札響名曲シリーズ2016-17 Vol.1 ロンドン(尾高忠明&戸田弥生)

森の響フレンドコンサート 札響名曲シリーズ2016-17 Vol.1

札響名曲シリーズは年5回開催されているが昨シーズンは結果的に一度も鑑賞しなかった。昨シーズン2月開催Vol.5(尾高&金子)のR.シュトラウス:オーボエ協奏曲は当日歩行困難のため残念ながら聴き逃した。
今シーズンはシーズン券をすでに購入してある。今シーズンの名曲シリーズは指揮者、コンサートマスターと繋がりのある都市(ロンドン、ウィ-ン、ライプツィヒなど)をテーマとした演奏会。第1回はロンドン。

2016年4月23日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ 尾高 忠明 (Tadaaki Otaka)     ヴァイオリン/ 戸田 弥生(Yayoi Toda)

札響名誉音楽監督としてマエストロ尾高は昨年の札響10月定期と去る2月の名曲シリーズでも札響を指揮しているが、彼の姿を見るのは昨年2月以来で久しぶり。尾高は海外活動では特に英国との縁が深く、1987年からBBCウェールズ・ナショナル管弦楽団の首席指揮者に就任し、96年には桂冠指揮者の称号を贈られた。97年に大英帝国勲章、99年にエルガー・メダルを受賞。ロンドンでのプロムスの常連指揮者のひとり。日本国内のオーケストラには英国作曲家の作品を数多く紹介している。

戸田弥生は1968年、福井県生まれ。85年、日本音楽コンクールで第1位。桐朋学園大学を首席で卒業後、92年より奨学金を得てアムステルダムの音楽院に留学。93年エリーザべト王妃国際音楽コンクールに優勝して国際的に活躍。2003年には名曲シリーズで札響と共演。(*フランス音楽、「マスネ:タイスの瞑想曲」と「サン=サーンス:ハバネラ」を矢崎彦太郎と共演)。現在、フェリス女学院大学教授。

ロンドン~英国女王のもとに~
〈プログラム〉
 エルガー:序曲 「コケイン(ロンドンの下町)」 
 ヴォーン・ウィリアムズ:揚げひばり~ヴァイオリンとオーケストラのためのロマンス  
             コンチェルト・アカデミコ
 ウォルトン:戴冠行進曲 「宝玉と王の杖」
 G.ウィリアムズ:海のスケッチ~弦楽オーケストラのための
 エルガー:行進曲 「威風堂々」 第4番ト長調、 第1番ニ長調

プログラム・ノートによるとマエストロ尾高は昨年のロンドン・プロムスにおいて本日と同じ4名のイギリス人作曲家の作品をBBCウェールズ・ナショナル管と共演した。2012年3月の札響名曲シリーズVol.4「英国万歳」でもオール・イギリス・プログラムだったことを思い出した。
 
エルガー(1857-1934)の序曲「コケイン」は初めて耳にする曲。英語名Cockaigneはロンドンのこと。(*Cockney English はロンドンのイースト・エンドに住む労働者階級が使うロンドンなまりの英語。オーストラリア英語はコックニー・イングリッシュに由来する。4月はアイプリル、今日はツゥダイ、18はアイティ-ンと発音するのが特徴。簡単に言うとエイがアイと訛る英語。)カタカナで書かれていたこともあって全然気づかなかった。「下町」を中心として描いたような曲ではなく大都市ロンドンの様々な情景を描写しているように思えた。英語のサブタイトル“In London Town”のtown“下町”は適訳でないが慣習的に使われているらしい。(:*日本の行政で使われる市、町、村は英語のcity, town, villageとは違う。)

ヴォーン・ウィリアムズ(1872-1958)のCDは1枚持っている。10年ほど前に「ロンドン交響曲」というタイトルに引かれて手に入れたと思うが、まさか「ヴァイオリン協奏曲」が収録されているとは昨日まで気づかなかった。バッハやモーツァルトの時代を参考にした新古典派の音楽を目指した3楽章構成の曲。オーケストラは弦楽合奏のみ。第2楽章でソロ・チェロも活躍。

先んじてヴァイオリニストが演奏した「揚げひばり」は15分弱の曲だったが、ヴァイオリンが弱音で奏でる詩情豊かで抒情味あふれる演奏に心が動かされた。4年前に訪れたイングランドの田園風景を思い浮かべながら、雲雀が空高く舞い上がって飛ぶ姿を描けて楽しめた。聴く者の心に深く染み入る演奏は見事であった。近年は若くして世界のヴァイオリン界に羽ばたく日本人ヴァイオリニストが続出しているが、ひと時代前の話題のヴァイオリニストの健在ぶりを示す演奏に満足した。小さめの楽器編成がヴァイオリン・ソロを引き立てていた感じもした。演奏終了後の聴衆の感動もホールに広がって良かった。
アンコールを求める盛大な拍手が続いたが、力を尽くしての2曲連続演奏の疲れや時間の都合もあってかアンコール曲は無し。

