METライブビューイング2016-17 第5作 グノー《ロメオとジュリエット》

MET2011-12シーズンで上演された《ファウスト》(カウフマン主演)に次ぐグノー作品。前回は文豪ゲーテの作品のオペラ化。シェクスピア没後400年のシーズン中の本作のMET上演はタイムリーな企画だろう。原作は文学作品としてだけでなく演劇、映画などを通してストーリーを知らない人がいないくらい有名である。“Romeo and Juliet”はコンサートではチャイコフスキーの「幻想序曲」、プロコフィエフの「バレエ音楽」で聴くこともある。オペラ作品として観るのは初めてでないかと思う。メトロポリタン歌劇場(MET)では11年ぶりの新制作上演という。
最高の人気と実力を兼ね備えたディアナ・ダムラウとヴィットリオ・グリゴーロという二人の花形歌手の主演とあって観ることにした。グリゴーロは2年前の《ホフマン物語》で魅力的な演唱を披露した。ダムラウの演唱を聴くのは今回が初めてであった。

バートレット・シャーの新演出による初演は2008年にザルツブルク音楽祭で行われ、スカラ座でも上演済み。日本の劇場と違ってヨーロッパの歌劇場やMETは舞台の奥行きがある。バルコニーを含む三層構造の建物を囲む中庭を中心にした舞台装置で小道具を効果的に使用していた。舞台転換を大々的に行わずに全5幕の出し物を休憩1回を挟んで前後半の2幕ものにした。結果的に歌手たちを中心にしたドラマが展開された印象が強く浮き出た。
18世紀、イタリア・ヴェローナの舞台設定。フランス語上演。

大物二人の共演が何といっても素晴らしかった。最初から最後まで情熱的な演唱。ティーンエイジャーとしての役柄に不自然さを感じさせない堂々たる舞台。若さ溢れるロマンティックな場面から、意志を強く持ち愛を貫く若者の姿を二人ともに見事に演じきった。アリアをはじめ愛の二重唱などでの息のあった歌唱は圧倒的でドラマに迫真性があった。3時間近い上演で声量も衰えない熱演、熱唱の舞台に感動した。

グリゴーロは前回も良かったが今回の方が気に入った。ダムラウはインタヴューで「“椿姫のヴィオレッタ”より“ジュリエット”が好き」と答えて今回の初演を楽しんでいる様子だった。

指揮を行ったノセダは1964年生のイタリアの指揮者。97年マリインスキー劇場管首席客演指揮者、02年英国マンチェスターのBBCフィル首席指揮者、07年トリノ王立劇場音楽監督にも就任。MET、スカラ座、ロイヤル・オペラなど欧米の大劇場でも活躍し、世界のメジャー・オーケストラへの客演も多い世界的な指揮者。N響への出演もあり、テレビ中継でも見たことのある馴染みの顔を久しぶりに見た。

プロローグが管弦楽による激しい嵐を思わせる序奏で始まり、キャプレット家とモンターギュー家の憎しみを連想させた。合唱が悲劇のあらましを説明したのも興味深かった。オーケストラは毎回そうだが、ノセダが歌手たちを引き立てる役目に徹していた。オペラのフィナーレが原作と違っていた。最後に二人で会話をしながら、“神様、私たちをお許しください”と言って一緒に息絶えたシーンはとても印象的な場面となった。



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新進演奏家育成プロジェクト オーケストラ・シリーズ 第36回札幌

文化庁・日本演奏家連盟・札幌交響楽団が主催するプロジェクトとして昨年になって初めて知ったオーケストラ・シリーズ。平成28年度オーディションで選ばれた5名の新人演奏家が札響と協演するコンサート。時間があれば瑞々しい若者の演奏を耳にするのも楽しい。
円光寺雅彦は45歳ごろの98ー02年に札響正指揮者を務めて若手の指揮者として活躍してKitaraで聴く機会も比較的多かった。国内オーケストラへの客演も多く、現在は名古屋フィル正指揮者、桐朋学園大学院大学特別招聘教授。彼の指揮ぶりを見るのは今回が8回目。

2017年2月16日(木) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ 円光寺 雅彦    管弦楽/ 札幌交響楽団

