で演奏機会が増えてきているとされる。 ユニークな曲で興味をそそられた。

ラフマニノフが20歳の1893年にチャイコフスキーが亡くなった。ロシアでは偉大な芸術家の死を悼むために「ピアノ三重奏曲」を書くのが慣習になっていたらしい。チャイコフスキーはルービンシテインの死を悼んで「偉大な芸術家の思い出」を作曲した。
ラフマニノフは室内楽曲はあまり書いていない。この「ピアノ三重奏曲第2番」は現在3つの版が残されているそうだが、今回演奏されたのは1907年の第二版の楽譜。55分の大曲で第1・2楽章は長大。文字通り悲しみに満ちた鎮魂の調べ。
ラフマニノフはモスクワ音楽院在学中の試験で書いた「前奏曲」がチャイコフスキーに気に入られてプラスが4つもついた最高点を与えられていた。崇拝する恩師だったと想像される。終楽章まで悲劇的雰囲気を帯びた調べが綴られた。全体的にピアノの比重が大きく打鍵が強烈な感情移入が表れていた。ピアノ演奏も超絶技巧を含む難曲と思われたが、ヴァイオリンとチェロが地味な役割で曲を支えバランスを取りながら室内楽曲の体はなしていた。
 
演奏終了後にはブラヴォーの声もあがった。室内楽シリーズを毎回聴きに来るファンもいると思ったが、私も次回もぜひ聴きに来ようと思うほど良い演奏会であった。
演奏者は激しい感情表現に疲れたであろうが、アンコール曲に心和む「ラフマニノフ:ヴォカリーズ」。

※「ピアノ・トリオ」という言葉で思い出した。来月中旬にKitaraに数年ぶりに登場する池辺晋一郎が「音楽の友」2016年5月号に書いた記事が印象に残っている。
楽譜の符号でpはピアノと誰もが分かる。ppが「ピアニッシモ」と分かる確率も低くないだろう。pppとなると音楽を専門的に学習している人以外にとっては難しい。私も分からなかった。正解は「ピアニッシシモ」、または「ピアノピアニッシモ」。池辺は高校時代の音楽のペーパーテストでうっかりいして「ピアノトリオ」と答えたという。当時の音楽教師の声楽家が余りにおかしい答えに〇をつけたという。その音楽の大家と亡くなるまで付き合いのあった池辺は高校時代の話を持ち出されて“キミは高校時代からおかしな奴だったぞ”と言われたそうである。頓智が効き駄洒落が得意で話好きな池辺にまつわるエピソード。

※昨日は私が78歳を迎えた誕生日。コンサートに出かけるので少し早めに祝いの夕食を済ませて出かけた。コンサートの帰りにクラシック・バーに立ち寄った。店に入るとテレビにカラヤンの映像。カラヤン&ベルリン・フィルのCDは多く持っているが、映像で観たことはない。マスターが「チャイコフスキーの第5番」をかけてくれた。1973年10月の演奏。映像で見れるようになったのはつい最近のことらしい。当時のカラヤンのダイナミックな指揮ぶりに見惚れた。カメラワークが現在のデジタルコンサートでのものとは違っていた。ベルリン・フィルハーモニーのP席から撮った場面、弦楽器奏者、木管楽器奏者をまとめて映す方法、聴衆の姿も映るがカラヤンが中心となる映像つくり。ホール内が異常に明るくて特別な工夫で当時の演奏会の模様を再現したようであった。
誕生日の贈り物をもらった良い気分に浸れた。忘れ難い思い出に残る誕生日になった。
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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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