前橋汀子アフタヌーン・コンサート2016

2005年に東京のサントリーホールで始まった「前橋汀子アフタヌーン・コンサート」。前橋の演奏活動50周年を記念して2012年から毎年アフタヌーン・コンサートが全国各地で開催されるようになった。札幌では公園の木の葉も色付き始める9月最後の日曜の午後に開かれている。
小品を中心にした親しみやすいプログラムのリサイタルを聴き始めて5年目。毎回聴きに出かけるほどではないと思いつつ毎年Kitaraに通っている。2年前には聴きごたえのあるバッハの無伴奏ヴァイオリン組曲全曲演奏会もあった。

〈Program〉
 J.S.バッハ(ヴィルへルミ編):G線上のアリア
 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調 Op.78 「雨の歌」
 J.S.バッハ:シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV1004より)
  ドビュッシー(ハルトマン編):亜麻色の髪の乙女
 クライスラー:中国の太鼓
 シャミナード(クライスラー編):スペインのセレナーデ
 サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ Op.28
 マスネ:タイスの瞑想曲
 《懐かしの名曲集》 丸山貴幸編
    枯葉~“ウエストサイド・ストーリー”より「マリア」~イエスタディ
    ~“オペラ座の怪人”より「序曲」~愛の讃歌 
 ブラームス:ハンガリー舞曲第1番、第5番
                             (ピアノ/ 松本 和将)

例年のコンサートの前半のプログラムはソナタが2曲。今回の最初のプログラムは追悼の曲にも演奏される「G線上のアリア」。熊本震災をはじめ災害で亡くなられた方々に対しての追悼の意も込められているのかもと思った。

ブラームスはこの30年の間で親しむようになり彼の交響曲を始めピアノ曲・ヴァイオリン曲を好んで聴くようになった。ヴァイオリン・ソナタ3曲は2000年にムローヴァのCDで聴き始めた。その後、10年近く経ってピアノがアンデルシェフスキが弾いているのを知った。(*2011年に彼のリサイタルを聴きにサントリーホールに出かけた。)2013年にはムターの来札の折にブラームスのソナタ入りのCDを購入してサインを貰った思い出もある。「第1番」は特に気に入って親しんでいる曲である。明るくて幸福感に満ちておりシューマンの妻クララを慰めたようとした作品と言われている。憂愁を帯びたメロディも印象深い。

「シャコンヌ」はバロック時代におけるヴァイオリンの最高傑作として知られ、《無伴奏パルティータ第2番》の第5楽章。威厳のある主題と30の変奏から成る壮大な音楽。前橋は12年と14年にヴィタ―リの「シャコンヌ」を弾いた。バッハの「シャコンヌ」はブゾーニなどの編曲でピアノ曲として演奏されることも最近は多いと思う。しかし、バッハの曲と感激度が違う。いつ耳にしても素晴らしい音楽。前橋の演奏は真摯で情感が豊かである。

後半のプログラムは小品集。「シャミナード:スペインのセレナーデ」と《懐かしの名曲集》は前回までのアンコール曲として演奏された。演奏プログラムに入れたのは初めてだろう。誰もが耳にしたことがある名曲をメドレーで聴けて懐かしかった。5曲をつなげて1曲に編集した試みを興味深く感じた。

年配の客が多かったが、「序奏とロンド・カプリチオーソ」の演奏後の歓声と拍手が一段と大きかった。華麗な曲と高度なテクニックに魅了されてブラボーの声が上がってホールも盛り上がった。最後の「ハンガリー舞曲」で1000名弱の客も大満足の様子。ブラームスの情熱に溢れた第1楽章が終わった時に2階CB席あたりから曲終了と勘違いした人が多数いたが、前橋の軽く礼をする態度は好感が持てた。(以前の演奏会でも同様な反応をしたことがあった。)初めてコンサートに来る人もいるだろうが、周囲の状況を見て反応しても遅くはないと思う。

アンコール曲は①エルガー:愛の挨拶、②ショパン:ノクターン第2番、③クライスラー:愛の喜び。アンコール曲の紹介以外には余計な言葉は一切なく、若々しいエネルギッシュな演奏をするのが彼女の持ち味。あと1曲と指で合図して3曲目を弾いた。鳴りやまぬ拍手に最後はピアニストとともにステージ下手、上手の客席に近寄って挨拶する姿は好印象を与えた。






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外山啓介ピアノ・リサイタル2016 ~ベートーヴェン&リスト~

2005年にKitaraで聴き初めてから欠かさずに聴き続けている外山啓介のコンサートも今回が15回目になる。外山は2007年に正式にデビューして《Keisuke Toyama Piano Recital》として全国ツアーが国内十数か所で始まり、毎年1回定期的に開催されている。

日曜日の午後1時過ぎに地下鉄中島公園駅を降りる人の数が多くて、まるで札響定期演奏会に向かう人たちの群れのようであった。大ホールで開催される人気のある演奏家のリサイタルも10年も経つと聴衆が減っていくのが普通である。外山のコンサートはここ数年は夜に開催されていた。今日は日曜日の昼開催で参加しやすく、当日券を求めて並んでいる人の姿も多くA席は売り切れでS席のみ残っているようであった。1階は満員。最近のリサイタルで2階RA・LA席が満席状態になるのは見たことがなかった。2階のS席に少し空きがあるとはいえ約1300名の大入りであった。それだけに客の高揚感もありホールの雰囲気も良かった。

2016年9月18日(日) 13:30開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

〈Program〉
 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調 op.27-2 {月光」
           ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 op.31-1 「テンペスト」
 リスト:愛の夢~3つのノクターン~ S.541
     ラ・カンパネラ (パガニーニによる大練習曲第3番) 嬰ト短調S.141-3
 ワーグナー(リスト編):イゾルデと愛の死 S.447
  リスト:バラード第2番 ロ短調 S.171

前半はベートーヴェン、後半はリストのプログラム。
ベートーヴェンの3大ソナタの中から1曲と7大ソナタに入る1曲。コンサートで「悲愴」、「月光」、「熱情」が定番で、「ワルトシュタイン」が入る時もあるが、「田園」や「告別」などは演奏されることはめったにない。「テンペスト」の選曲はそういう意味で新鮮味があった。
ベートーヴェン自身が付けた“幻想曲風ソナタ”は第1楽章が静かで抒情的な調べで親しまれているが、今日は第3楽章のダイナミックなフィナーレがより印象に残った。