【1部】
 田中 望末(ピアノ)
   メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲第1番 ト短調 作品25
 吉田 真樹子(ソプラノ)
   ビゼー:歌劇「カルメン」より “ミカエラのアリア”、“不安にさせるものなどない”
 三輪 主恭(バリトン)
   ベッリーニ:歌劇「清教徒」より “あぁ! 永遠に私はあなたを失ってしまった”
   ヴェルディ:歌劇「ドン・カルロ」より “私の最後の日”
【2部】
 佐藤 友美(フルート)
   ライネッケ:フルート協奏曲 ニ長調 作品283
 島方 瞭(ヴァイオリン)
   ドヴォルジャーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品53

昨年に続いて2回目の『新進演奏家育成プロジェクト オーケストラ・シリーズ』を聴いたが、さすが厳しいオーディションに合格して選ばれた演奏家だけあって満足度の高いコンサート。プロを目指す若者のレヴェルの高さと音楽の広がりを感じた。今までのシリーズで2人の札響楽団員が出演していることからもレヴェルの高さが推し量れる。
公演冊子によると、札幌のオーディション参加者は30名(ピアノ10名、声楽6名、弦楽器4名、管打楽器10名)。

声楽の2名は学業を終えて、プロとして音楽活動を展開しているようである。歌手活動を続けるには声を磨くだけでなく、演唱に耐えれる体力も必要らしい。海外のオペラ歌手の容姿を見慣れるとスタイルにこだわっていられない気がする。
三輪はステージ・マナーを含めて堂々たる歌声で聴衆を魅了した。将来を嘱望されるバリトン歌手への成長が大いに期待される。吉田の歌も良かったが、オペラの主役のアリアを歌ってくれた方が聴衆の心に響くのかなと感じた。

「ライネッケ:フルート協奏曲」は昨年のコンサートで一度耳にしたこともあって、聴きやすかった。プロと同レヴェルの熱演で相当な実力の持ち主。フルートという楽器の魅力が伝わった。

メンデルスゾーンとドヴォルジャークの協奏曲は久しぶりで耳にする。最近の演奏会でも耳にすることもなく、自宅でCDを聴くことも暫くなかった。それだけに新鮮な気持ちで聴けた。
コンサートの最初に登場した田中は溌溂とした演奏で切れ目なく続く楽章を力強く引き切った。メンデルスゾーンは多方面にわたって才能を発揮したが、ピアノ曲では他の作曲家のような特徴が読み取れない。単純で爽やかで、整然としたスタイルで書かれているように思った。ピアノ協奏曲としてもっと変化に富んだ曲の方が味わいがある。技量は示せる曲ではあるが、聴く者の心に響く曲として少々物足りないものを感じた。

コンサートの取りを務めた島方はドヴォルジャークが残した唯一のヴァイオリン協奏曲を熱演した。正に満を持して披露した演奏は圧巻であった。メロディメーカーとして秀でたドヴォルジャークの美しい旋律、ボヘミアの民俗音楽に満ちたスラヴの音楽的魅力が満喫できる曲。演奏終了後にはブラヴォーの声も上がった。ホルンの響きとともに演奏する場面が何度かあって特別な感慨もあった。(*父と子の共演かなと類推したが確かではない。)
桐朋学園大学1年在学中で今後の活躍が楽しみである。

5人の演奏家にはオーケストラをバックに演奏した喜びを大切にして今後の一層の精進を期待したい。

※メンデルスゾーンのピアノ協奏曲には思い出がある。2002年5月にぺライアがアカデミー室内管を率いて来札した折に、演奏会終了後のサイン会が小ホールのエントランスの廊下で行われた。(*大ホールのホワイエが10時には閉められるのでサイン会の会場が移された。) その時に「バッハ:ピアノ協奏曲第1・2・4番」と「メンデルゾーン:ピアノ協奏曲第1・2番」の2枚のCDを購入し、丁寧に書かれたフルネームのサインをもらって嬉しい対応があったのが今でも忘れられない。その感激を5年前のブログに書いた。

※ドヴォルジャークのヴァイオリン協奏曲のCDはブダペスト祝祭管弦楽団が諏訪内晶子とKitaraで演奏会を開いた2000年5月に買い求めた。イヴァン・フィッシャーとゾルタン・コチシュが設立したオーケストラ。コンサートで諏訪内のCDを買ったが、サインはフィッシャーのものだった。(:*最近のブログではコチシュとハンガリーに関しての記述が偶々続いている。)

記憶をたどって昔のプログラムを読み返すのも楽しみになっている。暇な時間があるからできることなのだろう。

リスト音楽院教授陣(M・ペレーニ他)による第20回記念ガラコンサート

〈第20回リスト音楽院セミナー〉
札幌コンサートホールが1997年の開館以来、毎年開催しているリスト音楽院セミナーが20周年を迎えた。セミナーの折に、これまでピアノやチェロの教授のデュオやリサイタルが開かれてきた。セミナーのボランティアとして7・8年前に教授陣や受講生のための受付として2回ほど活動したこともあり、彼らのリサイタルも何回か聴いたことがある。
昨年はミクローシュ・ペレーニのチェロ・リサイタルを久しぶりに聴く予定が体調不良で断念せざるを得ず残念至極であった。昨年2月は7回予定のコンサート鑑賞が2回だけに終わった。今年は慎重を期して15日と16日の2回のコンサートのチケットは数日前に購入した。

2017年2月15日(水) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

ピアノ/ シャーンドル・ファルヴァイ、 イシュトヴァーン・ラントシュ
チェロ/ ミクローシュ・ペレーニ、   ハープ/ アンドレア・ヴィーグ

二人のピアニストは各々リスト音楽院に学び、ラントシュは94-97年、ファルヴァイは97-2004年にわたってリスト音楽院学長を務めた。彼らは演奏活動と教育活動の両面で活躍し、コンクールの審査員も務めている。ヴィーグは13年11月よりリスト音楽院学長に就任している。
ペレーニは今や世界のトップ・チェリストとして知られ、近年は毎年のように東京でリサイタルを開催している。80年よりリスト音楽院教授。07、09、11年に続いて6年ぶりに彼の演奏を聴いた。

〈Program〉
 J.S.バッハ(コダーイ編曲):前奏曲とフーガ ニ短調 BWV539 (チェロ、ピアノ)
 シューベルト:即興曲 変ロ長調 作品142-3
         即興曲 変ホ長調 作品90-2 (ピアノ・ソロ)
 ワルター=キューネ:チャイコフスキーの歌劇「エフゲニー・オネーギン」
                       の主題による幻想曲(ハープ・ソロ)
 コダーイ:ハンガリーのロンド(チェロ、ピアノ)
 ドビュッシー:前奏曲集 第2集より 5曲(ピアノ・ソロ)
 ブルッフ:コル・ニドライ 作品47(チェロ、ハープ)
 パガニーニ:ロッシーニの歌劇「エジプトのモーゼ」の主題による変奏曲(チェロ、ハープ)
 ドビュッシー:小組曲 (ピアノ連弾)

バルトークとともにハンガリーの大作曲家コダーイはチェロの名手でもあり、バッハのオルガン曲をチェロとピアノのためにいくつか編曲している。ペレーニ&コチシュ(*昨年11月逝去)が編曲版をCD録音しているそうである。オルガン曲もチェロが入ると趣が変わって違った聴き方ができる。

シューベルトの「4つの即興曲 作品90と作品142」は親しみやすい曲。ハンガリーのピアノの巨匠シフのCDで聴き続けて、シューベルトのピアノ曲の中では“気に入りの曲”になっている。近年は演奏会で聴く機会も多くなった。ピアノの鍵盤を動き回る運指にも見入った。

「エフゲニー・オネーギン」はオペラ以外にオーケストラで一部分を聴くことがあったが、ハープによる演奏は珍しかった。ハープの持つ美しさや華やかさが際立った音楽を楽しめた。

ハンガリー民謡を収集してハンガリーの国民音楽をバルトークとともに作り上げたコダーイは今年は没後50年となる。「ハンガリーのロンド」は原曲の管弦楽のための作品をペレーニがチェロとピアノのために編曲して2017年に出版されるそうである。世界に先駆けて日本での初演だったのかも知れない。

ドビュッシーの前奏曲集は1・2集各12曲で全24曲構成。誰もが耳にして親しまれている「亜麻色の髪の乙女」は特別で、他の曲は何度聴いてもタイトルは全く浮かんでこない。タイトルなしで先入観を持たずに聴いたほうが良い聴き方かもしれないと思うようになった。ドビュッシー独特の色彩感に富んだ豊かな音色を想像力を働かせて聴いてみた。自然の風景の中に人間の孤独が描かれていたり、スペインや東洋の異国情緒が漂う調べとともに人の味わう感情が表現されているように思った。

「コル・ニドライ」は一度コンサートでチェロ曲として聴いたことがあるような気がする。ヘブライ語で「神の日」を意味するタイトルだそうだが、曲は重々しくなく明るい美しい旋律を持った作品で、チェロの人気作品のようである。チェロとハープの二重奏で演奏された。

日本語のタイトルがいろいろあって同一曲で何度か耳にしているのだが、違う曲かと勘違いすることがある。コンサートでは1・2度聴いたくらいである。手元にあるCDはシュタルケルとフルニエの両巨匠のチェロ小品集で「パガニーニ:モーゼ幻想曲」、「パガニーニ:ロッシーニの《モーゼ》の主題による変奏曲」となっている。タイトル名は違うが同一の曲で魅力的な作品。
ロッシーニの歌劇《エジプトのモーゼ》の中の旋律を主題として用いた変奏曲をヴァイオリン曲としてパガニーニが書いた。原曲はヴァイオリンのG線のみで演奏される作品。ピエール・フルニエがチェロ曲に編曲してチェロのレパートリーとなっている。
チェロとハープの二重奏で演奏され名演となった。客席を埋めた聴衆の感動を呼び起こした。

最後のプログラムはピアノ連弾。ピアノ2台が並列して、譜めくりストも2人。2階ほぼ中央から見る興味深い連弾だった。連弾曲は鑑賞しやすい単純明解な曲。〈小組曲〉は全4曲で各曲3部形式で、ドビュッシーの若いころの作品。「小舟にて」、「行列」、「メヌエット」、「バレエ」。前奏曲集など他のピアノ曲とは明らかに違う作品だが、若さが横溢して美しい曲が綴られた。今まであまり聴いたことの無い曲を味わった。

第一線で活躍する音楽家4人がステージに登場したガラコ・ンサートは素晴らしかった。補助席まで用意された大盛況に教授陣にも聴衆の満足度が伝わったのか、アンコール曲が2曲も披露された。
小型オルガンも用意され、ピアノ、チェロ、ハープの4つの楽器による演奏は極めて印象深いものとなった。
アンコール曲は①J.S.バッハ(コダーイ編):前奏曲とフーガ ニ短調 BWX853 ②リスト:悲歌 第1番。

11日のウィンター・オルガンコンサートが“ハンガーリの贈りもの”となったが、第20回記念ガラ・コンサートと合わせてリスト音楽院教授が5人も登場する画期的なイヴェントになった。ハンガリー・オーストリア帝国として一時代を築いた歴史のある国の文化が今日も息づいているのは感慨深い。19日まで続くリスト音楽院セミナーの成功を期待する。

※2000年8月のイタリア・ギリシャ観光を思い出した。当時はイタリアからギリシャに何故か直行できずにローマのレオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港からハンガリーのブダペスト国際空港に立ち寄ったことがいまだに記憶として残っている。ブタペスト空港内の土産店で買い求めたハンガリーの小物の民芸品が今も飾り戸棚に入っている。空港でフロリダのNaples(ナポリ)から来た高校生と空港内で待ち時間に話し合った思い出も今思えば懐かしい。(*アメリカにはヨーロッパの都市名と同じ地名が数多くある。フロリダにはヴェニスという地名もある。) 過去を思い出して懐かしさにふける日々が多くなった。



 

オルガン・ウィンターコンサート 2017 ~ハンガリーからの贈りもの~

毎年恒例のKitara主催のオルガン・ウィンターコンサート。さっぽろ雪まつりの期間中に開催されている。数年前からは地下鉄中島公園駅とKitaraを結ぶ道がスノーキャンドルで灯される「ゆきあかり街道」となっている。オルガンを楽しんだ後はロマンティックな雰囲気を味わえる通りとなる。このコンサートは毎年のように聴いているが、昨年は脊柱管狭窄症による歩行困難でチケットを無駄にした。
今年は2000年9月から1年間、第3代札幌コンサートホール専属オルガニストを務めたハンガリー出身のファッサン・ラスロがリサイタルを行った。彼が出演したコンサートは03年に2回、04、08年に続いて今回が5度目だと思う。
昨日までにチケットは完売していて当日券はなし。広いエントランス・ホールは入場を待つ人々で長蛇の列をなしていた。

2017年2月11日(土) 15:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

〈Program〉
J.S.バッハ:トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV564
モーツァルト(サットマリー編):教会ソナタ第17番 ハ長調 K.336
メンデルスゾーン:オルガン・ソナタ ハ短調 作品65-2
ワーグナー(リスト編):歌劇《タンホイザー》より 「巡礼の合唱」
リスト(ファッサン編):チャールダーシュ・オプティスネ
バルトーク(ファッサン編):15のハンガリー農民の歌より 「古い舞曲」
アンタルフィー=ジロシュ:黒人霊歌によるスケッチ
ファッサン:「雪の降るまちを」による即興演奏

Fassangは1973年、ブタペスト生まれ。98年にリスト音楽院を卒業後、パリ高等音楽院に学ぶ。2000年から1年間の滞日のあと、数々のコンクールの受賞歴を誇る。02年カルガリ国際オルガンコンクールの即興部門で優勝、04年シャルトル国際コンクール優勝。リスト音楽院教授としての活動とともに国際コンクールの審査やコンサートで国際的に活動している。14年よりパリ国立高等音楽院でも教鞭を執る。

500円で休憩なし1時間の昼間のコンサートは家族連れや若者が目立った。雪まつりで来札した観光客と思われる人々の姿もあった。ワンコインで気軽に楽しめるオルガン・コンサートのチケットが完売になることは偶々ある。本日のプログラムも興味をそそるものではあった。巧みなプログラミングで変化に富む曲が用意されたいた。

前半3曲は3人の作曲家によるソナタ作品。
バッハが書いた250曲ほどのオルガン曲のうちで、「BWV565」は歴代の専属オルガニストが就任時の最初のコンサートで演奏する曲で毎年耳にする最も有名な曲。本日の演奏曲「BWV564」はイタリア協奏曲様式の影響を受けて書かれた3楽章構成の作品で、コンサートでも度々演奏されて親しまれている。
今日は2階中央席が満席で、オルガニストの手と足が見える2階RA席に座った。「トッカータ」が先ず手鍵盤の演奏で始まり、直ぐ足鍵盤による演奏がかなり長く続いた。力強い超絶技巧の演奏を興味深く観察できてラッキーだと感じた。「アダージョ」では抒情的な旋律が歌われ、続いて躍動的な「フーガ」でフィナーレ。約15分の曲中、第2曲のあとで拍手が起こったが止むを得ない。

モーツァルトは教会ソナタ」というジャンルの作品を何曲か書いているという。本日の作品は弦楽器とオルガンで演奏されるものを、ハンガリーのオルガニストがオルガン独奏曲に編曲したそうである。
続いて、バッハの作品の再評価に貢献したメンデルゾーンがバッハに敬意を表して書いたオルガン曲。ファッサン・ラスロの解説によると、最終楽章のフーガはバッハの作品に似て、小さな流れで始まった川がやがて大海に到達するかのように構成されている。

後半はハンガリー出身の偉大なピアニスト・作曲家リストとバルトークの作品を中心に構成。

「タンホイザー」はワーグナーのオーケストラ作品で親しまれている。リストがピアノ曲用に編曲した「巡礼の合唱」をオルガン曲として聴くのは今回が2回目であるが、力強い曲が柔らかい音で始まり、最後には音が消えていくような瞬間を聴き入った。

「チャールダーシュ」はハンガリーの民俗舞曲として知られ、モンティのヴァイオリン曲が有名である。“固執したチャールダーシュ”の意味をもつ「チャールダーシュ・オプスティネ」はモチーフが何度も繰り返される。昨年11月に他界したハンガリーが生んだ偉大なピアニストで指揮者としても活躍したゾルタン・コチシュのピアノ演奏をファッサンは子どもの頃にLPレコードで熱心に聴いていたという。コチシュを偲んでオルガニスト自身の編曲で演奏された。

バルトークはハンガリーの偉大な作曲家で、ハンガリー人はバルトークの民俗音楽なして育っているとは考えられないほどである。彼の管弦楽作品や弦楽四重奏曲がKitaraでは演奏される機会は多い。民俗楽器で演奏される農民の歌に親しむ環境で育ったファッサンがピアン作品をオルガン曲に編曲してハンガリーの民俗音楽文化を広げる意欲を感じた。

※Kitara3代目専属オルガニストはラスロと記憶していた。ファッサンと言う名はハッキリ記憶していなかった。やっと気づいて思い出した。ハンガリーでは日本と同じように名前は姓が先で名が後にくる。バルトーク・べーラがハンガリーでの名前。欧米式の影響でベーラ・バルトークと日本語で書かれていることもある。

アンタルフィー=ジロシュは初めて耳にする名。バルトークと同時期にリスト音楽院で学び、オルガンのヴィルトゥオーゾで即興演奏家・作曲家として活躍したという。リスト音楽院教授、ハンガリーの大聖堂のオルガニストを務めた後にアメリカに移住。
黒人霊歌とジャズ風の曲を聴きながらアメリカ人の作曲のように思えて非常に聴きやすい曲になっていた。後で解説を読んで成程と思った。ファッサンはリスト音楽院オルガン教授の前任者のひとりとして彼を偲んで演奏した。
この種のオルガン演奏は世代を超えて人々の心に染み入る音楽として聴けてとても新鮮だった。

※ハンガリーで育ち、アメリカに移住して世界的な指揮者として活躍したジョージ・セル、ユージン・オーマンデイ、ゲオルグ・ショルティ、フリッツ・ライナーなど偉大な指揮者の名が浮かんでハンガリーの音楽界が一時代を築いたことに思いを致した。

最後の曲はファッサン得意の即興演奏。彼がKitaraで収録したオルガンCD「バッハ&リスト オルガン名曲選」にも即興演奏も含まれていた。また、その後のKitara出演時にも即興演奏を行っていた。日本で愛唱される「雪の降るまちを」をテーマに、自由自在にKitaraのオルガンを操って日本らしい情緒溢れるメロディを奏でた。

最初から最後まで暗譜で弾き切った。変化に富んだプログラムで聴衆を惹きつけ、ブラヴォーの声が上がるほどに魅力的な演奏であった。経験を積んでパリ国立高等音楽院でも指導者を務めるほどのオルガニストになっていることが頷ける素晴らしいコンサートであった。

最後にマイクを手にメモ用紙を見ながら日本語で挨拶して拍手を浴びた。アンコール曲は「ジャズ即興演奏」。

多くの人が苦労して作った「ゆきあかり街道」に火が灯っていたが、4時過ぎの時間では周囲が明るすぎて人々が注目するイヴェントにならなかったのは残念であった。まつりを盛り上げる雰囲気が空回りでは企画した人たちの努力が実らず気の毒であった。

METライブビューイング2016-17 第4作 ヴェルディ《ナブッコ》

ヴェルディは26作のオペラを遺した。ヴェルディのオペラは圧倒的に上演回数が多いと思う。《椿姫》、《リゴレット》、《アイーダ》などは海外歌劇場の札幌公演をライヴで見たことがあるが、ほんの数作にしか親しむ機会がない。《ナブッコ》は「序曲」をコンサートで数回聴いたことがあっても、オペラの内容は全く知らなかった。今回はドミンゴが出演するとあって是が非でも観ようと計画していた。
所有しているオペラ全集のCDに《ナブッコ》は「行け、わが思いよ、黄金の翼にのって」の合唱曲のみが収録されていた。今回あらためて耳にしてみた。美しい旋律の曲で、イタリアでは第2の国歌と呼ばれるほど親しまれているようである。

《NABUCCO》 紀元前6世紀のエルサレムとバビロニアの闘いを主題にした物語。全4幕(第1・2幕80分、第3・4幕66分)。上映時間3時間5分(休憩1回)。イタリア語上演。
 
〈ストーリー〉神殿に集まった人々がナブッコが率いるバビロニア軍の来襲におびえている。ナブッコには二人の娘がいる。神官ザッカーリアはナブッコの娘、フェネーナを人質に取ってバビロニア軍を撃退しようとする。フェネーナを愛するエルサレム王の甥イズマエーレは彼女を救い、味方の怒りを買う。フェネーナの姉、アビガイッレはイズマエーレを愛していたが、彼に拒絶されて復讐を誓う。古文書を見つけて自分が奴隷の娘と知ったアビガイッレは復讐心に燃え、王位を狙う。エルサレムを征服したナブッコ王は神を自称して怒れる神の雷に打たれ狂乱する。やがてアビガイッレに王座を奪われてしまう。アビガイッレは妹を死刑にしようとするが正気に戻ったナブッコが助け出し、王の地位を取り戻す。ナブッコはヘブライ人たちを故郷に返し、アビガイッレは改心して毒を飲んで死ぬ。ナブッコは王の中の王と讃えられる。

指揮はジェイムズ・レヴァイン。レヴァインは1973年にメトロポリタン歌劇場の首席指揮者に就任。75年から40年以上も同歌劇場の音楽監督に任にあった。病気のため音楽監督は辞任したが同歌劇場での指揮活動は続けて絶大な人気を誇る。
METビューイングでオーケストラ・ピットをカメラが追う場面は多くないが、今回はレヴァインに焦点を当てたカメラ・ワークが目立った。車椅子用の特別な指揮台が用意されていて、明るく力強い指揮ぶりが何度も映像となった。観客の拍手と声援が一段と大きかったが、レヴァインに対する歌劇場と観衆の評価と人気の高さがうかがえた。病気に打ち勝ち不自由な体を押して指揮にあたるレヴァインへの敬意の表れには好感を持った。

