ミシェル・ブヴァ―ル オルガンリサイタル

〈Kitaraワールドソリストシリーズ〉

Kitara初のオルガンリサイタルは1997年7月12日の札幌コンサートホールオープン記念コンサート。札幌の姉妹都市ミュンヘンから世界的なオルガニスト、エドガー・クラップを迎えて行なわれた。大ホールの正面に設置された全長およそ12メートルのパイプオルガン。外観は木枠に大きな針葉樹林のように86本のパイプが並び、トランペット管116本が観客席に向かって中央部分から突き出ている。この日に巨大なオルガンからオーケストラのように奏でられた音楽を耳にした喜びは私の心に強烈な印象を残した。
その後、ジリアン・ウィーア、マリー=クレール・アラン、ミシェル・シャプイ、オリヴィエ・ラトリー、トン・コープマンなど海外の著名なオルガニストが次々とKitaraに登場した。当時は彼らの名前も初めて耳にするぐらいでオルガンに対する知識は殆ど無に等しかった。
毎年ヨーロッパの優れた若手オルガニストを招くKitara専属オルガニスト制度が1998年に始まったお陰でオルガンに親しむ機会が増えた。98~99年には「オルガンの仕組みと音楽」、「バッハのオルガン音楽」と題したオルガン入門講座にも参加した。マリー=クレール・アランのバッハ:オルガン名曲集を聴き出したのもこの頃で今でも時々耳にする。
2000年以降、それまで年2回くらいだったオルガン鑑賞がKitaraボランティア活動を始めた2007年から急に増え始めた。オルガニストに日本語を教える活動が入ってオルガンをより身近に感じるようになったのだと思う。歴代の専属オルガニストたちが学んだパリ国立高等音楽院についても知識が増え、日本に派遣するオルガニストの選考にオリヴィエ・ラトリ―が深く関わっていることも知るようになった。

今回のコンサートを機にミシェル・ブヴァ―ルの名を初めて知って、彼の業績を知り得た。

2016年4月16日(土) 14:00開演 札幌コンサートホールKitara大ホール

出演/ ミシェル・ブヴァ―ル、  宇山=ブヴァ―ル 康子

Michel Bouvardは1995年、パリ国立高等音楽院教授に就任して世界中から集まる若手オルガニストの指導にあたり、演奏家としても25ヶ国以上で千回を超えるコンサートを行っているフランス・オルガン界の巨匠。2010年からヴェルサイユ宮殿のオルガニスト。(*4名の宮殿首席オルガニストのひとり)
夫人のYasuko Uyama=Bouvardは京都出身。東京藝術大学卒業後、パリ国立高等音楽院に学ぶ。オルガンとクラヴサンの国際コンクールで2度優勝。ソロ・室内楽ともに活躍中。現在、トゥ―ルーズ地方音楽院教授、サン・ピエール教会のオルガン奏者。

〈プログラム〉 
 J.S.バッハ(イゾワール編曲):4台のチェンバロのための協奏曲 イ短調 BWV1065
 シャルパンティエ:「テ・デウム」への前奏曲
 デュモン:前奏曲 第3番、第7番、第10番、第14番
 クープラン:教区のミサより グランジュの奉献唱 
        クラヴサン曲集 第3巻 第15組曲より  
              「ショワジのミュゼット」、「居酒屋のミュゼット」
 モーツァルト:ディヴェルティメント第9番 変ロ長調 K.240
 メンデルスゾーン(スミッツ編曲):厳格な変奏曲 ニ短調 作品54
 デュプレ:行列と連祷 作品19-2
 J.ブヴァ―ル:バスク地方のノエルによる変奏曲
 J.アラン:連祷 JA119
 デュリュフレ:アランの名による前奏曲とフーガ 作品7

10分ほどのバッハの曲はヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集『調和の霊感』を原曲にして書かれた作品。よく耳にする「トッカータとフーガ」とはちょっと違った感じがしたのは当然だろう。

今日のプログラミングが絶妙と思ったのは演奏終了後の感想である。最初の曲が《バッハの音楽》、2曲目から5曲目までが《ヴェルサイユのフランス音楽》、前半最後の曲がモーツァルトがヴェルサイユ宮殿に関わるもの。休憩後の後半5曲が《ロマン派、交響楽派、ポスト交響楽派》とサブタイトルがつけられていた。

ルイ14世によって始まったヴェルサイユ時代は1682年~1789年。デュモンはルイ14世の教会音楽監督としてシャンソンを基にオルガン曲を書いた。4曲とも3手による演奏。シャルパンティエは初期のヴェルサイユ楽派を代表する作曲家で多くの教会音楽を残した。原曲はオラトリオで「前奏曲」は祝祭的な行事などで流されて親しまれているという。いろいろな編曲があるが、本日は3手のオルガンによる演奏。
上記の作曲家の名は馴染みでないが、クープランはラヴェル作曲のピアノ曲「クープランの墓」で人々に知られている。1678年に注文しされ1710年に出来上がったオルガンをヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂で披露演奏したのがフランソワ・クープラン(1668-1733)。「奉献唱」はオルガン独奏。オルガン・ミサの歴史の中で頂点に立つ傑作と言われる。(*ヴェルサイユ宮殿ではルイ14世が自ら選出した4人のオルガニストが春夏秋冬を交代で務めることになっていた。)クープランが残したクラヴサンによる曲は連弾。