ピアニスト自身によるとコンサートで「テンペスト」を取り上げるのは初めてだそうである。3楽章すべてがソナタ形式で書かれ、暗く劇的で緊迫感のある曲の流れ。シェイクスピアの戯曲とは直接の関係はないのだろうが、つい関連付けて聴いてしまう。10年ほど前にハイドシェックの演奏で興味を抱いた作品。やはり外山の演奏では彼なりのピアノの世界に引き込まれた。

《愛の夢「第3番」》はコンサートで演奏機会の多いリストの名曲でCDにも多く収録されている小品。ショパンのノクターンを思わせる曲として親しまれている。もともと3曲は歌曲だと知ったのは10年ほど前の地元のゾンゴラコンサート。その後、“3つのノットゥルノ”と副題がついた「愛の夢」のCD(ピアノ:ミシェル・ダルベルト)を手に入れた。
第1曲と第2曲の原曲はドイツの詩人ウーラントの「気高き愛」、「聖なる死」。2曲とも歌謡的な色彩が強くてピアノ曲としては少し盛り上がりに欠ける感じ。第3曲のメロディが最も親しまれている《愛の夢》。ドイツ・ロマン派の詩人フライリヒラートの詩集〈墓の間で〉の中にある「愛し得る限り愛せ」による歌曲。冒頭の美しいメロディが曲全体を通して流れ愛を賛美する。

「ラ・カンパネラ」の原曲はパガニーニのヴァイオリン協奏曲第2番の第3楽章〈鐘のロンド〉。超絶技巧を凝らした華麗な作品はリストならではのピアノ曲。鐘の音を模した主題と変奏が繰り返されリズミカルに響き、演奏が終ると大歓声が沸き起こった。それまでおとなし過ぎた聴衆が聴き慣れた調べと生演奏の醍醐味を味わって一気に反応した。

ワグナーの楽劇《トリスタンとイゾルデ》第3幕の終盤、イゾルデが愛の幻想の中で死にゆくモノローグをリストが編曲した。以前コンサートで聴いたことがあったがCDは所有していないと思っていた。河村尚子のショパン:バラード集のCDにリストによる編曲も組み込まれているのに気づいた。早速一昨日聴いてみた。イゾルデの感情の起伏や回想が興味深く表現されていた。実人生でのリストとワーグナーの関係を思うと複雑であるが音楽は超越した芸術なのだろう。

最後の「バラード第2番」の曲はCDで一度聴いたことになっていたが、CDが見つからなかった。帰宅後にリストの10組のCDボックスがあるのでが分った(*チッコリーニの演奏による輸入盤)。リストが遺したバラードの曲に通じていなかった。
プログラム・ノートには演奏至難の曲と書かれていた。外山の演奏はドラマティックで親しみやすい曲として聴けた。最後の演目が終って聴衆の盛大な拍手の後で、外山が述べた言葉があった。「バラード第2番は高校生の頃ピアニストへの道を諦めかけた時期に立ち直る切っ掛けを与えてくれた思い入れの深い作品です。故郷の地でこの曲を皆様に聴いていただけたことを幸せに思います。」と語った。

アンコール曲は「ドビュッシー:ロマンティックなワルツ」。

※リストの曲名あとの「S番号」はサールによるリストの作品整理番号である。








札響第593回定期演奏会~ポンマー渾身のレ―ガ―とモーツアルト~

《札響創立55周年 荒谷正雄メモリアルコンサート》
〈レ―ガ―没後100年記念プログラム〉

Max Reger(1873-1916)の名はベルリン・フィルのソロ・クラリネット奏者、カール・ライスターのCDを通して知った。カラヤン時代にベルリン・フィルで活躍したライスターの演奏活動50周年記念に5枚組で発売された記念CDボックスの中に「レ―ガ―:クラリネット五重奏曲 作品146」が収録されていた。レ―ガ―は43年の生涯の間に非常に多くの作品を書き残した。彼はオペラを除いて、あらゆる種類の音楽を手掛けた。それらの作品でピアニストとして加わり、指揮活動も行った。モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスなどの伝統的なドイツ音楽を引き継ぐ作曲活動を行い、1907年にはライプツィヒ大学の音楽監督と音楽院の作曲科教授に就任。後輩のポンマーがレ―ガ―の作品に光を当てようとして今回のプログラミングを行なったと推測される。

昨日、今日と2日間Kitaraでダイレクト・メールの発送作業活動に携わった。2日続けての活動は久しぶりであった。海外での仕事が多かった人の話が聞けたり、一昨日の遠藤郁子のリサイタルを聴いた人と感想を話し合ったりして良い交流が出来た。今日は午前中だけのボランティア活動のあと、いったん帰宅せずにKitaraテラスレストランでランチと食べて、午後のコンサートに備えた。

2016年9月17日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
 
指揮/マックス・ポンマー(Max Pommer)  オルガン/室住素子(Motoko Murozumi)
独唱/秦 茂子(Shigeko Hata, soprano)、 竹本節子(Setsuko Takemoto, mezzosoprano)
    清水 徹太郎 (Tetsutaro Shimizu, tenor)、 三原 剛(Tsuyoshi Mihara, baritone)
合唱/ 札響合唱団(Sapporo Symphony Chorus) 合唱指揮/長内 勲(Isao Osanai)

〈Program〉
 レ―ガ―:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ op.132
序奏とパッサカリア ニ短調  *オルガン独奏曲
 モーツァルト:レクイエム ニ短調 (ジュスマイヤー版)

コンサートでレ―ガ―の作品を最近聴いた記憶は無い。1年に1度あるかないかだが、今日は偶々開演30分前のロビーコンサートを最初から最後まで聴いた。「レ―ガ―:セレナーデ 作品141aより第1・3楽章」。モーツァルトとドビュッシーの色合いが何となく感じられる作品が正式の演目の前に聴けて良かった。
「モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ」は1914年に完成された作品。主題が奏でられた途端に親しみを感じた。モーツァルトのピアノ・ソナタK.331の第1楽章の有名な主題と8つの変奏曲と自由なフーガから成る作品。簡素な楽器編成だが伝統的なドイツ音楽を継承して新しい音楽作りを目指した曲作りが解った気がした。札響初演。

レ―ガ―のオルガン作品はバッハの作品などとともにドイツの教会では盛んに演奏されているという。室住素子は室蘭出身のオルガ二ストとして世界的に評価されているオルガにスト。2008年エリシュカ指揮大阪フィル、2009年アルミンク指揮新日本フィルと共演。2010年小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラのカーネギーホール公演に出演。
Kitaraには専属オルガニストがいることもあって日本人オルガ二ストの活躍を見る場面が極めて少ない。バッハの作品のような重厚で壮麗な響きで違和感なく聴けた。
10分程度の曲とはいえオルガン独奏曲はP席を空席にした方が良かったのではないかと思った。

モーツァルトの「レクイエム」はレ―ガ―を高く評価するポンマーにとってレ―ガ―に対する追悼曲の意味もあるように思った。レクイエムと言っても“安らかな眠りを祈る”ための曲ではない。10年ほど前に手に入れた時に1回耳にしただけの「モーツァルト:レクイエム」を一昨日聴いてみた。合唱の力強さに驚いた。歌っている人たちは気分が良いだろうなと思うほどの合唱の素晴らしさだった。(バイヤー版によるネヴィル・マリナー指揮アカデミー&コーラス・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズのCD)。レクイエムは個人的にはあまり好みの曲ではないが面白さを味わった。

モーツァルトは死の前日までレクイエムの作曲を続けたが作品は未完に終った。補筆完成の仕事はモーツァルトの弟子ジュスマイヤー(1766-1803)が行った。作品は8曲構成。第1曲は全部モーツァルトの作曲、第2~4曲の一部がモーツァルトの真筆で他は補筆。
第1曲と第8曲にソプラノ独唱、第3・4・6曲に4重唱が入るが、第1~8曲の最初から最後まで合唱が加わる。プロ歌手の歌声も見事だったが約90名の迫力ある合唱が素晴らしかった。35名ほどのオーケストラ奏者の約3倍の人数を要しての合唱が圧倒的であった。約50分もかかる大曲をラテン語で歌い続けるのは大変だったであろうが合唱団は充実感を味わったのではないだろうか。 
最後の審判、つまり神の怒りの日における神の裁きは死者の身の上に起こる他人事ではなく、死者の追悼を行なう者自身の身に降りかかるかも知れない。悲しみに身を置くだけの曲ではない感じを受けた。

ポンマーは演奏終了後にソリストたち、合唱指導者と合唱団やオーケストラへの称賛を惜しまない姿も印象に残った。同時にミサ曲は普通のオーケストラ曲とは違った感激を聴衆に与える印象も持った。

本日のプログラムのしめくくりに無伴奏合唱で《レ―ガ―8つの宗教的歌曲op.138より 第3曲「夜の歌」》が歌われた。

遠藤郁子ピアノ・リサイタル「ショパン序破急幻」

Ikuko Endo Piano Recital 「ショパン序破急幻」 ~亡夫 田中克己を偲んで~

昨年3月の東日本大震災被災者支援コンサートに続いて聴く今回の遠藤郁子コンサートは彼女の夫の三回忌供養で開催された。彼女のピアノ演奏を初めて聴いたのが1992年だった。カジミエシュ・コルト指揮ワルシャワ・フィルとの共演で「ショパン:ピアノ協奏曲第2番」を弾いた。当時コルトから“日本人で唯一のショパン弾き”と高い評価を得た。95年にはCD「ショパン序破急幻」をリリース。
彼女の音楽活動で注目したのが阪神大震災、特にサリン事件被害者に寄り添う支援活動で“癒しのピアニスト”の評価が高まった。彼女自身が陥いった人生の絶望の淵から奇跡的に復帰して生命への無限の愛を表現するピアニストとして注目を浴びたのだと思う。
2000、01、03年とKitara大ホールで続けて彼女のリサイタルを聴いた。オール・ショパン・プログラムが多くて特にショパン「序破急幻」という耳慣れないタイトルの付いた演奏会は何か特別な世界に導かれたようであった。着物姿での演奏は昨年久しぶりに拝見して、彼女独特のピアノの世界に浸った。

2016年9月15日(木) 7:00開演  ふきのとうホール

〈プログラム〉 
 ノクターン 第5番 嬰へ長調 op.15-2 「高砂」(たかさご)
 ノクターン 第7番 嬰ハ短調 op.27-2 「清経」(きよつね)
 バラード 第2番 ヘ長調 op.38 「箙」(えびら)
 ノクターン 第13番 ハ短調 op.48-1 「巴」(ともえ)
 バラード 第3番 変イ長調 op.47 「杜若」(かきつばた)
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 ノクターン 第17番 ロ長調 op.62-1 「羽衣」(はごろも)
 バラード 第1番 ト短調 op.23 「葵上」(あおいのうえ)
 ノクターン 第15番 ヘ短調 op.55-1 「俊寛」(しゅんかん)
 バラード 第4番 ヘ短調 op.52 「通小町」(かよいこまち)
 ノクターン 第18番 ホ長調 op.62-2 「泰山府君」(たいさんぶくん)

開演前に15分間ピアニスト自身によるプレトークがあった。「序破急」は日本古来のテンポとリズムということを初めて知った。〈「序」はゆっくりと始まり「破」のリズミカルな響きにつながってゆく。やがてリズムもテンポも速く激しくなり「急」になって流れも終曲に近づく。全ての日本文化はこの「序破急」で成り立っており、大陸の文化とは異なる。〉
CD『ショパン序破急幻』は同名の田中克己(*遠藤の亡夫)写真集『薪能 序破急幻』から着想したそうである。今回のリサイタルの各曲に能の演目がつけられていて、プログラム・ノートに遠藤自身の書いた解説が載っていた。彼女の人生とショパンの人生を重ね合わせ、同時に能の代表的な演目を通して故田中克己との幸せな生活を振り返って彼へ感謝を捧げる献奏となる趣旨のリサイタルであった。

聴き慣れた曲ばかりだった。バラード全4曲は今年もユンディ・リと辻井伸行のリサイタルでも聴いたが遠藤郁子のショパンはやはり彼女特有の味がある。彼女の人生が色濃く滲み出る音楽になっていた。客席数が221(横17列、縦13列)の小ホールはチケット完売で立派な椅子の補助席が最後部に17席用意されるほどの大盛況であった。