プラシド・ドミンゴは伝説の世界三大テノールとしてオペラ界の黄金時代を築いた。2011年に彼が主演の歌劇《トスカ》(1976)、《カルメン》(1981)、《オテロ》(1983)の映画を特別鑑賞会で楽しめたのは忘れ難い思い出である。
75歳で往年のテナーではなくバリトンで活躍を続けているが、今回は一応テナーだろうか(?)。柔軟な演唱で後半で一層の存在感を発揮していたと思った。立派な舞台装置で何段もの段を上り下りする演技も大変だろうと推し量った。現役で活躍を続ける偉大さへの称賛がオペラハウスに詰めかけた聴衆の喝采にも表れていた。

アビガイッレ役を演じたモナスティルスカは2012-13シーズンに《アイーダ》のタイトルロールでMETデビュー。強靭な声と卓越した劇的な表現力に秀でた現代を代表するドラマティック・ソプラノ歌手。前回1度聴いただけだが強烈な印象を受けていた。ステージでの存在感は新人当時から異彩を放っていた。今回も凄い迫力で圧倒的な演唱だった。

モナスティルスカと同じウクライナ出身のパス歌手でザッカリア役のベロセルスキーは2011年のナブッコでMETデビュー。METヴェルディ上演では欠かせない旧東側の代表。フェネーナとイズマエーレをそれぞれ演じたバートンとトーマスも米国出身のメゾ・ソプラノとテノールの歌い手として将来性のある歌手。(*ザッカリアが歌う“祈りのアリア”が心を打った。)

個々の歌手が素晴らしいのは毎回のことだが、今回は特に合唱曲が心に響いた。第3幕第2場の冒頭で歌われる「行け、わが思いよ、黄金の翼にのって」(*5分程度の合唱曲)は敵に捕らえられたエルサレムの人々が懐かしい故郷をしのび、しみじみと歌う曲。感動した聴衆のアンコールの叫び声に応えて信じがたいことが起こった。レヴァインのタクトで直ちにアンコール曲として繰り返して歌われた。今まで何十本か観てきたオペラで同じ歌が文字通りアンコールされたのは初めて観た。感動的な場面であった。(*この合唱曲が初演された当時はイタリアはオーストリアの支配下にあって、人々はこの歌にイタリア統一の理想を重ね合わせたようである。)

レヴァインとドミンゴは45年にわたる共演でつながりが深いのが印象に残った。

METビューイングを観るようになって5・6年たつが、この2・3年は妻も観るようになった。1作品1週間1日1回の上映で今まで妻と一緒に鑑賞したことがない。お互いに都合の良い日に鑑賞しているのでスケジュールを無理に合わせていない。今日は偶々、結果的に一緒になった。妻は直前に、予めチケットを買っているが、私は当日の朝にチケットを購入して鑑賞する。偶に一緒に鑑賞するのも悪くはない。

札響名曲シリーズ2016-17 Vol.5 さっぽろ(高関健&牛田智大)

森の響フレンドコンサート 《さっぽろ:雪あかりの物語》

今シーズンの名曲シリーズの都市物語は今回が最終回。北海道は真冬の只中。今冬は雪の多さと厳しい寒さに身もこごむ。札幌をはじめ、小樽、旭川、紋別など北海道のあちこちの都市で冬を少しでも楽しく過ごす祭りが行われる。夜は雪あかりが街を彩る。「さっぽろ」と作曲家の繋がりはないが北海道の自然と似た風土を持つ北欧で厳しくも美しい自然の中で一生を過ごして名曲を遺した作曲家の想いに心を通わせた。

2016年2月4日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ 高関 健     ピアノ/牛田 智大    管弦楽/ 札幌交響楽団

高関は2003年から2012年まで札響正指揮者を務めた。現在は東京シティ・フィル常任指揮者、京都市響常任客演指揮者、群馬響名誉指揮者。東京藝大指揮科教授としても後進の指導に当たっているが、前回のKitaraでは新進演奏家育成プロジェクトに出演していた。札響指揮を目にするのは今回が30回目。14年5月札響定期での伊福部昭・生誕100年記念プログラムの印象が鮮烈である。

