ベルリン・フィル次期首席指揮者ぺトレンコがモーツァルト&チャイコフスキーを指揮

今年からデジタル・コンサートホールを視聴している。2016年12月の7つのコンサートのうち視聴可能な3つはアーカイヴで1月に視聴した。2017年1月は4つのコンサートのうち3つを視聴した。オーケストラはベルリン・フィルとは必ずしも限らない。ベルリン・フィルのコンサートは2つで、ブロムシュテッドの指揮が強く印象に残った。プログラムは「バルトーク:ピアノ協奏曲第3番」(ピアノ:アンドラーシュ:シフ)と「ブラームス:交響曲第1番」。シフの姿を20年ぶりに見れて良かった。1997年の札幌コンサートホールの開館年にKitaraに来演して、彼自身がウィーンで選定したKitaraのベーゼンドルファーを弾いた。その後の彼の名声は一気に高まって今では世界有数のピアニストとして活躍し彼の弾くバルトークも知的で思慮にあふれたものであった。

ヘルベルト・ブロムシュテッドは2002年、05年と続けて2回ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管とKitaraに登場している。今年の11月にも同管との来札が予定されていて楽しみにしている大好きな指揮者。彼はN響公演がテレビ中継される際のインタービューでは演奏曲目のメロディを口ずさみながら実に楽しそうに細かく解説してくれる。今回の演奏後のインタビューで記憶に残るコメントがあった。“ハイドンやモーツァルトは第1楽章が重要であるが、ベートーヴェンやブラームスでは最終楽章が大事である”(*大まかな作曲家の特徴を掴むコメントとして印象に残った)。第2・3楽章を短くして終楽章を最高潮に盛り上げる生気溢れる指揮ぶりは89歳にして信じられないほどのダイナミックな曲の展開に改めてこの曲の良さを味わった。来日時には90歳を迎えている。健康を維持しての来演の実現を祈る気持である。

2月はラトル指揮の2つのコンサート。1つは「マーラー:交響曲第4番」とコパチンスカヤの「リゲティ:ヴァイオリン協奏曲」。もう一つはリゲティのオペラ「グラン・マカーブル」(演奏会形式)。マーラー「第4番」は今や聴きなれたメロディを持つお気に入りの曲になっている。ソプラノ独唱は2015年9月にアンネ・ソフィ・オッターと共にKitaraに来演したカミッラ・ティーリングだったので身近に楽しめた。ラトルは日本の公演では実施が不能と思われる演目の指揮を担当していることも多くて日本とヨーロッパの違いの大きさを感じる。オペラは一応観たが、面白いと思うまでには至らない。慣れていないアーカイブは時間の余裕ができればということで後回しになる。

3月は6つのコンサートに3つを鑑賞。メータ指揮の演奏会が2回。もう一つはぺトレンコ登場の演奏会。
ズービン・メータはイスラエル・フィル管を率いてKitaraに登場したのが2000年3月。Kitaraの開館当初数年は外国のオーケストラが続々と来演していた。毎月のように公演があって、この頃もロイヤル・コンセルトへボウ管、ドレスデン国立歌劇場管などがやって来てできるだけ安い席でほぼ全てのコンサートを聴いていた。メータの演奏会は一番安い席(76席分のP席)で1万円。ウイーン・フィルやベルリン・フィルを除いての話だが、現在でも一番安い席が万を超える記憶はない。P席は好んで座ったこともあり、オルガン左右のP席にも数度座ったことがあるが、メータの時は鑑賞に特に不便を感じなかった。今では懐かしい思い出である。

ズービン・メータはインド出身で小沢征爾と同世代で大の親友同士。メータが東日本大震災の折に示した日本への対応は真に愛情あふれるものであった。彼の姿はウィーン・フィルやN響共演の様子をテレビで観る機会も多い。今回のベルリン・フィルではインドの伝統民俗楽器奏者と「シター協奏曲」と「バルトーク:オーケストラのための協奏曲」。2回目の公演はイスラエル出身のヴァイオリンの巨匠ピンカス・ズーカーマンと共演して「エルガー:ヴァイオリン協奏曲」。エルガーの器楽曲で最長50分の演奏時間を持つ曲はズーカーマンの名演奏で聴きごたえ十分であった。もう1曲が「チャイコフスキー:交響曲第5番」で言うまでもない名曲の演奏だったが、オーボエを担当したヴォレンヴェーバーの音色にウットリ。高音質で聴くアーカイヴをたっぷり堪能した。

2015年10月にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団次期首席常任指揮者に選ばれていたキリル・ぺトレンコ(Kirill Petrenko)が発表以来はじめてベルリン・フィルハーモニーに登場したのが3月23日。
ぺトレンコは1972年ロシア出身。18歳の時にオーストリアに移住してウィーン国立大学に学ぶ。1999年マイニンゲン州立歌劇場音楽総監督、ベルリン・コーミッシェ・オーパー音楽監督(2002-07年)を歴任。09年ロイヤル・オペラで《ばらの騎士》を指揮し、10年リヨン劇場で《エフゲニー・オネーギン》、《スペードの女王》。13年バイロイト音楽祭でデビューを飾って「ニーベルングの指輪を指揮。2013-14シーズンからバイエルン国立歌劇場音楽監督に就任。15年ベルリン・フィル次期首席指揮者兼芸術監督に指名された。(*正式就任は2018年9月)

