N響演奏会 札幌公演(指揮:ストルゴーズ、ピアノ:紗良・オット)

前回のN響札幌公演は2012年8月24日。ブログを書き始めた最初のコンサートがN響演奏会だったので記憶が鮮明である。コンサートの記録・感想を中心に書いているブログも300回を超えた。

2015年8月31日(月) 開演:午後7時  札幌コンサートホールKitara大ホール

8月下旬におけるNHK交響楽団東北・北海道公演も本日の札幌公演が最終日。郡山・青森・函館・旭川・北見・札幌の6公演は指揮者・ピアニストも同じで同一プログラムで開催された。N響のコンサートは人気が高く、3年ぶりの公演で客席もほぼ満席で開演前のホールも期待感に満ちていた。

[指揮] ヨーン・ストルゴーズ
[ピアノ] アリス・紗良・オット
[管弦楽] NHK交響楽団

〈オール・ベートーヴェン・プログラム〉
 「エグモント」序曲  作品84
 ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 作品37
 交響曲 第5番 ハ短調 作品67 「運命」

ヨーン・ストルゴーズ(John Storgards)は1963年生まれのフィンランドの指揮者。サロネン時代のスウェ-デン放送響のコンサートマスターを経てシベリウス音楽院でヨルマ・パヌラとエリ・クラス両教授に学ぶという北欧音楽界の王道を歩んだ。今日、世界中で活躍を続けるフィンランド出身の指揮者の中で注目を集める指揮者のひとり。
現在、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、BBCフィルハーモニック管弦楽団首席客演指揮者、カナダ国立芸術センター管絃楽団首席客演指揮者。

アリス・紗良・オット(Alice Sarah Ott)は1988年、ミュンヘン生まれ。世界各地の主要オーケストラと共演、ソロ、デュオ、室内楽の他に、音楽誌にも寄稿を連載中で縦横無尽の活躍。人気と実力を兼ね備えたピアニスト。
Kitaraで彼女の演奏を聴くのは今回が6回目。12年5月にはパーヴォ・ヤルヴィ指揮フランクフルト放送響と「リスト:ピアノ協奏曲第1番」を演奏。12年10月のリサイタルでモーツァルト、シューベルト、ムソルグスキーを弾いた。同年7月のサンクトペテルブルクでのライヴ録音と収録曲目がほぼ同じDVD付きCDを買ってサインを貰った。3年前のブログで画像を載せたが、後で消えていたので写真は削除した。(*どういう訳か画像で一度も消されないのは“五嶋龍のCDの画像”だけである。) 彼女は魅力に溢れた若手ピアニスト。

「エグモント」は文豪ゲーテが書いた戯曲の劇付随音楽。16世紀のオランダ独立運動で活躍したエグモント伯爵をモデルにした物語。ベートーヴェンは1810年に「序曲」と9曲からなる付随音楽を完成させた。劇中の音楽を聴く機会はないが、「序曲」は単独で演奏される機会が多い。
軽やかで透明感のある重厚な曲。伯爵が最後には捕えられて処刑されてしまう悲劇だが、人々に勇気を与えるドラマで荘厳な感じも漂う人気のある序曲。弦楽器と管楽器の見事なハーモニー、クライマックスでトランペットの高らかな響きの演奏が印象に残った。

ベートーヴェンの5曲のピアノ協奏曲の中で「第5番」が一番親しまれていると思うが、「第3番」、「第4番」の人気も高い。自己所有のCDでも第3・4・5番の枚数は各8枚で同数。違いは録音が古い名演奏家のものが「第3・4番」に多い。アラウ、ケンプ、グールド、ギレリス、ルービンシュタイン、グルダ、ミケランジェリなど。
紗良・オットの「皇帝」は09年に井上正義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢との共演で聴いて好印象を受けた。彼女のベートーヴェンを聴くのはその時以来。「第3番」もKitaraで聴くのは久しぶりである。
彼女はいつものように裸足で登場し、ほっそりとした体を包む煌びやかなロングドレス姿でドラマティックな曲を力強く弾き切った。モーツァルトとは違う曲作りに成功した「第3番」はベートーヴェンが自ら作曲したカデンツァが第1楽章に入っている。「ハ短調」で書かれた調性にも注目した。表面的な華やかさだけでなく、内面的な心も描き出されていて曲にドラマ性が際立っている。紗良・オットはメリハリの効いた演奏で、演奏終了後は満足しきった様子だった。オーケストラの木管の響きも秀逸だったと思う。

ホールを埋めた聴衆から万雷の拍手を浴びて、アンコール曲に「リスト:ラ・カンパネラ」を弾いた。聴き慣れた曲とはいえ彼女の力強い心のこもった鐘の音に聴衆は酔いしれた。嵐のような大拍手が起こってカーテンコールでステージに何度も登場する際の彼女の速足に驚いた人もいた様子。彼女が裸足だったことに気付いた人は殆どいなかったと思う。初めて彼女の演奏を聴いた人はスッカリ彼女の魅力にはまったように思えた。

「運命」は“ジャジャジャジャ―ン”で始まる冒頭のモチーフで交響曲はこの曲から親しんだものだ。何百回聴いたか判らないくらい。今では家で聴くことは殆ど無い。演奏会でもしばらく聴いていなかったが、ここ1・2年はKitaraでも数回演目に上がっている。S席でこの曲を聴いたのはしばらく無かったこともあり、今夜は新鮮な曲に聴けてやはり「運命」は名曲だと改めて認識した。〈苦悩から歓喜〉のテーマは「チャイコフスキー第4番」など他の作曲家に多大な影響を与えた作品にも繋がったと実感した。
ストルゴーズの楽譜を忠実に読み取り、メリハリの効いた指揮ぶりでオーケストラを掌握する熱演ぶりは最後の「運命」の演奏に良く表れていた。同じ演目での演奏旅行で慣れと疲れが出てしまわないか危惧していたが、出演者の熱演で心配は無用であった。
渾身の力を絞った演奏で指揮者も疲れ果てたようで、一瞬アンコール曲は無しかと思ったが、ストルゴーズ自ら“Andante Festivo”と言って母国の作曲家の名曲を弦楽合奏で演奏した。
アンコール曲は「シベリウス:アンダンテ・フェスティーヴォ」。

※20世紀末まではフィンランド出身の指揮者として注目されていたのはレイフ・セーゲルスタム、エサ=ペッカ・サロネン、ユッカ=ペッカ・サラステぐらいだった。今やヴァンスカ、オラモ、リントゥ、インキネンなど続々と優れた指揮者がフィンランドから輩出してきている。ストルゴーズの名を聞いたのも半年前あたりである。
フィンランドが指揮者だけでなく優れた音楽家を輩出している理由は何だろうか。500万の人口の国に交響楽団が20もあるという。多くの指揮者が必要とされる。シベリウス音楽院を中心として指揮科の授業ではプロのオーケストラ・メンバーが加わって学生オーケストラの指導にあたり訓練が行われていると言う。優れた指揮者や演奏家が育つ環境が作られている。他の国では考えられない音楽教育が学生時代から根付いていることが疑問の答えになる。

11月にサカリ・オラモ、16年1月にピエタリ・インキネンがKitaraのステージに登場する予定になっているが、今から楽しみである。

スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR