木野雅之 ヴァイオリンの魅力 Vol.5

木野雅之は日本フィルハーモニー交響楽団が札幌公演を行なっていた時にはコンサートマスターとして活躍していたと思う。日フィルは毎年9月に北海道公演を行なっていた。(残念ながら毎年恒例の北海道公演はなくなってしまった。)
木野の名を知っていたが、彼のヴァイオリン演奏を聴いたのは札幌でイヴリー・ギトリスのリサイタルの三度目の公演がKitaraで開かれた2007年であった。
Ivry Gitlisは1922年イスラエル生まれで、90歳を越えた現在でも現役最長老として活躍して日本公演を続けている。東日本大震災があった年には多くの演奏家の相次ぐキャンセルの中で公演を行い日本を音楽で勇気づけた。「パガニーニの再来」と謳われ、札幌には2003年6月に初登場。ヘンデルやブラームスのソナタの他に、「タイスの瞑想曲」、「亜麻色の髪の乙女」、「ツゴイネルワイゼン」などの名曲を弾いた。素晴らしい気迫と情熱で天使のような声をヴァイオリンで聴かせて人々の感動を呼んだ。
07年10月、ギトリスのリサイタルでは〈無伴奏のプログラム〉で体力面を考慮してか、木野雅之が共演して、プログラムの後半を彼とピアニスト岩崎淑が演奏した。

このコンサートが切っ掛けとなって、09年8月、《木野雅之ヴァイオリン・リサイタル》を聴くこととなった。「第1回 パガニーニの魅力」とサブタイトルが付いていた。オール・パガニーニ・プログラムで「24の奇想曲」などが演奏された。

前置きが長くなったが、今回は木野がKitaraで開催する5回目のリサイタルであった。

2014年8月11日(月) 7:00PM開演 札幌コンサートホール Kitara小ホール

Masayuki Kino Violin Recital

木野雅之は1963年、東京生まれ。77年の全日本学生音楽コンクール中学生の部第1位、80年の日本音楽コンクールで入賞。桐朋女子高校(男女共学)を卒業後、ロンドンのギルドホール音楽院に留学。卒業後、ミルシテイン、リッチ、ギトリスに師事。85年メニューイン国際コンクール第1位などを受賞した後、ロンドンを本拠地にして活動。
名古屋フィルのコンサートマスターを経て、93年、日本フィルのコンサートマスターに就任。02年より同フィルのソロ・コンサートマスターを務める。室内楽奏者としても国際的に活動している。ヨーロッパの色々な音楽祭に参加し、03年のフランス・カシス音楽祭ではギトリス、リッチ、アルゲリッチと共演。13年より東京音楽大学教授。
使用楽器は恩師ルッジェーロ・リッチ(1918-2012)から譲り受けた1776年製ロレンツォ・ストリオーニ。

〈曲目〉
 イザイ:悲劇的な詩
 ルター:ヴァイオリン・ソナタ ト長調
 スコット:タラハシー組曲、
 ショパン(リピンスキ編):ノクターン 第1番 変ロ短調 作品9-1
 ロッシーニ(テデスコ編):フィガロ~歌劇「セビリヤの理髪師」より
 グラッセ:波の戯れ  
 エンゲル(ジンバリスト編):海の貝殻
 サラサーテ:「ファウスト」幻想曲

珍しいプログラムを用意したということで、短い解説を入れながらの演奏。
前半の2曲はベルギーの作曲家による曲。
イザイ(1858-1931)は6曲の「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」が有名でCDも所有しているが、この曲は知らなかった。イザイはベルギーが生んだ偉大なヴァイオリニストで、現在[エリザべート王妃国際音楽コンクール」として知られる国際的なコンクールは以前は「イザイ国際コンクール」となっていた。
「悲劇的な詩」は死をテーマにした曲であるが、悲愴感ただよう旋律が奏でられるが、美しい旋律でピアノのリズムに乗ってドラマティックに演奏された。この曲はフォーレに献呈されたと言う。

