ケマル・ゲキチ ピアノ・リサイタル2014

ケマル・ゲキチと言うピアニストの名は1985年のショパン国際コンクールの審査結果が波紋を呼んだことで耳にしていた。ファイナルに進めなかったが、(この年の優勝者はブーニン、第4位が小山、第5位がルイサダ)結果的に海外から多くの招聘を受け、ヨーロッパ、ロシア、日本でもゲキチは熱狂的に迎えられた。札幌公演の情報が入って主催のプロ・アルテ・ムジケからチケットを手に入れて聴いた。
今から5年前、09年10月29日Kitara小ホールでのリサイタル。演奏曲は「ショパン:舟歌、バラード全曲」、「リスト:コンソレーション第1番~第3番、ソナタロ短調」。プログラムも素晴らしく、圧倒的で魅力あふれる演奏であった。独特な雰囲気を漂わせ、燃えるような情熱と色彩感で演奏会を彩った。特に「ソナタロ短調」は圧巻だった。その上、アンコールに応えて確か4曲~6曲も弾いてくれて、1曲は「ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 第3楽章の葬送行進曲」(演奏時間、約9分)であったのをハッキリと覚えている。アンコール・ピースにしては長い曲の演奏は、ホールの響きと聴衆の反応に気分が盛り上がったのだろう。30分にも及ぶアンコール曲の強烈な印象も未だ忘れられない。カリスマ性のあるピアニストである。

2014年12月7日(日) 1:30PM開演  札幌コンサートホール Kitara小ホール

ケマル・ゲキチ(Kemal Gekic)は1962年、現クロアチア生まれ。81年リスト国際コンクール第2位。85年、当時のユーゴスラヴィアのノヴィサッド音楽院修士課程を修了。同年のショパン・コンクール以降は世界各地で演奏活動。90年に入って自ら演奏活動を中止し、充電期間を経て再出発。99年のアメリカ演奏旅行中にコソボ紛争が勃発し、故郷に帰れずにアメリカに在住。現在、フロリダ国際大学教授。武蔵野音楽大学客員教授。

ゲキチは5年前と同じように髪はポニーティルにして、ローブのような物を羽織ってステージに登場。演奏もどちらかと言えば自由奔放だが、個性的な出で立ちであった。演奏を始める前に正面1列目の客に目で挨拶をして愛嬌のある振る舞い。

〈PROGRAM〉
 ショパン:アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22
      マズルカ ロ長調Op56-1, ハ長調Op.56-2、ハ短調Op.56-3
      ノクターン 第15番 ヘ短調Op.55-1、第16番 変ホ長調Op.55-2
      ポロネーズ第6番 変イ長調Op.53 「英雄」
 シューベルト=リスト:アヴェ・マリア
 リスト:ハンガリー狂詩曲第10番、第11番
 ワグナー=リスト:イゾルデの愛の死、 タンホイザー序曲

この曲はピアノとオーケストラのために書かれた作品であるが、ピアノ独奏曲として演奏される機会が多い。「スピアナート」とは「滑らかな」の意味のイタリア語。「華麗なる大ポロネーズ」はポロネーズ独特の勇壮なリズムを生かした華やかな曲。牧歌的な前半部分のアンダンテと対照的に後半のポーランドの民族色豊かなポロネーズは大音量で華麗に演奏された。

「マズルカ」はポーランドの代表的民俗舞曲である。ショパンはピアノ小品としてのマズルカを60曲ほど作った。全生涯に亘って書き続けられたマズルカは時代ごとに揺れ動くショパンの心の内を映し出していると言われる。私はマズルカの作品の鑑賞が苦手である。曲の特徴がなかなか掴めず、作品番号だけでは他と区別ができないのである。耳慣れた曲も少しはあるが、曲にタイトルが付いていなくて他のジャンルの作品と比べて覚えられない。コンサートで一時的に聴くのには何の支障もない。それなりに鑑賞できる。次の作品鑑賞に繋がらないのである。

21曲のノクターンのなかで、第15番と第16番がコンサートで演奏される機会は少ない。第15番は演奏が易しいため多くのピアノ愛好者に好まれているらしい。第16番は何となく舟歌に似ていた。CDではアラウやYUNDIなどの演奏で全曲に親しんでいる。

ポロネーズはショパン全16曲のうち、「英雄」は最も有名な作品のひとつである。祖国ポーランドへの思いが勇壮な3拍子のリズムに乗って華々しく力強い調べとなっている。列をなして進軍する英雄たちの姿を連想させる。このような曲の演奏はゲキチの最も得意とするところだろう。その華麗な演奏は彼の意のおもむくままであった。

後半はリストと彼の編曲もの。
美しいメロディの歌とピアノのためのシューベルトの作品が原曲。広いレパートリーを誇るリストの作品から心優しい曲の選曲。

ハンガリーの民族的旋律をもとに作られた全19曲の狂詩曲。各曲はハンガリーの舞踊音楽「チャールダーシュ」の形式に従って構成されている。第2番が最も有名である。第15番も演奏会の曲目となって親しまれている。演奏会で第10番、第11番を聴くのは初めてかもしれないが、どの狂詩曲にもジプシー音楽の情感が漂っているのが感じられる。

リストがヴェルディやグノーのオペラをパラフレーズした曲はCDで聴いたり、演奏会で聴いたことがあるが、ワーグナーの編曲ものは聴いたことが無かった。今日の2曲の原曲のCDは持っていて、演奏会でも聴く機会はある。ピアノ曲として聴くのは初めてであった。聴くだけでなく、見ていて楽しかった。1階8列8番の座席から運指の様子が良く見えて面白かった。ゲキチの眼にもとまらぬ速さで鍵盤の上を動く手や指の動きは物凄かった。まさに超絶技巧の連続。ワーグナーの壮麗なオペラの序曲が見事にピアノで表現される様は圧巻であった。

会場は昨日ほどではないが多分かなりの客入りだったのではないかと思った。客席前方に空席は無かった。2階バルコニー席にも客の姿が見えた。今日はブラヴォーのかわりに、アンコールの掛け声が曲の終了後にあちこちで上がった。

予定されたプログラムの終了後に前回と違って、アンコール曲演奏の前に英語で説明があった。フロリダを拠点に活動することで、南米とその周辺の音楽に接する機会が増えたので第1曲目が南アメリカの曲、第2曲目がアフリカの音楽、第3曲目が黒人の音楽を演奏すると説明した。スペイン語の曲名も入って所々しか聞こえず、ホアイエのボードを参考に類推した曲名。(②、③は調べてみたら間違いなさそうである。①はアフロ=キューバ舞曲集には入っていなかったので、不明。多分、奴隷としてアフリカから渡ってきたアフロとの関連のない南米の音楽(?))

アンコール曲はレクオーナ作曲のアフロ=キューバ舞曲集より ①仮装行列 ②黒人の踊り ③真夜中のコンガ
出来ればショパン、リストのクラシック曲の演奏の方が個人的には楽しめたが、これは仕方がない。3曲で終わる予定だったようだが、拍手の大きさに応えて「バッハ:前奏曲」「シューベルト:セレナーデ」を弾いてくれた。オーケストラ版の編曲の演奏で疲れ切っていたことが充分に予想されたので無理なことは期待できない。

ケマル・ゲキチは日本にも一定の期間暮らしているようなので、日本ツアーは毎年のように計画されそうである。

[追記] アンコール曲に演奏したアフロ=キューバ舞曲集は6曲からなっていることが判り、②が第2曲、③が第1曲になっていた。①に該当する曲がないと思ったが、結果的に第6曲の“ラ・コンパルサ”が日本語の「仮装行列」に当たることが判明した。
今日9日東京と19日大阪で行われるケマル・ゲキチのコンサートでは予定のプログラムに上記の演目が入っている。
(“La Comparsa”が「音楽の友コンサート・ガイド」では「仮想行列」となっていた。)
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Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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