2015年 私のコンサート・トップテン

札幌コンサートホールがこの1年間で4ヶ月間に亘って休館したり、個人的に1ヶ月以上の入院期間があったりして、例年と比べて満足のいくコンサート鑑賞が充分にはできなかった。今年はトップテンを選ぶのを躊躇っていたが、年末も押し迫ってから一応選んでみることにした。2015年1月~12月までの1年間で聴いたコンサートの回数は74回だった。今年は札幌交響楽団の定期公演が毎回のように指揮者・オーケストラ・聴衆が一体となる素晴らしい演奏会となって成功裏に開催された。結果的に札響のコンサートが5つを占めた。(今まではひとつに絞っていた。)

札幌交響楽団第577回定期演奏会  2月14日
  ~シベリウス生誕150年記念・シベリウス交響曲シリーズVol. 3~
  指揮/ 尾高忠明
  曲目/ シベリウス:交響曲第5番、第6番、第7番

タリス・スコラーズ ~キング・オブ・クワイアー~  6月17日
  ~Kitaraリニューアルオープン記念~
  曲目/ パレストリーナ:教皇マルチェルスのミサ曲
     アレグリ:ミゼレーレ
     ペルト:ヌンク・ディミッティス  他

札幌交響楽団第578回定期演奏会  6月20日
  指揮/ ラドミル・エリシュカ
  曲目/ ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調
     ブラームス:交響曲第4番 ホ短調

NHK交響楽団演奏会 札幌公演  8月31日
  指揮/ ヨーン・ストルゴーズ
  曲目/ ベートーヴェン:「エグモント」序曲
              ピアノ協奏曲第3番 ハ短調(ピアノ:アリス・紗良・オット)
              交響曲第5番 ハ短調 「運命」 

札幌交響楽団第580回定期演奏会  9月5日
  指揮/ ハインツ・ホリガー
  曲目/ フンメル:序奏、主題と変奏 へ長調(オーボエ:ハインツ・ホリガー)
     シューベルト:アンダンテ ロ短調
             交響曲第7番 ロ短調 「未完成」
     バルトーク:管弦楽のための協奏曲

大森潤子ヴァイオリン・リサイタル  9月15日
  曲目/ モーツァルト:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ K.301
      フランク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
      クライスラー:コレルリの主題による変奏曲
      シューベルト(ウィルへルミ編):アヴェ・マリア
      パガニーニ:ラ・カンパネラ
      ヴィエニャフスキ:モスクワの思い出
      フバイ:そよ風
      ラヴェル:ツィガーヌ

小山実稚恵「音の旅」第20回  11月20日
  曲目/ シューマン:花の曲
      J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲

オッコ・カム指揮ラハティ交響楽団  11月23日
  曲目/ シベリウス:交響詩「フィンランディア」
            ヴァイオリン協奏曲 ニ短調(ヴァイオリン独奏:神尾真由子)
            交響曲第2番 ニ長調

札幌交響楽団第583回定期演奏会  11月28日
  指揮/ ウラディーミル・アシュケナージ
  曲目/ ベートーヴェン:バレエ「プロメテウスの創造物」序曲
      モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番 ハ長調 K.503(ピアノ:河村尚子)
      ショスタコーヴィチ:交響曲第10番 ホ短調

札幌交響楽団第584回定期演奏会  12月12日
  指揮/ マックス・ポンマー
  曲目/ ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調(ピアノ:ゲルハルト・オピッツ)
     ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 「ロマンティック」

※2月のヤクブ・フルシャ指揮プラハ・フィル&ミッシャ・マイスキーの演奏会は会場が満席で盛り上がったが曲目が「モルダウ」、「ドヴォコン」、「新世界より」が全てでは在り来たり過ぎだった。外国のオーケストラで地方回りの公演は新鮮さに欠けるのはある程度やむを得ない。集客力を考慮に入れたプログラム作りは当然だろうが、今ひとつプログラムに工夫を望むところである。
ウィーン・フォルクス・オーパーやハリウッド・フェスティバル・オーケストラなど楽しい雰囲気のコンサートもあった。
7月に札幌駅近くに「六花亭ふきのとうホール」がオープンして質の良い室内楽ホールが出来たのが嬉しい。客席221の小ホールなので、ベストテンに上げるほどではなかったが、いずれも満足のいくコンサートだった。
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Kitaraのクリスマス 2015(広上淳一&宮田大)

札幌コンサートホールKitaraは独自の主催公演を数多く開催している。年初めの「Kitaraのニューイヤー」から年末の「Kitaraのクリスマス」などの恒例のコンサートはここ数年は毎年のように聴いている。
両方のコンサートの管弦楽は札幌交響楽団。「Kitaraのクリスマス」の指揮者は井上正義が務める年が続いたが、2012年から広上淳一が指揮台に上がり今年が4年連続である。
今年のソリストはチェロの新鋭、宮田 大(Dai Miyata)。 彼は3年前の12月、Kitaraで下野竜也指揮読売響と共演して圧倒的な演奏で満席の聴衆を熱狂させた。この時のコンサートは「三大協奏曲」のプログラムでヴァイオリンの成田達輝、ピアノの辻井伸行との競演で会場が盛り上がったのが強烈な印象として残っている。

2015年12月23日(木・祝) 15:00開演  札幌コンサートホール大ホール

〈プログラム〉
 ドヴォルジャーク:スラヴ舞曲集 第1集 作品46より 第1曲 ハ長調
          チェロ協奏曲 ロ短調 作品104 (チェロ:宮田 大)
 チャイコフスキー:幻想序曲 「ロメオとジュリエット」
 ハチャトリアン:組曲「仮面舞踏会」より ワルツ、ノクターン、マズルカ
 アンダーソン:そりすべり、 クリスマス・フェスティバル

このコンサートは子供たちからお年寄りまで人気が高く、今日は1・2階はほぼ満席で9割以上の客の入り。大ホールのステージはクリスマスの飾りつけが施され、普段のコンサートとは一味違う雰囲気がホールを包んでいた。

ドヴォルジャークのスラヴ舞曲集はその1曲か数曲がオーケストラの演奏会でアンコール曲などで演奏されることが多い。最近は各8曲からなる第1集と第2集から5・6曲取り上げられるプログラムもある。ハンガリー舞曲集のチェコ版と言えるが、ブラームスに勧められて作曲することになったエピソードも広く知られている。
「第1集の第1曲」はボヘミアの代表的な舞曲で急速なテンポで展開される曲。

数あるチェロ協奏曲で「ドヴォコン」と呼ばれるほど親しまれている名曲中の名曲。デュ・プレ演奏のCDを聴いて夢中になったが、カザルス、ピアテゴルスキー、フルニエ、ロストロポーヴィチ、ヨーヨー・マ、藤原真理のCDもある。今年2月、プラハ・フィルと共演してドヴォコンを弾いたマイスキーはKitaraで生演奏を聴く機会が度々あるのが嬉しいチェリスト。

3年前の宮田の感動的な演奏を思い起こす。チェロという大きな楽器を3歳から始める人は極めて稀ではないかと思う。彼は身体に合った楽器を成長に合わせて両親に用意してもらったという話を聞いたことがある。才能もさることながら、努力の積み重ねが他のチェリストとは違うように思う。小澤征爾指揮水戸室内管の演奏をテレビで観た記憶もある。
第1楽章が終わって拍手が起こったが、指揮者とチェリストの熱演につられた人たちかも知れない。たぶんコンサートに慣れていない人たちだったのだろうと思うことにした。
演奏終了後の聴衆の拍手大歓声に応えてのソリストのアンコール曲は「バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007より “プレリュード”」。 チェロの調べは本当に美しいと改めて感じた。

チャイコフスキーはバラキレフに勧められてシェイクスピアの名作「ロミオとジュリエット」のあらすじを用いて表題音楽を書いた。この曲を演奏会で聴いたのは久しぶりで聴きなれたメロディも出てきたが新鮮であった。

