佐渡裕指揮 BBCフィルハーモニック 日本ツアー2013

Yutaka SADO & BBC Philharmonic & Nobuyuki Tsujii

 佐渡 裕は1961年京都生まれ。京都市立芸術大学フルート科卒業。87年アメリカのタングルウッド音楽祭で奨学生に選ばれ、レナード・バーンスタイン、小沢征爾らに師事。89年ブサンソン国際指揮者コンクールで優勝。90年第1回PMFに参加し、横浜の公演ではロンドン交響楽団とPMFオーケストラの合同演奏をバーンスタインの代役で指揮。PMFでは92~97年まで毎年レジデント・コンダクターを務めてPMFオーケストラの指導にあたった。札幌交響楽団との共演も多く、PMF会期中に札幌市内の小学校で音楽教室を開催し、熱意溢れる音楽教育活動を展開して札幌での音楽の発展に寄与した。94年、バーンスタインのミュージカル「キャンディ―ド」の日本初演も行った。
 現在、ヨーロッパの拠点をベルリンに置いて世界のメジャー・オーケストラへの客演を重ねている。11年5月、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会での客演は話題を集めた。(自分はライヴ・レコーディングされたショスタコーヴィチの交響曲第5番を含むCDを記念に買い求めた。)
国内では兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シェナ・ウインド・オーケストラの首席指揮者を務める他、「佐渡裕ヤング・ピープルズ・コンサート」、「サントリー1万人の第九」を毎年指揮するなど、極めて広範囲な音楽活動を続けている。

 私は90年の第1回から毎年PMFのコンサートは欠かしたことは無いが、外国人によるコンサートを優先したため、佐渡裕指揮の札響を初めて聴いたのは98年であった。当日はピクニック・コンサートで札幌芸術の森・野外ステージが会場であった。当時、彼は日本人離れをした体躯を持つ俊英の指揮者として、PMFでの経験も積み重ねて堂々たる指揮を繰り広げた。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」(ピアノ:及川浩治)とシベリウスの交響曲第2番を演奏した。
 テレビで彼の活動を知ることはあったが、2回目に彼の演奏を札幌コンサートホールで聴いたのは11年11月佐渡裕=指揮ベルリン・ドイツ交響楽団日本ツアー2011だった。チケットは発売早々に売れ切れ、佐渡人気は凄いものであった。
 ベルリン・ドイツ交響楽団札幌公演はケント・ナガノ指揮での99年10月以来のことであった。ベルリンの名門オーケストラを率いての11年の日本ツアーは半月の期間で全国12公演のハード・スケジュールが組まれていた。佐渡の来札はベルリン・フィルでの注目された公演から半年も経たない時期とあって、まるで凱旋公演のようで聴衆の期待度も頂点に達していた。
 
 当日の札幌公演のプログラムは、
ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第3番
モーツァルト:「ピアノ協奏曲第23番」(ピアノ:エフゲニ・ボジャノフ)
チャイコフスキー:交響曲第5番

 ボジャノフは2010年のショパン国際ピアノコンクールで聴衆の人気が最も高くて優勝候補に挙がっていたが、彼の演奏スタイルが審査員の一致した評価を得られずに4位に終わり、11年の日本でのガラ・コンサートにも参加しなかったので、この時の演奏に期待した。しかし、比較的に地味な選曲で少々物足りなさを感じた。(ボジャノフは2009年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで辻井と共にファイナリストに残って優勝を争ったが、激戦で上位入賞はできなかった。)
 チャイコフスキーの「交響曲第5番」での佐渡指揮のダイナミックな演奏には満足感を覚えた。

佐渡 裕 指揮 BBCフィルハーモニック日本ツアー2013  ピアノ:辻井伸行
 
 札幌公演{2013年4月25日)の先行発売が半年前にあったが、電話が繋がらない状態が続いて2種類の安い座席は午前中にすでに完売していた。すべてのチケットが数日のうちに完売になったというから佐渡・辻井人気は想像以上のものがある。
 佐渡の札幌での90年代からの幅広い活動とクラシック音楽にとどまらない音楽への取り組みが相まって、ベルリン・フィルの定期演奏会への客演で一気に知名度を高めて、国民の佐渡への関心も最高潮に達しているのではないか。  

 イギリス放送協会(BBC)の専属オーケストラの代表格のBBC交響楽団は早くから一流オーケストラとなっていたが、マンチェスターを本拠地とするBBCフィルハーモニックは2002年からジャナンドレア・ノセダが首席指揮者に就任して世界のメジャーオーケストラの仲間入りを果たした、初来日は04年。08年の再来日では、ヒラリー・ハーンとシベリウスのヴァイオリン協奏曲を共演して名声を高めたと言われる。
 ステージ上には録音用のマイクが10本以上も配置され、いつもの録音風景とは違っていた。ヨーロッパ大陸の放送交響楽団とは明らかに違う雰囲気を感じ取った。イギリス国内のラジオ放送網を利用して中継するための準備だろうと予想できた。

本日の演奏曲目。
 メンデルスゾーン:序曲「真夏の夜の夢」
 ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番(ピアノ:辻井伸行)
 ベルリオーズ:幻想交響曲                
 