※バラードのプログラム・ノートに注目したので記録に留めておく。
第1番「コンラード・ウォレンロード」。ポーランド人ウォレンロードは宴会で古事を語り、圧政者に死を与えるため癩やその他の疫病を偽りの抱擁で伝染、死に至らしめた件を語り、自分にも今それが可能であることを居並ぶ圧政者に告げる。祖国の悲劇の復讐伝説。
第2番「ウイリスの湖」。湖畔で遊ぶポーランド乙女たち。そこへなだれ込むロシア軍。神はそのあまりの酷さに大地を開き乙女らを吞み込んだ・・・・。後にそこに咲いた花を手折る者に災いあれ。
第3番「水の精」。湖畔で若者は乙女に永遠の愛を誓う。疑う乙女は水の精に変身。若者は誘惑に負けて水の精にも愛を誓う。二重の誓いの罰で若者は深い湖に投げ込まれ、掴まえられぬ水の精を永遠に追う運命となる。
第4番「3人のバドリス」。リトアニアのバラード。父の命令で3人兄弟が遠い国へ宝探しの旅へ出た。長い時が過ぎて父は兄弟の死を想ったが、ある嵐の日に3人の息子達はそれぞれ花嫁を連れて戻ってきた。しかしショパンの音にはハッピーエンドが感じられない。

第15回「札響くらぶサロン」(オーボエ/ミニコンサート)

サロンのミニコンサートは2015年1月の第9回から始まった。第10回のミニコンサートは札響ホルン副首席奏者の山田圭祐さん(現札響ホルン首席)をゲストに迎えて同年5月に開催された。“角笛”から“狩りのホルン”を経て“ヴァルブ・ホルン”へと進化してきた図入りの資料と解りやすい話が印象に残っている。演奏曲は「ベートーヴェン:ホルンとピアノのためのソナタ」、「シューマン:ホルンとピアノのためのアダージョとアレグロ」。その後、彼の活躍ぶりをKitaraのコンサートで観て頼もしく思っている。演奏を近くで聴いて演奏者を身近に感じられるのはミニコンサートの醍醐味である。

第11回から第14回までは体調などの理由で残念ながら参加できなかった。第15回のサロンが会場を「豊平館」にして開催されて1年ぶりに参加した。

011 (300x225) 修復工事前の豊平館(HOHEIKAN)

国指定重要文化財《豊平館》は明治天皇の北海道行幸に際して北海道開拓使が1880年(明治13年)建築した洋風ホテルである。所在地は北1条西1丁目。明治14年8月30日開館。明治43年に宮内省が札幌区に貸下げ。明治44年の皇太子殿下、大正11年の摂政宮殿下の行啓の宿泊所となった。1958年(昭和33年)同地に札幌市民会館建設のため、現在地の中島公園に移築。1964年、国の重要文化財に指定された。2012年より4年の歳月をかけて耐震化工事が行なわれ、2016年6月末新装開館。

7月中旬にKitaraボランティア活動の帰りに新装なった館内を見て回り修理の様子などを収めたビデオ鑑賞を含めて2時間ほどの時間を過ごした。豪華な雰囲気が漂う静かな館内は結婚式などで以前入館した時や食事会で使用した時とは違う文化財の素晴らしさを味わえた。7月28日には〈PMF豊平館コンサート〉の会場として100名限定の無料コンサートの開催で人気を集めた。

札響くらぶのミニコンサートは札幌市教育文化会館4階の会場を借りて行なわれていたが、会場確保が難しくて今回は「豊平館」が会場となった。リニューワル工事も終わって訪れてみたいと思った人も多かったようで毎回40名程度の参加者が倍増したようであった。サロンには札響くらぶ会員だけでなく、その家族・友人・知人も参加できることになっている。

第15回札響くらぶサロンは9月11日(日)午後5時半開始。この日はKitaraで堤剛チェロ・リサイタルが開催され終了時間が5時半になってしまいコンサート終了後直ちに同じ公園内の会場に駆け付けた。少々遅れて到着したが2階の広間はもう大勢の人が集まっていて担当者がプログラムの内容を説明していた。
 
第1部は[札響定期演奏会プレトーク]、第2部は[ミニコンサート] 、第3部は[交流パーティ ]。
 
サロンのナビゲーターは毎回おなじみの日本作曲家協議会会員の八木幸三さん。11月定期演奏会の『ワーグナー:ニーべルングの指環』を中心に1時間ほどのトーク。4部作の楽劇《ラインの黄金》、《ワルキューレ》、《ジークフリート》、《神々の黄昏》を順に追って画面に準備した人物像を示しながら大まかなストーリーを彼特有のユーモアをまじえながら話してくれた。4部作のオペラの上演は15時間にも及ぶもので各作品の上演に3時間以上もかかる楽劇は断片的にしか理解していない。そういう点では極めて解りやすい説明で概要が分った。トークの合間に「ワルキューレの騎行」、や「ジ―クフリートの葬送行進曲」などの音楽もかけられたが残念なことに音響が良くなかった。この会場ではある程度予想されたことで今回のプログラムでは大きな影響はなかったと言えよう。
八木先生の話は毎回笑いを誘う場面が多くて今回は特に面白い話の展開で興味深く思った人が多いようであった。

ミニコンサートのソリストは札響オーボエ首席奏者の関美矢子さん。東京藝術大学卒業。ローマ・サンタチェチーリア国立オーケストラ管楽器コースで研鑽を積み、桐朋オーケストラ・アカデミー研修課程修了。神奈川フィル契約団員を経て、2016年4月より現職。
 
演奏前にオーボエの楽器演奏に欠かせないリード作りについて詳しい説明がなされた。リードの材料となる葦はドイツ・フランス・トルコなどから輸入して奏者自身が自分に合ったリードを何十本も作り上げているとされる。
演奏曲は「バッハ:オーボエ・ダモーレ協奏曲 BWV1055より第1楽章」、「シューマン:3つのロマンス Op.94」、「バッハ:G線上のアリア」、「メンデルスゾーン:歌の翼に」、「サン=サーンス:ソナタ Op.166より第2・3楽章」。最初の2曲の後にピアノ伴奏者(池田茜さん)が「ショパン:幻想即興曲」の親しまれたメロディを華やかに演奏。
アンコール曲に吹かれた「サン=サーンス:白鳥」の音色が会場を優しく包んだ。

絨毯が敷かれた広間で耳にする心地よい音楽もまた特別であった。ミニコンサートの終了後の交流会ではワイン、ビールを飲みながら同じテーブルに居合わせたKitaraボランティア数人と親しく音楽の話に花が咲いた。ゲストの演奏家二人も各テーブルを回って言葉を交わす場面もあって良かったと思う。音楽を好きな人たちが交流の場を広げる貴重な機会ともなった。

サロン担当の方々のお世話に日頃から感謝している。次回も豊平館が会場で12月18日開催の予定になっている。



堤 剛 バッハ無伴奏チェロ組曲全曲演奏会

〈Kitaraワールドソリストシリーズ〉

堤 剛(Tsuyoshi Tsutsumi)は1942年、東京生まれ。日本のチェロ界というより名実ともに音楽界全体を〉代表する重鎮。1961年アメリカ・インディアナ大学に留学してシュタルケルに師事。63年カザルス国際コンクール第1位。インディアナ大学教授(1988-2006)、桐朋学園大学学長(2004-2013)を歴任。現在は霧島国際音楽祭音楽監督、サントリーホール館長を務めながら演奏活動も続ける偉大なチェリスト。
彼が1960年N響海外演奏旅行(70日間)のソリストとして中村紘子らとともに同行して欧米各地で公演を行なった報道はつい先ごろもなされCDもリリースされるようである。その後の堤の世界各地のオーケストラとの共演、リサイタルの活躍は述べるまでもない。

私が初めて彼のコンサートを聴いたのは1988年10月にスラットキン指揮ロンドン・フィルとの共演で「ドヴォコン」を弾いた。2回目は89年7月ダン・タイ・ソン、ヨーゼフ・スーク、堤剛の〈トリオの夕べ〉で「ノットゥルノ」、」「ドゥムキ」「大公」を聴いた。3回目は93年4月の札響定期で外山雄三指揮で「ショスターコーヴィチ第1番」だった。その後、20年以上も聴く機会がなかったのが不思議である。今回のプログラムでは忙しい職務の中でチェロを弾き続ける彼の人生の意気込みを肌で感じたい。

2016年9月11日(日) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

〈プログラム〉
 J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 
     第1番 ト長調 BWV1007、 第5番 ハ短調 BWV1011、    
      第2番 ニ短調 BWV1008、  第6番 ニ長調 BWV1012、
     第4番 変ホ長調 BWV1010、 第3番 ハ長調 BWV1009

バッハの無伴奏チェロ組曲は2000年頃にヨーヨー・マの第1・3・5番を購入し、その後カザルスの全曲盤を購入し、間もなくマイスキーの第2・4・6番を手に入れようと思ったが店頭で見つからなかった。やむなくマイスキーの第1・3・5番のCDを手に入れることになった。CDで一時よく耳にしたが演奏会で聴く機会は無かった、近年は家で聴くこともめったになかった。国内では上森祥平をはじめ海野幹雄、宮田大などの無伴奏チェロ組曲の演奏会が盛んに開催されるようになったようである。今回は日本の大御所・堤剛のリサイタルで聴き逃すわけにはいかなかた。

6曲から成る組曲の構成はアルマンド、クーラント、サラバンド、ジークという基本的な4つの舞曲に加えて第1曲に個性的な前奏曲と愛らしい自由な挿入舞曲がついている。挿入舞曲は第1・2番は1対のメヌエット、第3・4番は1対のブーレ、第5・6番は1対のガボット。極めてシステマティックで感心するほどの巧みな構成。

堤は以前の演奏会で曲の順番通りに演奏したが、後半に向かうほど高難度な技巧が凝らされた曲の演奏に後半は息切れがするほどであった体験に基づいて、曲の順番を入れ替えて今回の演奏会に臨んだようである。

第1番は曲集の冒頭を飾るにふさわしい清々しい音楽。最初の前奏曲が各曲の特徴を決定づけるものになっている。ドイツ起源のアルマンド、フランス起源のクーラント、スペイン起源のサラバンド、イギリス起源のジ―グが軸になって展開され、メヌエット、ブーレ、ガボットと呼ばれる舞曲が入るが細かいことは残念ながら区別できない。

2曲づつまとめて演奏して20分の休憩時間を2回入れて14時開始の演目の終了時間が17時20分。正味160分を要した演奏。カザルスの全曲演奏の時間は約130分だったので、前奏曲に味付けをしたり、繰り返しなどのメロディが増えているのかどうかは分らない。
チェリストの想いが伝わってくる演奏で何とか集中力を切らさないように努めて最初から最後まで聴けた。バッハの世界に入り込んで大曲を弾き切る堤剛の偉大さに驚嘆した。名実ともに日本の音楽界を代表する大家のKitara公演で聴衆の期待も大きく、かなり多くの音楽愛好家が客席を埋めた。演奏終了後の聴衆の反応も凄かった。
全力を使っての演奏で疲労困憊だろうと誰もが想像してアンコール曲はないだろうと思った。ところが2曲も演奏してくれた。体力、精神力も合わせて持ち続けて演奏力を維持していくのは至難の業ではないかと思った。音楽に見せた彼の姿勢に改めて感服した。
アンコール曲は「プロコフィエフ:マーチ」と「カザルス:鳥の歌」。

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札響名曲シリーズ2016-17 Vol.3 ライプツィヒ

〈森の響フレンドコンサート〉
今シーズン3回目の札響名曲シリーズの舞台はライプツィヒ。前2回はロンドン、ウィ-ン。

《ライプツィヒ》 ドイツ・ロマンの故郷

指揮/ マックス・ポンマー(Max Pommer)
ピアノ/ キム・ソヌク (Sunwook Kim)

ポンマーの故郷ライプツィヒはメンデルスゾーンとシューマンにゆかりの地でドイツ・ロマン派の作曲家たちがその芸術を花開かせた音楽の街。

〈Program〉
 メンデルスゾーン:「真夏の夜の夢」序曲 作品21
 シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 作品54
 ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲 作品56
 .R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」 作品20