ハチャトリアン(1903-78)はジョージア(元グルジア)生まれのアルメニアの作曲家。「仮面舞踏会」は帝政の貴族社会を舞台にした劇音楽の中から5曲を選んで組曲として書かれた。ワルツ、ノクターン、マズルカ、ロマンス、ギャロップ。ワルツが特に広く親しまれているが、浅田真央のフィギュア・スケーティングの曲として有名になった。(*タイトルからある程度は想像できるが、ワルツだけ聴いただけでは想像もできないストーリー。嫉妬にかられた夫が妻を殺してしまう悲劇。)

アンダーソンのクリスマス名曲集は“Kitaraのクリスマス”で恒例になっている曲。子供たちを含めて若者を一気に楽しいクリスマス気分に浸らせるミュージック。

マエストロ広上は躍動的な広がりのある大きな指揮ぶりが、いつもより目立った。特に仮面舞踏会でのワルツの場面での指揮ぶりは他の指揮者では真似のできないような躍動感に溢れていた。最初から最後まで、指揮台でのエネルギッシュな姿が強烈な印象を残した。
カーテンコールに応えて、コンサートの最後にマエストロは“音楽が世界を平和にする”という言葉をそえた。アンコール曲に「きよしこの夜」の1番をオーケストラが演奏、2番を聴衆が演奏に合わせて斉唱してコンサートが締めくくられた。

帰りのホワイエでは宮田のサイン会に並ぶ人の列が続いていた。





 




札響の第9 (2015)

今年の12月も日本各地で「第九」の演奏会が開催されている。日本特有の現象と思われているが、近年は外国でも12月に「合唱付き」を演奏する国も増えてきているらしい。海外のオーケストラが日本を舞台にして年末に「第九」を演奏するのも珍しくなくなった。昨年はケルン放送響が日本公演を佐渡裕指揮で7回も開催した。キエフ国立フィルは今年も第九演奏会を年末に開催する。

2015年12月の「第九」の演奏状況は月刊音楽誌《ぶらあぼ》によると全国で188回で毎年ほぼ同じ回数のようである。今年はオーケストラ別で「兵庫芸術文化センター管」が設立10周年を記念して佐渡裕指揮で関西を中心に12回も「第九」の公演を行うのが目立った特徴と言える。
札響の公演は例年と同じで2回開催されるが、今年の4月に音楽監督に就任したマックス・ポンマーが指揮を執る。

2015年12月19日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ マックス・ポンマー
管弦楽/ 札幌交響楽団
尺八/ 田島 直士
独唱/ 市原 愛(S)、小原 詠子(Ms)、小貫 岩男(T)、甲斐 栄次郎(Br)
合唱/ 札響合唱団、札幌アカデミー合唱団、札幌放送合唱団、札幌大谷大学合唱団
合唱指導/ 長内 勲

〈プログラム〉
 第1部 
  新実 徳英(Tokuei Niimi):古代歌謡ー荒ぶる神・鎮める神
       ~ソプラノ、尺八、打楽器、チェレスタ、弦楽オーケストラのための~
              Ancient song-Stormy God・Calmy God

 第2部
  ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 op.125「合唱付き」

Max Pommerは札響に初めて客演指揮した2013年11月の第564回定期演奏会の折に、新実徳英の作品を演奏した。札響初演であるが、ポンマーはドイツで新実などの日本の現代作曲家の作品を紹介している。前回の新実の作品名は「風水~弦楽、打楽器とチェレスタのための」。
今回の作品は日独友好150周年記念コンサートにて初演。(2011年10月、ドイツ・ハンブルグ市、指揮:ポンマー、オーケストラ:ハンブルグ・カメラータ、ソプラノ:市原愛、尺八:J. フランクリン)。新実は委嘱された翌年に起こった東日本大震災後に作曲に取り掛かったと言う。楽器構成は前回の作品と通じるものがあるが、曲の雰囲気はガラリと違っていて「荒ぶる神」と「鎮める神」に捧げる作品に相応しい楽曲と思えた。10分ほどの曲。作曲者も会場にいてステージで絶賛の拍手を浴びていた。

「第九」の内容は今更、語るまでもない。当日の出演者変更でバリトンが甲斐栄次郎になっていた。外国で活躍している音楽家が日本で紹介されることは稀なので、彼の名はウイーン国立歌劇場の専属ソリスト歌手として10年間活躍して帰国してからの活動で初めて知った。いつかその素晴らしい歌声を耳にしたいと思っていた。
その歌手の歌声が響き渡った瞬間に鳥肌が立った。第4楽章の「合唱付き」の曲の醍醐味を存分に味わった。ソリストも素晴らしかったが、合唱は今までに聴いたことがないほどの素晴らしい出来栄え。テノールとバリトンのパートを歌う合唱団の人数が増えたこともあって、全体の合唱の迫力が凄かった。2階CB席の中央から合唱団の声が極めて良い響きで届いたと思った。

プログラムで合唱のメンバーが札響合唱団を中心として札幌の合唱グループの精鋭を集めて、特にテノールとバリトンの補強を図ったことが判った。男性合唱と女声合唱のバランスが取れていると、こんな迫力の歌声になるのかと合唱の素晴らしさに魅せられた。

*ソリストのステージへの登場は第3楽章の前が多いと思ったが、今日は珍しく第4楽章の始まる前だった。彼らの登場の際に拍手が起こって、今回は特に違和感があった。楽章間の拍手はやめてもらいたい。拍手をしている人は歌手の登場に歓迎の意を示しているつもりだろうが、曲の中断に繋がり、演奏者や聴衆の集中力の妨げになると感じている。
人の死を悼んで追悼曲が演奏される場合に、“曲が終わった後の拍手はご遠慮ください“とアナウンスされることがある。皆その案内に従っているが、演奏者がステージに登場する際に拍手をする人が結構たくさんいる。礼儀正しく、他人の言うことに従う人が多い日本人のこうした行動は変だと常日頃、思っている。(追悼曲は演奏の前後を問わず、拍手は避けるべきでしょう。会場でアナウンスする側もこの点に気づいてほしいものである。)

フジコ・へミング&キエフ国立フィルハーモニー交響楽団

波乱万丈の人生を過ごして15年ほど前に「ラ・カンパネラ」で大ブレークしたフジコ・へミング。2年前にシモノフ指揮モスクワ・フィルとの共演で彼女の生演奏は初めて耳にした。コンサートの半年前にはチケットが完売。それ以前からリサイタルやオーケストラとの共演で彼女は何度も札幌を訪れている人気のピアニスト。83歳を迎えた今年もヨーロッパでの活躍も目覚ましい。
2013年6月に初めてライヴで観た彼女のコンサートでの様子が眼前に浮んで来るが、彼女は独特の個性が滲み出る演奏を展開した。今回のコンサートも早々にチケットは完売となっていた。

キエフ・国立フィルハーモニー交響楽団(National Philharmonic Society of Ukraine Kiev)はニコライ・ジャジューラ(Nicolai Dyadura)に率いられて頻繁に札幌公演を重ねている。このオーケストラの公演は2007年、09年にヴァイオリン協奏曲のプログラムとソリスト陣が魅力で何となく聴いてみる気になった。2013年の年末の来日公演では「ベートーヴェンの第九」が演目になって興味を引いた。この時は代役の指揮者の出演だったが、それなりに楽しめて今でも印象に残っている。キエフ・国立フィルの人気は高いようで私のブログへのアクセスも数多い。

今年のニコライ・ジャジューラ&キエフ国立フィルの日本ツアーは札幌から始まって、ソリストにデビュー40周年の大谷康子を迎えるプログラムや「第九」の演奏会も含め、年末まで全国10ヶ所ほどの公演が予定されていて人気のほどがうかがえる。

キエフ・国立フィルは1995年創立の歴史の浅いオーケストラであるが、国際指揮者コンクールや小沢、バーンスタインなどの指導を受けながら国際的経験を積んだキエフ生まれのニコライ・ジャジューラが1996年、35歳の若さで音楽監督に就任して、今ではウクライナを代表するヨーロッパのオーケストラに成長した。ウクライナは当時ロシア帝国、旧ソ連に属していたが、リヒテル、ギレリス、ホロヴィッツなどの大ピアニスト、オイストラフ、コーガン、ミルシテインなどのヴァイオリンの巨匠がウクライナ人として育ったところである。1991年のウクライナ独立まで彼らは旧ソ連出身の音楽家として知られていた。

前置きが長くなったが、キエフ・国立フィルの注目度が日本でも盛り上がっている機会に書き記してみた。


2015年12月17日(木) 7:00PM開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

〈PROGRAM 〉
 スコリク:フツル・トリプティーク
 ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 Op.11 (ピアノ:イングリッド・フジコ・ヘミング)
 リスト:ラ・カンパネラ (ピアノ:イングリッド・フジコ・ヘミング)
 チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 Op.61

ミロスラフ・スコリク(Myroslav Skoryk)は1938年生まれのウクライナの作曲家。初めて聴いてみて、ウクライナ民謡か土俗の音楽だということは判った。曲の後半では現代音楽の雰囲気も感じ取れた。
この曲以外は解説不要と思って入場の際には1000円のプログラムは買わなかった。5分程度の小品と予想したが、20分も要するウクライナ紹介の曲だと思って、帰りに買い求めた。解説によると、ウクライナの作家の作品が50年前に映画化された際の映画音楽が原曲。山岳民族であるフツル族の悲恋物語が描かれ、その後、3つの場面がオーケストラ用にまとめられた。
今日のコンサートでは在り来たりの曲だけでなくて、ウクライナに関わる新鮮な音楽が聴けて良かった。

フジコ・ヘミングはいつもの着物の生地を切り取ってパッチワークのように仕上げた衣服でなく、ロングドレス姿で登場。音楽が始まりだすと高齢を全く感じさせない滑らかな指のタッチで感性豊かなピア二ズムを繰り広げた。前回のモスクワ・フィルとの共演では彼女の背後に黒子がいてチョット異様な感じもあったが、今回は安心してP席中央から彼女の運指が良く見えて充分に楽しめた。彼女は指先を高くして真上から叩くことをしないで掌を平らにして柔らかく弾いていた。
曲が盛り上がる最も華やかな演奏が入る前に、客席からパラパラと拍手が起こったのが残念だった。曲の終了と勘違いした様子。華麗な旋律を持つ最終楽章が終わると、ほとんど空席のない満員の聴衆で埋まった客席のあちこちから“ブラボー”の声が沸き起こった。
指揮者はともかくソリストで80歳を超えて現役で活躍している音楽家の演奏を聴く機会は稀有である。聴衆も改めてこの高齢のピアニストの演奏に感銘を受けたに違いない。私もその一人である。

フジコ・ヘミングはいったんステージを下がって、再登場の時に客席に向かって何かを話して笑いを誘っていたが、話は全然聞こえなかった。ごく自然に聴衆とコミュニケーションをとれるのも彼女の飾らない人柄なのだろうと思った。彼女のアンコール曲の位置づけにもなっている「ラ・カンパネラ」の演奏が始まり、フジコ・ヘミングの世界へ。15年前と違って現在はピアノのほかにヴァイオリンなどを通して幅広くこの曲は他の音楽家の演奏で耳にする機会の多い名曲となった。 前半のプログラムは100分の長丁場で時計の針は20時20分を指していた。

※買い求めたパンフレットによると、2015年11月27日にフジコ・ヘミングとキエフ・国立フィルの初の共演がウクライナの首都キエフのフィルハーモニーホールで開催されたという。150年余の歴史を有するこのホールにはチャイコフスキーだけでなく歴史上の数多くの巨匠が名演を繰り広げたといわれる。このホールでヘミングは数度リサイタルを開催しているが、オーケストラの公演は今回が初めてであったようである。日本での公演に先駆けてのキエフでの公演は大成功を収めて、聴衆を感動の渦に巻き込んだ様子が招聘元の記事からも伝わってきた。
キエフでの公演の前にヘミングはチェコ、スロヴァキア、ジョージアなどでリサイタルを行って2015年のヨーロッパ公演を締めたというから、そのエネルギーにあふれた活動ぶりには恐れ入る。

今晩の後半のプログラムである「チャイコフスキー:交響曲第5番」は今月4日のスワロフスキー&札響で聴いたばかり。何度聴いても良い。今回はチャイコフスキーを得意とするニコライ・ジャジューラ&キエフ国立フィルの演奏でニコライの指揮ぶりも注目の的。
楽器配置はステージ上手にチェロ。チェロとヴィオラの後ろにコントラバスが一列に並ぶ珍しい配置(6名)。低音域楽器の音の広がりにこだわったと想像される。各楽器の活躍ぶりは書くまでもないが、第2楽章の「アンダンテ・カンタービレ」でのホルンの響きが曲の美しさを引き立てた。

ニコライ・ジャジューラの指揮ぶりは圧巻。手の動き、指の動き、口の動き、顔の表情、体全体を駆使してオーケストラから思い通りの音を引き出していた。P席中央は指揮者の様子を観れる最高の席。今日は思う存分に指揮の醍醐味が見て取れた。ニコライはこのオーケストラのシェフとして20年目で、脂がのった様子。彼の指揮ぶりは6年ぶりで観たが、何だか若返った様子に見えた。
ダイナミックな指揮ぶりで、オーケストラの演奏も一段と大きく盛り上がってフィナーレ。演奏終了後の聴衆の拍手大喝采は長く続いたが、時刻も21時30分近くで、アンコール曲は無し。充分に堪能できたコンサートであった。

(*第2楽章終了後にショパンの曲と同じく拍手をした人が一人いたが、勘違いといってもチョット感覚のずれている人の対応に思えた。時間がそれぞれ20時、21時前後だったので曲の流れより、時刻で曲の終わりを判断したとしか思えない人の対応かなと思った。今晩の演奏会でホールを埋めた聴衆も満足の様子だったが、拍手などは指揮者や周囲の状況で判断することが求められる。“人の振り見て我が振り直せ”と自分にも言い聞かせた。)

札響第584回定期演奏会(ポンマー&オピッツ)

今回の札響定期は7月の首席指揮者就任記念の演奏会に次いでポンマーにとって2度目の定期演奏会での指揮。と言っても道内の地方演奏会での公演などもあってオーケストラとは意思の疎通がかなり取れてきているはずである。
ソリストのオピッツはKitaraのステージは今回が3度目の筈である。彼のリサイタルを初めて聴いたのが08年12月で、その時のプログラムはベートーヴェンの4大ピアノソナタ。(彼は05年~08年、日本でのステージでベートーヴェンのピアノソナタ全曲演奏会を開催して大成功を収め、日本のクラシック界の脚光を浴びていた。) 2度目は12年12月のリサイタルで、その時の様子は3年前のブログに書き留めてある。
奇しくも、3回目の札幌登場も12月であるが、今回はオーケストラとの共演でプログラムが発表になってから非常に楽しみにしていた。(*1987年6月の札響定期に出演してモーツァルト第26番「戴冠式」を弾いているから札響とは2度目の共演となるようである。)

2015年12月12日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ Max Pommer
ピアノ/ Gerhard Oppitz

〈PROGRAM〉
 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 (ピアノ:ゲルハルト・オピッツ)
 ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 「ロマンティック」(ハース版)

ピアノの名手でもあったベートーヴェンはピアノ協奏曲を5曲遺しているが、私はLPでは「第5番」のみに親しんでいた。CDで聴き始めて15年ぐらいにしかならないが、今では「第3番」や「第4番」も好んで聴く。当時はバレンボイムがお気に入りだったのか手元には彼の演奏によるCDが多い。バレンボイム(ピアノ&指揮)の他に近年はアバド指揮ポリー二を聴くことが多くなって、今日の演奏会の数日前にこの二人のCDを繰り返して聴いて曲の素晴らしさに浸った。

小柄のオピッツがステージに登場すると待ちかねていた聴衆からの歓迎の大拍手。いつものソリストに対するものよりも大きい感じ。独奏ピアノで曲が始まり、冒頭の抒情的な主題が魅力的なメロディとなって展開し、華やかな響きがホールに広がった。第1楽章の終盤のカデンツァで彼の指の運びにも見入った。第2楽章はピアノと弦楽器群だけの緩徐楽章で、切れ目なしに第3楽章へと向かう。最終楽章は明るく美しい雰囲気がピアノとオーケストラの掛け合いで生み出され華麗なフィナーレへ。
ピアニストの円熟した演奏が聴衆の心を掴んで、演奏終了後の拍手がしばらく鳴りやまなかった。アンコール曲は「ブラームス:6つの小品 op.118-2 間奏曲。 ドイツ・ピアノ界の巨匠で日本で活躍する場面の多い親日家として彼の人物像も聴衆に伝わったように思った。