牛田は4年前のリサイタルが鮮烈な足跡を残した。“可愛いい”という声がコンサートの最初から最後まで耳に飛び込んできた珍しいコンサートだった。14歳の少年が奏でるピアニズムは驚嘆に値した。その頃に私が書いたブログは反響を呼んだようであった。彼はモスクワ音楽院ジュニア・カレッジに現在も在籍中。2014年のウィーン室内管とは「ショパン:ピアノ協奏曲第2番」を演奏した。(*今年の秋、2日連続で当時のヴラダー指揮ウィーン室内管が札響首席奏者とコンチェルトの調べ)。牛田の演奏は精神的にも成熟しているものだった。2015年にはプレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管の日本公演でソリストを務めて絶賛を浴びた。

〈Program〉
 グリーグ:「ベールギュント」第1組曲 作品46
 ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21(ピアノ/牛田智大)
 シベリウス:交響曲第2番 ニ長調 作品43

19世紀にデンマークの支配下にあったノルウエーが独立を求めて自らのアイデンティティーを確立しようとしていた動きがあった。「人形の家」などの戯曲で知られるイプセン(1828-1906)が書いた詩劇「ペール・ギュント」は民族ロマン的主題を自然主義の筆致で綴った。劇付随音楽の委嘱を受けたグリーグ(1843-1903)は30曲ほどの小品を再構成して「第1組曲4曲」と「第2組曲4曲」を作り上げた。音楽は劇の進行と関係がないが、グリーグの管弦楽作品として人気が高い。
第1曲「朝のすがすがしさ」は牧歌的な音楽、第2曲「オーセの死」は悲しみの音楽で弦楽器合奏、第3曲「アニトラの踊り」は東洋的なマズルカ舞曲、第4曲「山の魔王の宮殿にて」はグロテスクで荒々しい音楽。

ショパンが最初に書いたピアノ協奏曲。「第1番」が「第2番」より先に出版されたため、番号に違いがある。ショパン国際コンクールなどでは「第1番」を選んで演奏するピアニストが多い。「第2番」は全体的に淡い詩情性豊かな作品。ショパン初恋の人、コンスタンツィア・グラドコフスカに対する恋慕の情が動機となって書かれたと言われる曲。
牛田は前回のコンサートの折に“「第1番」より感情移入しやすく、自分の原点と言える曲”と述べていた。東日本大震災の折に祖父母のことを思って「第2番」を弾き始めたというから、彼にとって思い入れのある協奏曲なのだろう。
今日は最初の第1音から音色が生き生きとして心が動かされる響き。ほぼ満員の聴衆が息をのんで聴き入る35分間を圧倒的な魅力あふれるピアニズムで綴った。彼は常に楽しそうに情感豊かに音を紡ぐ。いくら音楽的に成熟しているとは言え、前回までは幼い感じが拭えなかったが、今回はまことに堂々たる演奏に感服した。
2015年のショパン国際コンクールでチョ・ソンジンと優勝を競ったシャルル・リシャール=アムランが昨年1月の入賞者ガラ・コンサートでも「第2番」を弾いて聴衆を魅了したが、彼は牛田より10歳年上。それぞれの音楽性に違いがあるといっても、16歳の若者は素人にも分かる音楽性の豊かさには称賛の言葉が見つからない。
演奏終了後のホールを包んだ独特の空気感は前例がないほどのものであった。期待感はあってもこれほど凄いとは、改めて音楽の素晴らしさを味わった人も多かったのではないだろうか。度肝を抜かれた聴衆のアンコールの声に応えての曲は「ショパン:幻想即興曲」。聴きなれたメロディが聴く者の心奥深くに美しく響いた。

シベリウス(1865-1957)の曲は北海道の冬に良く似合う。「交響曲第2番」は彼の交響曲全7曲の中でも最も有名で人気がある。生誕150年の折には尾高名誉音楽監督による交響曲チクルスも行われ、他の曲にも親しむ機会もあった。それでも「第2番」が演奏されると一層親しみを覚える。訪れたことはない国ではあるが、フィンランドの自然を身近に感じる機会ともなる。何度聴いてもこの曲の良さが伝わる。フィナーレのトランペット、トロンボーン、ホルンなどのブラス・セクションの豪快な響きを肌で感じた。

高関のタクトは丁寧で安定感がある。定期演奏会とは少々違う雰囲気の名曲コンサートをいつもと違う座席から鑑賞したが、個人的には同じ座席ばかりからの鑑賞は好みではないので、変化があって良かった。
アンコール曲は〈シベリウス:組曲「恋人」より 第1曲「恋人」〉(弦楽オーケストラと打楽器)。


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Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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