小山実稚恵 「音の旅」第21回 2016年春

2006年に始まった12年間・24回シリーズも11年目に入った。このシリーズは最低でも年1回は聴こうと思っていて近年は欠かさず聴き続けている。2013年春だけはアンネ=ゾフィー・ムターのリサイタルと重なって聴き逃した。今回は16回目となる。

2016年5月20日(金) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

~未来の扉を開いて~
イメージ〈こげ茶〉:大地・地球・力強さと大きさ

〈Program〉
 ブラームス:ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ 変ロ長調 作品24
 バルトーク:ソナタ(1926)
 ベートーヴェン:ソナタ第29番 変ロ長調「ハンマークラヴィーア」 作品106

ステージにはコンサートのイメージに合った華道の花が飾られているが、今回はテーマに沿った自然の巨木も飾られてコンサートのイメージが広がっているようであった。毎回演奏会を始める前に小山から7分程度のトークがある。曲の解説も含めて、実に要領のよい味のある話。演奏の素晴らしさは殊更に言及するまでもないが、知的な表現力も並ではないと感銘を受ける。
昨年は10年目の「音の旅」で彼女の演奏活動30年の節目の年に「バッハ:ゴールトベルク変奏曲」を演奏した。この変奏曲の中に散りばめられた“3”の数字。“遊び”のプログラミングで今回のプログラムも“3”が基軸という。今回の3BプログラムにはBrahmsとBeethovenの間にBartokを入れた。

最初の曲「ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ」は前回の「ゴルトベルク変奏曲」の流れを受けての選曲。ピアノの魅力がぎっしりと詰まった25の変奏曲。余り耳にしたことのない曲だが、小山の縦横無尽の迫力のある演奏に魅せられた。ヘンデル原曲の主題の知識も全然ないが、名手が弾くと変奏曲が心地よく響き渡る。終曲では4声のフーガがクライマックスを築く。聴きごたえのある30分ほどの曲。

コンサート鑑賞が今月中旬から続いているせいもあって、本日のプログラムにバルト―クの作品が入っていることには着目していなかった。昨日のコンサートでバルトークの曲を何曲か聴き、作曲家の生涯は一通り頭に入っていた。農民や民俗音楽を直接の素材とした作風から抽象的で現代的な絶対音楽へと向かっていたバルトーク。新旧のスタイルを統合した作品だと思った。打楽器的な奏法の力強いピアノ演奏は正に圧巻。ピアニストとしても才能豊かであったバルトークならではの曲作りに強烈な印象を受けた。シェーンベルクやストラヴィンスキーに続く現代音楽家として評価された事が実感できる作品。
打鍵の様子を客席中央から見ていて、小山の演奏の力強さに圧倒された。第2楽章では哀しい旋律も響いたが、第3楽章では再びピアノが打楽器的に使われて緊張感が持続する。全体で15分程度の曲にいつもと違う感動を味わった。

後半の「ベートーヴェン:ハンマークラヴィーア」はポリーニの演奏を聴きに2012年11月にサントリーホールに出かけた時以来だと思う。後期ソナタ第30-32番は最近は聴く機会が結構ある。「第29番」は彼のソナタ中で大規模な作品で難曲とされることもあって聴くことは珍しい。ベートーヴェンの4大ソナタは気晴らしに家で聞き流していることがよくあるが、「第29番」は聞き流しなどできる曲ではないので、園田高弘とポリーニのCDも1・2度聴いたくらいである。そんな訳で、この曲を親しむまでにはなっていないのが正直なところである。

ダイナミックな第1主題で始まるソナタ形式。ドラマティックな振幅でスケールの大きさが感じられる。ピアノが発明されて100年程の時代に書き上げた作品とは思えない技法で曲が展開される。第2楽章は異常に短い奇抜なスケルツォ。深遠で思索的な世界を描く第3楽章はこの曲の半分ほどを占める長さの緩徐楽章で実に美しい。第4楽章はフーガの書法に基づくフィナーレ。巨大なフーガはベートーヴェンが書いた音楽の中でも最も霊感に満ちたもののひとつとされている。
ピアノを意味するドイツ語「ハンマークラヴィーア」がつけられた「第29番」はべート―ヴェンの時代に作曲家とピアノ製作者との努力で現代のモダンピアノに近いものになっていたのかと感慨を新たにした。

満席に近いホールでコンサートの最初から最後まで咳ひとつしない聴衆の集中力の高さで大変充実した演奏会となった。小山自身も言及していたが、全24回で最大のプログラムとなった今回のコンサートは今シーズンの〈私のトップ・テン〉に入るだろう。

全エネルギーを使い果たしたかのような演奏だったが、アンコール曲が2曲。「音楽の友」誌で1年半に亘って連載している〈脱力の極み〉を文字通り実践している様子がうかがえた。
「シューベルト:即興曲 Op.142-2, Op.90-3」。2曲とも馴染みのメロディで心地よく聴けた。

※折角の素晴らしいコンサートが続く「音の旅」シリーズだが、コンサートが始まる前のホワイエの混雑ぶりが気になっている。主催者が次回のチケットを売り出すためにできる行列の長さが落ち着いたホワイエの雰囲気を阻害しているように思える。次回は11月だが、以前は8ヶ月前に売り出したこともあった。Kitaraの客対応はリセプショニストの存在で他のホールにはない環境が作られているのだが、来客の不快を招くような状況はできる限り避けてほしいと思う。

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Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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