小山実稚恵 「音の旅」 第20回 《ゴルトベルク変奏曲》

12年間・24回リサイタルシリーズ2006-2017 「小山実稚恵の世界」
 
「音の旅」第20回 ~究極のアリア~
             イメージ〈金〉:金:孤高の存在・特別なもの

小山実稚恵の壮大なプロジェクトも今回で10年目が終ろうとしている。2006年に始まったシリーズは毎年一度は欠かさず聴いており、今回で14回目になる。特に2011年からは毎年鑑賞の予定に入れていた。ただ、13年春のシリーズでは同日の同じ時間帯でアンネー=ゾフィ―・ムターのヴァイオリンリサイタルが急遽Kitara大ホールで開催されたためムターのコンサートを優先した。
今回も及川浩治のリサイタルと重なったが、小山のプログラムの魅力が勝った。「ゴルドベルク変奏曲」を演奏会で聴く機会はめったに無い。

2015年11月20日(金) 19:00開演 札幌コンサートホールKitara小ホール

〈プログラム〉
 シューマン:花の曲 作品19
 J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲(アリアと30の変奏曲) ト長調 BWV.988

小山のリサイタルシリーズにシューマンの曲が入らないないことは珍しいくらい。「花の曲」は余り聴いたことが無い。作曲当時は後に妻となるクララへの想いを寄せて書いた抒情的な作品。演奏時間7分程度の小品。リサイタルシリーズ第1回がシューマンの「アラベスク 作品18」でスタートした。その隣り合わせの作品を今回のバッハの大曲と組み合わせたと言う。

今日のメインはバッハ。グレン・グールド(1932-82)による55年のワシントンとニュ―ヨークでの“Goldberg Variations“の演奏が話題となり、録音化されて世界で話題を呼んだ曲として知られる。55年盤は90分もかかる曲だと言われるが、81年のCD盤を手にしたのが、グールドに興味を抱いた2000年のことであった。50分程度のテンポの速い曲で今までどれほど耳にしたことか。今日の昼間に何年ぶりかで聴いてみた。64年頃録音のチェンバロによるグスタフ・レオンハルト(1928-2012)のCDも手元にあって久し振りで聴いてみた。(彼のリサイタルをKitara小ホールで2011年5月に聴けたのは今や貴重な思い出である。)

Kitara小ホールで「ゴルトベルク変奏曲」を初めて聴いたのが08年6月。Kitaraランチタイムコンサートで聴くには重々しい曲ではあったが、生演奏で一度聴いてみたかった。ロシア系アメリカ人のセルゲイ・シェプキンによる今も記憶に残る新鮮な演奏であった。当時、すみだトリフォニ―主催「バッハ《ゴルドベルク変奏曲》」シリーズで話題となり09年にKitaraでバッハの「平均律クラヴィーア曲集」を弾いたマルティン・シュタットフェルト(1980- )のバッハ演奏も再び耳にしたい。若いピアニストの解釈による演奏は心弾むものがあった。

プログラムをスタートする前に小山の解説が毎回ある。「音の旅」は10年目の第20回。今年は彼女の演奏活動30周年の年である。今回のメイン・プログラムの曲も30の変奏がある。今年はバッハ生誕330年にあたる。(*彼女が指摘するまでそのことを意識していなかった。)彼女はこのプロジェクトを企画した当初からバッハの大曲「ゴルトベルク変奏曲」は30周年の第20回のプログラムに入れようと決めていたと言うからその綿密な用意周到性に改めて驚いた次第。

「ゴルトベルク変奏曲」は作品自体がその「音の旅」であるように感じられると言う。アリアから始まって30の変奏の旅に出て、最後に再びアリアに戻ってくる。この2つのアリアは耳に馴染んでいるが今日はそれぞれ違った情感を持って聴けた。小山実稚恵の長年の努力と独自の解釈による音の結晶がほぼ満席で埋まった客席の隅々まで心地よく響き渡った。丁度60分にわたる長大な曲を固唾をのんで耳を傾ける聴衆の集中力も凄かった。演奏終了後の感動の渦は特別なものがあった。

精魂込めての演奏で全ての力を使い尽くし、アンコール曲」は「シューマン:アラベスク」のみ。1曲だけは予め用意していたのだろう。これで充分であったが、申し訳なさそうにステージでお辞儀をする姿に彼女の謙虚な人柄が表れていた。

*300年も前に30の変奏曲を3曲毎に舞曲、トッカータ風、カノンと数学的にも工夫を凝らして作曲して後世に偉大な作品を遺したヨハン・セバスティアン・バッハの偉大さを改めて思い知らされた。曲の構成が、3、4、6、12、24などバッハに起源を持つ数字が多いのは承知していたが、《小山実稚恵の世界》がバッハを念頭においてスタートしていたことは今回やっと理解できた。
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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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