漆原啓子ヴァイオリンリサイタル

漆原啓子(Keiko Urushihara)は1963年、東京生まれ。81年第8回ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールに日本人初の最年少優勝。85年に3歳年下の妹、朝子と共に札響定期に出演してバッハの協奏曲を演奏。その後、札響とはたびたび協演。彼女の演奏を初めて聴いたのが札響定期では2度目となった93年5月。「サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番」を弾いた。彼女の演奏を聴くのは今回が24年ぶり。朝子の演奏は98年、08年と2回Kitaraで聴く機会があった。


2017年3月25日(土) 午後4時開演  六花亭札幌本店 ふきのとうホール

〈曲目〉
 モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第33番 変ホ長調 K.481
 ドホナーニ:ヴァイオリン・ソナタ 嬰ハ短調 op.21
 コルンゴルト:から騒ぎ op.11
 R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 op.18

リヒャルト・シュトラウスの曲を除いてコンサートで取り上げられることの少ない演目が目を引いた。

モーツァルトの「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」はピアノとヴァイオリンが対等とはいえ、古典派時代はやはりピアノが主旋律を奏でていた。モーツァルトのヴァイオリン・ソナタはK.301、K304の作品には親しんでいる。この2曲は2楽章構成。「K.481」は彼の29歳の時の作。この曲は3楽章構成。ピアノが主導する明解な旋律で始まるモルト・アレグロの第1楽章とアダージョの第2楽章は対照的な趣。第3楽章はかなり簡素な主題と6つの変奏曲から成る。ピアノの響きがかなり勝っていた感じだった。

ドホナーニ(1877-1960)はバルトークやコダーイと同時代のハンガリーの作曲家。ピアノ作品を多く書いたようだが、ドイツ的重厚さ、ロマンティックな雰囲気、現代風のリズムも入った曲でヴァイオリンの技巧も凝らされて、比較的に面白く聴けた。

コルンゴルト(1897-1957)はチェコ出身の作曲家。1930年代前半までにクラシック音楽の分野で成功を収め、ユダヤ系のためアメリカに移住。アメリカ映画音楽の作曲も手掛けて、ジョン・ウィリアムズなどにも影響を与えたといわれる。
「から騒ぎ」はシェイクスピアの同名の喜劇のための付随音楽。管弦楽曲として書いたが、後に作曲家自身がヴァイオリンとピアノヴァージョンにした。
《から騒ぎ》から「4つの小品」。①花婿花嫁の部屋の中の女中 ②林檎とワイン ③庭園の情景 ④仮面舞踏会(*プログラムで4つののタイトルがドイツ語で書かれていたので辞書で調べて適当に翻訳してみた。)曲を聴いている最中は内容のイメージは浮かんでこなかったが音楽そのものは面白かった。ヴァイオリンとピアノの対話も音楽的に興味深かった。

音楽の多くのジャンルで多大な作品を残したリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)が書いた唯一つのヴァイオリン・ソナタ。この曲は3年前に大谷康子のリサイタルで聴いて良い曲だと思った。華やかな演奏効果のある曲でヴァイオリンの高度な技術が発揮され、ヴァイオリンが主役となる漆原の面目躍如の演奏で満足した。演奏終了後にブラヴォーの声も上がった。

221席の小ホールは漆原を聴きに来たと思われる客で満席状態で盛り上がって良い演奏会になった。2014年録音の姉妹デュオCDが国内で話題を呼んだようだが、後進の指導のほかにソロ活動も期待したい。

ヤコブ・ロイシュナー(Yacob Leuschner)のピアニストとしての腕前も相当なもの。彼は1974年生まれでドイツ出身。89年からソリスト、室内楽奏者として世界中で幅広く活動を展開している。世界の主要ホールでの演奏経験も含め、08年からはケルン大学教授を務めながら、国内外で後進の指導に当たり目覚ましい活躍を収めているようである。

演奏終了後にステージに戻って最初に口を開いて日本語で挨拶したのがロイシュナー。これにはビックリ! 日本語もかなり流暢でアンコール曲に「モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ K.372」のほんの一部を演奏。一度ステージを下がって再登場した時には、漆原が挨拶したが残念ながら声が通らずに良く分らなかった。2曲目のアンコールは「ホ短調」と聞こえたが確かでない。5分ほどの心に響く演奏によるヴァイオリン曲。

演奏家が聴かせたい音楽を選曲してのコンサート。演奏家も聴衆の反応に満足した様子でもあり、私自身にとっては聴きごたえのある演奏会となって良かった。

※ポーランドで5年ごとに開催されるヴィニャエフスキ国際コンクールは4大ヴァイオリンコンクールの一つである。1935年に始まり、戦争で中断して第2回が52年、昨年が第15回コンクールとして開催された。1972年以降の大会で多くの日本人入賞者が毎回途切れなく続いているが、優勝者は漆原啓子だけである。昨年の大会でも2位、7位と日本人入賞者が出たが、世界から優勝の大本命と評判の服部百音(Mone Hattori)がセミファイナル(13名)にも進めずに二次予選で落選。専門家のi間やポーランド国内で大騒ぎとなったようである。審査で不正が行われたと悪評とのこと。本人の力の無さではなくて落とされてしまったらしい。ヴェンゲーロフが審査委員長でルールに則った審査が行われなかったと公然と後日談がSNSを通して広がっている。有名な世界的指導者ブロンもファイナル7名のうち少なくとも4名はファイナルに進む値のないヴァイオリニストと語っている。
スポーツと比べて文化で順位を決めるのは難しいが、委員長の独裁が幅を利かせる事態が2015年のチャイコフスキー・コンクールでもあったとされる。審査委員個々の判断に違いはあっても、ルールが無視される事態を審査委員長自らが引き起こすことを憂うる。
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

最新記事
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム
最新コメント
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR