藤村実穂子 メゾソプラノリサイタル 歌曲の夕べ

ソプラノリサイタルに比べてメゾソプラノリサイタルが開催される機会は極めて少ない。著名なメゾソプラノ歌手のリサイタルはこの10年で2回聴いただけである。
1つは〈Kitara10周年記念コンサートシリーズ〉で2007年12月に開かれた《フィオレンツァ・コッソットのデビュー50周年リサイタル》。コッソットは世界の歌劇場でメゾソプラノの女王として活躍し、マリア・カラスとの共演も多く、その名を永遠に残す大プリマドンナであった。
もう1つは〈Kitaraワールドソリストシリーズ〉で2011年11月に開催された《白井光子&ハルトムート・ヘル リートデュオリサイタル》。白井とヘルは1972年の結成以来「歌と伴奏」という概念を越えた「リートデュオ」。白井光子は74年シューマン・コンクールをはじめ数多くのコンクールに優勝し、国際的リート歌手として世界にその名を馳せた。Kitara小ホールでのコンサートで複数の日本人女性から“Bravi”と声が掛かった珍しい経験が忘れられない。(PMFの演奏会で日本人が“ブラボー”、イタリア人のアカデミー生が“Bravi”と掛け声をかけるのを聞いて以来の出来事であった。)

藤村実穂子(Mihoko Fujimura)はウィ―ン国立歌劇場、バイロイト音楽祭など世界の最高峰の舞台で活躍している現代最高のメゾソプラノ歌手として名高い。オペラだけでなく、コンサートの交響曲の歌い手としての活動の場も多い。

今夜はリヒャルト・シュトラウスとマーラーの曲をたっぷりと楽しめるドイツ・リートの世界。

2014年3月17日(月) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

〈プログラム〉

R.シュトラウス:薔薇のリボン op.36-1、白いジャスミン op.31-3、高鳴る胸 op.29-2、
          愛を抱きて op.32-1、愛する人よ、別れねばならない op.21-3、
          憧れ op.32-2、静かな歌 op.41-5、解放 op.39-4、岸で op.41-3、
          帰郷 op.15-5、小さな子守唄 op.49-3、子守唄 op.41-1
マーラー:歌曲集「子供の魔法の角笛」より
        ラインの小伝説、 この世の生活、 原初の光
        魚に説教するパドゥアの聖アントニウス、 この歌を想い付いたのは誰?
        不幸の中の慰め、 無駄な努力、 高い知性への賞賛
                   ピアノ/ヴォルフラム・リーガー(Wolfram Rieger)

シューベルトが作り上げた《芸術歌曲》を発展させたのがR.シュトラウス(1864-1949)と言われる。「4つの歌」などコンサートで取り上げられる曲はあっても具体的な曲名は全然知らない。意外と言ったら変だが、今回の12曲はいずれも詩も曲も美しかった。詩を読んで歌を聴くと情景が浮かんでくる。

藤村が声を発した途端、彼女の歌声に魅了される。1曲が終ったあと聴き惚れて、満席の聴衆は6曲が終るまで拍手する気持ちを抑えていた。(実際、1曲終わる度に拍手をしていると、演奏家の集中度が途切れてしまう恐れがある。)曲が進むにつれて彼女の世界に引き込まれていく。
歌の専門家はともかく、素人の自分には初めて聴く曲ばかりであった。Sold outになった客席は女性が9割弱。周囲に男性の姿は殆どなし。声楽を専攻した人たちか音楽大学の出身者が多かったのかもしれない。

R.シュトラウスの交響詩を聴く機会は結構あるが、彼は歌曲の巨匠でもあることが何となく判った。シューベルトやシューマンの後に続くドイツ歌曲に接する機会にはなった。

マーラー(1860-1911)の歌曲集は近年よく耳にする。この歌曲集は名前だけは知っている。交響曲からの主題の借用や交響曲への転用などで知識を得ている。2011年のPMFでトーマス・ハンプソンが歌った「亡き子をしのぶ歌」、「リュッケルトの詩による歌」は一応名前だけは知っている程度である。勿論、この時はハンプソンの歌に酔いしれた。

前半のシュトラウスの詩や曲と対照的に、マーラーのこの作品はアイロニーが多分に含まれていて面白い。戯画化されて皮肉ったり、ユーモアを込めた作品にも興味が湧いた。交響曲から得ている印象とは違ったのである。

オペラの有名なアリアと違って、外国の歌曲はメロディや歌詞は馴染みが薄い。数曲聴いただけで向こう受けする曲は無い気がするが、今晩のようなコンサートで世界一流の歌手が、ある程度まとまった曲を歌ってくれると、その良さが断然聴く者の心に響いてくる。
 
後半の曲風が前半とガラリと変わった味が素晴らしく良く出ていた。艶のある声の響きは言うまでもないが、詩の表現力が凄いと思った。前半とは違う歌手が歌っている感じさえした。彼女が世界の舞台で活躍している様子が実感できた。

ピアニストのリーガーとの呼吸もピッタリあった演奏会。ピアノがステージ上で少々斜めに配置されて聴衆に鍵盤が見えやすくなっていたので、ピアニストの運指や歌手との微妙な呼吸が読み取れて興味深かった。

藤村がステージを下がる度ごとに客席に顔を向けながら退場する様は、歌っているときの凛としたクリアな響きと重なって、実に堂々としていてプリマドンナのようであった。歌曲では歌手が聴衆の顔を見つめながら歌い、心を伝えている様子が感じ取れた。退場の時の態度にも同じことが言えるのかなと思った。いずれにしても、他のコンサートでは余り見られない一貫した態度に注目した訳である。

〈アンコール曲〉
マーラー:ハンスとグレーテ、 たくましい想像力。
2曲を終えたのち、鳴り止まぬ拍手に応えて「マーラー:別離と忌避」で終了。

帰りの小ホールのホアイエはクロークに並ぶ人と、サイン会のため並ぶ人で大混雑。このような盛況ぶりは久しぶり。とにかく藤村実穂子の名はクラシックファンには知れ渡っていたので、今日のリサイタルを待ちわびていた人は多かったはずである。私自身も旅行計画を少し変更して聴く機会を持てた。


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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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