ミシェル・べロフ ピアノリサイタル

 ミシェル・べロフの名を耳にしたのは5・6年前。それから偶々CDショップでドビュッシーの前奏曲集を探し求めていたらべロフ演奏の1970年録音のCDを手にしたのが彼を知るきっかけになった。

 ミシェル・べロフ(Michel Beroff)は1950年フランス生まれ。66年パリ音楽院を卒業し、翌年の第1回メシアン国際ピアノ・コンクールに17歳で優勝。ドビュッシー「前奏曲集第1巻、同第2巻」、メシアン「幼児イエズスに注ぐ20のまなざし」の全曲録音、プロコフィエフ「ピアノ協奏曲」全曲録音などを精力的に行って、先鋭的な現代ピアニストとして注目を浴びた。彼は1972年の初来日以降、75・77・79年と来日し、サンソン・フランソワ亡きあとのフランス・ピアノ界を一身に担うことになった。
ところが、80年代前半より右手の故障のため約10年間活動の中断を余儀なくされた。ドビュッシー「前奏曲集第1巻、同第2巻」(94.95年)で活動に復帰してからは、彼のピアノ演奏は以前のような鋭さがなくなったものの内的に充実した深みのあるものになっていると言われる。
ソリストとしての世界的な指揮者とのオーケストラの共演は触れるまでもないが、室内楽奏者としても活躍していて、私の手元にもメシアン「世の終わりのための四重奏曲」のCDがあるくらいである。
88年からパリ音楽院の教授として教育活動にも力を入れている。その後たびたび来日し、06年にはNHKの教育番組に講師として出演して話題を呼んだ。 
*辻井伸行が優勝した09年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールでは審査員の任にあった。(彼は「辻井の音には深みと色、コントラストがある。作り物ではない音楽になっている」と称賛している。)

 上記のプロフィールを大体知っていた上で、べロフのKitara公演を知り3ヶ月前から本日のリサイタルを心待ちにしていた。午後からの演奏会に備えて、予定されているプログラムの全曲を午前中にCDで聴いてコンサートに臨んだ。

PROGRAM
 シューマン:アラベスク
 シューベルト:ピアノ・ソナタ 第21番 D.960
 ドビュッシー:映像 第1集、第2集
 ドビュッシー:版画

 「アラベスク」は《アラビア風》とか《唐草模様》という意味。感傷的な旋律からイスラム美術の装飾模様を思い浮かべ、アラブの世界に浸った。
 
 前半にシューベルトの最後のピアノ・ソナタの作品。美しく歌うように流れる曲が、やがて憂いを帯びながら、また軽快に明るい雰囲気に包まれクライマックスへと向かう。以前よりシューベルトを聴く機会が多くなったが、べロフが前半にこの大曲を弾いたプログラミングに意外性を感じた。シューベルトの世界に淡々と引き込まれていくのが不思議でもあり、べロフのプロの技のゆえんかなと、ある種の感動を覚えた。

 ドビュッシーの「映像」第1集は≪水に映る影≫、≪ラモーをたたえて≫、≪運動≫の3曲から成る。印象主義の手法をピアノで確立した作曲家として知られるドビュッシーの代表作。第1曲は水面の輝きをイメージした絵画的で美しい曲。
「映像」第2集も≪葉末を渡る鐘の音≫、≪そして月は荒れた寺院に落ちる≫、≪金色の魚≫の3曲から成るが、印象主義的な手法はさらに徹底されていると言われる。第3曲は日本の漆塗りのお盆に描かれた金魚か緋鯉を見て作曲されたと伝わっている。優雅で自由な動きと鱗のきらめきを心に描きながら幻想的な想いで聴き入った。
ピアニストの指の動きがはっきりと見れる座席から鑑賞できたが、べロフが鍵盤に指を立てるようにして弾く運指にも見惚れた。

 「版画」は「映像」より少し早い1903年に書き上げられた。≪塔≫、≪グラナダの夕べ≫、≪雨の庭≫の3曲から成り、アジア、スペイン、フランスをそれぞれ連想させるが、ドビュッシーはアジアもスペインも訪れたことはなかったという。彼が印象主義手法による独自のピアノ奏法を確立した作品と言われている。第1曲は1899~1900年にかけて開催されたパリ万国博覧会で初めて耳にした東洋の音楽の影響を受けて作曲された作品。

 べロフが沈着冷静に淡々と紡ぐ音に浸っているうちにアッという間に全曲の演奏が終った。
満員の聴衆で埋まったKitara小ホールにはドビュッシーの世界が広がった。べロフの得意とするドビュッシーの深みのある堂々とした演奏の余韻がホールを包んで感動の輪が大きくなっていた。

 アンコールにシューベルト:ハンガリー風のメロディ、ドビュッシー:アラベスク 第1番。
至福のひと時を過ごした日曜日の午後。

 このリサイタルは〈Kitaraワールドソリストシリーズ〉として開かれたが、国内では札幌単独の開催だったようだ。何かKitaraから特別なプレゼントを貰って得をした気分になった。べロフは来週日曜日の19日には東京交響楽団東京オペラシティシリーズに出演して、ラベルの「左手のためのピアノ協奏曲」を弾く予定になっている。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR