札響第580回定期演奏会 (指揮・オーボエ/ホリガー)

20世紀の音楽界でハインツ・ホリガーはオーボエという楽器の枠を無限に広げた天才であり、20世紀最大の音楽家として評価されていた。その当時から彼は既に世界で作曲家として扱われていた存在である。21世紀に入って指揮活動も加わった。オーボエ奏者、指揮者、作曲家として世界の音楽界で名高い人物をKitaraに迎えることは極めて喜ばしい。
Kitaraのステージには今回が初登場であるが、1970年2月の札幌交響楽団第92回定期演奏会にはソリストとして客演した記録がある。「ドニゼッテイ:イングリッシュホルンのための小協奏曲」と「R.シュトラウス:オーボエ協奏曲」をペーター・シュバルツ指揮札響と札幌市民会館で共演した。(*同年1月の札響定期にはアルゲリッチが登場。この頃の札響は名だたる演奏家を客演に迎えていたことが判る。)

2015年9月5日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮とオーボエ/ ハインツ・ホリガー(Heinz Holliger)
管弦楽/ 札幌交響楽団

Heintz HOLLIGERは1939年、スイス生まれ。ベルン音楽大学でオーボエと作曲を、さらにパリ音楽院でピエール・ピエルロにオーボエを学んだ。62年にはピエール・ブーレーズに作曲を学んでいる。59年~64年までバーゼル交響楽団の首席オーボエ奏者を務めた。59年ジュネーブ、61年ミュンヘン両国際オーボエ・コンクールで優勝して、ソリストとして国際的な活動を始めた。超絶的なテクニックでオーボエという楽器奏法の枠を広げ、ジョリヴェ、シュトックハウゼン、武満徹などの現代作曲家から多くの作品を献呈されている。80年代に指揮活動を開始して、ベルリン・フィル、ウィ-ン・フィルはじめ世界の主要なオーケストラと共演。バロックと現代音楽に限定されているが、吹き振りで卓越した演奏の録音も残している。
1990年代前半まで頻繁に来日していた後、しばらく日本での活動が途絶えていたが、2010年より日本でオーケストラとの共演やリサイタル活動も行なわれている様子である。

〈プログラム〉
 フンメル:序奏、主題と変奏 ヘ長調 作品102(オーボエ:ハインツ・ホリガー)
 シューベルト(R.モーゼル編):アンダンテ ロ短調 D.936A
 シューベルト:交響曲第7番 ロ短調 D.759 「未完成」
 バルトーク:管弦楽のための協奏曲

フンメル(1778-1837)は現在のスロヴァキアに生まれ、ドイツ・オーストリアを中心に活躍した作曲家・ピアニスト。8歳でモーツァルトにピアノを師事して87年にモーツァルト指揮でドレスデンでデビューした。数年間にわたるヨーロッパ演奏旅行で大成功を収め、その後、ウィ-ンでサリエリ、ハイドンなどに作曲を学んだ。ベートーヴェンと共にウィ-ンを代表するピアニストとして知られた。各地で宮廷楽長を務め、多岐にわたる300曲を超える作品を残したという。こんな情報がプログラム解説に書かれていて興味深い情報だった。
演奏曲は4手ピアノのために作曲された変奏曲op.99を独奏楽器(オーボエorクラリネット)とオーケストラ用に編曲したもの。オーボエ協奏曲と呼んでも良いような曲。楽器編成は独奏オーボエ、フルート2、ファゴット2、ホルン2と弦5部。オーボエから奏でられる音が実に繊細で美しい。ホリガーが自由自在に楽器を操って流麗なメロディを奏でる15分ほどの曲に聴き惚れるばかりであった。初めて聴くフンメルの曲とホリガーの素晴らしい演奏に感激! 札響初演。

シューベルト(1797-1828)は短い生涯で未完や断片を含めると13曲の交響曲を手がけたと言われる。「アンダンテ」ロ短調はシューベルトが亡くなった年の秋の「交響曲第8番」のあとに作曲を試みたと推測されている。3楽章構成の交響曲が構想され、ほぼ完成していたスケッチの第2楽章「アンダンテ」が現代スイスの作曲家モーゼルによる編曲で陽の目を見た。
この曲以降はホリガーは指揮に専念。この曲もオーボエのソロのパートが多くて金子が大活躍。ヴィルトゥオーソの前で緊張もしただろうが堂々とした演奏を披露したと思った。この曲も札響初演。約12分の「アンダンテ」演奏が終わると、休みを取らずに、「未完成」に入った。「交響曲第7番」が始まったのに気付くのが遅れた人がいたかもしれないと思った。

