グザヴィエ・ドゥ・メストレ ハープリサイタル

グザヴィエ・ドゥ・メストレ(Xavier de Maistre)は1973年、フランス生まれのハープ奏者。99年ウィ―ン・フィルハーモニー管弦楽団のソロ・ハープ奏者に就任し、02年から09年までPMFに教授陣として6回参加。Kitaraでは顔なじみの超格好良いハーピストとして知られた。08年11月、Kitara 小ホールで開催されたメストレ・ハープリサイタルは過去300回ぐらいは聴いている小ホールでのコンサートの中で最も感動したコンサートのひとつである。まるでファッションモデルのように颯爽とした容姿でステージに登場して、終始ウットリするような旋律を奏でて聴衆を魅了した。当時のコンサートの様子は昨日の出来事のように生き生きと眼前に浮かぶ。コンサートが終わってホワイエで前から2・3番目に並んで感想を述べた言葉も大体覚えている。私の感想に耳を傾けて購入したCDにサインをして“Thank you so much.”と返事をしてくれた。
彼は10年にウィ-ン・フィルを退団してソリストとしての活動機会を増やし世界各地でマスター・クラスも開いている。2001年よりハンブルク音楽大学教授。

[Kitaraワールドソリストシリーズ]
.〈Program〉「
 グリンカ:歌劇「魔笛」の主題による変奏曲 変ホ長調
       夜想曲 変ホ長調
 ペシェッテイ(メストレ編):ソナタ ハ短調
 ハチャトゥリアン:2つの小品より 第1曲「東洋的な踊り」、第2曲「トッカータ」
 チャイコフスキー(ワルター=キューネ編):歌劇「エフゲニー・オネーギン」の主題による幻想曲
 アルヴァーズ:マンドリン 作品84
 カプレ:ディヴェルティスマン 第1番“フランス風”、第2番“スペイン風”
 ドビュッシー(ルニエ編):アラベスク第1番 ホ長調
                「ベルガマスク組曲」より “月の光”
 スメタナ(トゥルネチェック編):交響詩《我が祖国》より 「モルダウ」

6時半過ぎに地下鉄駅を降りた時からKitaraに向かう人の群れはまるで大ホールが会場であるかのような錯覚を抱かせるほどであった。比較的に若い年代の人の姿が多かったのもいつもの札響定期の時の様子とは違う。エスカレーターに乗ってホワイエ内もいつもとは違う活気が漂っていた。コンサートに集まっている人々の高揚感が感じられた。
CD売り場も混んでいて横の通路から会場に入った。

コンサート開始直前のアナウンスでプログラムに変更がある旨の発表があったが、曲名の連絡がなかった。ホール正面の入り口に変更曲目が記されているものと思われた。少々不安な気持ちが現れた。ハープの曲に慣れてはいなくても大体は分るだろうと不安を打ち消した。
前回と違ってメストレのステージの登場はごく自然体であった。
最初の曲はロシア国民音楽の祖グリンカ(1804-57)のハープ曲。彼の作品はオペラ「ルスランとリュドミラ」序曲が有名である。彼は18歳の時にオペラが好きでハープが得意な女性に出会ってモーツァルトのオペラから変奏曲を書いた。1828年に書いた「夜想曲」もハープまたはピアノのための作品で美しい旋律が恋心を紡ぐ。

ペシェッテイ(1704-66)はヴェネツィア生まれの鍵盤楽器奏者。1736年にロンドンに渡り、ヘンデルと覇を競ったといわれる音楽家。6曲から成るチェンバロ・ソナタ集の中の1曲。20世紀前半にサルセード(*MET歌劇場管の首席ハーピスト)が編曲した曲が前回のリサイタルで演奏された。今回はメストレ自身の編曲による演奏。3楽章構成の作品で、気品に溢れロマンティックな叙情に満ちた曲。聴きごたえのある曲として鑑賞できた。ソリストとして独立して自ら編曲を試みた自信作だと思った。

ハチャトゥリアン(1903-78)はグルジア生まれのアルメニア人作曲家。「剣の舞」が名高い作品であるが、最近は「仮面舞踏会」の音楽で知られる。中央アジアの民謡風の音楽が特徴で、〈2つの小品〉からもハチャトゥリアン独特の旋律が奏でられた。弦をはじきながら楽器の胴を叩いて太鼓の音も表現する「東洋的な踊り」は特に面白かった。

プログラムの変更はこれまでは無いと思って聴いていたら前半最後のチャイコフスキーの曲に至って違いに気づいた。誰の曲かは分らなかったが勿論ハープが紡ぐメロディは美しかった。「フォーレ:即興曲 作品86」。(*休憩時間中に確認すると入り口に曲目変更の掲示があった。) 予め変更曲名をアナウンスしてくれたらよかったのにと思った。聴く人の立場で放送を心がけてほしいものである。

アルヴァーズ(1808-49)はイギリス出身のハープのヴィルトゥオーゾ。メストレは彼のことを“ピアノでいえばリスト、ヴァイオリンでいえばパガニーニ”のような存在と言う。「マンドリン」はナポリを旅した時の印象をもとに1844年に作曲された。この大幻想曲はウィ―ン楽友協会のアーカイヴから近年発見されて世に出た作品で前回の演奏会でも披露された。
イタリアの輝かしい太陽と青空を感じさせる明るい作品。

カプレ(1878-1925)はドビュッシーと同時代のフランスの作曲家・指揮者。彼が亡くなる前年の作品。曲のタイトルから曲風が感じられて心地よく聴けた。「スペイン風」はギター曲を思わせスペイン情緒が漂った。フランス語の“divertissement”は気晴らしになる「嬉遊曲」の意味だろう。

ドビュッシー(1862-1918)は今更言及の必要がないフランス印象派の大作曲家。「アラベスク第1番」の編曲者、ルニエ(1875-1956)はフランスの女性ハープ奏者として活躍し、サルセードなど多くの後進を育てた教育者でもあった。ピアノ曲で親しまれている「アラべスク」、「ベルガマスク組曲」は弦を両手で弾くハープに編曲しやすい曲のようにも思う。右手で高音部、左手で低音部を弾く演奏機構は鍵盤楽器に似ている。絹の絨毯の上を音が滑るような美しさは何とも言えない。ピアノとは違った高貴な雰囲気を持つ。この2曲はこの上ない世界を広げてくれた。
(*前回の「月の光」はメストレ編曲で演奏されたが、今回のルニエ編曲の方が優れていると思ったのだろうかは定かでない。)

※本日のコンサートの数日前に前回のリサイタルの折に購入したCD《グザヴィエ・メストレ 星の輝く夜  クロード・ドビュッシーのハープ音楽》をしばらくぶりに聴き返してみた。ピアノ曲として聴く機会の多い名曲のほかに歌曲が7曲収録されていた。ヴェルレーヌ、マラルメなどの有名な詩に曲をつけている作品が多々あるのを余り認識していなかった。ソプラノがネトレプコ、バルトリに並ぶ世界のディーヴァであるダムラウなのにも驚いた。

最後の曲はチェコ国民音楽の祖、スメタナ(1824-84)の「モルダウ」。この名曲も前回のリサイタルで披露された。世界の様々な民族色あふれる音楽がいろいろな楽器で聴けるのも楽しい。

8年前のリサイタルの時ほど興奮することは無かったが心が和むコンサートだった。アンコール曲は「フェリックス・ゴロフノフ:ヴェニス謝肉祭 作品184」。作曲者名は知らなかったが馴染みの旋律。いろいろな楽器での編曲がある名曲ではないかと思った。

ハープ・リサイタルを聴く機会はめったにないのでホールを埋めたファンの満足度は高くて帰りのホワイエでもサイン会に姿を現したメストレにひと際高い歓声と拍手が起きて盛り上がっていた。CDを買い求めてサインを求める人の列も長くなっていた。CDの種類も多くあったようだが今回は買うのをやめた。

ブログを書いている最中に気付いた。吉野直子のCDを持っているのだが、「フォーレ・即興曲 作品86」が収録されていた。フォーレはパリ音楽院の院長の任にあったが、ハープ科教授のアッセルマンのために《ハープのための即興曲》を1904年に作曲した。この作品はハープ作品の中でも最も有名なレパートリーのひとつとして親しまれているそうである。後日耳にしてみようかと思う。







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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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