仲道郁代 マイ・フェイヴァリット(デビュー30周年を彩るピアノ名曲集)

仲道郁代のピアノ演奏を初めて聴いたのが1989年4月(第302回札響定期)。山田一雄指揮札響と共演して「ベート―ヴェン:ピアノ協奏曲第4番」を弾いた。ベートーヴェンのピアノ協奏曲は「皇帝」しか聴いていなかったので、「第4番」も素晴らしい曲と印象づけられたコンサートとして忘れ難い。
2000年2月にはヤマハ・ピアノ100周年記念コンサート(Kitara大ホール)でリサイタルが開かれた。同年にはKitara札響特別演奏会として「皇帝」が演奏されたこともあった。その後、09年にソプラノとピアノのデュオ・リサイタルを聴いたが、その後はこの日本を代表するピアニストの演奏を聴く機会がなかった。出来れば本格的なプログラム構成の演奏会が好みではあったが、今回のピアノ名曲集を聴いてみることにした。彼女のコンサートを聴くのは7度目である。

Ikuyo Nakamichiは1963年、仙台生まれ。12歳の時に父親の仕事の関係でアメリカに渡り、その後、桐朋学園大学1年在学中に日本音楽コンクール優勝。1985-87年ミュンヘン音楽大学に留学。この間、ジュネーヴ国際コンクールなどで好成績を収め、国内外で活発な活動を展開。海外のオーケストラとの共演も数多く、実力と人気を兼ね備えて常に新たな試みに挑戦し続けているピアニスト。
仲道は札幌コンサートホールでは2014年から3年にわたって【Kitara Kidsミュージック&アーツクラブ】で音楽とアートのワークショップを通じ、子どもたちと温かい交流を重ねている。今回のプログラムは【Kitaraクラシック入門講座】として開催されたが一連の活動と繋がる催しの趣旨があったのかもしれない。

2017年1月21日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール
〈Program〉
 グリーグ:《抒情小曲集》より 「アリエッタ」、「蝶々」、「ノクターン」
 シューマン:《子供の情景》より 「トロイメライ」 作品15-7
 シューマン(リスト編):歌曲集《ミルテの花》より「献呈」 作品25-1 S.566
 リスト:愛の夢 第3番 変イ長調 S.541
     メフィスト・ワルツ第1番 「村の居酒屋での踊り」 S.514
 ショパン:ワルツ第1番 変ホ長調 「華麗なる大円舞曲」 作品18
       ワルツ第3番 イ短調 作品34-2 
       スケルツォ第2番 変ロ長調 作品31
       ポロネーズ第6番 変イ長調 「英雄」 作品53

仲道は作曲家と演奏曲の解説や魅力を話しながらコンサートを進めた。彼女が音楽の魅力にはまったエピソードなどを織り交ぜながら名曲(Her Favorites)を紹介した。
彼女の母は彼女が胎児のころにグリーグのピアノ協奏曲を好んで弾いていたという。その影響か彼女は北欧のショパンと呼ばれることもあるグリーグの曲に親しんだそうである。「抒情小曲集」は10集70曲ほどの中から3曲。聴いたことがあるのは「蝶々」だけ。聴く者の心にしみる短い曲を続けて演奏した。

クララとの9年にわたる恋が実って結婚に至ったシューマンが結婚前夜にクララのために書いた歌曲。リストから贈られたピアノ独奏用の編曲が余りにも華やかだったので、クララは“私たちの愛をこんなにゴージャスにして”と怒ったという。この彼女の反応は初耳であった。
「トロイメライ」と「愛の夢」は「夢」が共通している。「夢」や「憧れ」を4度や6度の音程の違いで表現する話は興味深かった。
仲道はミシガン州に滞在していた折にホロヴィッツの演奏を聴く幸運に恵まれたという。(*彼がニューヨーク以外で演奏する機会は稀有のことであり、演奏会のチケットを手にするのも容易ではない時代であった。)彼の弾いた2音を聴いただけで涙がこぼれたという。2音だけで人の心を動かす音楽に出会って彼女の人生の行方が決まった。ホロヴィッツの「トロイメライ」演奏に感銘を受けたエピソード。

「メフィスト・ワルツ第1番」はリストならではの超絶技巧が凝らされたピアノ独奏曲。演奏する姿を観ながら今ではすっかりこの曲の魅力に取り込まれている。10分余りの運指の速さにピアニストの技量と表現力に魅了された。演奏終了後に歓声が沸き起こった。

後半のプログラムはショパンの曲。彼がワルシャワを離れ、ウィーンに移り、ウィンナー・ワルツとは違う独自の芸術的香りに満ちたワルツを作り上げていく様子が語られた。パリへ移住した後も故国ポーランドに想いを馳せながら過ごした作曲家の人生は曲とともに人々の心を打つ。ショパンの人生の一端を初めて聞いた子どもたちもいたように思う。対照的な2曲のワルツの紹介も良かった。
ショパンが残した4曲のスケルツォ。交響曲の第3楽章に使われていた曲調でショパンが独自のジャンルを作り上げた。「第2番」は聴く機会が多くて4曲中で最も親しまれている。緊迫した雰囲気を持ち、ドラマティックな展開で魅力的な作品。仲道はこの曲を“黒いマント”と何度か呼んだ。

「ポロネーズ」や「マズルカ」はポーランドの民族舞曲。ポロネーズは全16曲のうち、タイトルがついた「第3番 軍隊」、「第7番 幻想ポロネーズ」の他に、「第6番 英雄」が有名である。最も有名で演奏機会の多い第6番は「英雄ポロネーズ」として親しまれている。勇壮な行進曲で2列となって戦争に備えて堂々と行進する姿が印象的である。ポーランドは他国に支配される不幸な状況下に置かれてきた歴史がある。ショパンとポーランドは音楽では切り離せない繋がりである。

アンコール曲は3曲。①ショパン:エチュード「革命」、 ②ショパン:エチュード「別れの曲」、(*「別れ」は短調が多いのが当然と思っていたが、この曲は長調と説明があった。明るい曲として長年にわたって聴き親しんでいるが、改めて調性を意識した。) ③エルガー:愛の挨拶。

チケットは完売であったが、1階席中央の数列で空席が何席も続いているのが気になった。1階席の端や2階バルコニーも埋まっている中でチョット嫌な感じがした。招待券が無駄になっているとしたら勿体ない。


※先週の「クラシック音楽館」(1月15日)の放送で10:30pm~11:00pmまで仲道郁代がゲストでプレイエル(1827年製)とスタインウェイの2台のピアノを使って興味深い演奏を行った。(*彼女は自宅にピアノを4台所有しているはずだから彼女所有のピアノで演奏したと思った)。ピアニストのデビュー30周年を祝ってのオール・ショパン・プログラム。演奏曲は「ノクターン op.9-2」、「練習曲 op.10-3」、「前奏曲 op.28-7」、「練習曲 op.25-1」(以上プレイエル)、「幻想即興曲」、「ワルツ op34-2」(以上スタインウェイ)。ショパンが使っていた時代のピアノと現代のモダン・ピアノでの響きの違いが出ていて面白かった。
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Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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