辻井伸行ショパン・リサイタル2016

2013年11月末から14年3月末までの期間中に行われた辻井伸行日本ツアー《ショパン&リスト》に続いて、今回は《ショパン・リサイタル》。14年以降に彼のKitaraでの公演は何回か開かれたが、座席を選べない状態が続いているので鑑賞の機会を持たなかった。辻井のコンサートを聴くのは、およそ2年ぶり7回目となった。

2016年1月20日(水) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

〈オール・ショパン・プログラム〉
 3つのワルツ 作品34 (ワルツ第2番、第3番、第4番)
 12のエチュード 作品10
 4つのバラード
  バラード第1番 ト短調 作品23、  バラード第2番 ヘ長調 作品38
  バラード第3番 変イ長調 作品47、  バラード第4番 ヘ短調 作品52

ショパンのピアノ作品は〈踊りに由来する様式の〔ワルツ、マズルカ、ポロネーズ〕と純粋な音楽様式の〔ソナタ、練習曲、前奏曲、夜想曲、即興曲、バラード、スケルツォ〕に分けられる。 
その3つに絞られたプログラムに好感を抱いた。新しく購入したコンポで今日の午前中に本日の演奏曲を聴いてみた。今までよりも良い音で楽しめた。

ショパンの残したワルツは20曲余りあるが、楽譜があるのが19曲。11曲は死後発表された。初期の作品34「華麗なる円舞曲」(第2~4番)はショパンがパリの社交界でピアニストとして人気を博していた頃の作品。ショパンのワルツは“華やかなワルツ”と“”叙情的なワルツに大きく分けられる。「第2番」は最も規模が大きく華やかなワルツ。「第3番」はワルツとしては遅いテンポで暗くて内省的。「第4番」は猫が鍵盤の上を跳びはねているようで“猫のワルツ”という愛称で親しまれている。(カツァリスとルイサダの全集で聴いている。)

十数年前からブーニンとポリー二のCDで親しんでいる「24の練習曲」。作品25より作品10の方が親しみやすい。愛称が付いていて旋律に慣れているせいだと思っている。「第3番 別れの曲」は18歳の頃からSPレコードで聴いていた。「第5番 黒鍵」は5音音階に基づき、右手が黒鍵、左手が和音を受け持つ面白い曲。「第12番 革命」は革命軍敗北とワルシャワ陥落の知らせを聞いたショパンの絶望と怒りが込められた心情が吐露された曲で演奏される機会が多い。

作品10の演奏前に辻井自身が札幌での演奏を毎年楽しみにしている話があって、“練習曲が1曲終わる度に拍手をしたい人もいるでしょうが、「12の練習曲」には流れがあって集中して演奏するので、全曲が終わってから拍手してもらえると有り難い”という言葉が添えられた。そのお陰で私自身も全曲の鑑賞に集中力が途切れることが無かった。標題がある曲以外の曲の良さも解った気がして充実感を味わえた。
辻井の伸び伸びとした力強い演奏が伝わってきて、曲に感情移入ができた。今まで何となく聞き流していたが新しい角度から聴き直したい魅力あるものに思えた曲も幾つかあって嬉しかった。圧倒的な演奏に辻井伸行の底知れない音楽の才能を感じた。

14年3月のゲルギエフ指揮ミラノ・スカラ座フィルとの共演、同年4月にはリサイタルでパリ・デビュー。15年5月には佐渡裕指揮トーンキュンストラー管との共演でウィ‐ン・デビュー。同年11月にはゲルギエフ指揮ミュンヘン・フィルとのドイツおよび日本での公演を重ね、各地で大反響を呼んでいるという。3年ぶりに聴いたが、着実に実力をつけて順調に成長している様子が素人の自分にも判る演奏。彼の演奏にぐいぐいと引き込まれた。13年4月、佐渡裕指揮BBCフィルハーモニックと共演しての「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番」以来の感動を覚えた。(*この時に書いたブログで辻井の演奏に関する部分が世界中の辻井ファンのために発行されているニュースに取り上げられ英訳されて載っている。辻井伸行のファンが世界中にいることを知って驚いたものである。)

バラードはショパンが作り出した独特の分野。アシュケナージの全集で聴くのが常だったが、最近は河村尚子のCDでも聴くようになった。
「第1番」は最も親しまれていると思うが、最近ではフィギュア・スケーティングで世界の脚光を浴びる羽生結弦のショート・プログラムの曲としても有名になった。物語風の詩に由来するバラードに相応しい叙情味あふれる美しい曲。
「第2番」はシューマンから贈られた「クライスレリアーナ」への返礼の曲。素朴で穏やかな規模の小さな曲。
「第3番」はショパンが精神的に満たされていた幸せな時期に書かれた作品。繊細で想像力に富んだ高貴な華やかさを持った曲。
「第4番」は音楽的に内容が高度で、プロの演奏家が意欲的に取り組んでいる曲の印象。

フィナーレが曲の終わりを感じさせなかった「第2番」だけ、拍手が無かった。辻井は直ちに次の曲へと進んだ。バラードもできれば4曲続けて、中断なく聴きたかった。「4つのバラード」も素晴らしかったのだが、曲の切れ目に拍手が起きて個人的には集中力をそがれて残念な気がした。結果的に中断無く、音楽に浸れたエチュードが一番印象に残った。

“盛大なアンコールに応えて” 「ショパン:ノクターン 第20番 嬰ハ短調 遺作」。2曲目は辻井が2010年にスペインのマジョルカ島を訪れた時の自然の様子をスケッチした自作の曲で「風の家」。3曲目は「リスト:ラ・カンパネラ」。

辻井のコンサートは09年ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール優勝後はチケットは何ヶ月も前から完売が当たり前の状況が続いている。完売でも演奏会当日には空席が幾つか目につくが、今晩の指定された1階3列目の座席からは空席は一つも目に入らなかった。コンサートの終盤で周囲を見回すと女性客が8割を占めるほどであるのに気づいた。
辻井のトークもなかなかなもので客を喜ばせる術を心得ている。次回のオルフェウス室内管との共演のコンサートの宣伝も入れアンコール曲にも巧みな配慮。コンサートを盛り上げる曲を最後に演奏したあとは気を持たせてピアノの蓋をソッと閉めて客の笑いを誘った。心温まる雰囲気でコンサートが終了。
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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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