3月の最終回のコンサートの曲目は《モーツァルト:交響曲35番「ハフナー」》、《ジョン・アダムズ:バリトンと管弦楽のための「ウンド・ドレッサー」》、《チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」》。
指揮者の解釈と音楽性が如実に出る作品としてモーツァルトとチャイコフスキーが選曲されたようである。オーケストラのヨーロッパと指揮者の祖国ロシアを挟んでアメリカの現代曲。
ぺトレンコはCDを殆どリリースしていなく世界的には無名に近かったので、今回のデジタルコンサートでの演奏は一層注目された。ぺトレンコは個性的で独自の演奏を展開したと思う。数回のリハーサールを通して互いに求める音楽の目指す方向も見えてくのではないだろうか。指揮者と演奏家の相互理解を深めるうえでの良い事前演奏会となったようである。
今回のコンサートマスターは樫本大進が務めた。
モーツァルトでは樫本は時折指揮者に目をやりながら心配りをしている様子。明るい軽やかなモーツァルトらしい響きが広がっていた。アダムズの曲では金管・打楽器の音が印象的に響いた。弦楽が抑えながら響く物悲しい音楽に合わせてバリトンが伸び伸びと歌い続ける現代音楽。
チャイコフスキーになると指揮者の手の振り、体の動きが大きくなってオーケストラから求める音の表情もドラマティックな様相を呈した。特に第3楽章での力の入った指揮ぶり。第4楽章への切り替えも極めて巧みであった。

演奏終了後の聴衆の反応は好ましいもので、楽団員が全員ステージを去った後に、ぺトレンコが大拍手を受けてステージに出てきて一部の観客と交流する姿もあった。
楽員代表との30分ものインタビューで中庸の大切さを訴えるぺトレンコの言葉にベルリン・フィルの音を急に変えることは無さそうだと思った。べトレンコは今秋、バイエルン国立歌劇場公演で来日する。
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BUNYA TRIO Concert Vol.4 (ピアノ・トリオ)

30年ほど札幌交響楽団チェロ奏者として活躍していた文屋治実(BUNYA Harumitsu)は以前からチェリストとして幅広い活動を展開してきた。リサイタルや室内楽のコンサートを毎年開催して、92年から現代チェロ音楽コンサートを年1回開催し、現在まで20世紀以降に作曲された90曲以上の現代音楽を演奏していることは「音楽の友」でも高く評価されている。彼は14年7月に札響を退団して、チェリストしての活動のほかに指揮者・文筆家としても活躍している。
つい先年“BUNYA TRIO”が結成されてピアノ三重奏曲の演奏会が開かれることになって注目していた。日程が折り合わずに聴く機会を逸していて今回やっと聴けた。

2017年3月28日(火) 19:00開演  ザ・ルーテルホール
 
〈Program〉
 モーツァルト:ピアノ三重奏曲 第5番 ハ長調 K.548
 トゥリーナ:ピアノ三重奏のための幻想曲 「環」 Op.91
 ラフマニノフ:ピアノ三重奏曲 第2番 ニ短調 作品9 「悲しみの三重奏曲」

『ピアノ三重奏曲』として最も有名な曲としてベートーヴェンの「大公」、ドヴォルジャークの「ドゥムキー」、チャイコフスキーの「偉大な芸術家の思い出」は名曲として親しんでいる。コンサートでピアノ三重奏曲を聴く機会は多くない。カルテットに比べてピアノ・トリオは室内楽として今までは少なかった。強い関心を持ち始めたのはここ一二年である。池辺晋一郎によると、ベートーヴェン11曲、ハイドン45曲、モーツァルト7曲、シューマン3曲、ブラームス3曲、メンデルスゾーン2曲、シベリウス4曲、ラフマニノフ2曲、ショスタコーヴィチ2曲、サン=サーンス2曲、ショパン、フォーレ、ドビュッシーが各1曲。
自分であまり意識していなかったがショパン、メンデルスゾーン、フォーレ、ラヴェル、スメタナも名演奏家のオイストラフやチョ・キョンファなどのCDに入っていた。

BUNYA TRIOのメンバーは文屋のほかは、札響のヴァイオリニスト岡部亜希子、井関楽器講師の新堀聡子。それぞれ緑と赤の色鮮やかなドレスに身を包んだ女性二人は容姿端麗な演奏家。もちろん文屋がトリオ結成で選んだ共演者で相当に腕の立つソリスト。岡部は2009年に札響入団で13年にはソロ・アルバムをリリース。ピアニストの新堀は札響メンバーを中心として様々な楽器奏者のピアノ伴奏で活躍し、オーケストラとの共演でラフマニフを演奏するなど経験豊富な実力派ピアニスト。

1788年完成の「ピアノ三重奏曲」はモーツァルトの後期三大交響曲のころの作品。歌劇《フィガロの結婚》の「もう飛ぶまいぞこの蝶々」のアリアに似たメロディで始まる第1楽章はこの曲を聴く親しみを倍加させた。チェロを室内楽器として用い、3つの楽器を対等に扱う工夫がされている感じを受けた。ハ長調でモーツァルトらしい軽快で明るい溌溂とした曲。

トゥリーナ(1882-1949)は初めて耳にする名。セヴィーリャ生まれでマドリ-ドで音楽を学び、パリに留学してフランクやドビュッシーの影響を受けたという。パリ滞在中にスペインの大御所アルベニスと知り合い、アンダルシア地方のスペイン音楽の興隆を諭されて親友のファリャと一緒に帰国。アンダルシア地方の民俗音楽に影響を受けた作品を発表し、その後マドリード音楽院教授に就任。
この作品はスペイン内乱が始まった1936年に書かれた。「夜明け」「昼」「黄昏」の3楽章構成。モーツァルトとはガラッと変わった暗い雰囲気で始まる曲に現代曲の響きを感じた。同時に当時のスペイン内乱の頃の一日の様子が見事に描かれていた。日中の賑やかなスペインの街中の人々の動きも感じられた。不安の中で生活する人々が翌日以降の無事を願う気持ちも読み取れるようであった。10分余りの曲に、フランコ政権が独裁政治を行った当時のスペインの時代背景がうかがえた。
フランコの死後、トゥリーナの作品が演奏される機会が殆ど無くなってしまったが、最近になって彼の作品が再評価されて世界中で演奏機会が増えてきているとされる。 ユニークな曲で興味をそそられた。

ラフマニノフが20歳の1893年にチャイコフスキーが亡くなった。ロシアでは偉大な芸術家の死を悼むために「ピアノ三重奏曲」を書くのが慣習になっていたらしい。チャイコフスキーはルービンシテインの死を悼んで「偉大な芸術家の思い出」を作曲した。
ラフマニノフは室内楽曲はあまり書いていない。この「ピアノ三重奏曲第2番」は現在3つの版が残されているそうだが、今回演奏されたのは1907年の第二版の楽譜。55分の大曲で第1・2楽章は長大。文字通り悲しみに満ちた鎮魂の調べ。
ラフマニノフはモスクワ音楽院在学中の試験で書いた「前奏曲」がチャイコフスキーに気に入られてプラスが4つもついた最高点を与えられていた。崇拝する恩師だったと想像される。終楽章まで悲劇的雰囲気を帯びた調べが綴られた。全体的にピアノの比重が大きく打鍵が強烈な感情移入が表れていた。ピアノ演奏も超絶技巧を含む難曲と思われたが、ヴァイオリンとチェロが地味な役割で曲を支えバランスを取りながら室内楽曲の体はなしていた。
 
演奏終了後にはブラヴォーの声もあがった。室内楽シリーズを毎回聴きに来るファンもいると思ったが、私も次回もぜひ聴きに来ようと思うほど良い演奏会であった。
演奏者は激しい感情表現に疲れたであろうが、アンコール曲に心和む「ラフマニノフ:ヴォカリーズ」。

※「ピアノ・トリオ」という言葉で思い出した。来月中旬にKitaraに数年ぶりに登場する池辺晋一郎が「音楽の友」2016年5月号に書いた記事が印象に残っている。
楽譜の符号でpはピアノと誰もが分かる。ppが「ピアニッシモ」と分かる確率も低くないだろう。pppとなると音楽を専門的に学習している人以外にとっては難しい。私も分からなかった。正解は「ピアニッシシモ」、または「ピアノピアニッシモ」。池辺は高校時代の音楽のペーパーテストでうっかりいして「ピアノトリオ」と答えたという。当時の音楽教師の声楽家が余りにおかしい答えに〇をつけたという。その音楽の大家と亡くなるまで付き合いのあった池辺は高校時代の話を持ち出されて“キミは高校時代からおかしな奴だったぞ”と言われたそうである。頓智が効き駄洒落が得意で話好きな池辺にまつわるエピソード。

※昨日は私が78歳を迎えた誕生日。コンサートに出かけるので少し早めに祝いの夕食を済ませて出かけた。コンサートの帰りにクラシック・バーに立ち寄った。店に入るとテレビにカラヤンの映像。カラヤン&ベルリン・フィルのCDは多く持っているが、映像で観たことはない。マスターが「チャイコフスキーの第5番」をかけてくれた。1973年10月の演奏。映像で見れるようになったのはつい最近のことらしい。当時のカラヤンのダイナミックな指揮ぶりに見惚れた。カメラワークが現在のデジタルコンサートでのものとは違っていた。ベルリン・フィルハーモニーのP席から撮った場面、弦楽器奏者、木管楽器奏者をまとめて映す方法、聴衆の姿も映るがカラヤンが中心となる映像つくり。ホール内が異常に明るくて特別な工夫で当時の演奏会の模様を再現したようであった。
誕生日の贈り物をもらった良い気分に浸れた。忘れ難い思い出に残る誕生日になった。

札幌北高等学校合唱部 第36回定期演奏会

年に一度の札幌北高合唱部の定期演奏会の時期となった。3月下旬に入っても歩道には残雪があって春の訪れを感じれない。今年も例年と同じように合唱部から案内状と招待券が送られてきていた。年度末は何かと慌ただしい時期で落ち着いた気分で過ごすことが少ない。昨年は脚が不自由でタクシーで移動していたことを考えると今年は気分的に楽である。10年、11年、13年、15年に続いて北高定期演奏会を聴くことになった。

2017年3月27日(月) 開演:18:30  札幌コンサートホールKitara大ホール

1st Stage:[祈る] ~松下耕作品集~
2nd Stage〈OBステージ〉:[南の島の物語]~九州・沖縄の音楽を集めて~
3rd Stage:[春夏秋冬]~めぐる季節と旅立ち~
4th Stage〈合同ステージ〉:信長貴富作曲 混声合唱とピアノのための [新しい歌](2台ピアノ版)

コンサートの始めに本日の出演者全員がステージに登場して歌う札幌北高等学校校歌は在職時にも学校で聴けなかった迫力のある大合唱なのでひと際感慨に浸った。(*時代が平成になって札幌北高を退職した職員が毎年一度集まって会合を開いている折に校歌を歌うこともあって歌に親しんでいるが、在学生・卒業生が一緒になって歌うレヴェルの高い合唱は感慨一入。)

合唱部員49名(男子14、女子33)による第1ステージは格調の高い合唱曲。松下 耕(1962- )は現代日本合唱界を代表する作曲家。「祈ること」を基調にしたテーマの作品から4曲。鳥や内戦を題材にして平和と幸せを祈る詩を音で綴った作品。コンクールに向けて取り組み常日頃から言葉を大切にして歌う習慣を身に着けてきている成果が美しいハーモニーとなって聴けた。

第2ステージは東京方面からも駆け付けた約150名の合唱部OB・OGによるステージ。九州(特に熊本)・沖縄の曲から4曲。①あんたがたどこさ ②安里屋ユンタ ③おてもやん ④島唄。4曲とも自分の世代では歌詞も知っていて懐かしい民謡。混声合唱のために作曲されたものだが、良い曲は時代が流れても何らかの形で音楽が歌い継がれて行くことを目のあたりにした。(*昨年のPMFウイーンが室内楽曲として弦楽器に乗せて熊本のわらべ歌「あんたがたどこさ」を中心とした日本のメロディをアンコールに演奏した場面を思い出した。)若い学生もこの機会に日本の伝統的な歌が編曲されて新しい角度から時代をつなぐ面白さを味わったことだろう。

第3ステージはチョット堅苦しい合唱曲を離れてポピュラーな曲。制服を私服に着替えて現代のティ-ン・エイジャーらしい溌溂として心も軽くなるステージ。①蕾(コブクロ 2007) ②花火(aiko 1999) ③青い珊瑚礁(松田聖子 1979) ④秋桜(山口百恵 1997)⑤なごり雪(かぐやひめ 1974) ⑥麦の唄(中島みゆき 2014)。

大体の歌詞とメロディに親しんでいたのは③以降、①はメロディだけで②はタイトルを含めて全然知らなかった。プログラムを見なくても作詞・作曲者が分かったのは“さだまさし”と“中島みゆき”。どんなジャンルでも良い歌は歌い継がれるのだと思った。歌の紹介の仕方も巧み。マイクの使い方も上手で、話し手の声はほとんど私の耳に届いた。(*コンサートではマイクの使い方によってホールで声が通らないことが多い。私の耳のせいかとしばしば思いはするが、、、)「花火」での照明が目を引いた。Kitaraの照明装置をたっぷり使っての演出にはビックリするやら感心するほどであった。衣装や振付に工夫がなされていたが、ステージ真上と臨時の照明器具を使っての演出はKitaraの協力を得たのかなと思った。花火の雰囲気が出ていてとても良かった。舞台芸術として、単なる音楽だけでなく幅広く芸術的な試みをできる範囲で追求することは好ましい。
学校教育の中での合唱にとどまらず、歌う楽しさを人々に広く伝えている姿に心を打たれるものがあった。

最終ステージは総勢200名ほどの在校生と卒業生の合同ステージ。合唱として「新しい姿」を作り上げている21世紀の合唱。小学校・中学校・高校・大学・一般の部と合唱における日本のレヴェルはかなり高いのではないかと思っている。作曲家と合唱指導者が協力して新しい合唱曲を生み出す姿がこのステージを通して改めて感じた。

外国人の翻訳詩を題材として信長貴富(1971- )が2000年に「新しい歌」を作曲。当初の男声版、混声版が08年に「男声・2台ピアノ版」となった。札幌北高合唱部顧問の委嘱で書かれた「混声・2台ピアノ版」という作曲家の作品が2009年3月の定期演奏会で初演されたという。
北高合唱部の特徴に合う曲を合唱部顧問・平田稔夫の集大成として200名もの歌声で力強く歌い上げられた。2台ピアノ版で聴く合唱曲は極めて珍しい。《混声合唱とピアノのための「新しい歌」(2台ピアノ版)》は音量が増えただけでなく、重厚で華やかなサウンドが迫力を生み出し魅力あふれる合唱曲となってKitara大ホールに響いた。

コンサートを聴きに来た高校生や大学生の姿が目立ったが、若いほとばしるエネルギーに接していつもの生活環境とは違う空間も楽しめた。

※1200名余の聴衆が詰めかけたコンサートの帰りに、20年前からKitaraで姿を100回以上も見かける目の不自由な年配の方に出会った。クラシックコンサートだけでなく高校生の合唱も聴きに来られていることを知って嬉しくなった。視覚障碍者で音楽を愛好する人の鑑賞力はさぞかし研ぎ澄まされたものなのだろうと想像している。いつもKitaraレセプショニストの案内を受けているが、今度帰り道でお会いした時には声をかけて一緒に手をつなぐ申し出をしようと思った。





 

漆原啓子ヴァイオリンリサイタル

漆原啓子(Keiko Urushihara)は1963年、東京生まれ。81年第8回ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールに日本人初の最年少優勝。85年に3歳年下の妹、朝子と共に札響定期に出演してバッハの協奏曲を演奏。その後、札響とはたびたび協演。彼女の演奏を初めて聴いたのが札響定期では2度目となった93年5月。「サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番」を弾いた。彼女の演奏を聴くのは今回が24年ぶり。朝子の演奏は98年、08年と2回Kitaraで聴く機会があった。


2017年3月25日(土) 午後4時開演  六花亭札幌本店 ふきのとうホール

〈曲目〉
 モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第33番 変ホ長調 K.481
 ドホナーニ:ヴァイオリン・ソナタ 嬰ハ短調 op.21
 コルンゴルト:から騒ぎ op.11
 R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 op.18

リヒャルト・シュトラウスの曲を除いてコンサートで取り上げられることの少ない演目が目を引いた。

モーツァルトの「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」はピアノとヴァイオリンが対等とはいえ、古典派時代はやはりピアノが主旋律を奏でていた。モーツァルトのヴァイオリン・ソナタはK.301、K304の作品には親しんでいる。この2曲は2楽章構成。「K.481」は彼の29歳の時の作。この曲は3楽章構成。ピアノが主導する明解な旋律で始まるモルト・アレグロの第1楽章とアダージョの第2楽章は対照的な趣。第3楽章はかなり簡素な主題と6つの変奏曲から成る。ピアノの響きがかなり勝っていた感じだった。

ドホナーニ(1877-1960)はバルトークやコダーイと同時代のハンガリーの作曲家。ピアノ作品を多く書いたようだが、ドイツ的重厚さ、ロマンティックな雰囲気、現代風のリズムも入った曲でヴァイオリンの技巧も凝らされて、比較的に面白く聴けた。

コルンゴルト(1897-1957)はチェコ出身の作曲家。1930年代前半までにクラシック音楽の分野で成功を収め、ユダヤ系のためアメリカに移住。アメリカ映画音楽の作曲も手掛けて、ジョン・ウィリアムズなどにも影響を与えたといわれる。
「から騒ぎ」はシェイクスピアの同名の喜劇のための付随音楽。管弦楽曲として書いたが、後に作曲家自身がヴァイオリンとピアノヴァージョンにした。
《から騒ぎ》から「4つの小品」。①花婿花嫁の部屋の中の女中 ②林檎とワイン ③庭園の情景 ④仮面舞踏会(*プログラムで4つののタイトルがドイツ語で書かれていたので辞書で調べて適当に翻訳してみた。)曲を聴いている最中は内容のイメージは浮かんでこなかったが音楽そのものは面白かった。ヴァイオリンとピアノの対話も音楽的に興味深かった。

音楽の多くのジャンルで多大な作品を残したリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)が書いた唯一つのヴァイオリン・ソナタ。この曲は3年前に大谷康子のリサイタルで聴いて良い曲だと思った。華やかな演奏効果のある曲でヴァイオリンの高度な技術が発揮され、ヴァイオリンが主役となる漆原の面目躍如の演奏で満足した。演奏終了後にブラヴォーの声も上がった。

221席の小ホールは漆原を聴きに来たと思われる客で満席状態で盛り上がって良い演奏会になった。2014年録音の姉妹デュオCDが国内で話題を呼んだようだが、後進の指導のほかにソロ活動も期待したい。

ヤコブ・ロイシュナー(Yacob Leuschner)のピアニストとしての腕前も相当なもの。彼は1974年生まれでドイツ出身。89年からソリスト、室内楽奏者として世界中で幅広く活動を展開している。世界の主要ホールでの演奏経験も含め、08年からはケルン大学教授を務めながら、国内外で後進の指導に当たり目覚ましい活躍を収めているようである。

演奏終了後にステージに戻って最初に口を開いて日本語で挨拶したのがロイシュナー。これにはビックリ! 日本語もかなり流暢でアンコール曲に「モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ K.372」のほんの一部を演奏。一度ステージを下がって再登場した時には、漆原が挨拶したが残念ながら声が通らずに良く分らなかった。2曲目のアンコールは「ホ短調」と聞こえたが確かでない。5分ほどの心に響く演奏によるヴァイオリン曲。

演奏家が聴かせたい音楽を選曲してのコンサート。演奏家も聴衆の反応に満足した様子でもあり、私自身にとっては聴きごたえのある演奏会となって良かった。

※ポーランドで5年ごとに開催されるヴィニャエフスキ国際コンクールは4大ヴァイオリンコンクールの一つである。1935年に始まり、戦争で中断して第2回が52年、昨年が第15回コンクールとして開催された。1972年以降の大会で多くの日本人入賞者が毎回途切れなく続いているが、優勝者は漆原啓子だけである。昨年の大会でも2位、7位と日本人入賞者が出たが、世界から優勝の大本命と評判の服部百音(Mone Hattori)がセミファイナル(13名)にも進めずに二次予選で落選。専門家のi間やポーランド国内で大騒ぎとなったようである。審査で不正が行われたと悪評とのこと。本人の力の無さではなくて落とされてしまったらしい。ヴェンゲーロフが審査委員長でルールに則った審査が行われなかったと公然と後日談がSNSを通して広がっている。有名な世界的指導者ブロンもファイナル7名のうち少なくとも4名はファイナルに進む値のないヴァイオリニストと語っている。
スポーツと比べて文化で順位を決めるのは難しいが、委員長の独裁が幅を利かせる事態が2015年のチャイコフスキー・コンクールでもあったとされる。審査委員個々の判断に違いはあっても、ルールが無視される事態を審査委員長自らが引き起こすことを憂うる。

ヨーヨー・マのドキュメンタリー映画“The Music of Strangers”

カザルス、フルニエ、ロストロポーヴィチの後を継ぐチェロ界の巨匠Yo-Yo・Maも還暦を越えた。映画の日本語タイトルは「ヨーヨー・マと旅するシルクロード」。20年ほど前に旅したシールクロードに想いを馳せて映画館に足を運んだ。
Yo-Yo・Maはパリ生まれの中国系アメリカ人。文字通りに広大なシルクロードを旅する音楽の旅かと想像していたら、そんな単純な音楽の旅ではなく、英語の原題“The Music of Strangers”(見知らぬ人々の音楽)に相応しい映画だった。チェロという楽器だけでなく、世界の様々な伝統的な楽器の奏者と出会って、彼らと共に新しい音楽を創り出していく物語。いろいろな文化的背景を持った人々が一緒に音楽を通して繋がっていく様は感動的である。

ヨーヨー・マは6歳でデビューし、1962年にニューヨークに移住してジュリアード音楽院入学。63年にバーンスタイン指揮のテレビ番組に出演。その後、アイザック・スターンとカーネギーホールで共演して天才少年として注目を浴びた。21歳でハーバード大学大学院卒業後はヨーロッパにも活動を広げ、ベルリン・フィル、ウィ-ン・フィルなど世界の一流オーケストラと共演。室内楽活動も積極的に行った。81年に初来日して以降、90年代は毎年のように来日していた様子。札幌では2回ほど公演を行っているがチケットの入手が困難な人気の演奏家。残念ながら一度も彼の生演奏は聴いたことがない。

映画にはバーンスタインやスターンの映像が出てきて懐かしかった。マのソロ活動の映像はほとんどなく、彼が2000年にタングルウッドで始めた音楽祭「シルクロード・プロジェクト」に視点が置かれる。中国からシリアまでの幅広い地域を含む東西の音楽交流
の姿が描かれた。中国の琵琶「ピバ」、シリアの楽器「ケマンチェ」、ヨーロッパの「バグパイプ」、日本の「「尺八」などによる東西の音楽と現代の音楽との融合がそれそれの国々に住む人々の生活とともに描かれる。

2001年に起こった“9・11”という困難を乗り越えて「シルクロード・プロジェクト」が続いている。ヨーヨー・マの20年に亘る新しい音楽創りとプロジェクトに参加するメンバーのそれぞれの生活が世界共通の音楽という言語を通して生き生きと描かれる様が心に響いた。クラシック演奏家の枠にとどまらない幅広い人間愛に溢れたドキュメンタリー。音楽を通して世界が繋がる尊さが伝わる映画だった。世界平和のために一人の音楽家として活動している自然な姿にヨーヨー・マの人間としての偉大さも感じた。

何十年も飛行機で世界中を演奏旅行で飛び回って忙しくしていたので、息子さんは父親が空港に勤めていると思っていたと笑いながら語っていた。映画の中で「バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番」、「サン=サーンス:白鳥」の曲も流れたがヨーヨー・マの演奏をライヴで一度は聴いてみたい。

札響第597回定期演奏会(エリシュカ&札響ブラームス交響曲全曲達成)

ラドミル・エリシュカが2008年4月に札幌交響楽団の首席客演指揮者に就任してから、日本の音楽界に多大な反響を呼び起こした。当初はモーツァルトも定期演奏会プログラムに入っていたが、チェコ音楽シリーズとして最初の6年間はドヴォルジャーク、ヤナーチェクが取り上げられた。ドヴォルジャークの交響曲も「第5番」~「第9番」が演奏された。特に最初の年から年1回、第6番、第7番、第5番の順に日本での演奏回数の少ない交響曲が選曲されたのが印象深い。
エリシュカはシーズン最初の4月定期に客演していた。4年目には東日本大震災の発生で予定のコンサートを辞退した音楽家が多かったが、エリシュカは予定をキャンセルせずに「ドヴォルジャーク:スターバト・マーテル」の祈りの曲を演奏して被災者に捧げた。
5・6年目の「第9番」、「第8番」でドヴォルジャーク交響曲シリーズが終了した。

2013-14シーズンから定期2回の客演がスタート。13年10月、ブラームスの交響曲「第3番」に始まり、14年11月の「第2番」、15年6月の「第4番」と続いて、今回が「第1番」で〈ブラームス交響曲全曲達成〉の運びとなった。

※〈チャイコフスキー後期三大交響曲シリーズ〉は14年4月の「第6番」、16年3月の「第4番」、16年10月の「第5番」で一足先に終わっている。16年3月定期と同プログラムの東京公演が大成功を収めている。

2017年3月11日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

〈PROGRAM〉
 メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」 Op.26
 シューベルト:交響曲第5番 変ロ長調 D485
 ブラームス:交響曲第1番 ハ短調

メンデルスゾーンの有名な演奏用序曲は2つあるが、2作とも「海」を描いた作品でコンサートでも演奏されている。彼が20歳の時にスコットランドを旅行した時に楽想を得たとされる。「フィンガルの洞窟」と「静かな海と幸福な航海」。
「フィンガルの洞窟」の原題は“The Hebrides”(へブリディーズ諸島)。ひどい船酔いのせいか、作曲家自身による洞窟の記述はないとされるが、改訂の過程で出版者がスタッフ島の景勝「フィンガルの洞窟」(Fingal's cave)というタイトルとなったようである。
穏やかな海の様子がゆったりとした動きで美しく描かれるが、旅の不安も繰り返し出現する。絵画的表現とともに美しい音楽に浸れた。親しみやすい名曲である。

シューベルトの8つの交響曲のうち、「第7番 未完成」と「第8番 ザ・グレイト」は演奏機会も多くて最も親しまれている。この2曲以外はコンサートで聴く機会が殆ど無い。ムーテイ指揮ウィーン・フィルのシューベルト交響曲全集も輸入盤で全曲持っているが、数回耳にして聞き流す程度では曲の良さは分らないままである。
コンサートで聴くのは初めてのような気がする。ウイーン生まれのシューベルトがハイドンやベートーヴェンの流れの中で作り上げたウィーン風の曲の感じで、特に美しい優しい音楽が紡がれた。こじんまりとしているが、エリシュカが丁寧にメリハリを付けて曲をまとめた。彼はやはり巨匠といえる大指揮者として、どんな作曲家の曲でも聴かせる術を手にしていると思った。生で聴くと生き生きした音楽となる。「第5番」はこんなに良い曲なのだと印象付けられた。

ブラームスの交響曲は今では4曲ともに気に入っているが、昔はLPで親しんだせいで「第1番」が大のお気に入りであった。第4楽章の旋律は何とも言えなくて、そのメロディを耳にすると自然と心が浮き立って来る。
ブラームスが21年の長きにわたって練り上げて完成した「第1番」。ウィーン古典派のスタンダードを継承して書き上げた英雄的で堂々たる音楽。
1月21日、ベルリン・フィル・デジタル・コンサートホールでブロムシュテット指揮による「ブラームス:交響曲第1番」を堪能した余韻が今も脳裏にある。演奏終了後の15分ほどのインタビューでメロディを口ずさみながら話すブロムシュテットの姿が焼き付いたのと、本日の休憩後の開演直前に寒気を感じてくしゃみが出そうになったことが重なって、曲への集中力を聊か欠いてしまったのが残念ではあった。

重厚で力強く、緊張感あふれる第1楽章、静けさに満ちた第2楽章、詩的で牧歌的な第3楽章、第4楽章は暗い序奏で始まるが、暗さを一掃するホルンの安らぎに満ちた吹奏が極めて印象的。讃美歌のようで国家を統一するようなメロディはベートーヴェンの第9交響曲の“歓喜の主題”に似ているといわれる所以。(*ベートーヴェンの第10交響曲と呼ばれる理由にもなっている。)山田圭祐が吹くホルンは秀逸! トロンボーンが最終楽章で活躍するが、木管・金管の響きがティンパニ、弦楽器とのハーモニーと合わさって壮大な音楽を作り上げた。
まもなく86歳を迎えるエリシュカが生気溢れるタクトでオーケストラからまるで魔術師のように生き生きとした音楽を作り出し、オーディエンスをカリスマ性で包み込む姿は感動的である。

※2016年1月ー12月の定期演奏会の会員アンケートの集計結果が発表になった。第1位が10月定期(エリシュカ指揮、チャイコフスキー第5番 ほか)、第2位が3月定期(エリシュカ指揮、チャイコフスキー第4番 ほか)、第3位が9月定期(ポンマー指揮、モーツァルトのレクイエム ほか)。「音楽の友」誌でも外国からの来日指揮者のリストに名が入るエリシュカとポンマーの2人は札響が誇るべき世界的指揮者と言えるようである。

※「音楽の友」の2009年コンサート・ベストテンで36人の音楽評論家と音楽記者のうち3人がエリシュカ指揮による九響、N響、札響の演奏「わが祖国」を選んでいる。1人は10月31日、札響名曲シリーズ「わが祖国」をベストワンに選んだ。36人が札幌や福岡で鑑賞する可能性は低いにも拘わらずに選出されている重みは大といえる。

※来週火曜日、3月14日の東京公演が東京芸術劇場コンサートホールで今回の札響定期と同じプログラムで行われる予定である。東京のエリシュカ・ファンと札響ファンの期待に応える成果を願う。

福間洸太朗のマイアミ国際音楽祭での演奏

数日前に「Twitter のハイライト」ということで私のメールに福間洸太朗(KOTARO FUKUMA)が2017年2月19日に米国フロリダ州マイアミ音楽祭に参加した時の様子がyoutubeで流され、福間のtwitterが届けられた。3月1日に電波にのり拡散し始めているようだ。「ショパン:バラード第1番」を早速聴いてみた。

福間は1982年、東京生まれ。都立武蔵高校卒業後、01年パリ国立高等音楽院に学んでディプロマ取得後、ベルリン大学・同大学院でも学んだ。14歳でジーナ・バッカウアー国際コンクールに入賞するなど、1998年にはPTNAを含む4つの国内コンクールで優勝。2003年クリーヴランド国際ピアノコンクールで日本人初優勝の快挙が注目を集めた。ベルリン在住で国際的に活躍している将来を嘱望される中堅ピアニスト。
今から5・6年前にシューマンのピアノ曲や室内楽曲を中心にCDをかなり買い求めた。その内の一枚が2004年カナダで録音された〈期待の新進演奏家シリーズ/福間洸太朗(ピアノ)〉。NAXOSのシューマン。収録曲が「アベック変奏曲」、「8つのノヴェレッテ」、「3つの幻想的小曲」。力任せに弾かない演奏でシューマンの魅力的なロマンティシズムに溢れた調べを時たま耳にする。

札幌で一度は聴きたいピアニストが何人かいるが、福間はその一人である。丁度よい機会だと思って聴いて観た「バラード1番」の後に「スメタナ(福間編):モルダウ」、「ショパン:英雄ポロネーズ」、「グリーグ:5つの抒情小品」。40分程度の演奏に対するマイアミの聴衆の熱狂的な反応もあって盛り上がった満足のいくコンサート。好感度の良いピアニストだと思っていたが、堂々たる演奏に日本を代表する若手の一人としてアメリカでの知名度も高いようであった。予定せずに急に耳にしたが、ホールの迫力が伝わって来る聴き方ができて予想外の収穫を得て嬉しい気持ちになった。

毎年、札幌で聴いているピアニストは小山実稚恵、外山啓介、及川浩治、近藤嘉宏である。札響との共演などで聴いてはいるが、小菅優、田村響、北村朋幹などの若手のリサイタルは是非聴きたい。金子三勇士、萩原麻未などはなかなか聴く機会が無くて残念である。今一番楽しみにしているのが反田恭介のリサイタル。8月3日の札幌公演が待ち遠しい。

川畠成道ヴァイオリン・リサイタル2017

川畠成道が毎年この時期にKitaraでリサイタルを開催するのが恒例になった。3月は聴きたいコンサートが少なくて毎年4回ほどである。川畠のリサイタルを初めて聴いたのが2001年、14年からは4年連続で今回が7度目であった。小ホールで5000円のチケット料金は少し高めだが、公演の利益の一部分を社会福祉法人に寄付するチャリティ・コンサートとなっているので、ここ数年は毎年聴きに来ている。

