チェコ・フィル・ストリング・カルテット2017

昨年に続いてのチェコ・フィル弦楽四重奏団のコンサート。
クラシックの名曲をちりばめた珠玉の名曲集コンサート Vol.3

前回のリーダーだったチェコ・フィル・コンサートマスターに代わって、今回はチェコ・フィル・第2アシスタント・コンサートマスターを務めるマグダレーナ・マシュラニョヴァーが第1ヴァイオリンを担当した。他の3人のメンバーは前回と同じ。

出演/ マグダレーナ・マシュラニョヴァー(Vn)、 ミラン・ヴァヴジーネク(Vn)
    ヤン・シモン(Va)、ヨゼフ・シュパチェク(Vc)
〈PROGRAM〉
 モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジ―ク 第1楽章、  バッハ:G線上のアリア、
 バッヘルベル:カノン、 ハイドン:セレナード、  シューマン:トロイメライ、
 レスピーギ:シシリアーナ、  マスカーニ:カヴァレリア・ルスティカーナ~間奏曲、
 クライスラー:愛の喜び、  チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ、
 ハチャトゥリアン:剣の舞、  シュトラウス2世:美しく青きドナウ、 エルガー:愛の挨拶、
 リスト:ラ・カンパネラ、  サン=サーンス:白鳥、  ショパン:ノクターン第2番、
 モンティ:チャールダーシュ、 ビートルズ:イエスタデイ、 グレン・ミラー:ムーンライト・セレナーデ、
 ピアソラ:リベルタンゴ、  エリントン:A列車で行こう

弦楽四重奏団演奏会はKitaraでは近年、本格的な弦楽四重奏曲を中心にして小ホール(定員453名)が使用されている。チェコ・フィルのメンバーは多種多様な室内楽を組織しているが、チェコ・フィル・ストリング・カルテットは1992年結成以来、クラシック音楽のみならずポピュラー音楽の人気作品までレパートリーに取り込んでいる。初来日は2007年。札幌は2014年初来札後3回目の公演。最初の札幌公演が人気が高くて北海道公演も今回は釧路でも開催される。聴きなれた名曲ばかりで今回も大勢の客で賑わった。

リーダーが女性の第1ヴァイオリニストで、きれいな日本語で挨拶をしながら時折英語で話し、団員も自己紹介しながら和やかにコンサートが進められた。前回のリーダーほど多弁でなかったが、適度な言葉をはさみながら前回同様の進行状況であった。みなさん日本食が好きで、料理名を上げるたびに会場が湧いた。リーダーは“私はお酒が好きです”と言ったが、たぶんビールだと思った。(*チェコは国民一人当たりのビールの消費量は世界一である。)

前回と同じく前半10曲、後半10曲。原曲が弦楽四重奏曲や弦楽合奏曲のもあったが大部分は原曲をストリング・カルテット用に編曲しての曲。人々の耳に親しんだ名曲ばかりで、いちいち曲の言及は避ける。曲にまつわる知らなかったことなどを書き留めて置く。

「3声のカノンとジーグ」のカノンの部分のみが「バッヘルベルのカノン」として有名になった。カノンとは、主題(第1声部)が奏でる旋律を他声部が間隔を置いて正確に模倣する形式のことだと知った。

ハイドンの弦楽四重奏曲第17番第2楽章アンダンテ・カンタービレは「ハイドンのセレナード」として長く親しまれてきたが、後の研究により、同時代のホフシュテッターの作と判明した。

イタリアのシシリア島の舞曲「シシリアーナ」は数多くの作曲家が同名の曲を書いている。レスピーギの曲は知らないと思っていたら、この曲は彼の「リュートのための古風な舞曲とアリア(全4組曲)」の中の第3組曲の第3曲と判明。小澤征爾指揮ボストン響のCDもあってKitaraのコンサートでもかなり以前に聴いたことがあった。

原曲がヴァイオリン曲や管弦楽曲は聴きやすいが、「白鳥」はチェロで聴くことが多くて、この曲ではチェロのパートが目立った。
全体としては主旋律は第1ヴァイオリンが歌うことが多い。そんなことでヴァイオリンの原曲では違和感は全然なかった。
ショパンのノクターンはやはりピアノでないと曲の味わいが半減すると感じた。

最後のポピュラー音楽4曲の中で「イエスタデイ」には陶酔するほどの感銘を受けた。50年前に一世を風靡した音楽が名曲として一層の味わい深い曲として聴けた。クラシック音楽と言っても何の違和感もないと思った。
1965年のアルバム「HELP!}に収録されたポール・マッカートニーがギターとヴォーカルを担当、弦楽四重奏を伴奏に使ったという。
(*他のメンバーは録音に参加。していない。)

アンコール曲は①ロッシーニ:「ウイリアム・テル」序曲、 ②ニーノ・ロータ:ロメオとジュリエット。
2曲で終わりかと思ったら、メンバーがリーダーの肩を抑えて引き留めてもう1曲。これも演出で、マグダレーナは“皆さん、お楽しみいただけましたでしょうか。最後に、皆さんよくご存じの曲を演奏します”と日本語で説明したのも見事。CDの宣伝もしていた。日本語は難しいと言いながらも巧みな日本語を使って日本人の好感度は大であった。
③シュトラウス1世:ラデツキー行進曲。
チェロ奏者が笛を吹き、聴衆の手拍子も入って楽しい雰囲気のうちに終了。帰りのホワイエではサイン会に並ぶ人たちも結構いた。

8時半ごろに演奏会が終わったので、3ヶ月ぶりに名曲 mini Bar OLD CLASSICに立ち寄った。前回はライヴで内田光子のモーツァルト協奏曲を聴いて、Barではコンセルトへボウでの内田光子のベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を聴いて不思議な気分を味わった。今回も同じようなことを経験した。マスターがチェコ・フィルの「ドヴォルザーク:交響曲第4番と第3番」をかけてくれたのである。数日前のクラシカ・ジャパンの映像で場所は由緒あるドヴォルザーク・ホール。CDはあるが1回耳にした程度である。聴いて観るとなかなか良い。演奏しているメンバーの中に今日のリーダーを務めたマグダレーナ・マシュラニョヴァーの顔を数度テレビが映し出すので嬉しくなった。チェロ奏者の中にモヒカンの人を見つけてビックリ。若いメンバーの姿も多く目についた。
指揮者ピエロフラーヴェクは90年チェコ・フィル首席指揮者に就任したが2年後に辞任、93年にはプラハ・フィルを創設してKitara にもプラハ響やプラハ・フィルを率いて3度登場している。数年前にチェコ・フィルのシェフに就任して今や世界の巨匠としてメジャー・オーケストラを指揮している。10年以上も経過していて、見たことのある指揮者だと思ったがすぐには気づかなかった。チェコ・フィルを率いて札幌公演を実現してもらいたいものである。愛弟子のヤクブ・フルシャを育て上げたが、来日ではドヴォルジャークは定番の曲でなく若い番号の交響曲を披露してもらえると嬉しい。







 
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札響第596回定期演奏会(ポンマーのバッハ『管弦楽組曲』全集)

札響初のバッハ「管弦楽組曲全曲演奏」はシーズン当初のプログラム発表時から注目していた。
ポンマーにとってJ.S.バッハは神だという。“アーノンクールのバッハ演奏はウィーンのバッハ、私はライプツィヒのバッハを演奏する”と語るポンマーのバッハ解釈によるコンサート。

2017年1月28日(土) 14:00開演 札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ マックス・ポンマー(Max Pommer)
フルート/ 高橋 聖純(Seijun Takahashi)(札幌交響楽団首席奏者)
チェンバロ/ 辰巳 美納子(Minako Tatsumi)

管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV1068
管弦楽組曲 第2番 ロ短調 BWV1067 (フルート独奏/ 高橋 聖純)
管弦楽組曲 第1番 ハ長調 BWV1066
管弦楽組曲 第4番 ニ長調 BWV1069

日本で最も多く演奏されるクラシック音楽の作曲家はベートーヴェンとモーツァルト。音楽雑誌の統計によると二人が毎年1・2位を争う。3位がバッハ。私自身のCD所有枚数もベートーヴェンとモーツァルトが断然1・2位を占める。バッハの曲で最も聴きなれているのはヴァイオリン曲。管弦楽曲に関しては「ブランデンブルク協奏曲」と「管弦楽組曲」をコンサートの曲目として演奏される機会に改めてCDで聴く程度である。今回は所有しているバウムガルトナー指揮ルツェルン弦楽合奏団のCD(第2番のフルートはオーレル・ニコレ)を数回繰り返して聴いてみた。(*ニコレは昨年1月90歳で亡くなった。1969年札響4月定期に出演した際の音源を数年前に札響くらぶの会合で耳にして感激したことを思い出した。)

先日、「第3番」をデジタル・コンサートホールで“聴いて観る”機会があった。16日にベルリン・フィルハーモニーでブンデスユーゲント管(National Youth Orchestra of Germany)による宗教改革500周年記念演奏会が行われた。指揮がアレクサンダー・シェリーで12年12月札響定期に客演した英国の若手指揮者だと気づいた。全曲にバレエが付いていたのが興味を引いた。ヨーロッパの斬新な芸術的な試みだと感じた。成程と思い直したのは、この組曲はドイツの民衆の間で発展してきた舞踏音楽と華麗なフランスの宮殿音楽を組み合わせたものである。20分程度の各曲はフランス風序曲で始まる。

「第3番」は序曲、エール、ガヴォット、ブーレ、ジーグから成る。3本のトランペット、ティンパニ、2本のオーボエ、チェンバロ、弦5部の楽器編成。トランペットが高らかに響き渡る壮麗な序奏で始まり、前列に陣取ったオーボエに弦が加わる。序曲は曲の半分ぐらいを占める。第2曲「エール(アリア)」は弦楽合奏だけで演奏される抒情的な調べ。チェンバロの旋律も魅力的。ドイツのヴァイオリニスト、ヴィルへルミがヴァイオリンのG線だけで演奏できるように編曲し、「G線上のアリア」として広く親しまれている。この後で活発な舞曲が3曲続いて、明るい雰囲気を盛り上げる。勇壮で華麗な曲。

「第2番」は序曲、ロンド、サラバンド、ブレー、ポロネーズ、メヌエット、パディヌリ。独奏フルート、チェンバロ、弦5部の編成。花形楽器フルートが曲全体で主導権を握る。優雅さに溢れた曲。サラバンドではフルートとチェンバロの間でカノンが歌われ、ヴァイオリンとヴィオラも魅力的な旋律を奏でる。繊細さがあふれ出る調べ。聴いていて自然と舞曲に乗って踊りたくなるような軽やかな旋律は心地が良い。終曲のパディヌリは“冗談”を意味するフランス語で舞曲ではない。弦のスタッカート伴奏を従えて、フルートが飛ぶような軽快な旋律で曲を終える。
4曲中で最も親しまれている曲。四十路を超えた高橋が期待通りの名演。フルートの魅力が横溢した曲で聴衆を魅了。長身で堂々たる体躯でのステージ映えする高橋の容姿は名演を浮き上がらせた。実に堂々として世界一流のソリストに負けない演奏だと感じた。5年前の札響特別演奏会では尾高尚忠のフルート協奏曲を披露した。暗譜で現代曲を吹き切って素晴らしい演奏だった。今回の演奏終了後には力強いブラヴォーの声が飛び、感動した人々の途切れない拍手大喝采は近来にない名曲の演奏でホールに詰めかけた人々の心を揺さぶった。高橋聖純は札響定期演奏会での活躍ぶりを通して会員の高い評価も定着している。今回はソリスト・指揮者・オーケストラ・聴衆の一体感で音楽が作り上げられた印象を強くした。鳴りやまない拍手にカーテンコールが繰り返され、アンコール曲に第7曲「バディヌリ」を再び演奏。フルーティスト自身にも聴衆の感動の心が伝わったと思った。

「第1番」は序曲、クーラント、ガヴォット、フォルラーヌ、メヌエット、ブレー、バスピエ。楽器編成はオーボエ2、ファゴット、チェンバロ、弦5部。バロック時代にはクラリネットの楽器はまだ無く、オーボエが主要な木管楽器だったことが分かる。
流れるようなリズムのクーラント、快活なガヴォット、ヴェネツィアの踊りに由来する活発な動きのフォルラーヌ、平明なメヌエット、軽快で歯切れのよいブレー、終曲はブリュターヌ起源の陽気なバスキエ。オーボエの響きが心地よかった。

「第4番」は序曲、ブレー、ガヴォット、メヌエット、レジュイサンス。4曲中で最も大きな楽器編成。3本のオーボエとファゴットの独奏グループと弦楽器群の対比が特徴。3本のトランペット、ティンパニ、チェンバロも加わる。今回が札響初演とはいえ、昨年10月末にムジカ・アンティカ・サッポロがKitara小ホールで演奏している。
トランペットのファンファーレで始まる威風堂々たる華やかな序曲。ブーレではオーボエ群とファゴットだけのアンサンブルもあって違う雰囲気が醸し出される。ガボットは全楽器による演奏。メヌエットは組曲中のオアシスともいえる典雅な調べ。レジュイサンスは舞曲ではなく“歓喜”を意味する言葉で、明るく溌溂としてユーモアに富んだフィナーレ。テンポが速くて勢いのある娯楽性に富んだ曲。

バロック音楽を存分に満喫できた演奏会となった。30名程度のオーケストラ・メンバーだけで全曲目が演奏されるのも珍しい。大編成のオーケストラによる音楽とは違う楽しい陽気な雰囲気の札響演奏会も変化があって良かった。バッハ当時の楽譜をめぐって専門的にはいろいろな経過はあるようであるが、ともかくライプツィヒ生まれでバッハ音楽研究に基づいてポンマーが満を持して札響と演奏した《管弦楽組曲》は素晴らしかった。

客の入りも最近ではいつもより良く3階席も結構埋まっているように思えた。毎回同じ決まった席だが今回は周囲にいつもと違う人の姿も少し見えた。定期演奏会で目にする招待の中学生の姿の代わりにバロック音楽とフルート奏者に関心が集まって聴きに来た学生の姿にも多く出会った。

Kitaraのレセプショニストの対応が一段と向上しているのがコンサートの入退場時に気づく。開館以来、他のコンサート会場ではない客への心のこもった対応は20年も経つと退化しがちだが、入退場での温かい言葉や心遣いには感心している。“お寒い中よくいらっしゃいました”、“お気をつけてお帰りください”などの言葉かけは素晴らしい。ホール内やホワイエの対応は開館当初と基本的に変わらないが、エントランス・ホールでの対応が見違えて良くなった。お客様対応の人数を増やしているのかもしれない。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて“おもてなし”の心に一段と磨きがかかるとしたら喜ばしいことである。
東京サントリーホールをモデルにして始まったレセプショニストの活動が気持ちの良い音楽鑑賞に関わる影響は大である。関係者のご努力に感謝するとともに今後も進化した活動を目指してほしい。

Kitaraランチタイムコンサート 《モーツァルトはお好き?》

1月27日はモーツァルトの誕生日。彼の261回目の誕生日にあたる。【モーツァルトはお好き?】のコンサートを聴くのは2014年、16年に続いて3度目。札幌音楽協議会メンバーによるオール・モーツァルト・プログラム。

2017年1月27日(金) 13:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

指揮/ 阿部博光     ソプラノ/ 土谷 香織、 矢野 愛実
管弦楽/ 札幌音楽協議会室内オーケストラ    お話/ 八木 幸三

〈プログラム〉
 歌劇《フィガロの結婚》より
     「序曲」、「やっと待ってた時が来た」、「さあ早く来て、愛しい人よ」
 歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》より
     二重唱「ねえ、見てよほら」、 「岩のように動かずに」
 交響曲 第39番 変ホ長調 K.543

札幌の音楽界で作曲家・音楽評論家として八面六臂の活躍を見せる八木幸三氏が進行役を務めて楽しい雰囲気のうちに進められるコンサートもすっかりお馴染みになった。
色鮮やかなドレスに身を包んだ女性演奏陣の姿を初めて目にする観客から一瞬どよめきが起こった。ステージでオーケストラ・メンバー大勢の華やかな衣装を見る機会など稀である。

今回のプログラムの特徴はオペラ。演奏会のアンコール曲としても聴くことも多い《フィガロの結婚》序曲で幕開け。喜歌劇の陽気で浮き立つ雰囲気が醸し出された。
オペラの第4幕の山場で歌われるスザンナの歌が2曲。ソプラノは矢野愛実。初々しい姿で登場して、透明感のある歌声でレチタティーボ「やっと待ってた時が来た」とアリア「さあ早く来て、愛しい人よ」を熱唱した。まだ舞台慣れしていない新人のようであったが、場を踏んでの成長を期待したい。

《コジ・ファン・トゥッテ(女はみんなこうしたもの)》も《フィガロの結婚》と同じように他愛もないストーリーだが、どの時代にも当てはまる人間の恋愛模様を描いたオペラ。モーツァルトのオペラ作品でも人気が高く上演機会も多い。女は貞淑なわけがないと主張する老哲学者が、互いの恋人の気持ちを試そうと、二人の男たちに別人のふりをさせるオペラ・ブッファ。内容はつまらないがオペラ中の音楽が聴きものではある。
歌劇の第1幕で歌う土谷香織の歌声は艶やかで声量があり、堂々とした二重唱となった。華やかなコロラトゥーラは素晴らしかった。アリア「岩のように動かずに」もコロラトゥーラを駆使して魅力ある歌声となってホールに響いた。土谷の名は聞いたことがあるので経験豊富で実力のあるソプラノ歌手だと思った。

「交響曲第39番」はモーツァルトの晩年に書かれた後期三大交響曲の一つ。明るくてロマンティックな雰囲気の曲。この曲の楽器編成ではオーボエが使われていなく、木管ではクラリネット2本の音色を際立たせているようである。
緩やかなアダージョの序奏後は明るい旋律がアレグロで駆け抜ける。第2楽章はアンダンテ、第3楽章がメヌエット。第4楽章は躍動感のあるフィナーレ。

1時間のコンサートがアッという間に過ぎた。1週間ほど前に今まで罹ったことのないインフルエンザで病院に通った。幸い軽くて高熱が出ないうちに治ったが、その間、書斎に床をとって睡眠時間も多くして体を休めた。通院を除いて家に籠りっきりで体も何となくだるくて体調が良くなかった。昨夜は早寝して今日のコンサートに備えた。今日も音楽が体調を戻してくれたようであった。





仲道郁代 マイ・フェイヴァリット(デビュー30周年を彩るピアノ名曲集)

仲道郁代のピアノ演奏を初めて聴いたのが1989年4月(第302回札響定期)。山田一雄指揮札響と共演して「ベート―ヴェン:ピアノ協奏曲第4番」を弾いた。ベートーヴェンのピアノ協奏曲は「皇帝」しか聴いていなかったので、「第4番」も素晴らしい曲と印象づけられたコンサートとして忘れ難い。
2000年2月にはヤマハ・ピアノ100周年記念コンサート(Kitara大ホール)でリサイタルが開かれた。同年にはKitara札響特別演奏会として「皇帝」が演奏されたこともあった。その後、09年にソプラノとピアノのデュオ・リサイタルを聴いたが、その後はこの日本を代表するピアニストの演奏を聴く機会がなかった。出来れば本格的なプログラム構成の演奏会が好みではあったが、今回のピアノ名曲集を聴いてみることにした。彼女のコンサートを聴くのは7度目である。

Ikuyo Nakamichiは1963年、仙台生まれ。12歳の時に父親の仕事の関係でアメリカに渡り、その後、桐朋学園大学1年在学中に日本音楽コンクール優勝。1985-87年ミュンヘン音楽大学に留学。この間、ジュネーヴ国際コンクールなどで好成績を収め、国内外で活発な活動を展開。海外のオーケストラとの共演も数多く、実力と人気を兼ね備えて常に新たな試みに挑戦し続けているピアニスト。
仲道は札幌コンサートホールでは2014年から3年にわたって【Kitara Kidsミュージック&アーツクラブ】で音楽とアートのワークショップを通じ、子どもたちと温かい交流を重ねている。今回のプログラムは【Kitaraクラシック入門講座】として開催されたが一連の活動と繋がる催しの趣旨があったのかもしれない。

2017年1月21日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール
〈Program〉
 グリーグ:《抒情小曲集》より 「アリエッタ」、「蝶々」、「ノクターン」
 シューマン:《子供の情景》より 「トロイメライ」 作品15-7
 シューマン(リスト編):歌曲集《ミルテの花》より「献呈」 作品25-1 S.566
 リスト:愛の夢 第3番 変イ長調 S.541
     メフィスト・ワルツ第1番 「村の居酒屋での踊り」 S.514
 ショパン:ワルツ第1番 変ホ長調 「華麗なる大円舞曲」 作品18
       ワルツ第3番 イ短調 作品34-2 
       スケルツォ第2番 変ロ長調 作品31
       ポロネーズ第6番 変イ長調 「英雄」 作品53

仲道は作曲家と演奏曲の解説や魅力を話しながらコンサートを進めた。彼女が音楽の魅力にはまったエピソードなどを織り交ぜながら名曲(Her Favorites)を紹介した。
彼女の母は彼女が胎児のころにグリーグのピアノ協奏曲を好んで弾いていたという。その影響か彼女は北欧のショパンと呼ばれることもあるグリーグの曲に親しんだそうである。「抒情小曲集」は10集70曲ほどの中から3曲。聴いたことがあるのは「蝶々」だけ。聴く者の心にしみる短い曲を続けて演奏した。

クララとの9年にわたる恋が実って結婚に至ったシューマンが結婚前夜にクララのために書いた歌曲。リストから贈られたピアノ独奏用の編曲が余りにも華やかだったので、クララは“私たちの愛をこんなにゴージャスにして”と怒ったという。この彼女の反応は初耳であった。
「トロイメライ」と「愛の夢」は「夢」が共通している。「夢」や「憧れ」を4度や6度の音程の違いで表現する話は興味深かった。
仲道はミシガン州に滞在していた折にホロヴィッツの演奏を聴く幸運に恵まれたという。(*彼がニューヨーク以外で演奏する機会は稀有のことであり、演奏会のチケットを手にするのも容易ではない時代であった。)彼の弾いた2音を聴いただけで涙がこぼれたという。2音だけで人の心を動かす音楽に出会って彼女の人生の行方が決まった。ホロヴィッツの「トロイメライ」演奏に感銘を受けたエピソード。

「メフィスト・ワルツ第1番」はリストならではの超絶技巧が凝らされたピアノ独奏曲。演奏する姿を観ながら今ではすっかりこの曲の魅力に取り込まれている。10分余りの運指の速さにピアニストの技量と表現力に魅了された。演奏終了後に歓声が沸き起こった。

後半のプログラムはショパンの曲。彼がワルシャワを離れ、ウィーンに移り、ウィンナー・ワルツとは違う独自の芸術的香りに満ちたワルツを作り上げていく様子が語られた。パリへ移住した後も故国ポーランドに想いを馳せながら過ごした作曲家の人生は曲とともに人々の心を打つ。ショパンの人生の一端を初めて聞いた子どもたちもいたように思う。対照的な2曲のワルツの紹介も良かった。
ショパンが残した4曲のスケルツォ。交響曲の第3楽章に使われていた曲調でショパンが独自のジャンルを作り上げた。「第2番」は聴く機会が多くて4曲中で最も親しまれている。緊迫した雰囲気を持ち、ドラマティックな展開で魅力的な作品。仲道はこの曲を“黒いマント”と何度か呼んだ。

「ポロネーズ」や「マズルカ」はポーランドの民族舞曲。ポロネーズは全16曲のうち、タイトルがついた「第3番 軍隊」、「第7番 幻想ポロネーズ」の他に、「第6番 英雄」が有名である。最も有名で演奏機会の多い第6番は「英雄ポロネーズ」として親しまれている。勇壮な行進曲で2列となって戦争に備えて堂々と行進する姿が印象的である。ポーランドは他国に支配される不幸な状況下に置かれてきた歴史がある。ショパンとポーランドは音楽では切り離せない繋がりである。

アンコール曲は3曲。①ショパン:エチュード「革命」、 ②ショパン:エチュード「別れの曲」、(*「別れ」は短調が多いのが当然と思っていたが、この曲は長調と説明があった。明るい曲として長年にわたって聴き親しんでいるが、改めて調性を意識した。) ③エルガー:愛の挨拶。