ウォルトン(1902-83)は8年前に諏訪内晶子のシベリウス:ヴァイオリン協奏曲のCDを購入した時にカップリング曲になっていてその名を知った。プログラム・ノートによると彼は英国王の戴冠式のため行進曲を2曲書いている。1曲目は1937年に即位したジョージ6世の時の「王冠」で、2012年3月の尾高&札響による名曲シリーズ「英国万歳」で演奏された。2012年はエリザベス女王在位60年記念祭典Diamond Jubileeがロンドンで華やかに行なわれて日本の天皇・皇后両陛下も式典に列席された。私はこの時期に丁度ロンドンを旅行中でバッキンガム宮殿も訪れたが祭典を祝う旗が市の中心部のあちこちに掲げられていて歓迎ムードが漂っていた光景を思い出す。一昨日はエリザベス女王が90歳の誕生日を迎えたニュースが全世界に報道された。
マエストロ尾高は4年前と同じく今回も英国に想いを馳せてイギリス音楽をプログラミングしたのかも知れないと思った。今回の戴冠行進曲「宝玉と王の杖」はエリザベス2世(現女王)戴冠式のための作品。3管編成で大規模なオーケストラから奏でられる管楽器などの大音響は勇ましい音楽ではあったが札響のレベルとしては率直に言って凄いとは思わなかった。

グレイス・ウィリアムズ(1906-77)の名は初めて耳にする。ウェ―ルズ出身の女性作曲家。第2次世界大戦中に疎開していた時に目にした海の情景を5曲にまとめた弦楽合奏組曲。弦楽5部のみの比較的静かな音楽でそれなりに変化もあって聴きやすかった。

エルガーはイギリスの作曲家としてはブリテンと並んで演奏機会が多い。「愛の挨拶」とともに人気があるのが《「威風堂々」第1番》。30年務めた高校の入学式・卒業式で聴き続けた曲で体に染みついたメロディ。奉職した高校の創立110周年記念コンサートで数年前にKitaraで耳にしたがいつも感慨を新たにする。
“Pomp and Circumstance”の日本語訳「威風堂々」は適訳で素晴らしいタイトル。pompは華麗、壮観、威厳の雰囲気を持つ語。circumstanceは儀式ばったこと、ものものしさを意味する。軍隊・儀式などの行進で威厳をもって整然と列をなして行進する様を思い浮かべると良い。
同じタイトルの作品が5曲書かれた。20006年にドイツでリリースされたSONY BMGの輸入盤(バレンボイム&ロンドン・フィル)には軍隊行進曲5曲として収録されている。本日演奏された「第4番」も聴きなれた曲と思ったが、チャールズ皇太子とダイアナ妃の婚礼でも演奏されたそうである。なお、「第1番」は4年前の〈英国万歳〉のフィナーレにもなり、プロムスの恒例のフィナーレを飾る曲になっているということである。
2曲とも各5分余りの曲。流石エルガーの曲は大編成の楽器群でも演奏の響きが違った。札響も演奏機会が多いエルガー作品をプロらしい演奏で締めくくった。「第1番」は盛り上がりのあるフィナーレ曲となったが、オルガンも加わっての演奏は一層壮麗さと壮大さが増した。
演奏終了後の人気のマエストロ尾高に対する聴衆の万雷の拍手も温かかった。予想外に演奏されたアンコール曲は「エルガー:エニグマ変奏曲より ニムロッド」。

※「揚げひばり」の曲に魅せられた理由が別にある。英語名は“The Lark Ascending ”。英国は他のヨーロッパ諸国と比べて不思議なことに偉大な作曲家が多く輩出していないが、ワーズワース、バイロン、キーツなど数多くの詩人が生まれている。ロバート・ブラウニングの詩を日本語訳した上田敏の作品に“揚げひばり”という言葉が出て来るのとつながった。戸田弥生のヴァイオリンの音色を聴きながら学生時代から暗記していた詩が浮かんできた。
  時は春、日は朝(あした)、朝(あした)は七時、片岡に露みちて、
  揚雲雀(あげひばり)なのりいで、 蝸牛(かたつむり)枝に這い、
  神、空に知ろしめす、 すべて世は事も無し
Browning の英詩もすぐ浮かんできた。
 The year's at the spring,  And day's at the morn;  Morning's at seven;  The hill-side's dew-pearled:
The lark's on the wing;  The snail's on the thorn:   God's in His heaven:    All's right with the world!
韻をふむ英詩の良さの鑑賞は原語に勝るべきものはないが、上田敏の日本語訳のこの詩は原詩に劣らぬ素晴らしい詩として多くの日本人が諳んじているほどの名訳として親しまれている。ひばりが空を舞い上がっていく様子を「揚げ雲雀」と短い言葉で表現した素晴らしさを改めて感じた。

スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR