札響第592回定期演奏会(グラーフ十八番のデュティーユ&幻想交響曲)

フランスの現代作曲j家、デュティーユ生誕100年記念のプログラムは興味津々。馴染みの作曲家ではないが名は耳にしたことがある程度だった。今シーズンのプログラムが昨年発表され、今回の指揮者ハンス・グラーフの名を目にした時に心が時めくのを感じた。自分が札幌に転勤になった年の1988年に音楽監督を務めていたザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団を率いて特別演奏会が旧北海道厚生年金会館で開催された。この年はスラットキン指揮ロンドン・フィルやサヴァリッシュ指揮バイエル国立管の札幌公演もあって足しげくコンサートに通っていた。今年6月のスラットキンに続いて28年ぶりに世界的な指揮者の演奏を聴くことになった。

Hans Grafは1949年生のオーストリアの指揮者。チェリビダッケ、A・ヤンソンス(マリスの父)に師事して、79年カール・べーム指揮者コンクールに優勝。81年ウィーン国立歌劇場にデビュー。84年から94年までザルツブルブルク・モーツァルテウム管の音楽監督を務めてモーツァルトの交響曲全曲を収録。その後、カナダ、フランス、アメリカのオーケストラの音楽監督を歴任。2004年からヒューストン響の音楽監督を務め、ウィ-ン・フィルをはじめ世界の主要オーケストラと共演を重ねて いる。フランス政府、オーストリア政府より勲章を授与されている人望ある音楽家のひとり。

2016年8月27日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

〈Program〉
 デュティーユ:交響曲第2番 「ル・ドゥ―ブル」
 ベルリオーズ:幻想交響曲 op.14

アンリ・デュティーユ(1916-2013)は多彩なオーケストラ作品で知られるフランスの作曲家。彼と生前親交のあったグラーフがフランス国立ボルドー・アキテーヌ管で作曲家立ち合いのもとデュティーユの管弦楽曲集の録音を行っている。
「交響曲第2番」は1959年ミュンシュ指揮ボストン響によって初演された。“Le Double”は二重(ダブル)の意味。大小2つのオーケストラが共存し、通常のオーケストラ(2管編成)の前に小オーケストラ(12人の独奏者))が配置されて演奏された。普段とは違う演奏形態が興味を掻き立てた。
ドビュッシーが亡くなった年に生まれたデュティーユはパリ音楽院に学び近代フランス音楽の伝統を引き継いで発展させたと言われる。「ル・ドゥーブル」は12音技法が流行った当時の現代音楽作曲家の作品とは違った印象を受ける曲であった。何となくドビュッシーの印象主義の流れに沿って独特の技法を織り交ぜて書いた作品のように思えた。3楽章構成で30分ほどの曲。2つのオーケストラが対話をしながら曲が進む面白さがあった。(大オーケストラは打楽器が大太鼓、小太鼓、シンバルなどティンパニを除く9種類でその多さが目についた)。室内オーケストラの編成はオーボエ、クラリネット、ファゴット、トランペット、トロンボーン、ティンパニ、チェンバロ、チェレスタ、弦楽四重奏)。札響初演の曲。演奏終了後に12人の独奏者にひとりひとり握手を求めた指揮者の姿は期待通りの演奏に応えた彼らへの感謝と称賛の意かなと思った。

ベルリオーズ(1803-63)の作品で最も演奏機会の多い人気の曲が《幻想交響曲》。フランスの大作曲家だが、ほかに有名な作品を余り多く残していない。しかし、この1曲だけでもベルリオーズの偉大さが際立つ。前回の札響による演奏は2012年1月定期(指揮:サッシャ・ゲッツエル)。
ベルリオーズは熱血漢としての人物像が伝わっている。彼の人生に影響を与えた人物が4人いたと言われる。シェイクスピア、ゲーテ、ベートーヴェン、もう一人が女優ハリエット・スミッソン。彼女に対する熱烈な狂おしいまでの愛によって《幻想交響曲》という型破りの名曲が生み出された。24歳の時にパリで「ハムレット」、「ロミオとジュリエット」を見て彼女に対する想いがつのり、1830年に曲が完成した。〈ある芸術家の生涯の挿話〉というサブタイトルが付けられ、各楽章がそれぞれ標題を持つ初めての交響曲となった。
曲の冒頭には作曲者自身による説明が次のように記されている。「病的な感受性と想像力を持った若い芸術家が失恋の結果、アヘンを飲んで自殺をはかる。しかし量が少なくて死にきれずに奇怪で幻想的な夢を見る。」
ベルリオーズは全5楽章にスミッソンを表す固定楽想を何回か再現させる。第1楽章「夢・情熱」、第2楽章「舞踏会」、第3楽章「野辺の風景」、第4楽章「断頭台への行進」、第5楽章「魔女の夜の宴~魔女のロンド」。

第1楽章でフルートとヴァイオリンによる固定楽想。第2楽章全体がワルツで、交響曲としては初の試みだった。この曲に親しみを持つ切っ掛けになった優美なメロディ。第3楽章で羊飼いの二重奏があるがイングリッシュホルンとオーボエの掛け合いが聴きどころ。オーボエ奏者は客席の後方から演奏したように思えた(*オーボエ奏者がカーテンコールで上手ドアから登場した)。遠くの雷の音(*ティンパニが4人必要だと思ったが確認できなかった)。荒涼とした野辺に漂う孤独と静寂。ベートーヴェンの「田園」を思わせる楽章。第4楽章で恋人を殺した芸術家は死刑を宣告され断頭台へ曳かれてゆく。不気味に響くティンパニの連打。チェロとコントラバスによる死の宣告。重々しい行進。ギロチンの刃が閃く瞬間。比較的に短い楽章だがドラマティックな場面。最終章に向かって迫力に満ちたオーケストラの総奏! 最終楽章で若い芸術家は恐ろしい怪物たちと共に魔女の踊りを見る。パーカッションの1人がステージを下がりバックヤードから弔いの鐘を鳴らす。この鐘の音が極めて効果的でコンサートも最高潮に達した。「怒りの日」の旋律が流れる。ゲーテの「ファウスト」にヒントを得た楽章と言われる。奇怪な地獄の狂乱がクライマックスに達する。

最初から最後まで力強いグラーフの指揮ぶりはフィナーレに向かって最高の盛り上がりを見せた。オーケストラも終盤に向かって一層逞しくドラマティックに演奏して壮大なスケールの曲を引き締めた。4年前は座席がRAだったが、SS席で聴いた今回ほど金管楽器の演奏の素晴らしさを感じ取ったことはなかった。4本のファゴットの使用や弦楽器が弓の背で弦を打つ奏法など生演奏でしか分らない場面も数多くあって観ていても楽しかった。

グラーフは世界的な指揮者で有名だが、スラットキンの演奏会と同様に日本での知名度が欧米と比べて高くなくて残念ながら客の入りが良くなかった。ただ、「幻想交響曲」の演奏終了後に歓声が沸き起こり盛大な拍手がいつまでも続いた。聴衆は充分な満足感を得てこのドラマティックな演奏を楽しんだことは疑いがない。
Kitaraに登場したことでマス・メディアを通して彼らの知名度が上がり札響での公演が増えることを期待したい。今年はスラットキンとグラーフの二人ともフランス音楽のブログラムだった。スラットキンは日本での知名度が上がって来年デトロイト響を率いての来日公演が決まっている。

※ベルリオーズはローマ大賞も獲得し、33年には念願のハリエットとも結婚できたが、結婚生活は幸せではなかったようである。



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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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