デビュー55周年記念 中村紘子 ピアノ・リサイタル

今日も秋晴れに恵まれた札幌。木の葉が色づきを増し紅葉の美しい中島公園。陽の光りを浴びてKitaraへと向かう人の群れ。Kitaraのエントランスホールへと吸い込まれていく。

《中村紘子ピアノ・リサイタル》が彼女のデビュー55周年記念として開催される。中村は札幌交響楽団の定期演奏会に1970年以降、74、79、80、82、83、84年に出演してきた。以下がその記録である。
①70年10月 森 正指揮 「ショパン:ピアノ協奏曲第2番」 (*70年1月 アルゲリッチがシュヴァルツ指揮で「プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番」を旧札幌市民会館で演奏)
②74年4月 森 正指揮 「矢代秋雄:ピアノ協奏曲」
③79年3月 岩城宏之指揮 「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番」
④80年3月 岩城宏之指揮 「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番」
⑤82年3月 岩城宏之指揮 「プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番」
⑥83年3月 尾高忠明指揮 「ショパン:ピアノ協奏曲第2番」
⑦84年2月 尾高忠明指揮 「サン=サーンス:ピアノ協奏曲第2番」

私が実際に聴いた中村紘子によるコンサートは以下の通りである。
①89年12月 秋山和慶指揮札幌交響楽団 「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番」
②93年1月 ヤン・クレンツ指揮札幌交響楽団 「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1番」
③98年2月 ドミトリー・キタエンコ指揮ベルゲン・フィル 「グリーグ:ピアノ協奏曲」
④98年12月 小林研一郎指揮ハンガリー国立響 「チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番」
⑤01年4月 本名徹次指揮オーケストラ・アンサンブル金沢 
         「ショパン:ピアノ協奏曲第2番」、「ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番」
⑥02年11月 ネーメ・ヤルヴィ指揮エーテボリ響 「グリーグ:ピアノ協奏曲」
⑦04年4月 ピエロフラーヴェク指揮プラハ・フィル 「ショパン:ピアノ協奏曲第1番」
⑧10年2月 円光寺雅彦指揮札幌交響楽団 「ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番」
今日のコンサートで彼女の演奏を札幌で聴くのは4年ぶりで9回目になるが、今までのコンサートが全部オーケストラとの共演とは気付かなかった。テレビなどで観て聴く場面が結構あったのでリサイタルも聴いたことがあると思っていた。

中村紘子(Hiroko Nakamura)は1944年、山梨県生まれ。東京で育ち、3歳からピアノを始め、桐朋学園子どものための音楽教室第1期生として井口愛子に師事。慶応義塾中等部3年在学中の1959年、日本音楽コンクールで第1位特賞を受賞。60年、岩城宏之指揮東京フィルとの共演でデビュー。同年秋にはN響の初の海外ツアーにソリストとして同行。63年、ジュリアード音楽院に留学。在学中の65年、第7回ショパン国際ピアノ・コンクールで第4位、最年少者賞も受賞。(*この年はアルゲリッチが優勝)。
以後、国内外で幅広い演奏活動を行い、ショパン、チャイコフスキーなど多くの国際コンクールの審査員としても活躍。89年に出版した「チャイコフスキー・コンクール」が大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、文筆活動でも才能を発揮している。
94年に浜松国際ピアノ・コンクールを創設し、国内外の若手ピアニストの育成に貢献している。幅広い音楽活動に対して様々な賞を国内外で受賞。

〈プログラム〉
 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調「テンペスト」 Op.31-2
 ドビュッシー:2つのアラベスク
 リスト:ウィ―ンの夜会 第6番 S.427-6
     メフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」
 シューベルト:4つの即興曲 Op.90 D.899
 ショパン:ポロネーズ第1番 嬰ハ短調 Op.26-1
       ポロネーズ第2番 変ホ短調 OP.26-2
       ワルツ第9番 変イ長調 「別れ」Op.69-1
       バラード第1番 ト短調 Op.23

今回は中村紘子の14年ぶりのKitaraでのリサイタルとあってか、予想以上に多くの人々がホールの客席を埋めた。最近のリサイタルでRA、LAの2階席が満席状態なのは珍しい。3階席にも客が入っていた。コンサートが始まる前から会場の雰囲気も期待感が高まり、通常のコンサートより高揚感があった。
 
前回はオール・ショパン・プログラムだったようだが、今回は多彩なプログラミング。
ベートーヴェンの4大ピアノ・ソナタとは趣が異なって、「テンペスト」は暗い雰囲気を持つが、緊迫感のある大胆な楽想の曲。中村は力強い打鍵で弾き切った。

「アラベスク第1番」は昨日のモントリオール響の「クープランの墓」の演奏に由来するクープランなどのフランス音楽やバッハの鍵盤音楽に対する思いが込められていると言う。「アラベスク第2番」は「第1番」とは対照的に躍動感に溢れている曲。いずれもアラビア風の小品。

リストの「ウィ―ンの夜会第6番」はピアニストにとっては名曲のようだが、この曲は知らない。編曲もの。
「メフィスト・ワルツ第1番」はアルゲリッチのCDがあってよく聴くが、最近になって曲の面白さが解ってきた。この曲も編曲もので、管弦楽曲やオペラ作品の数々を編曲して当時の音楽を広めたリストの偉大さを改めて思い返す。オペラをパラフレーズした「リゴレット・パラフレーズ」などは辻井伸行などの演奏で曲が広まった感じがする。
リストの曲は高度な演奏技術が必要とされる曲が多いと言われる。中村の小さな手の指が鍵盤の上を激しく動きまわる様子が逐一見えたが、素晴らしいテクニックだと思った。

前半の「テンペスト」と「メフィスト・ワルツ第1番」の迫力は“さすが中村紘子”を印象づける演奏となった。聴衆からの拍手の大きさは言うまでもなかった。

シューベルトの「4つの即興曲」はアンドラ―シュ・シフのCDで早くから耳にしていて、今や第1番から第4番まで4曲とも耳慣れた心地よい音楽として鑑賞している。とてもロマンティックな曲で親しみ易い。気の趣くままに聴ける。中村も力まずに普段通りに弾いている様子に見えた。
ここ2・3年シューベルトのピアノ曲が心に沁みる。12年11月に東京オペラ・シティで聴いたラドゥ・ルプーのシューベルトは未だ忘れられない。

ショパンの曲のCDはほとんど持っていて、コンサートで聴く曲は耳慣れている。演奏会の案内チラシには「ポロネーズより」となっていて、リサイタルの企画段階では曲目は決まっていなかった。軍隊・英雄・幻想というタイトルのないポロネーズでも、「第1番」「第2番」はそれぞれ対照的な曲想の曲で耳慣れたメロディが流れた。
「ワルツ第9番」は“別れのワルツ”として知られる名曲。
「バラード第1番」は詩的なイメージを綴ったバラード4曲のなかでも特に親しまれている名曲。
この55年間に多分一番演奏する機会も多く、得意なショパンの選曲に迷ったであろうが、ベートーヴェンやリストとは違ったショパンならではの華麗な演奏を繰り広げてくれた。

万雷の拍手に応えて、疲れもいとわずに、アンコール曲を3曲。すべてショパンの曲。
「マズルカ第25番」、「ワルツ第6番《子犬のワルツ》」、「幻想即興曲」。

小柄な体であるが、貫禄充分でオーラを放つ演奏でやはり特別な《中村紘子の世界》を展開したコンサートとなった。



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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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