チケットは完売であったが、1階席中央の数列で空席が何席も続いているのが気になった。1階席の端や2階バルコニーも埋まっている中でチョット嫌な感じがした。招待券が無駄になっているとしたら勿体ない。


※先週の「クラシック音楽館」(1月15日)の放送で10:30pm~11:00pmまで仲道郁代がゲストでプレイエル(1827年製)とスタインウェイの2台のピアノを使って興味深い演奏を行った。(*彼女は自宅にピアノを4台所有しているはずだから彼女所有のピアノで演奏したと思った)。ピアニストのデビュー30周年を祝ってのオール・ショパン・プログラム。演奏曲は「ノクターン op.9-2」、「練習曲 op.10-3」、「前奏曲 op.28-7」、「練習曲 op.25-1」(以上プレイエル)、「幻想即興曲」、「ワルツ op34-2」(以上スタインウェイ)。ショパンが使っていた時代のピアノと現代のモダン・ピアノでの響きの違いが出ていて面白かった。

Kitaraのニューイヤー2017(広上淳一&三浦文彰)

2012~15年まで4年連続して〈Kitaraのクリスマス〉に登場していたマエストロ広上が、今年は新年を祝う〈Kitaraのニューイヤー〉のステージに登場。十年ほど前までは世界を舞台に欧米で大活躍していたマエストロが本拠地を日本に移した。08年から京都市交響楽団の常任指揮者に就任して同響のレヴェルを飛躍的に押し上げた。国内では日本フィル正指揮者(1991-2000)を務め、札響との共演も増え2012年からは毎年途切れることなく来演が続いている。京都市響ではミュージック・アドヴァイザーも兼任。東京音楽大学指揮科教授も務めながら後進の指導に意欲的に取り組んでいる。私の好きなタイプの指揮者である。パーヴォ・ヤルヴィとともに指揮者を目指す若者の指導に当たっている様子をテレビで見て一層頼もしく感じている。

昨年のNHK大河ドラマのメイン・テーマの演奏で一層人気を高めた三浦文彰は昨年5月のリサイタルに続いてのKitaraのステージ。6歳で師事した日本ヴァイオリン界の大御所、徳永ニ男が三浦の成長に刺激を受けて現役を続けているというから、三浦の実力は計り知れないものがあるのだろう。三浦は今回が3回目のKitaraのステージ。

2017年1月14日(土) 15:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
  
指揮/ 広上 淳一     ヴァイオリン/ 三浦 文彰
管弦楽/ 札幌交響楽団

〈Program〉
 モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲
 クライスラー:中国の太鼓(ヴァイオリン独奏/三浦文彰)
 サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ( 〃 )
 服部隆之:大河ドラマ「真田丸」メイン・テーマ( 〃 )
 ヨハン・シュトラウスⅡ:ワルツ「楽しめ人生を」 作品340
 ヨーゼフ:シュトラウス:ポルカ・マズルカ「燃える恋」 作品129
 ヨハン・シュトラウスⅡ:ヴェルディの歌劇「仮面舞踏会」によるカドリーユ 作品272
 チャイコフスキー:バレエ音楽「眠りの森の美女」より “ワルツ”
 リヒャルト・シュトラウス:歌劇「ばらの騎士」組曲より “ワルツ”
 ヨハン・シュトラウスⅡ:ワルツ「美しく青きドナウ」 作品314

陽気で浮き立つ雰囲気のモーツァルトの序曲で始まったコンサート前半は2016年NHK大河ドラマでクラシック・ファン以外の人々の関心も惹きつけた若き俊英ヴァイオリニスト三浦文彰のステージ。
ヴァイオリンの名手であったクライスラーは「愛の喜び」や「愛の悲しみ」などが最も有名だが、「中国の太鼓」は歯切れの良いリズムで異国情緒に溢れる旋律で知られる。サンフランシスコのチャイナタウンで耳にした旋律をもとに書いたとされる作品。
パガニーニと並び称される名バイオリニスト、サラサーテのために書かれた「序奏とロンド・カプリチオーソ」はスペイン情緒が漂うヴァイオリンと管弦楽のための名曲。
「真田丸」メイン・テーマの演奏前に指揮者が三浦にインタヴュー。広上も大河ドラマのメインテーマでN響を指揮した際に視聴者から“毎週、大変でしたね。”と言われたことを前提に、放送のために何回演奏したかを尋ねていた。(勿論、返答は“1回”)。
興味深い質問は作曲家の注文は何? “美しくとか上手とかでなく、土臭く”というようなドラマでの戦の雰囲気が滲むような演奏を依頼されたらしい。ヴァイオリン独奏で始まるメイン・テーマの音楽は近年の大河ドラマのテーマ曲でも最も印象に残る曲。オーケストラに尺八が加わったのも非常に良かった。

例年にない大雪で最低気温がマイナス10度以下が3日も続く札幌。1ヶ月前には今日のコンサートのチケットは完売だったようで、空席は殆ど見当たらない満席状態。巧みな演出と熱演で会場の雰囲気も盛り上がった。ソリストのアンコールはパガニーニの曲。

5・6年前からKitara New Year Concertにおける後半のプログラムは「ワルツ」や「ポルカ」など新年を祝う軽くて楽しい曲で構成されるようになった。7・8年ぐらい前には重たい曲で客の入りが5割程度の時もあって寂しい感じさえしたが、最近は客の入りも上々である。ウィーン・フィルが正月に演奏する曲目がいくつか並んだ。オペラやバレエ音楽からワルツの曲も演奏された。二人のシュトラウスのワルツの選曲が興味を引いた。R.シュトラウスの《ばらの騎士》は全曲を聴いたことがない。METライブビューイングで観たいと思っているがまだ実現していない。本日の「ワルツ」を聴いて実際のオペラへの関心が募った。
後半の6曲中、馴染みのある曲は《「眠りの森の美女」よりワルツ》と「美しく青きドナウ」だけ。聴いたことの無さそうな曲がいくつか入っている方が興味が湧く。6曲の小品からなる「劇場カドリーユ」も面白かった。久しぶりで耳にするチャイコフスキーのワルツも豪華絢爛でオーケストラ曲として満喫。
恒例の締めの曲「美しき青きドナウ」の後に、広上が“今年も良い年でありますように!”と話して、アンコール曲に恒例の「ラデッキー行進曲」。指揮者・オーケストラ・聴衆が一体となってフィナーレを飾った。
 
今回は2階CB席の中央に席を取った。大ホールに入って隣の席に座る上品な御婦人に気づいてビックリ。Kitaraボランティアとして活動して毎月のように会って親しく話をする機会の多い方。私のブログも毎回読んでくださっているようで恐縮している。長いブログを読むのは音楽に相当の関心がないと難しいと思うのだが、彼女は辛抱強く読み続けているという。ブログを書き始めて4年半ほどになるが、私自身はそろそろ止めようかと思っている。
コンサートが始まる20分ほど前に座席についたので、指揮者やヴァイオリニストの話題を中心にして話が弾んだ。いつも一人で来て静かに聴いて帰ることが多いので、今日はいつもと違う楽しみ方ができて良かった。Kitaraボランティアを含めて友人にホールやホワイエで会う機会は多々ある。小ホールで友人と偶然に席が隣り合わせになったことはあるが、2008席の大ホールで偶然に席が隣り合う確率は極めて低い。人口195万人の街での出来事である。



チョ・ソンジン ピアノ・リサイタル

ライヴ・コンサートは昨年12月23日以来で、2週間以上も間が空いたのは稀である。TVh北海道とオフィイス・ワン主催の《ニュー・イヤー・スペシャル・コンサート2017》。札幌では『2015年ショパン国際ピアノ・コンクール優勝記念』として開催され、【チョ・ソンジン ピアノ・リサイタル】はその後、福岡・大阪・東京・川崎・名古屋でも開かれ、2月には同プログラムでニューヨーク・カーネギーホールでのリサイタル・デビューも行われる予定という。

チョ・ソンジン(Seong-Jin Cho)は1994年ソウル生まれ。09年浜松国際ピアノコンクールでは15歳で最年少優勝。10年PMFオープニングコンサートに出演して「チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番」をPMFオーケストラと共演。11年チャイコフスキー国際コンクール第3位入賞、その後はパリ国立高等音楽院でミシェル・ベロフ(*辻井伸行のクライバーン・コンクール優勝時の審査員、2013年Kitara来演)に師事。14年ルービンシュタイン・コンクール第3位。15年10月に行われた第17回ショパン国際コンクールの後、11月にはフェドセーエフ指揮N響と共演、直後にアムステルダムでフルシャ指揮ロイヤルコンセルトへボウ管とも共演して別々のコンチェルトを演奏。16年1・2月にはショパン・コンクール以前から決まっていた日本公演に加えて、ショパン・コンクールの入賞者ガラ・コンサートなども重なってハード・スケジュールをこなしていた。

10年、16年に続き3回目のKitaraのステージ。

2016年1月9日(月・祝) 1:30開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
〈Program〉
 ベルク:ピアノ・ソナタ ロ短調 Op.1
 シューベルト:ピアノ・ソナタ 第19番 ハ短調 D.958
 ショパン:24の前奏曲 Op.28

ベルク(1885-1935)はシェーンベルク、ヴェーベルンと共に「新ウィーン学派」と呼ばれる作曲家。彼の名を名乗ったアルバン・ベルク弦楽四重奏団は世界最高のカルテットとして親しまれた。ベルクの「ヴァイオリン協奏曲」は渡辺玲子のCDがあって何回か耳にするが、鑑賞が難しい。
ベルクのピアノ・ソナタは初めて聴いた。7・8分程度の単一楽章の曲で古典的なソナタ形式。ロ短調となっているが調性を超えた曲作り。現代音楽として特別な違和感は無く聴けた。

シューベルトは最近は歌曲よりピアノ曲を聴く機会が断然多くなった。全21曲のソナタの中で近年は「第21番」は度々聴く。彼が亡くなる1828年11月の2ヵ月前に書き上げられた3曲(第19・20・21番)はシューベルト最後の作品。「ピアノのための3つの小品」は遺作となった。3作とも各4楽章構成で大作となっている。
「第19番」は前年に死去したベートーヴェンの影響が特に色濃く表れている曲とされる。ベートーヴェンを想起させる力強い第1主題とコラール風の柔らかい第2主題を中心に展開される第1楽章。シューベルトらしい歌謡的な美しさ溢れる第2楽章。第3楽章は素朴な味わいの短いメヌエット。第4楽章は主題が多彩に展開される長大なフィナーレ。
ポピュラーな曲ではないが、演奏終了後にブラヴォーの声があちこちから上がるほどに聴衆を魅了したチョ・ソンジン。

ショパンの《24の前奏曲》の中でも「第15番 雨だれ」は最も有名で親しまれている曲。演奏時間が一番短い30秒から一番長い5分程度の曲が24曲。この作品は第1番のハ長調から第24番のニ短調まで24の調をすべて用いて書かれた。長調と短調が交互に現れる。第15番は何度も同じ音が繰り返されるところが雨のしずくを表しているように聞こえるところから、後に「雨だれ」と名づけられた。他に親しんでいる曲は1分足らずの「第7番 アンダンティーノ」、「第24番 アレグロ・アパッショナート」の2曲ぐらいだった。昨年のユンディ・リのリサイタルでも<24の前奏曲〉を聴いたこともあって、身近に感じれる曲も増えた。対比が面白い「第10番」やドラマティックな演奏の「第18番」など。

卓越したテクニックと透明な美しい音色で綴られる変化に富んだ曲の流れに最初から最後まで集中度を保ち続けた聴衆も素晴らしかった。演奏終了後のホールは歓声に湧いた。近現代の曲も含め必ずしも耳慣れた曲ではないプログラムにも関わらず、今日のオーディエンスの反応は凄かった。心が揺さぶられる演奏に浸れて感動を覚えて胸が高鳴った。
アンコール曲は「ドビュッシー:月の光」と「ブラームス:ハンガリー舞曲第5番」。誰もが耳にしたことのあるポピュラーな曲が本格的なプログラミングのコンサートに華を添えた。
集客を重視して、ともすれば安易に陥りがちなプログラミングも演奏家と聴衆の要求度が一致すると成功するのではないかと痛感した。22歳の若い韓国人ピアニストの日韓文化交流に果たす役割も小さくない。

ティーレマンのブルックナー「第7」&ブッフビンダーのベートーヴェン「第1」

ベートーヴェンのピアノ協奏曲全5曲のうち「第1番」は演奏会で聴いた記憶がない。CDでもギーゼキング、ギレリス、ルービンシュタインなどでそれぞれ1度聴いた程度で、バレンボイム&ベルリン・フィルで数回聴いたぐらい。1番と2番が収録されているCDは10年ぐらい前にブロンフマンのCDを購入したのが一番新しい記憶。
今日では世界のトップ・ピアニストの地位を占めているブッフビンダーのコンサートは今までに聴いたことがなかった。ティーレマンとの共演による12月17日のデジタル・コンサートは願ってもないプログラムだった。遅ればせながら先日やっと聴く機会を得た。

今年70歳を迎えるRudolf Buchbinderはチェコ生まれ。10歳の時にウィーンでベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第1番」を演奏してデビューしたというから当日の選曲も納得できる。聴く方も意外性があって良かった。翌年ウィーン三重奏団を組織して61年のミュンヘン国際コンクールの室内楽部門で優勝。ソロ、室内楽、歌曲伴奏と幅広い分野で活躍。75年ウィーン響のソリストとしての来日以来、たびたび来演しているようである。ベートーヴェンのソナタ全曲演奏会でも知られるという。

「第1番」は実際には第2番より後に作曲されたとされる。典型的な古典協奏曲のスタイルで書かれた作品はモーツァルトの影響を受けているように感じられた。同じ旋律の繰り返しも多いが、親しみやすいメロディアスな曲で心地よい響き。最近は第3~5番しか耳にすることがなかったが、第1楽章から懐かしい聴きなれたメロディでクラリネット、トランペット、ティンパニも加わって表現が広がっていて観ていて興味が深まった。明るく快活な調べが華やかなフィナーレとなる。
ウィーンの伝統的なスタイルを継承する正統派ピアニストとして、ベートーヴェンの他にブラームス、シューベルトも聴く機会が増えるだろう。

Christian Thielemannは歌劇場のコレぺティトゥーアの修業を積んで指揮者として大成した異色の経歴を持つ。ベルリン・ドイツ・オペラの音楽総監督(1997-2004)、ミュンヘン・フィル音楽監督(2004-11)、2012年からシュターカペレ・ドレスデン首席指揮者。この世界最古のオーケストラは創設が1548年。ドレスデン国立歌劇場の専属オーケストラでKitaraに2000年、02年の2回来演している。
ティーレマンはPMF1993年の来日後、テンシュテットの代役でシカゴ響、カルロス・クライバーの代役“ばらの騎士”でMETデビューと世界の脚光を浴びた。その後はウィーン・フィル、ベルリン・フィルに定期的に出演。バイロイト音楽祭でも事実上の音楽監督としての活躍。2013年ザルツブルク復活祭音楽祭芸術監督に就任(*カラヤン創設の音楽祭はベルリン・フィル音楽監督が芸術監督を務めるのが慣例であった)。とにかく彼は世界最高の指揮者の一人と言える活躍ぶりである。

12月10日のブルックナーのミサ曲に続いての「第7番」。これまでベルリン・フィルとは4番、8番を指揮しており交響曲としては3回目の共演。70分の大曲。ベートーヴェンとワーグナーの要素を備えながら独自の世界を切り開いた音楽のように思えるが、正直に言ってブルックナー(1824-96)の偉大さがよくは判っていない。第4番「ロマンティック」は聴く回数も増えて、2015年12月札響定期で聴いたポンマー指揮の第4番は解りやすく聴けた。作曲家がオルガニストであった雰囲気の響きもあった。
「第7番」は「第4番」とともにブルックナーの交響曲の中では比較的に理解しやすい曲。1884年ライプツィヒでの初演が大成功を収め、彼の作曲家としての評価が高まった。ワーグナーのようなオーケストレーション、オルガン的な重層和声など晩年の巨大で深遠な第8番や第9番に繋がったと考えられている。木管、特にテューバを含む金管楽器の響きに迫力があった。指揮者とオーケストラが真剣に対峙して曲に取り組む様子も伝わった。ティーレマンとオーケストラ全員の集中力と高度な演奏技術が上手くかみ合っているように思われた。
聴衆の集中度の高さは演奏終了後の余韻がおさまるまで拍手のフライイングがなかったことにも表れていた。拍手・大歓声で何度かのカーテンコールがあり、楽団員全員がステージを下りたあとも絶え間なく拍手が続いて、ティーレマンがステージに出てくるのを見て観客の満足度が推し量れた。

中継では様々な楽器演奏者の姿を映していた。日本人の第1ヴァイオリン町田琴和の姿もあった。ヴィオラ首席の清水直子、第2ヴァイオリンのイレーネ・イトウもベルリン・フィルのメンバーである。

演奏終了後のドイツ語のインタヴューが英訳されていた。ブルックナー・シリーズで指揮者としての名声を高めたギュンター・ヴァントの助言を引用して、ブルックナーを演奏するには別人格の人間になる必要があると語っていたのが特に印象に残った。

“観て聴く”デジタル・コンサートホール

2008年にスタートしたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の《デジタル・コンサートホール》を定期的に聴く環境が整った。札幌コンサートホールがオープンしてから20年ほどになり、Kitaraにも1000回ぐらいは通った。Kitaraホールの魅力は失せることはないが、コンサートに通うのが身体的にも経済的にもいつまでも続ける状況にあるわけではない。
Kitaraがオープンした当初は世界の有名な指揮者、オーケストラが次々と来札したが、現在は当時とは比べ物にならない。観て聴きたい音楽家の来札が少なくなったのは止むを得ない。最近の話題の音楽家の演奏を“観て聴く”のにはベルリン・フィルのデジタル・コンサートは非常に魅力的である。

昨年12月に取りあえず1年間有効のチケットを149ユーロで購入した。ベルリン・フィルの年間50回ほどの演奏会がほぼ毎週中継される。画質はハイヴィジョンで音声はCD並みで、高品質のヘッドフォンで聴くと素晴らしい。巨匠だけでなく世界で話題の若手指揮者との共演も聴ける。生中継は真夜中で観ることはしないだろうが、数日後にはアーカイヴで観れる。400本以上がアーカイヴ・コーナーからアップでき、カラヤン時代の映像も相当数ある。月額にすると1500円程度は決して高くない。継続的に観ると極めて安くつく。英語版だけかと思っていたが解説が日本語化されている。

