松井亜樹ソプラノリサイタル~ロシアオペラの夕べ~

 先月20日(金)に朝日カルチャーセンター札幌主催の公開講座があった。札幌大学教授でピアニストでもある高橋健一郎氏が定期的に講座を開いているが、彼の講座「ラフマニノフと祖国ロシア」を受講した。講師自身のピアノ演奏やCD, DVDの鑑賞を交えながらの講座は興味深かったが、話の最後に「松井亜樹ソプラノリサイタル」の案内があった。25名ほどの講座参加者の中に彼女の姿もあった。
実は2008年の「時計台コンサート」で二人が出演するコンサートを聴いていた。「歌とピアノで伝えるロシアの息吹」と題して行われたコンサート。高橋君は私の高校時代の教え子。彼が2年生の時に担当しただけだが、札幌北高校時代で英語の総合力は断然トップであった。当時から北海道ショパン学生ピアノコンクールでも優秀な成績を残していた。高1までは東京芸大を目指していたようだが、数学、物理に興味を持ち東大理Ⅰに進学した。大学では文系に転向。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。ロシア語学とロシア音楽が専門。

08年のコンサートではロシアの歌曲の他に、チャイコフスキー、ラフマニノフ、メトネルなどのピアノの小品も演奏された。松井さんは北海道教育大学札幌校芸術文化課程を卒業した後、ロシアで修業を積んでいた頃だったようである。新進の歌手としてスタートを切った初々しい感じがしていた。

昨年、音楽雑誌「音楽の友」で彼女の東京での活躍ぶりを知った。2月の朝日カルチャーセンターでの出会いで、リサイタル開催を知った。実は高橋君と言葉を交わしたのは彼の高校卒業以来初めてであった。25年ぶり。(彼が高3の折に札幌北高校を会場にノーベル賞受賞者のフォーラムが開かれ、彼が歓迎の辞を英語で述べることになった。その時の彼が用意したスピーチ原稿の内容はレベルの高い素晴らしいものだった。私は彼のスピーチの指導をすることになっていたが、フランス人の文学賞受賞者が日本の各地で英語ばかりがフォーラムで使われることに苦情をはさんだことで、当事者の突然の変更通知によって高橋君は日本語で挨拶することとなった。当日の同時通訳の英語は当初のスピーチの内容と比べて、格調の高さが欠けてしまった。本人が一番残念だったと思うが、私にも悔しくてたまらない出来事であった。)

前置きが長くなってしまった。いよいよリサイタルの開催である。

平成27年3月6日(金)19時開演。 ザ・ルーテルホール

出演:松井 亜樹(ソプラノ)、高橋健一郎(ピアノ)
 [ 賛助出演 ] 今野博之(バリトン)、中添由美子(ピアノソロ)、坂田朋優、國谷聖香(ピアノ連弾)、藪 淳一(ナレーション)

PROGRAM
[ 第一部 ]
 グリンカ:オペラ『ルスランとリュドミラ』から
         序曲(連弾) (坂田、國谷)
         リュドミラのアリア「ああ、運命よ、私のつらい運命よ!(松井、高橋)
 リムスキー・コルサコフ:オペラ『皇帝の花嫁』から
          グリャズノイのアリア「あの美しい人が忘れられない」(今野、高橋)
 ムソルグスキー:オペラ『ソローチンツィの定期市』から
          ハラ―シャのドゥムカ「悲しまないで、愛しい人よ」(松井、高橋)
          コバック(ラフマニノフ編)(ピアノソロ:中添) 
 ストラヴィンスキー:オペラ「放蕩者の遍歴」から
         アンのアリアとカバレッタ「トムからは何も便りがないーーーかれのところへ行こう」(松井、高橋)

[ 第Ⅱ部 ]
  チャイコフスキー:オペラ『イオランタ』から
              イオランタのアリオーソ
                「なぜ私は前には知らなかったのかしら」(松井、高橋)
        :オペラ『スペードの女王』から
            リーザのアリア「この涙はどこから」(松井、高橋)
            エレツキーのアリア「私はあなたを愛しております」(今野、高橋)
            リーザのアリオーソ「もう真夜中に近い」(松井, 高橋)
        :オペラ『エヴゲニ―・オネーギン」から
            ポロネーズ(連弾)(坂田、國谷)
            オネーギンとタチアナの二重唱「ああ、なんて苦しいの! 再びオネーギンが私の前に現れる」(松井、今野、高橋)

第一部の作曲家の管弦楽曲は知っていても、オペラのタイトルで知っているのは「ルスランとリュドミラ」だけである。といっても序曲だけで、演奏会でアンコール曲として聴く程度である。活気に満ち溢れた曲がピアノ連弾で流れた。

コンサートのナレーションを元HBCアナウンサーを務めていた方(*どこかで見た顔だと思っていたら当時テレビで見ていた)が担当して、オペラのストーリーを話したうえでコンサートが進められた。
最初のオペラは悪魔に奪われたリュドミラを求婚者ルスランが救出するという民話に基づくオペラ。囚われの身になったリュドミラが魔術師には決して従わないと力強く歌い上げるアリア。

ストーリーの展開に沿って、音楽に変化を持たせてピアノを奏でる高橋の演奏は最初から素晴らしい技量を発揮。松井も透明感のある歌声でリュドミラの清らかな心と精神の強さを表現した。

R.コルサコフ、ムソルグスキーは19世紀後半、ストラヴィンスキーは20世紀に活躍したロシアの作曲家で偉大な作品を残しているが、オペラのタイトルは初めて耳にするものばかりである。
賛助出演したバリトンの今野は北海道二期会での活躍が目立ち舞台経験が豊富な様子が歌唱だけでなく舞台での振る舞いにも表れていた。

第二部は全てチャイコフスキーの作品で親近感が持てた。ただし、オペラは他のジャンルに比べて親しんでいない。「スペードの女王」は小澤征爾得意のオペラだと思うが観たこともなく、何の知識もない。「イオランタ」は先月にMET上演があったばかりで鑑賞を予定している。「エヴゲニ―・オネーギン」は13年11月のMETビューイングを観たので印象深い。(その時の模様は次のブログに書いてある。http://teruoblog687.blog.fc2.com/blog-entry-151.html)。

後半に松井は赤のドレスで登場。会場が一瞬華やかな雰囲気に包まれた。年頃になったイオランタが淡い気持ちを乳母に訴える歌。前半のプログラムでは舞台の立ち位置を変えずに歌っていたのが、オペラのシーンに合った状況で可憐な表情で歌い上げたのは良かった。

「スペードの女王」から3曲が歌われたが、ストーリーの内容が良く解らずに集中力が欠けたのかボヤケタ印象になってしまった。鑑賞の仕方がまずかったようである。

「ポロネーズ」はオペラだけでなく演奏会で単独で演奏されるが、昨年もKitaraで聴いた覚えがある。舞踏会の華麗な音楽が、ピアノ連弾で演奏された。率直に言って、グリンカの曲での演奏より心地よく聴けた。
オネーギンとタチアーナの二重唱はタチアーナがオネーギンの告白に動揺しながら、申し出を断り別れを告げる場面はオペラの実際の場面が浮き上がって聴衆の心を動かした。会場に感動の声が湧きあがった。1年半前に観たオペラの場面が蘇って良かった。リサイタルにバリトン歌手の客演があって最後の二重唱で盛り上がった。

最初から最後までピアノの演奏も素晴らしかった。ただ単なる伴奏の域を超えて、全体的に音楽を深く理解した上でのピアノ伴奏だったと思った。短い曲の中で曲調の変化や音の強弱に応じて巧みに鍵盤を操る所作にも凄さを感じ取ったのは私だけであろうか。プロとしてピアノリサイタルを聴いてみたいものである。

松井亜樹はロシア歌曲を得意としていると思うが、アンコールにロシアの歌曲を2曲歌った。1曲は「ラフマニノフ:春の流れ」。もう1曲の曲名は聞き逃した。
最後に出演者と聴衆が一緒に「カチューシャ」を歌って終了。ホールの1回ロビーで、バリトン歌手、ピアニスト、ソプラノ歌手に感想を述べて外へ出た。余韻を楽しむために音楽を大音量で聴けマスターと話ができるBARへと足が向いていた。


     
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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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