トランス=シベリア芸術祭(レーピン&諏訪内&マイスキー&ルガンスキー)

TRANS-SIBERIAN ART FESTIVAL (トランス=シベリア芸術祭)in Japan 2016
 ~札幌=ノボシビルスク姉妹都市交流、シベリア・北海道文化センター20周年記念~

2014年よりレーピンが故郷ノボシビルスクで芸術監督として開催しているシベリア芸術祭が今回は日本でも開かれた。レーピンはKitaraのコンサートに度々出演しているが、姉妹都市・札幌が縁で豪華な演奏家と共演する夢の室内楽公演。
レーピンは99年以来7回目、諏訪内は90年以来9回目、マイスキーは98年以来5回目、ルガンスキーは91年以来4回目になるが、現在のクラシック音楽界巨匠3人による「ピアノ三重奏曲」の演奏を胸躍る気持ちで待ち望んでいた。

2016年6月20日(月) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
[ 出演]
 ヴァイオリン/ ワディム・レーピン、諏訪内晶子、田中杏菜
 ヴィオラ/ アンドレイ・グリチュク
 チェロ/ ミッシャ・マイスキー
 ピアノ/ ニコライ・ルガンスキー

[プログラム]
 プロコフィエフ:2台のヴァイオリンのためのソナタ ハ長調 作品56(レーピン&諏訪内)
 ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲 イ長調 作品81
            (諏訪内、田中、クリチュク、マイスキー、ルガンスキー)
 チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲 イ短調 作品50「偉大な芸術家の思い出に」
             (レーピン、マイスキー、ルガンスキー)  

プロコフィエフ(1891-1953)は1918年にアメリカに亡命し、その後9年ぶりにソ連を訪れて各地で演奏活動をした。35年に祖国に復帰する前の32年に2つのヴァイオリンのための作品を聴いて触発され自分流の作品を作り上げた。 
プロコフィエフ流の抒情性あふれる作品に仕上がっている。不協和音も入る4楽章構成の曲。

レーピン(1971- )は40歳を超えたPMF2013の来札以降、演奏技術に加えて品格が滲み出てオーラを発するア-ティストの風格を漂わせている印象が深い。
諏訪内は90年チャイコフスキー・コンクールで史上最年少優勝を飾り、Kitaraでは海外のオーケストラやピア二ストとの共演が多くあった。ライヴで彼女の演奏を聴くのは8年ぶりである。
難曲と思われるプロコフィエフの曲を音楽的に深く理解していなくても演奏の素晴らしさが伝わってきた。聴き慣れていない曲でも二人の演奏によって音楽の素晴らしさが伝わること自体が凄いことだと思った。諏訪内のヴァイオリンを操るテクニック、彼女が紡ぐ美音に改めてSuwanaiが世界一流のヴァイオリニストだと痛感した。

ピアノ五重奏曲はシューベルトの「ます」が最も親しまれている。「ます」は楽器編成がヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスとピアノ。一般的にピアノ五重奏は弦楽四重奏にピアノが加わったもの。その意味ではシューマンやブラームスのピアノ五重奏曲が有名で、昨年は近藤嘉宏とクァルテット・エクセルシオのCDを演奏会の折に手に入れた。

ドヴォルザーク(1841-1904)の作品は47歳の時に書かれた円熟した作品。ボヘミアの民族音楽が使われ、甘美でメランコリックな旋律美にあふれた曲。4楽章構成で40分余りの大曲。ピアノ五重奏曲としてシューマン、ブラームスの曲と共に有名で演奏会で耳にしたこともあるがCDは所有していない。
マイスキー(1948- )は世界の巨匠として述べるまでもない。Kitaraで彼の紡ぐチェロの音の素晴らしさを何度も堪能している。
ルガンスキー(1972- )は8歳でベートーヴェンの32曲のピアノ・ソナタを全曲暗譜で演奏できたといわれる天才。90年のラフマニノフ・コンクール第2位で話題になり、91年札幌で聴く機会があった。Kitara には02年ロイヤル・コンセルトへボウ管、09年札響と共演。93年の事故を乗り越え94年チャイコフスキー・コンクールで1位なしの2位になって世界的反響を呼び起こしたピアニスト。その後はロシア・ピア二ズムの伝統を引き継ぐピアニストとして世界各地で活躍している。