暮れの29日に早速、観てみた。先月3日の演奏会の模様をアーカイヴでアップした。指揮/アラン・ギルバート、ヴァイオリン/フランク・ペーター・ツィンマーマン。プログラムは「ジョン・アダムズ:Short Ride in a Fast Machine、管弦楽のためのロラパルーザ」、「バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番」、「チャイコフスキー:交響曲第4番」。
ギルバートは現在ニューヨーク・フィル音楽監督。母は日本人で日本での音楽活動も顕著な指導者。2004年にストックホルム・フィル(*ノーベル賞授賞式のオーケストラとして知られる。)を率いてKitaraに登場した。
ツィンマーマンはドイツを代表する正統派のヴァイオリニストでKitaraにも2回登場した(99年、05年)。05年にはブロムシュテット指揮ライプティヒ・ゲヴァントハウス管と共演した曲が今回と同じと知った。偶然とはいえビックリしたが、今や世界の巨匠として重厚で深みのある演奏に心を揺さぶられた。
今までにKitaraで聴いたことのある音楽家を身近に感じれるのもデジタルコンサートの楽しみである。
ジョン・アダムズはアメリカの現代作曲家で今シーズンのベルリン・フィルのコンポーザー・イン・レジデンス。5分から8分程度の現代曲が2曲取り上げられた。スポーツカーに乗った印象が金管楽器や打楽器を多用して綴られた。オーケストラのための作品でもファゴット、ピッコロ、ホルン、打楽器などの演奏を通してリズム感のある現代音楽の面白さが生き生きと伝わった。ここでもPMFで活躍するティンパニ奏者のゼーガスを見れて良かった。

正月の3日は早朝からラトルのベートーヴェン・ツィクルス第4弾(2015年10月15日)のアーカイヴ。「第4番」と「第7番」。暮れのドキュメンタリー番組でラトル&ベルリン・フィルのベートーヴェン・シリーズの新たな取り組みを聴いた後での視聴だったので新鮮な気分で聴いた。
「第4番」は生き生きとして陽気でこの上ない優しさが横溢した曲。「第7番」は勝利の高揚感に満ちた第1楽章に始まり、全楽章を通してリズム感が途切れなく新鮮な曲として聴けた。フルートのパユ、オーボエのマイヤーは何回見てもその演奏姿に見入ってしまう。今回のティンパニ奏者はヴェルツェルのようだった。ドキュメンタリー番組でインタヴューを受けて演奏への取り組み方を語っていたので印象に残っていた。顔の知らないメンバーを覚えていくのもそう遠くはないだろう。

3日の午後は12月10日ライヴのコンサート。指揮はクリスティアン・ティーレマン。ヴァイオリニストはギドン・クレーメル。他に独唱者4名とベルリン放送合唱団。曲目は「グバイドゥーリナ:ヴァイオリン協奏曲“今この時の中で”」、「ブルックナー:ミサ曲第3番」。
現在における世界最高の指揮者の一人ティーレマンの名声を知って20年にもならない。彼はPMF1993年に来札してサンタチェチーリア国立アカデミー管を指揮していた。同年にはエッシェンバッハ指揮同管の演奏会に行っていた。エッシェンバッハはその後も聴く機会の数多い指揮者だが、ティーレマンはその当時は34歳の若手でボローニャ・コムナーレ劇場首席客演指揮者で、21世紀に入って頭角を現した。札幌での彼の演奏会を聴くチャンスを逃したのは今でも残念でたまらない。
クレーメルは01年に彼の室内管弦楽団クレメラータ・バルティカを率いてKitaraに登場し、14年にもオーケストラのソリストとして来札した。今回のベルリン・フィル登場は約10年ぶりだそうである。1981年にはソ連の女性作曲家グバイドゥーリナから献呈されたヴァイオリン協奏曲“オッフェルトリウム”を初演したという。当時はソ連の作曲家協会が彼女の作品を拒否したため国内では無名であったらしい。この作品が西側で反響を呼び起こしてから25年後、彼女は「ヴァイオリン協奏曲第2番」を作曲してアンネ=ゾフィ・ムターに献呈した(2007年)。ソロ・ヴァイオリンの冒頭部分でB-A-C-Hの半音階を奏でるというからバッハを意識しての作品なのだろう。フルート、クラリネット、ハープ、チェレスタ、打楽器に加え4人のソロ・ヴィオラも入る曲は変化があって興味深い。ヴァイオリンの日々ア独特で人々の苦悩の叫びにも聞こえる。旧ソ連を出て現在ドイツに住む作曲家の名は7・8年前から耳にしていた。
演奏前の英語でのインタヴューでクレーメルは彼女にヴァイオリン曲を書くように勧めていたが、すっかり忘れてしまっていたと述べた。推測だが作曲家は結果的にこの作品をムターに捧げることになったのかも知れない。その後は作曲家との交流も続いて今作品はクレメータ・バルティカをはじめとして演奏会で何回も取り上げているという。ベルリン・フィルのオーケストラとは一味は違うのかもしれないと思った。インタヴューでクレーメルらしい主張をしていた。それぞれの演奏家によって表現の仕方が違う演奏を同じような角度から言及されることへの反骨心は彼の書物で知る人物像と重なった。今年で70歳を迎えるクレーメルが来札する機会も再びありそうである。とにかく初めて聴いた作品はとても印象に残った。

ブルックナーの曲にはあまり親しんでいなくて、ましてや「ミサ曲」は初めて聴いてみた。70分の大作。ベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」などミサ曲はヨーロッパの教会音楽で親しむのは容易ではない。荘重な音楽でティーレマンはブルックナーを得意としているらしい。1959年生まれでルイジ、メスト、パーヴォ、ガッテイとほぼ同年代の中堅。さすが若々しく堂々たる指揮ぶりでベルリン・フィルも熱演。
ティーレマンの特徴を味わうには聴きなれた交響曲を何曲か聴いてからになるだろう。

年末年始は聴きたいライヴのコンサートがないことで、かなりの時間が空いた。つい、普段は書かないことも長々と書き綴った。
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Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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