2017年3月2日(木) 18:30開演  札幌コンサートホール小ホール

〈Program〉
 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 Op.100
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004
 メンデルスゾーン:歌の翼に 作品34-2
 ブラームス:ハンガリー舞曲 第1番
 ファリャ:スペイン舞曲 第1番 オペラ“はかなき人生”より
 バルトーク(セイケイ編):ルーマニア民族舞曲
 グノー:アヴェ・マリア
 モンティ:チャルダッシュ
 
ブラームスは中学校の音楽の教科書に出てきた厳めしい顔の写真の影響もあってか、クラシック音楽に夢中になってからも彼の作品に親しんだのはヴァイオリン協奏曲だけであった。今では4曲の交響曲や2曲のピアノ協奏曲を含め、彼の重厚な曲が気に入っている。3曲しか書いていないヴァイオリン・ソナタも全て聴きごたえがある。
「第2番」も全体的に抒情的で美しい旋律に溢れている。とてもメロディアスな曲で聴いていて心地が良かった。

バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータはギドン・クレーメルとヒラリー・ハーンの演奏で親しんでいる。演奏者によって曲の長さが違うが「シャコンヌ」は5分の差があるのに改めて気づいた。ドイツ、フランス、スペイン、イギリスの様々な舞曲で構成された4楽章のあとの終楽章として長大な舞曲「シャコンヌ」が続いた。少し短めで全体が25分の演奏。冗長に陥らないで、聴き手に踊り子の姿を想像させる弾き方の工夫を凝らしたようである。他のヴァイオリニストとは違う川畠の特徴が出た演奏だったように思う。
第5楽章の“Chaconne”はピアノ曲に編曲され、ピアノ・リサイタルで特にブゾーニ編を弾くピアニストが最近は多い。

川畠は前半のプログラムに毎年ヴァイオリン・ソナタを入れて、後半はヴァイオリンの小品を組んでいる。
後半1曲目は彼のデビューの折に取り上げた作曲家メンデルスゾーンの作品の中から選ばれた曲。「歌の翼に」はハイネの詩に基づく歌曲が原曲で、彼の歌曲の中で最も有名な作品。格調のある整ったメロディで様々な楽器に編曲されて親しまれている。ピアノ曲として聴く機会が多い。この曲は川畠自身にとってデビュー間もない頃に抱いた将来の期待と不安の心情を思い出すものになっているようである。

続く3曲は舞曲。マイクを使って3つの舞曲の説明があった。舞曲と言っても、曲に合わせて踊るのは難しく、バッハの曲と同じように器楽曲として作曲された。

「ハンガリー舞曲第1番」はピアノ連弾用として書かれ、のちにピアノ独奏、管弦楽用に編曲された。ヴァイオリン曲はヨアヒムが編曲し、ピアノとのやり取りが面白い。ハンガリーのジプシー(ロマ)の香り高いダンスで哀愁に満ちたメロディが心に響く。
「スペイン舞曲」はスペイン風のリズムやメロディ、生き生きとした色彩感豊かな明るい曲。
「ルーマニア民族舞曲」は民俗音楽収集家として名高いバルトークが若い時に書いた傑作。「棒踊り」、「腰帯踊り」、「足踏み踊り」、「角笛踊り」、「ルーマニア風ポルカ」、「速い踊り」の短い6つの舞曲が演奏された。今までに数回聴いた程度で、タイトル以外は親しんでいないが面白かった。

グノーの「アヴェ・マリア」は川畠にとって思い入れの強い曲となっていて、以前の演奏会で聴いてブログに書いた。彼が8歳の時にロスアンゼルスで命に係わるスティーヴン・ジョンソン症候群で皮膚障害と視覚障害に陥った時に、マリアンという名の人が献身的に彼の面倒をみた。その後、20年ぶりに訪れたLAでのコンサートで演奏した曲が「アヴェ・マリア」。この曲は彼を支えてくれた多くの人々への感謝の気持ちを込めて演奏する定番になっている。

モンティの曲はこの1曲しか聴いたことがない。しかし、今日では誰もが知っているメロディ。ハンガリーのロマの人々の哀しみを歌った第1部と器楽的な技巧を織り込んだ第2部から成る。ジプシー音楽の代表的な形式チャルダッシュ(Csardas)(*チャールダーシュと表記されることが多いと思うが、外国語を日本語に表記するのは難しい。)が曲のタイトルになっている。演奏者によって様々な即興演奏が可能ということで、川畠成道らしい曲として聴けたのも興味深かった。

2001年から毎年のように北海道で演奏会を開いているが、今回のピアニスト、佐藤勝重は札幌では初共演だと思う。パリ国立高等音楽院、パリ・エコール・ノルマル音楽院の高等演奏家課程を卒業。ソフィア国際ピアノコンクール優勝など、国内外のコンクールで入賞して数多くのコンサートに出演。ソロCD2枚、7枚の室内楽CDをリリースしている新進気鋭の若手ピアニスト。5月には東京で川畠とピアノ三重奏曲、8月には旭川で川畠とのジョイントコンサートが予定されている。

アンコール曲は3曲。①ショパン:ノクターン 第20番 嬰ハ短調  ②ディーニク:ひばり(*昨年のアンコール曲としても披露したが、鳥の鳴き声を変化させて聴かせる技巧の要る速い曲)  ③映画音楽「スマイル」(チャップリンの映画「モダン・タイムズ」より)
(*3年前の映画音楽特集で寺島睦也編で演奏された。)
1曲目のノクターンは毎年定番のアンコール曲と述べて演奏したが、私自身の記録では少なくとも14年以降は初めてでありピアノ作品と同様に心に染み入る演奏で映画「戦場のピアニスト」を思い出した。

川畠成道の視力もすっかり回復して、演奏にもトークにも渋みが出ているのは何より喜ばしい。来年もまた足を運ぼうと思う演奏会となった。
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fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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