大森潤子ヴァイオリン・リサイタル

札幌交響楽団首席奏者 大森潤子がNew Kitaraホールカルテットのメンバーとして第5~8回までの室内楽演奏会に出演した折に彼女のヴァイオリンを身近に聴く機会があったが、リサイタルを聴くのは今回が初めてである。

2015年9月15日(火) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

デビュー15周年 CD『Zephyr~そよ風』発売記念 
 Junko Omori Violin Recital

大森潤子は東京藝術大学を首席で卒業、同大学院修士課程修了。パリ国立高等音学院修了。1994年、第63回日本音楽コンクール第2位。第3回パリ・ADAMI 財団コンクール優勝に伴い、同財団の名器を貸与される。条件として、日本・フランスを含む欧州各地でのリサイタルの他にアウトリーチ活動が課されている。ソリストとして東京フィル、仙台フィル、札響などに出演。2006年から札響首席奏者。オーケストラでの活動以外にソロ、室内楽、アウトリーチなど幅広い活動を行っている。
2010年、デビュー10周年の折にイザイの無伴奏ソナタ全曲演奏会を東京文化会館とKitara小ホールで開いて絶賛を博した。

中島由紀は桐朋学園大学卒業後、渡仏してリヨン国立音楽院でピアノと室内楽科のディプロマを取得。1997年、フランスのラヴェル・アカデミーにて最優秀ピアニスト賞受賞。2001-09年まで東京藝術大学管楽器科伴奏員。現在、日本とフランスを中心に演奏活動を行なっている。

〈プログラム〉
 モーツァルト:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ト長調 K.301
 フランク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調
 クライスラー:コレルリの主題による変奏曲
 シューベルト(ウィルヘルミ編):アヴェ・マリア
 パガニーニ:ラ・カンパネラ
 ヴィエニャフスキ:モスクワの思い出
 フバイ:そよ風
 ラヴェル:ツィガーヌ

コンサートの前半2曲はソナタ。モーツァルト(1756-91)が21歳の頃に作られたソナタは2楽章構成。ソナタは当初ヴァイオリン伴奏つきのクラヴィーア・ソナタから作られ始め、ヴァイオリンの比重が増したK.301はピアノに主導権はあるが、ヴァイオリンの瑞々しい歌がピアノと対話する明るく美しさに溢れた曲。ト短調のシチリアーノの部分が中間部にあって魅力的。
ハスキルとグリュミオーのCDを何年ぶりかでコンサート前に聴いてみて聴き慣れたメロディに親しみが増した。コンサートでも久し振りでモーツァルトの曲の明るさを楽しんだ。

フランク(1822-90)の名曲を聴く機会が今年は多い。1月川畠成道、5月五嶋龍、8月木野雅之に次いで今回が4回目で珍しい現象。祈りに始まり徐々に精神的に高揚していく生き生きとした曲。4楽章すべてに同じ主題が繰り返しあらわれて発展する親しみ易い曲で、何度聴いても飽きない名曲。生演奏で聴くと演奏家の個性も見えて同じ曲でも印象は必ずしも同じではないのが興味深い。
大森の演奏も全体的に統一感のあるヴァイオリン曲を堂々として揺るぎなかった。中島のピアノもお互いに息があって曲の重量感を作り上げていた。

後半は超絶技巧が必要な難曲が続く小品集。フバイだけ聞いたことのない作曲家。ヴァイオリンの名手の作品が並んで聴く楽しみが増した。ここ数年は前橋汀子のアフタヌーン・コンサートで小品を楽しんでいる。CDの小品集ではハイフェッツ、パールマン、レーピン、ヴェンゲーロフ、五嶋みどり、ゲオルギエヴァなどのCDを時々気分転換にBGMとして聞いている。