 佐渡裕はステージに現れるとすぐマイクを取り、BBCフィルハーモニックとの共演で一行が日本ツアーの真っ最中の11年3月11日に横浜に向かうバスの中で遭遇した出来事について話し、公演の中止に追い込まれた様子と、2年後に公演中止となった都市を中心に公演再開の約束をして今日に至った様子を感極まりながら説明した。東日本大震災遺児育英資金への協力の呼びかけも公演各地で行い、その成果をユーモアを交えながら紹介した。
 プログラムの1曲目にエルガーの「エニグマ変奏曲」から“ニムロッド”が特別に演奏された。2年前に彼らが遭遇した東日本大震災の記憶を改めて胸に刻む想いのようであったが、美しい変奏曲で日本の聴衆への「友情」の印として用意したようである。指揮者から演奏前に、曲終了後の拍手はご遠慮くださいとの指示があった。

 シェクスピアの物語に魅せられて書いた夢の世界。序曲だけではチョット物足りなく、どうせならあの有名な「結婚行進曲」まで全曲聴けたら良いがプログラムの時間配分でやむを得なかった。
                                               
 辻井伸行の演奏を初めて聴いたのは世間の熱狂的な注目を浴びる前の08年2月のピアノ・リサイタル。2度目のリサイタル(09年10月)のチケットは先行予約発売で彼がヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝に輝く前に既に手に入れていた。12年1月のリサイタルの後は、12年12月の読売日響との共演でチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。それに続いての今日のラフマニノフの協奏曲第2番。丁度、09年のコンサートの折に妻が購入した佐渡裕指揮ベルリン・ドイツ交響楽団との辻井の共演のCDを聴き、同響との10分ばかりのレコーディング風景のDVDを観てから出かけた。いつものコンサートより興奮度の高まりを感じながらKitaraに向かった。        
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 辻井のリサイタルはこれまで3回、今日で協奏曲は2回目。辻井は09年コンクール優勝以後の国内外のコンサートでの聴衆の圧倒的な人気だけでなく、評論家や他の演奏家によると「その後の成長が著しい」と評価が高い。今日の演奏には圧倒された。こんな素晴らしい演奏を最初から最後まで華やかに演奏するラフマニノフは久しぶりというより初めてである。ラフマニノフ本人が弾く協奏曲を全曲所有していて、アシュケナージ、キーシン、ランランなど10名以上のピアニストのCDを聴いているし、実演での日本の横山や清水の演奏も印象に残っているが、とにかく今日の辻井の演奏はラフマニノフが描く雄大なロシアの大地、人々の強い精神などのイメージを雄弁に伝えてくれた。
 第1楽章が鐘の音で始まり印象的。ラフマニノフは鐘の音を効果的に使う。ピアノがロマンティックな旋律を奏で、力強い躍動的な調べとともに、抒情性に溢れる変化に富んだ豊かなファンタジー、オーケストラが辻井の流れるような演奏を支える。佐渡の指揮もどちらかと言えば控えめで、辻井の演奏の引き立て役に徹している印象。手が大きくないと弾くのが難しいと言われる難曲を弾きこなすピアニストは多いようだが、これだけの強い打鍵でドラマティックに弾き切り聴衆を魅了した辻井に感服。
 アンコール曲にヴェルディ/リスト編曲の≪「リゴレット」演奏会用パラフレーズ≫。疲れを知らない迫力ある演奏に驚嘆。感動した聴衆から万雷の拍手。果てしなく続きそうな拍手にコンサートマスターも残りのプログラムの時間を考えてタイミングを見計らって退場。

 幻想交響曲は5楽章から成る。Ⅰ夢~情熱 Ⅱ舞踏会 Ⅲ野の風景 Ⅳ断頭台への行進 Ⅴ魔女の夜宴の夢。
 「ある芸術家が美しい女優に恋をするが失恋して人生に失望し、アヘンで服毒自殺を図る。幸か不幸か致死量に至らずに、彼は悪夢の世界を彷徨う。そこには恋焦がれていた女性が不気味な姿になって現れる。」という夢を見る話。
 ベルリオーズのこの曲はシャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のCDで十数年前から聴き始めたが、第2楽章が交響曲には珍しいワルツを取り上げていて親しみやすいと感じて興味を持つようになった。
 佐渡はこの曲を得意にしているらしい。べルリオーズの実体験に基づくストーリーをドラマティックに表現。オーケストラのサウンドを生かしながら、第2楽章ではタクトを使わず踊るような仕種も見せ、第3楽章でも手のひらや指を巧みに使っての指揮。第4楽章から、また指揮棒を使ってオーケストラ全体、特に木管・金管・打楽器の音を力強く引き出して様々なシーンを克明に描き切った。オーボエの奏でる旋律がいろいろな場面で目立った。
 アンコールにベルリオーズの「ラコッツィ行進曲」。 佐渡裕の全身全霊を傾けた2年がかりの公演も今日で終了。佐渡の人間味あふれる姿が良く出ていた今回の公演。かなり細身の身体になったが、体を大切にしての今後の活躍を祈りたい。
 
 今回の追加公演は4月11日の新潟、長野、山梨、浜松、兵庫、大阪(2公演)、東京(3公演)、名古屋、札幌。25日の札幌が最終公演地。約2週間の日程で12公演。厳しいスケジュールの中、指揮者、ソリスト、オーケストラの皆さんお疲れ様でした。ソリストが1人だけで、このような公演が行われるのは前代未聞。辻井伸行の今回の公演に寄せる想いと体力にも感激。若い体力と彼の並々ならぬ強い精神力に感服せざるを得ない。佐渡裕と辻井伸行の計り知れないエネルギーが伝わってくる演奏会であった。
 
追記:最新情報
  今年の7月16日、辻井伸行がイギリス最大の音楽祭“プロムス”にデビュー!
  BBCフィルハーモニックとラフマニノフ第2番を首席指揮者のファンホ・メナと共演
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年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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