共演のグリチュクはシベリア・イルクーツク出身。ソヴィエト国内の数多のコンクールで優勝してモスクワ・ソロイツのメンバーとして世界各地で演奏。97年にKitaraが開館した折にバシュメットと来札していたと思われる。11年の東京共演でも彼らの演奏を聴いた。93年よりベルリン・ドイツ・オペラ管首席奏者。
田中は若干20歳。12年よりレーピン財団の奨学生で、第1回からトランス・シベリア芸術祭に参加、12年ウラジオストック国際コンクール優勝。ノボシビルスク・フィルともソリストとして共演。

第2ヴァイオリンは控えめだったが、各楽器の特徴が生かされた演奏。ウクライナ民謡ドゥムカのスタイルによる演奏もありスラヴ民族の音楽が楽しめた。先日耳にした《ドヴォルザーク:ピアノ、ヴァイオリン、チェロのためのトリオ「ドゥムキー」》を思い出した。
第1曲目に続く諏訪内のヴァイオリンの響きもやはり独特だったが、チェロ独特の哀感あふれる響きは何とも言えない美しさであった。小ホールではピアノの音の響きが強すぎる印象を受けることがあるが大ホールでのピアノの響きは一段と曲を引き立てる感じがした。
演奏終了後の聴衆の反応は1曲目と同じようにブラヴォーの声があちこちで飛び交い大拍手、楽屋袖では演奏を終ったばかりの音楽家が互いに抱擁を交わしている様子が目に入った。リサイタルの時とは違う光景が見れて良かった。お互いに健闘を称える姿は一緒に音楽を作る室内楽の楽しさなのかと思った。(*ウィーン・フィルのコンサートマスターを今シーズンで退任するキュッヒルさんは以前から“ソリストになるつもりは全然ない”と語っていたのが忘れられない。音楽家それぞれの人生だが皆と一緒に作り上げる音楽の楽しさは代え難いものがあるということが垣間見えた瞬間であった。)

チャイコフスキー(1840-93)が他界した恩師ニコライ・ルービンシテイン(1835-81)を偲んで書いた作品はピアノ・トリオの中でも最も有名な曲の一つ。ロシアでは音楽家の死を悼んで「ピアノ三重奏曲」を書く習慣があったようである。ラフマニノフもチャイコフスキーの死を悼んだ作品を残している。
曲はピアノ三重奏曲としては珍しい2楽章構成。第1楽章は悲歌的楽章。ピアノの分散和音に乗りチェロが哀惜の情をたたえた第1主題が厳かに奏でられて他の楽器に受け継がれる。ピアノによる力強い第2主題。第2楽章は第1部が主題と変奏。第2部が変奏の終曲とコーダ。第2楽章の冒頭の主題はチャイコフスキーとルービンシテインふたりが楽しく過ごした回想場面。各楽器が様々な組み合わせで主題を変奏していく。変奏は第11変奏まで。第2部は第12変奏とコーダ。変奏曲主題が力強く示されて、劇的なクライマックスへ。コーダに入って弦が悲歌の主題を歌い続け葬送行進曲となり、最後はピアノの弱いリズムで静かに音が消えて行く。

この曲は14年12月、レーピンがクニャ―ゼフ(チェロ)、コロべイ二コフ(ピアノ)とトリオを組んで素晴らしい演奏をしてくれた。今回はその時の演奏を超える感激を与えられた。言葉で適当な表現が見つからないほどの感激的な演奏。こんな凄いトリオの曲は二度と聴けないのではないかというほどの感動を味わった。座席も1階7列中央で申し分なかった。

アンコール曲は出演者6人全員による演奏。「ショーソン:ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲 Op.21 第2楽章 シシリエンヌ」。コンサートが終了したのが9時25分過ぎ。聴衆の興奮も収まらず、出演者への拍手が延々と続いた。極めて好ましい雰囲気の裡にコンサートが幕を閉じた。

3階席とP席を除く1300余りの座席は満席状態だったのではと思うが室内楽でこれほどの聴衆が集まって、聴衆が熱狂したコンサートは珍しいと思った。ヴェンゲーロフもノボシビルスク出身の世界的ヴァイオリニストとして活躍しているが、名を成したロシア出身の演奏家で故郷を盛り上げる活躍をしているレーピンは稀有の存在ではないだろうか。今後益々の活躍を期待し、同時にトランス=シベリア芸術祭の発展を祈念する。
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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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