モーツァルトのデヴェルティメントは18世紀中ごろに流行った嬉遊曲でアンサンブルのための自由な形式の比較的に短い曲。K.240 はザルツブルク大司教のための食卓音楽だったそうで極めて軽やかで楽しい曲。楽器編成がオーボエ2、ファゴット2、ホルン2の木管6重奏曲を4手によるオルガンのための編曲で演奏された。
モーツァルトは7歳の時にルイ15世の御前演奏をして以来何度かヴェルサイユ宮殿を訪れた。宮殿のオルガニストにとの王の誘いを断ったエピソードが伝わっている。フランス革命後に長年閉じられていた王室礼拝堂のオルガンの修復が行われた後のオルガニストに就任したのがミシェル・シャプイだった。シャプイの後任がミシェル・ブヴァ―ルである。モーツァルトの曲を演奏した理由が判明して曲の楽しさと合わせて面白かった。軽やかで心も癒される演奏は極めて楽しかった。

後半のプログラムは全てオルガン・ソロ。5人の作曲家で馴染みでないのはJ.ブヴァ―ルだけ。彼はミシェルの祖父で、バスク地方のクリスマスの主題と4つの変奏曲は親しみやすい曲作りに思えた。デュプレとアランの曲はタイトルが難しくて曲のイメージが掴めないが、高度な技術で流れるようなリズム感ある演奏。ジャン・アランは第二次世界大戦中に29歳の若さで戦死したが、パリ音楽院時代に多くの作品を残した。彼は20世紀の世界最高のオルガニストとして有名なマリー=クレールの兄としても知られる。

メンデルスゾーンはバッハのマタイ受難曲の復活演奏を行なって19世紀にバッハ音楽復興に寄与したことでの選曲かなと思った。原曲はピアノ独奏曲で数年前に曲名を知った。主題と17の変奏曲とコーダから成る15分弱の曲で本日の演奏曲で一番長い。

最後のデュリュフレの曲は若くして戦死したアランを追悼する曲で今までの演奏会でも聴いたことがある。専門的にはよく解らないがアラン(Alain)の名を音名変換して得られる音列(ラレララファ)を使って書かれているという。

Kitaraのオルガンは演奏家が望む音を出せるオルガンとして評価が高い。ブヴァ―ルはやたらに高音をドラマティックに鳴らさずに、大音量は効果的に使ったのはわずかで、細かい音も単音でなくて滑らかに流れるような和音となって心地よくホールに響き渡った。彼が紡ぐ音はまさに絶妙で聴く者の心に深く響いてきた。今まで50回以上は聴き続けたオルガン演奏会でこんな風に感じたのは初めてかもしれない。演奏終了後には他の聴衆の反応からも感動の様子が伝わってきた。オルガン演奏会では聴衆は静かに耳を傾けていて盛大な拍手があっても、歓声が上がることは経験したことが無かったと思うが、今日は歓声が上がった。

ブヴァ―ルはマイクを手にして英語であいさつ。“日本語を話せなくてすいません。Kitaraのオルガンを演奏できて嬉しく思います。”と話し、続けてアンコールのソロのクリスマス曲と2曲目のYasukoとの連弾曲を紹介して演奏。
アンコール曲は「J.ブヴァ―ル:フランスのノエル」と「ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲 四季 冬より “ラルゴ”」

※Kitaraのオルガンはフランスのケルン社が2年の歳月をかけて制作して、同社の社長で製作者のダニエル・ケルンが自らKitaraでの設置と整音作業を4ヶ月にわたって行った。彼の父親アルフレッドはシュヴァイツァー博士と交流があり、博士の励ましによって会社を設立した話が伝わっている。シュヴァイツァー博士はノーベル平和賞受賞の医師として知らぬ人がないほどの偉人であるが、彼がオルガにストだったことはあまり知られていない。その点で昨年のKitaraギャラリーでのシュヴァイツァー展は良い企画だったと思う。(*彼は30歳まで学問と芸術に生きて、その後に医学を学んで奉仕の道に進む決意をした。)シュヴァィツァーは医師の資格をとってからアフリカでの医療奉仕活動に従事して、お金が必要になるとヨーロッパでオルガニストとして演奏活動を行なって得た収入を病院での活動につぎ込んでいたといわれる。彼は当時プロのオルガニストでもあった。

※昨日と今日は3ヶ月ぶりにKitaraボランティアとしてダイレクトメールの活動に参加した。ボランティア同士で作業をしながらお互いに話をしたり聞いたりして気分転換が図れた。今日の午前中の作業が早く終了して、午後のコンサートが始まるまで時間が充分にあったので中島公園内にある北海道立文学館を訪ねた。館内に他に観覧者がいなくて落ち着いて時間をかけて数年前とは違う展示物を読んだ。北海道出身の作家たちの名に親しみを覚えたり、前回までに気づかなかった情報も得れて思ったより充実した時間が過ごせた。午後のコンサートで今までにない楽しみ方が出来たのは一日の流れが好結果を生んだような気がした。









 
 
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Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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