札響第596回定期演奏会(ポンマーのバッハ『管弦楽組曲』全集)

札響初のバッハ「管弦楽組曲全曲演奏」はシーズン当初のプログラム発表時から注目していた。
ポンマーにとってJ.S.バッハは神だという。“アーノンクールのバッハ演奏はウィーンのバッハ、私はライプツィヒのバッハを演奏する”と語るポンマーのバッハ解釈によるコンサート。

2017年1月28日(土) 14:00開演 札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ マックス・ポンマー(Max Pommer)
フルート/ 高橋 聖純(Seijun Takahashi)(札幌交響楽団首席奏者)
チェンバロ/ 辰巳 美納子(Minako Tatsumi)

管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV1068
管弦楽組曲 第2番 ロ短調 BWV1067 (フルート独奏/ 高橋 聖純)
管弦楽組曲 第1番 ハ長調 BWV1066
管弦楽組曲 第4番 ニ長調 BWV1069

日本で最も多く演奏されるクラシック音楽の作曲家はベートーヴェンとモーツァルト。音楽雑誌の統計によると二人が毎年1・2位を争う。3位がバッハ。私自身のCD所有枚数もベートーヴェンとモーツァルトが断然1・2位を占める。バッハの曲で最も聴きなれているのはヴァイオリン曲。管弦楽曲に関しては「ブランデンブルク協奏曲」と「管弦楽組曲」をコンサートの曲目として演奏される機会に改めてCDで聴く程度である。今回は所有しているバウムガルトナー指揮ルツェルン弦楽合奏団のCD(第2番のフルートはオーレル・ニコレ)を数回繰り返して聴いてみた。(*ニコレは昨年1月90歳で亡くなった。1969年札響4月定期に出演した際の音源を数年前に札響くらぶの会合で耳にして感激したことを思い出した。)

先日、「第3番」をデジタル・コンサートホールで“聴いて観る”機会があった。16日にベルリン・フィルハーモニーでブンデスユーゲント管(National Youth Orchestra of Germany)による宗教改革500周年記念演奏会が行われた。指揮がアレクサンダー・シェリーで12年12月札響定期に客演した英国の若手指揮者だと気づいた。全曲にバレエが付いていたのが興味を引いた。ヨーロッパの斬新な芸術的な試みだと感じた。成程と思い直したのは、この組曲はドイツの民衆の間で発展してきた舞踏音楽と華麗なフランスの宮殿音楽を組み合わせたものである。20分程度の各曲はフランス風序曲で始まる。

「第3番」は序曲、エール、ガヴォット、ブーレ、ジーグから成る。3本のトランペット、ティンパニ、2本のオーボエ、チェンバロ、弦5部の楽器編成。トランペットが高らかに響き渡る壮麗な序奏で始まり、前列に陣取ったオーボエに弦が加わる。序曲は曲の半分ぐらいを占める。第2曲「エール(アリア)」は弦楽合奏だけで演奏される抒情的な調べ。チェンバロの旋律も魅力的。ドイツのヴァイオリニスト、ヴィルへルミがヴァイオリンのG線だけで演奏できるように編曲し、「G線上のアリア」として広く親しまれている。この後で活発な舞曲が3曲続いて、明るい雰囲気を盛り上げる。勇壮で華麗な曲。

「第2番」は序曲、ロンド、サラバンド、ブレー、ポロネーズ、メヌエット、パディヌリ。独奏フルート、チェンバロ、弦5部の編成。花形楽器フルートが曲全体で主導権を握る。優雅さに溢れた曲。サラバンドではフルートとチェンバロの間でカノンが歌われ、ヴァイオリンとヴィオラも魅力的な旋律を奏でる。繊細さがあふれ出る調べ。聴いていて自然と舞曲に乗って踊りたくなるような軽やかな旋律は心地が良い。終曲のパディヌリは“冗談”を意味するフランス語で舞曲ではない。弦のスタッカート伴奏を従えて、フルートが飛ぶような軽快な旋律で曲を終える。
4曲中で最も親しまれている曲。四十路を超えた高橋が期待通りの名演。フルートの魅力が横溢した曲で聴衆を魅了。長身で堂々たる体躯でのステージ映えする高橋の容姿は名演を浮き上がらせた。実に堂々として世界一流のソリストに負けない演奏だと感じた。5年前の札響特別演奏会では尾高尚忠のフルート協奏曲を披露した。暗譜で現代曲を吹き切って素晴らしい演奏だった。今回の演奏終了後には力強いブラヴォーの声が飛び、感動した人々の途切れない拍手大喝采は近来にない名曲の演奏でホールに詰めかけた人々の心を揺さぶった。高橋聖純は札響定期演奏会での活躍ぶりを通して会員の高い評価も定着している。今回はソリスト・指揮者・オーケストラ・聴衆の一体感で音楽が作り上げられた印象を強くした。鳴りやまない拍手にカーテンコールが繰り返され、アンコール曲に第7曲「バディヌリ」を再び演奏。フルーティスト自身にも聴衆の感動の心が伝わったと思った。

「第1番」は序曲、クーラント、ガヴォット、フォルラーヌ、メヌエット、ブレー、バスピエ。楽器編成はオーボエ2、ファゴット、チェンバロ、弦5部。バロック時代にはクラリネットの楽器はまだ無く、オーボエが主要な木管楽器だったことが分かる。
流れるようなリズムのクーラント、快活なガヴォット、ヴェネツィアの踊りに由来する活発な動きのフォルラーヌ、平明なメヌエット、軽快で歯切れのよいブレー、終曲はブリュターヌ起源の陽気なバスキエ。オーボエの響きが心地よかった。

「第4番」は序曲、ブレー、ガヴォット、メヌエット、レジュイサンス。4曲中で最も大きな楽器編成。3本のオーボエとファゴットの独奏グループと弦楽器群の対比が特徴。3本のトランペット、ティンパニ、チェンバロも加わる。今回が札響初演とはいえ、昨年10月末にムジカ・アンティカ・サッポロがKitara小ホールで演奏している。
トランペットのファンファーレで始まる威風堂々たる華やかな序曲。ブーレではオーボエ群とファゴットだけのアンサンブルもあって違う雰囲気が醸し出される。ガボットは全楽器による演奏。メヌエットは組曲中のオアシスともいえる典雅な調べ。レジュイサンスは舞曲ではなく“歓喜”を意味する言葉で、明るく溌溂としてユーモアに富んだフィナーレ。テンポが速くて勢いのある娯楽性に富んだ曲。

バロック音楽を存分に満喫できた演奏会となった。30名程度のオーケストラ・メンバーだけで全曲目が演奏されるのも珍しい。大編成のオーケストラによる音楽とは違う楽しい陽気な雰囲気の札響演奏会も変化があって良かった。バッハ当時の楽譜をめぐって専門的にはいろいろな経過はあるようであるが、ともかくライプツィヒ生まれでバッハ音楽研究に基づいてポンマーが満を持して札響と演奏した《管弦楽組曲》は素晴らしかった。

客の入りも最近ではいつもより良く3階席も結構埋まっているように思えた。毎回同じ決まった席だが今回は周囲にいつもと違う人の姿も少し見えた。定期演奏会で目にする招待の中学生の姿の代わりにバロック音楽とフルート奏者に関心が集まって聴きに来た学生の姿にも多く出会った。

Kitaraのレセプショニストの対応が一段と向上しているのがコンサートの入退場時に気づく。開館以来、他のコンサート会場ではない客への心のこもった対応は20年も経つと退化しがちだが、入退場での温かい言葉や心遣いには感心している。“お寒い中よくいらっしゃいました”、“お気をつけてお帰りください”などの言葉かけは素晴らしい。ホール内やホワイエの対応は開館当初と基本的に変わらないが、エントランス・ホールでの対応が見違えて良くなった。お客様対応の人数を増やしているのかもしれない。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて“おもてなし”の心に一段と磨きがかかるとしたら喜ばしいことである。
東京サントリーホールをモデルにして始まったレセプショニストの活動が気持ちの良い音楽鑑賞に関わる影響は大である。関係者のご努力に感謝するとともに今後も進化した活動を目指してほしい。

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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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