メンデルスゾーン(1809-47)は1835年、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者となり、ショパンにクララ・ヴィ―クを紹介しシューマンにも出会った。36年、ライプツィヒ大学から名誉博士号を贈られ、43年にはライプツィヒ音楽院を設立した。シューマンもライプツィヒ音楽院に招かれ作曲とピアノの教授を務めた。

メンデルスゾーンはシェイクスピアの戯曲に関心を抱いて、特に幻想性にあふれた「真夏の夜の夢」に惹かれていたという。17歳の1826年にピアノ連弾用の作品として書かれ、直ちに管弦楽用に編曲されたのが「序曲」。43年に「真夏の夜の夢」の上演に先立って劇中音楽を依頼されて、全13曲の劇音楽が完成。通常のコンサートでは「序曲」のみか5・6曲から成る「組曲」が演奏されている。PMF2015ではメルクル指揮PMFオーケストラが組曲として演奏した。
※今年はシェイクスピア没後400年に当たる。『ロメオとジュリエット』が《プロコフィエフ:バレエ音楽》、《チャイコフスキー:幻想序曲》、《グノー:歌劇中のアリア》などの曲を通して親しめる機会である。

キム・ソヌクは1988年、ソウル生まれ。2006年リーズ国際ピアノコンクールで史上最年少の優勝者として世界的に注目を集めた。韓国は優れた若いピアニストを多く輩出しているが、今世紀に入って特に顕著な傾向である。

シューマン(1810-56)は音楽と文学で目覚ましい才能を発揮して、20代に多くのピアノ曲を書き上げた。(作品番号の1から23までは全てピアノ曲)。シューマンの「ピアノ協奏曲 イ短調」はアルゲリッチ&アーノンクールの名盤で聴き始めて名曲の素晴らしさを味わった。41年に書き始めて完成したのが45年である。神経系統の病気のため44年には音楽院の職を辞している。33年頃から鬱病に襲われていたが、病を乗り越えて人間の持つ様々な感情を曲作りに生かしたとも言えるようである。
この曲の冒頭部分で幻想の世界に導かれる。シューマンの心情が描かれる中で何となく憧れのような幸福感が広がる。ピアノとオーケストラの対話が絶妙である。繊細で鋭敏な表情が浮かび上がる。
45年12月にドレスデンで初演され、46年1月ライプツィヒにおいて妻クララのピアノで演奏された。当時の状況に想いを馳せて聴いた。
演奏終了後に聴衆から万雷の拍手が沸き起こった。キムもオーケストラに拍手を送るほど満足した様子だった。ポンマーが指揮するオーケストラとの対話がピアニストの思い通りに行なわれたと感じた。キム・ソヌクはアンコールに「ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女」を弾いて一層聴く者の感動を呼び起こした。世界的なコンクールを制して成長を続けるピアニストの演奏が聴けて良かった。

ブラームス(1833-97)は73年に初めて本格的な管弦楽曲として「ハイドンの主題による変奏曲」を書き上げた。翌年の74年に彼は初めてライプツィヒを訪れた。その後、76年に「交響曲第1番」が完成しているので彼の作曲人生に何らかの関わりがあるのかも知れないと想像した。彼はピアノ独奏曲で「ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ」や「パガニーニの主題による変奏曲」も書いているから「変奏曲」は得意の分野だったのだろう。
曲はアンダンテの主題と8つの変奏曲が続き、終曲が壮大なアンダンテ。管楽器の活躍が光った。

リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)は多くの交響詩を書いた。スペインの伝説的な人物としてドン・ファンは多くの芸術分野で取り上げられている。19世紀に活躍した詩人レーナウの作品を読んで主人公の心理的葛藤に共感して作曲したと言われている。1889年に作曲家自身の指揮で初演。曲のタイトルから想像力を巡らせて曲を鑑賞した。弦楽による明るい調べは「ドン・ファンの主題」、オーボエの優しい音色は「女性の主題」を表すのかと思った。トロンボーンやテュ―バが加わると管弦楽の響きに磨きがかかり壮大な音楽となる。本日のドイツ・ロマン派音楽のフィナーレを飾るにふさわしい曲であった。
(*年譜によると、この曲が書かれた頃にシュトラウスはライプツィヒでマーラーと会っている。)

アンコールに応えて「ブラームス:ハンガリー舞曲第6番」が演奏された。お互いの良好な関係が確立したポンマーと札響の相性の良さが印象つけられたコンサート。

※「荒城の月」の作曲で知られる滝廉太郎(1879-1903)は1901年(明治34年)文部省外国留学生としてライプツィヒ音楽院に入学した。1902年に肺結核を患って帰国を余儀なくされた。

森 麻季 ソプラノ・リサイタル

森麻季ソプラノ・リサイタルをKitaraで初めて聴いたのが2007年11月。森麻季はプラシド・ドミンゴ世界オペラコンテストのソプラノ部門で上位入賞を飾って類まれなコロラトゥラの美声と華やな容姿で一気に世界の注目を集めた。ドミンゴ、アラーニャなど一流オペラ歌手と共演。オペラ、オラトリオ、リートの分野で数多くの国際コンクール受賞を重ね日本の代表的なソプラノ歌手として確固とした地位を築いた。

待望のKitara初登場から10年近くが経って彼女のリサイタルを聴きたいと思っていた。今回はKitaraコンサート会場でチラシの案内は無く、“Kitara News”で「森麻季ソプラノ・リサイタル」公演を知った。〈札幌友の会〉主催の音楽会だったので前回より低料金で聴けた。(*《友の会》は羽仁もと子が創刊した雑誌「婦人乃友」の愛読者によって昭和5年に創立され全国各地に生まれた団体)。組織がしかっりしているので内部広報が中心で外部での宣伝活動は余り行なわないで公演が開催された。

2016年9月6日(金) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
 
 札幌友の会 大人の音楽会
    森麻季 ソプラノ・リサイタル 
      ~愛と平和への祈りを込めて~    ピアノ/ 山岸茂人

《Program》
 菅野よう子:“花は咲く” ~NHK「明日へ」 東日本大震災復興支援ソング
 久石 譲:“Stand Alone” NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」メインテーマ
    〈ピアノソロ〉 シューベルト=リスト:「万霊節の祈禱」 
 モーツアルト:『レクイエム』より  「涙の日」
 ヴェルディ:『レクイエム』より  「涙の日」
 フォーレ:『レクイエム』より  「ピエ・イエス」   
    〈ピアノソロ〉 ドビュッシー:《映像第2集》より “葉末を渡る鐘の音”
 ヴェルディ:『レクイエム』より  「その日こそ怒りの日、災いの日、大いなる悲願の日~主よ、永遠の休息を彼らに与えたまえ~天地が震い動くその日、主よ、かの恐ろしい日に我を永遠の死から解放したまえ」

 べッリーニ:歌劇『清教徒』より  “ここであなたの優しい声が”
    〈ピアノソロ〉 ショパン:べッリーニの『清教徒』の行進曲による変奏曲
 べッリーニ:“激しい希求”、 “フィッレの悲しげな姿”、 “優雅な月よ”
 べッリーニ:歌劇『カプレーティ家とモンテッキ家』より “ああ、幾度か”
    〈ピアノソロ〉 ショパン:ノクターン第8番 変ニ長調 作品27-2
 べッリーニ:歌劇『夢遊病の女』より “あぁ、花よ、お前がこんなに早くしぼんでしまうなんて・・・”

開演20分前には会場に着いたがエントランスホールは入場中でも多くの客が列をなしていた。全席自由席なので1階席と2階正面CB席を求めて開場前から並んだ人々が予想以上に多いようだった。開演15分前には2階RA・LA以外はほぼ満席状態で1000名ぐらいは既に入場していた。5000円前後のコンサートが3000円で聴けると予想以上に客が集まる。(*今週末の大阪のコンサートは5000円。)

入場時に手渡されたプログラムは予想外だった。2部構成で前半は『レクイエム』、後半は『べッリーニ』。オペラのアリア、リート、日本の歌曲を予想していた。
始めにソプラノ歌手が台風で亡くなられた方々に哀悼の意を表し、被災者に見舞いの言葉を述べた。2011年の東日本大震災をはじめとする多くの災害に直面する社会で、彼女が《愛と平和への祈りをこめて》プログラミングをしたものと思われる。総花的な曲目にならずにポイントが絞られた演目になったのは評価できると思った。

「レクイエム」はそれほど好みでないので、普段は聴いていない。これらの作曲家の名高いレクイエムの曲はタイトルだけは知っている程度である。「モーツァルト:レクイエム」は今月の札響定期の演目になっているのでタイミングは良かった。
第1部のプログラムでの彼女の重量感のある衣装が豪華であった。曲の前にマイクを握って話す言葉がほとんど聴き取れないのが残念であった。

べッリーニ(1801-35)はロッシーニ、ドニゼッティと並ぶベルカント・オペラで有名なイタリアの作曲家。最大の傑作は「ノルマ」で「夢遊病の女」、「清教徒」、「カプレーティ家とモンテッキ家」なども良く知られた作品。彼のオペラをMETビューイングで一度は観てみたいと思っているのだが未だ機会は無い。「カプレーティ家とモンテッキ家」は藤原歌劇団によって今週末に東京で上演される。

べッリーニは長くてゆったりとして感情をこめて歌う旋律が多いと思った。透明感のある美しい歌声の連続で森麻季のコロラトゥラを駆使する歌唱の場面がなかったのが惜しまれた。第1曲『清教徒』での有名なアリアで聴かせる場面の歌の直後に“ブラボー”の力強い歓声が上がったが、“ブラヴァー”の方が相応しい場面だと個人的な感想を抱いた。いずれにせよ盛り上がりを見せたオペラ待望のアリアであった。

後半からRB席に移動していた。ショパンはべッリーニやロッシーニのオペラを観に足しげく劇場に通った話をピアニストがしてくれた。ショパンのピアノ曲も彼らの影響を受けたのだろうと思った。
山岸茂人(Shigeto Yamaginishi)は東京藝術大学卒業後、同大学院修了。声楽の伴奏者して活躍中。二期会イタリア研究会ピアニスト。
歌唱の合い間に入ったピア二ストの小品と彼のトーク。最小限の彼の話はハッキリ聴き取れて演奏とともに良かった。

1100名ほどの聴衆が集まったことで歌手も心をこめて全曲を歌い切ったが、ほっそりとした体形で十数曲も歌いこなすのはデビュー当時と違って大変なのだろうと思った。外国の歌手は男性・女性を問わず立派な体躯が必要とされているように思う。最後のアリアも名場面で素晴らしい演唱であったが、聴き慣れた曲でないと客の反応が十分でないのは止むを得ないところ。もちろん盛大な拍手がおくられた。

アンコール曲に①Rolf Lorland:You Raise Me Up.(*英語の曲で以前、ポップ歌手がアンコール曲に歌った。彼女の好きな曲でプラグラムには入れづらいので、アンコール曲として歌ったのかもと余計な想像をした。)
②グノー:歌劇『ロメオとジュリエット』より「私は夢に生きたい」。森麻季が使い切った喉の調子を心配しながら歌い切った曲。コロラトゥラを駆使した高音域の見事な歌唱で本日Kitaraに詰め掛けた聴衆も大感激! 期待した大迫力の歌声が最後に聴けて聴衆の拍手喝采がしばらく鳴りやまなかった。








伊藤光湖ヴァイオリン・リサイタル

伊藤光湖ヴァイオリン・リサイタルは2007年7月に北海道立三岸好太郎美術館で開催された折にKitaraボランティアの仲間と一緒に聴きに行ったことがあった。彼女は北海道出身のPMFアカデミー修了生として音楽祭の折に札幌でコンサートを開いていた。美術館での絵画鑑賞と合わせて音楽鑑賞をするのも面白いと思った。30分のミニ・コンサートの後で地元新聞のインタヴューを受けて感想を述べたが、私の言葉は記者自身が勝手に書いた内容に変えられていた。伝聞での記事は正しくないことが多いことを経験しているのであまり気にもしなかった。10年前のコンサートを思い出して余計なことを書いてしまった。

数年前から彼女のコンサートが9月の初旬に開かれ、ヴァイオリン曲としては珍しい小品がプログラムに入っていてスケジュールの調整が出来れば聴きたいと思っていた。ヴァイオリニストの母の書家から紹介されて妻がコンサートに2年続けて出かけていた。今年は6月から彼女の本格的なリサイタルを聴く予定を立てた。