シューベルトの作品で未完成に終った交響曲は6曲もあるが、25歳の時の〈管弦楽総譜2楽章と第3楽章断片〉だけが「未完成」と称されている。この作品は作りかけでなく、清書された2楽章だけでも完成度が高く、埋もれていた楽譜は1865年に発見され、その年の12月にウィ-ンのムジークフェラインザールで初演され好評を博したという。
ベートーヴェンの「運命」とシューベルトの「未完成」はカップリングされたブルーノ・ワルター指揮のCDで聴き親しんだものだ。カルロス・クライバー指揮ウィ-ン・フィルのCDも人気の2曲がカップリングされていた。「未完成」だけでもブリュッへン、ムーティ、岩城などでも聴いた。「運命」と同様「未完成」も余りにもポピュラー曲なので、ここ数年は家で聴くことは殆ど無い。
それだけにコンサートで生演奏で聴くと新鮮な気持ちで鑑賞できる。
曲はチェロとコントラバスの荘重な序奏で始まり、オーボエとクラリネットの奏でる哀愁を帯びた美しい旋律が心に響いた。第2楽章ではヴァイオリンの優美な第1主題とクラリネットの寂しげな第2主題の提示で歌曲王シューベルトならではの歌の世界に引き込まれた。ホルンと木管の対話も楽しく聴けた。

凛とした姿勢で格好の良いホリガーの指揮ぶりも鮮やかであった。1曲目の終了後の聴衆の反応がおとなしかったが、「未完成」終了後には“ブラヴォー”の声も上がって一段と大きな拍手も起こって聴衆の感激の様子も伝わった。指揮者のオーボエ、クラリネット、ホルン各首席奏者への賛美も良かった。札響の弦楽器群の演奏は安定しているので、管楽器が活躍して一体感が出ると一層引き立つ。

バルトーク(1881-1945)は1940年にハンガリーからアメリカに亡命したが、白血病が悪化して体力も衰え、慣れない亡命生活で精神的にも追い込まれていた。同じハンガリー出身の同胞であるボストン交響楽団音楽監督のクーセヴィッキーから委嘱されて書き上げた作品が「管弦楽のための協奏曲」である。彼の作品でも最も規模が大きく演奏機会の多い曲。この大作曲家が不遇な晩年を過ごしたアメリカで健康と名声を取り戻すことになった作品でもある。

この曲を聴く切っ掛けになったのは2000年5月にブダペスト祝祭管弦楽団の創設者で音楽監督のイヴァン・フィッシャーが諏訪内晶子と共にKitaraで開いたコンサートであった。札幌公演では「管弦楽のための協奏曲」は演目ではなかったが、会場でフィッシャー指揮ブダペスト祝祭管演奏のCDを購入して、指揮者のサインも貰った。CDを集め出した頃で大ホールで初めてアーティストからサインを貰った情景が眼前に浮かぶほどである。3年前にブログを書き始めた頃にその時の様子を思い出して記録したことがある。
ハンガリー出身の指揮者フリッツ・ライナーが率いたシカゴ響によるCDとともに数年ぶりで改めて聴いてみた。

暗黒の亡命生活の中で作曲家としての再生を目指すバルトークの姿そのものが描かれているようである。「協奏曲」と言うと、独奏楽器と管弦楽による作品を指すが、バルトークのこの作品では各楽器群が独奏者で全管弦楽と対峙している。
5楽章構成。第1楽章「序章」、第2楽章「対の遊び」、第3楽章「悲歌」、第4楽章「中断された間奏曲」、第5楽章「終曲」。
CDで聴いているだけではハッキリ判らないが、生演奏では独奏者のように歌う各楽器群の様子が見れてより良く鑑賞できる。個人的には好みの作品とはいえないが、現代音楽として面白い作品ではある。

現代音楽を得意とするホリガーにとって満足のいく演奏だったのか、オーケストラ全体への評価が高かったのが見て取れた。演奏終了後の聴衆の万雷の拍手も良かったが、指揮者のオーケストラに対する賛美も表されていて良い演奏会となった。
憧れのオーボエ奏者・音楽家の演奏が聴けてこの上ない満足感を味わった一日であった。


※シェレンベルガー(1948年ー )は名オーボエ奏者として名高く、指揮活動も開始してKitaraでオーボエと指揮の吹き振りを2度も行なっている名音楽家である。彼は「クラシックの現代の巨匠たち」にオーボエ奏者として唯ひとり載っていた。その時に、ホリガーの名が無いので変だと思ったことがある。実際、ホリガーの名は既に亡くなった名演奏家の名が殆どの「クラシックの不滅の巨匠たち」の別冊の方に載っていて納得したものである。逆に現役として活躍中の演奏家が既に偉大な業績を残して今は亡き巨匠たちと同列視される音楽家であることを改めて認識した。(*「不滅の巨匠」の初版が1993年、「現代の巨匠」の方は1994年。)
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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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