METライブビューイング2015-16 第8作《蝶々夫人》

第7作《マノン・レスコー》に次いで第8作《蝶々夫人》もプッチーニ作曲のオペラ。60年ぐらい前に八千草薫の主演(*彼女の歌は口パク)による日伊合作映画「蝶々夫人」を観た。オペラは外国人の蝶々夫人役は余り魅力的でないという先入観があってか、今まで鑑賞する機会を持たなかった。マリア・カラスが歌う「ある晴れた日に」というアリアはSPレコードで18歳から聴き続け最も聴き馴染んだ曲である。
日本人歌手では90年代に〈佐藤しのぶソプラノリサイタル〉を何年か連続して聴いていた。Kitaraがオープンしてから2年後の1999年のリサイタルで彼女が歌劇《蝶々夫人》より名場面集と銘打って舞台美術や照明を背景に数曲のアリアを演唱したことを鮮明に記憶している。(*当時のプログラムを確認してみると、“ある晴れた日に”、“母さんはおまえを抱いて”、“花の二重唱”、“間奏曲”、“子守歌”、“かわいい坊や”となっていた。)

今回のオペラは10年ぶりに先月ニューヨークで上演された。日本でのMETビューィングは本日5月7日から1週間。2006年に始まったMETライブビューイングを観るようになったのは2011年。その年から毎年数回札幌シネマフロンティアで鑑賞しているが上映初日に鑑賞したのは初めてであった。最近は収容人数が百数十人の会場で上映されているが、今日は今までで一番多くの観客が集まり3列目からほぼ満席で100名以上は詰め掛ける大盛況。
オペラの内容はよく知られているが、衣装など日本文化の描き方を少し懸念していた。結果的に演出は見事で、心地よい音楽、主演二人の迫真の歌唱力と演技力で感動的な上演となった。上演終了後にはメトロポリタン歌劇場の観客と感動を共有できるほどの満足感を味わった。初めてMETライブビューィングに来たと思われる人が“また観に来たい”と感動の様子を口にしていた。

イタリア語上演。全2幕。上映時間3時間30分(休憩2回)。舞台は19世紀末の長崎。アメリカ海軍士官ピンカートンは芸者の蝶々さんを身請けして結婚式を行なう。式場で蝶々さんがキリスト教に改宗したことを知った親戚や友人たちは絶縁を宣言して立ち去る。人々が帰ったあと、愛の二重唱が歌われて第1幕が終わる。
第1幕でのピンカートン役のロベルト・アラーニャは役作りが巧みで前作のマノン・レスコーのデ・グリュー役も圧倒的なテノールの歌声だったが、今回のピンカートン役の方が年齢的にはピッタリで適役として存在感を示していた。第2幕後半に再び登場して後悔しながら複雑な心を歌う演唱も見事。さすが、どんな役でもこなすMETのスター歌手。

3年後、アメリカに帰ったピンカートンからは何の便りもなくて経済的にも苦しい状況に置かれた蝶々さんは彼の言葉を信じてひたすら長崎で彼を待つ。第2幕の最初に歌われる「ある晴れた日に」はソプラノのアリアの中でも最も有名で親しまれている名曲。オーケストラの演奏とともにドラマの名場面が胸を打つ。高音域で歌うクリスティーヌ・オポライスの演唱が素晴らしい。アリア終了後に歌劇場の観客とともに感動を共有できた瞬間は正に印象的。「マノン・レスコー」のマノンとは対照的な女性を演じるオポライスの表現力豊かな演技力と歌唱力は天下一品。悲しみの涙を抑えながら熱唱し続ける姿に心が揺れるほどの名演。
ピンカートンから結婚した妻を連れて長崎を訪れる手紙を受け取ったアメリカ領事シャープレスは手紙を持って蝶々さくんの家を訪ねる。彼は彼女の家で目にした子を見て驚き、言い出せずに帰る。
第2幕第2場。港にアメリカの船が入った知らせに喜んだ蝶々さんは家中に花を飾るがピンカートンは現れない。やがて蝶々さんの目の前に彼の妻の姿があった。子を手放すことを決意した蝶々さんは短刀を手にして自害する。

簡素な舞台装置だが、華麗な衣装や斬新な舞台照明など効果的な演出が光った。広い舞台で何枚もの障子やふすまをスライド式で使用し、文楽人形を使うなど日本文化が漂う演出も良かった。スズキ役のジフチャック、シャープレス役のクロフトは演出家ミンゲラとは10年前の「蝶々夫人」に続く再演だという。個性的な脇役陣も揃ってMETの歌手たちの支えがあったが,何といってもオポライスとアラーニャの名演が際立っていた。オーケストラを指揮をしたカレル・マーク・シションは初めて耳にする名前。レヴァインが音楽監督を辞任したMETで今後も耳にする機会のありそうな指揮者である。

〔追記〕昨日のオペラ鑑賞の余韻が残っていて今日はオペラ全集とマリア・カラスのオペラ・アリア名曲集から《蝶々夫人》の名場面が収録されたCDを聴いてみた。カラスの「ある晴れた日に」は1954年録音、レナータ・スコットの「愛の二重唱」、「ある晴れた日に」は1966年録音で音響面ではMETとは比較のしようもない。単独でアリアを聴くのと、全体の流れの中で聴くオペラとでは感激の度合いが違うのは当然である。原語で書かれた歌詞が参考になったのは確かである。とにかくオペラは実演を全幕鑑賞できるに越したことはない。





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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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