「コレルリの主題による変奏曲」はルガンスキーの弾くラフマニノフのピアノ曲のCDを所有しているが、聴いて直ぐにはピアノ曲との関連は解らなかった。クライスラー(1875-1962)がコレルリ(1653-1713)の作品を得意の技巧を駆使してヴァイオリン曲に仕上げた小品。(*コレルリorコレッリのソナタは寺神戸亮が演奏したCDを15年ほど前から持っていて名はよく覚えているだけ)
シューベルトの「アヴェ・マリア」は歌曲として親しまれているが、ドイツのヴァイオリニスト、ウィルヘルミ(1845-1908)の編曲でも名高い。
パガニーニ(1782-1840)の「ラ・カンパネラ」は〈ヴァイオリン協奏曲第2番の第3楽章「鐘のロンド」〉に出てきた曲。難度の高い文字通り超絶技巧の曲。ヴァイオリン演奏の多彩な技術が盛り込まれている難曲。大森はかなり集中力を高めて演奏したのではないだろうか。
ヴィエニャフスキ(1835ー80)はポーランド生まれ。ポーランドではショパンに継ぐ英雄で1930年代からヴィエニャフスキ国際ヴァイオリン・コンクールが行われていて、ヴェンゲーロフ、レーピンが彼の作品を多く取り上げている。ヨーロッパ、とくにロシアで人気が高いようで、前橋もロシア留学中の思い出をこのロシア民謡「赤いサラファン」にもとずく幻想曲をコンサートでよく弾いている。他に「華麗なるポロネーズ」、「ヴァイオリン協奏曲」など魅力的作品の多い作曲家。

大森潤子が今回初めて出すアルバムのタイトルにしたのが「Zephyr~そよ風」。「そよ風」の英語は普通“breeze”であるが、ギリシャ神話の『西風の神』を司るZephyrus(ゼフィルス)に由来する語である“Zephyr”(ゼファー)を使ったのには彼女なりのこだわりがある。フバイ(1858-1937)はブタペスト生まれ。ヨアヒム、ヴュータンに師事したヴァイオリニスト・作曲家。彼の師匠の名は知っていても彼の名は耳にしたことが無かった。歴代のグリュミオー、ヴュータン、イザイや現代のデュメイなどはフランコ・ベルギーの流れを汲む名匠。大森のヴァイオリンもフランコ・ベルギー派の演奏様式を受け継ぐスタイルらしい。詳しいことは判らない。とにかくフバイは彼女にとって大きな意味を持つ存在であることは確かである。曲の原名が“Der Zephir”。
曲そのものは軽妙な感じがした。

ラヴェル(1875-1937)の「ツィガーヌ」は演奏会用ラプソディとも言える、ヴァイオリンが技巧を駆使して大活躍する曲。2006年に五嶋龍がKitaraで演奏して以来、誰もが簡単に弾ける曲ではないと個人的に強い印象を受けていた。ロマ(ジプシー)のヴァイオリニストの即興演奏を感じさせハンガリーの舞曲「チャールダーシュ」の形式で書かれ、まさに超絶技巧の連続で迫力があって大森の演奏も圧巻であった。この曲は小品というより中品。
演奏終了後に男性から「ブラヴォー」、直ぐ後に複数の演奏者に対する賛辞の言葉「ブラヴィ」という声が掛かって聴衆の感動の様子がうかがえた。

これだけの難しいプログラムを小柄な体で弾き切った大森のヴァイオリンの技量も精神力も大したものと敬服した。ピアノの中島も大健闘。聴衆からの拍手大喝采も盛大だった。

疲れも厭わずにアンコール曲が3曲。①パラディス:シチリアーノ、 ②ドビュッシー:ゴリウォ-グのケィクウォ-ク(「子供の領分」より)、 ③アイルランド民謡(クライスラー編):ロンドンデリーの歌
*①②は4日前にあった工藤重典のコンサートの演奏曲と偶然同じでした。①はすっかり馴染みのメロディの感じさえして親しめた。

大森潤子の技量は承知してたが、今回初めてリサイタルを聴いて満足した。珍しい小品が入ったCDを買って、彼女と言葉を交わした。最後に「また聴きたくなるようなコンサートだった」と言ったら、「そんなに若くないから、、、」という言葉が返ってきたようだった。その時はピアニストにサインを貰うのにテーブルを移動していた。後方で笑いが起こっていた。彼女にとって今回のようなリサイタルは最初で最後のような全精力を使い果たしたリサイタルだったのだろうと改めてその姿に打たれた。

今回と同じプログラムの東京公演が10月9日(金)、JTアートホール・アフィニスで開催される。盛会を祈りたい。










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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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