ルクー(1870-94)がイザイから依頼されて完成させた曲。曲が完成した年にイザイ夫妻によって初演された。ルクーの師であったフランクのソナタと並ぶ傑作と評されているそうだが、初めて聴いた。この曲の完成後に早逝した。瑞々しい抒情、若々しい情熱とロマンティシズムが溢れた作品。フランドル地方の民謡が入っていた第2楽章が特に良かった。

ピアノの藤本史子は国立音楽大学卒業。2008年、国際ピアノ伴奏コンクール優勝、09年、日本ピアノ歌曲伴奏コンクール優勝。現在、フリーのピアニストとして活躍。国内外の著名な演奏家や声楽家と共演。木野雅之とは第1回から共演を続けている。
前半の2曲では伴奏と言うより堂々とヴァイオリンと渡り合った演奏。ピアノとヴァイオリンそれぞれの良さが色濃く出た作品として鑑賞できた。

プログラム後半はハイフェッツが好んで演奏した曲が中心であった。

スコット(1879-1970)はイギリスのピアノ奏者、作曲家。文学者、哲学者でもあったと言う。実はコンサートが始まる前からこの曲がどんな曲なのか関心を抱いていた。
“Tallahassee”は米国フロリダ州の州都で私が1966年から1年間国際ロータリー財団の大学院課程奨学金を得て留学していた場所であった。(当時の人口は5万、半分近くが大学生、現在は20万弱。地名はhaにアクセントがあって発音は片仮名表記では「タラハッスィ」に近いが、日本では“タラハッシ”と表記されることが多いようである。)
木野の解説では「フロリダ半島の市の地名」と言っていた。スコットが若い時に訪れた当時の印象を綴った組曲は〈過ぎ去りし思い出〉、〈日没後〉、〈黒人の歌と踊り〉。今から約100年前の1910年の作品で、物憂い曲想がノスタルジーを惹き起こす抒情的な作品に仕上がっていた。50年前のTallahasseeとは雰囲気は似ても似つかないが、100年前の南部アメリカにおける“良きアメリカ”の雰囲気は伝わってくる感じがした。何だかほのぼのとする心温まる作品。
ハイフェッツのCDは何枚も持っているが定番の有名な曲でなくて、隠れた曲をプログラミングした木野の選曲がこの曲以降でも紹介された。

ショパンはピアノの名曲が編曲されても、正直言って余りピンとこなかった。

ロッシーニの「フィガロ」はテデスコ(1885-1968)がハイフェッツに捧げた作品で、ハイフェッツはしばしばこの曲で演奏会を締めくくったと言われている。高度な演奏技巧が必要とされる編曲で、聴かせる曲に仕上がっている。

グラッセ(1884-1954)はアメリカのヴァイオリン奏者、作曲家で幼少時から盲目だった。彼のこの可愛い小品はハイフェッツが好んでアンコール・ピースとして取り上げたそうである。

サラサーテ(1844-1908)の「ツゴイネルワイゼン」は聴く機会が断然多いが、「ファウスト」幻想曲は初めて聴いたかもしれない。グノーの代表作「ファウスト」からアリアなどの旋律を選んでヴァイオリン曲として編曲した幻想曲。様々な名旋律と技巧に彩られた華麗な作品で、今夜のプログラムの最後を飾るにふさわしい曲。

アンコール曲は「ポンセ:エストレリータ(小さな星)」、「ハチャトリアン:剣の舞」。
「剣の舞」は超絶技巧の迫力ある演奏で聴衆をうならせた。

5割程度の客入りだったが、音楽を専門にしている人も目立ち、毎年のように聴いている人たちが多いように思えた。前半の演奏が終ると、“ヴァイオリンが今までのと違うのかな?”と印象を述べている人がいたが、多分リッチから譲り受けた楽器を使用した為かも知れないと思った。そんな違いが判る聴き方が出来たら良いのだが、、、。
最小限の適度なトークでプログラムも面白くて、来年8月にも聴いてみようと思わせるコンサートになった。



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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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