2016年9月3日(土) 14:00開演  札幌市生涯学習センターちえりあホール

〈プログラム〉
 モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第42番 イ長調 KV526
 グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第2番 ト長調 作品13
 バッハ:オルガンのためのトリオ・ソナタ BWV525より 「アレグロ」
 ボザ:アルトサックスのためのアリア
 ファリャ(伊藤光湖編):組曲「三角帽子」より “終幕の踊り(ホタ)”
 伊藤光湖:アネクドット(小さなお話)第9番
 ヴィエニアフスキー:コンサートポロネーズ第1番 ニ長調 作品4

モーツァルト(1756-1791)のヴァイオリン・ソナタは30曲ほど収録されているアッカルドのCD集を持っている。番号を見て曲の多さに改めて驚いて手元にないと一瞬思ったがKV526は何度か耳にしている。1787年に書かれ、モーツァルトが書いた最後から2番目のヴァイオリン・ソナタ。ベートーヴェンのクロイツェル・ソナタの前兆となるような曲で同じイ長調。ピアノとヴァイオリンが対等に渡り合い深みのある重厚な曲。伝統的な3楽章構成で静かで瞑想的な第2楽章の後の生き生きとした妙技の第3楽章が印象的である。モーツァルトのソナタのなかで聴きごたえのある傑作だと思った。(*伊藤の話によると最後のソナタは初心者向けのソナタ。)

グリーグ(1843-1907)が3曲書いたヴァイオリン・ソナタは先月の木野雅之のコンサートで第3番を聴いた。最も演奏会の多いのは3番で伊藤自身も今回が初めての演奏曲となる「第2番」。演奏してみて素晴らしい曲と実感したと言う。数日前にデュメイ&ピリスの曲を聴いて聴きやすい特徴のある音楽であると改めて認識した。1867年の結婚して間もない時期に作曲された。伝統的なノルウェー民俗音楽の香りを持つ曲作り。情熱的な旋律で始まって明るいダンスとなる第1楽章、民謡風の哀愁漂うメロディとともに北欧の自然の美しさを印象づける第2楽章、ドラマティックなフィナーレとなる第3楽章。エネルギーに満ち、若々しさが横溢する曲として聴けた。

前半2曲の本格的なソナタに次いで、このコンサートの特徴と解ったのが後半のプログラム。伊藤光湖(Mitsuko Ito)は数年前からヴァイオリン以外の楽器で演奏される曲をヴァイオリンで演奏することに挑戦してリサイタルを開催しているようである。
彼女は京都市立芸術大学卒業後、英国ギルドホール音楽院、フランス・エコールノルマル音楽院に学ぶ。PMF音楽祭に3回参加。スイスの音楽祭に10年連続参加して毎年自作自演、2010年元旦フランスのオーケストラと共演するなど個性的な活動で多彩な音楽活動を展開している。アメリカのインターネットラジオで自作曲が4度クラシック部門人気第1位となり注目を浴びた。

ほかのヴァイオリニストには出来そうにもない伊藤光湖の才能が発揮された独特な“ちえりあホールのコンサート”。

バッハとボザの曲はオリジナルのままヴァイオリンで演奏。暗譜で演奏したのには驚いた。

ファリャ(1876-1946)はスペインの作曲家。ロシア・バレエ団を率いるディアギレフの依頼に応じて作曲されたバレエ音楽。1919年ロンドンで初演、指揮はアンセルメ、舞台装置と衣装がピカソ。管弦楽曲では組曲《三角帽子》として知られ、小澤指揮ボストン響のCDが手元にある。全8曲の中で「粉屋の踊り」と「終幕の踊り」が有名である。「三角帽子をかぶる代官が粉屋の美しい女房に手を出すが最後には権力者がやっつけられるハッピーエンドのストーリー」。全曲40分のオーケストラ曲の格好良さに魅せられた伊藤が5年かけてヴァイオリン曲に編曲したそうである。コンサートでは粉屋の夫婦をはじめ全員が悪代官を懲らしめた喜びに満ちて楽しくホタを踊る6分ほどの場面が情熱的な音楽で描かれた。

伊藤は現在はパリと札幌を拠点にして活動して、1年の半分はパリに戻って生活する中で“ヒョロヒョロ”と作って出来た即興曲。昨年12月に5日間で完成したという作品。今回が初演と言って笑いを誘った。何気ない話しぶりにユーモアが滲み出て彼女のこのコンサートが魅力あるものになっているように感じた。

最後の演奏曲は同じ作品番号で3つのバージョンがあると説明した。初耳である。ヴィエニヤフスキー(1835-80)はポーランドの大ヴァイオリニスト&作曲家。18歳の時に書かれた初期の小品でポーランドの3拍子の舞曲ポロネーズのリズムに高度な技巧を散りばめた民族的な色彩の濃い作品として親しまれている。ショパン国際ピアノ・コンクールが行われるポーランドはヴィエニヤフスキー国際ヴァイオリン・コンクールの地としても名高い。
伊藤はヴィエニヤフフスキー協会に原曲はどれかと尋ねる問い合わせをしたという話も織り交ぜてトークを展開した。協会から楽譜を購入するように求められたが、“お金を使わずに頭を使って”、彼女自身がオリジナルと思われる楽譜に基づいて今回の演奏(“初演”)を行った。タイトルが“華麗なるポロネーズ”でなくて“コンサートポロネーズ”となっている理由である。実際に聴いてみて違いは全然判らなかった。レーピンとヴェンゲーロフのCDでも同じ曲とはいえ曲のニュアンスが違って聞こえたので、演奏者の違いと思っていた。楽譜の違いが分るほど音楽に精通していない。

今回のコンサートは全て暗譜で弾かれたが驚愕するばかりであった。これも彼女の凄い才能なのだろう。

アンコール曲は①《ビゼー:組曲「こどもの遊び」より “運動会”》(*オーケストラ曲をピアノ曲に編曲してヴァイオリン演奏)、②賛美歌のメドレ―。

ピアノの浅井智子(Tomoko Asai)は東京藝術大学卒業後、北海道各地でリサイタル、オーケストラとの共演、室内楽、伴奏などの演奏のほかに幅広い活動を行っている経験豊富な演奏家。今演奏会での彼女のピアノ演奏での貢献度も見事であった。


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fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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