ブルックナーの名を初めて耳にして30年も経っていない。クラシック音楽に夢中になりだしたのが大学生の時だった。1枚2千円もしたLPレコードは70年代に入って集め出した。その時代はマーラーやブルックナーの曲は60枚からなる全集ものには入っていなかった。CDを買い求め始めたのが20世紀が終わる頃の1999年だった。その年に初めて購入したブルックナーのCDがカラヤン指揮ベルリン・フィルの「第4番」。同じ年に同じ指揮者とオーケストラによる「第7番」を手に入れた。翌年に他の交響曲「第1番」から「第9番」までの7枚のCDを買った。インバル指揮フランクフルト放送響による4曲、ヴァント指揮北ドイツ放送響による2曲、フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルのものが1曲。それぞれ2回以上は聴いているが、比較的に聴く機会が多かったのがカラヤン指揮の2曲。2曲とも1970年の録音盤。
マーラーにはこの10年かなり親しみはじめて、その音楽の良さが解ってきた。しかし、ブルックナーは苦手で、演奏会でも良さが充分に味わえなかったのが正直なところ。

ところがである。今日の「ロマンティック」は期待以上に楽しめた。第1楽章から第4楽章まで65分もかかる曲を面白く聴けた。ブルックナーの曲を聴いてこんな充実感を味わったのは初めてだった。
オルガ二ストであったブルックナーがオルガンのように音と音をはっきり区別して響かせている彼の音楽の特徴が聴き取れた。オーストリアの自然が描かれた曲の様子がダイナミックに心に広がった。ホールに響き渡る壮大な音楽は圧倒的だった。オーケストラの総奏は迫力があり、合い間に管楽器のソロ奏者の奏でる旋律は美しさを増した。
マエストロの指揮のもとで心ひとつに演奏を繰り広げる札響の名演がこのところ続いている。音楽監督に就任して間もないポンマーの指揮者としてだけでなく音楽家として総合的な人間力を感じるのは私だけではないだろう。
ホルンは演奏が最も難しい楽器の一つだと思われるが、札響ではホルン首席奏者の名演が際立っている印象を受けているが、今日はホルン副首席奏者のソロが素晴らしかった。オーケストラ全員が切磋琢磨して総合力が良い結果となってあらわれていることを非常に嬉しく思う。 

宮崎陽江 ヴァイオリン協奏曲の夕べ 2015

宮崎陽江のヴァイオリンは4年前に「宮崎陽江ヴァイオリンの夕べ」でリサイタルを聴いたのが初めてである。2年前のKitara小ホールでは矢崎彦太郎指揮札響と共演した折に、「フォーレ:ヴァイオリン協奏曲」など札幌で聴く機会の少ないコンサートを聴いてみた。翌年に大ホールで開かれた秋山和慶指揮札響とのコンサートは聴かなかった。今回が3度目のコンサート。

スイスを拠点にヨーロッパで活躍している宮崎陽江が10年ほど前から札幌と東京で毎年開催しているコンサート。数年前からはオーケストラとの共演も行なっている。今年の《音楽の友 6月号 “People”》に彼女の取材の文と写真が載っていた。この記事を見た時には既に今回のコンサートのチケットは購入していて確認済みの内容だったが、彼女がヴァイオリニストとして日本での活躍が評価されていることを知って嬉しくもあった。

7月にサントリーホールで行なわれたスワロフスキー指揮スロヴァキア・フィルと宮崎の共演による東京公演と今回12月のスワロフスキー指揮札響の札幌公演のプログラムは全く同じである。

レオシュ・スワロフスキーは1961年、チェコ生まれの指揮者。ヴァ―ツラフ・ノイマンに師事。プラハ国立歌劇場芸術監督・首席指揮者、ブルノ国立フィル管首席指揮者などを歴任。現在はスロヴァキア・フィル常任客演指揮者。14年4月よりセントラル愛知交響楽団音楽監督に就任。

2003年7月、スロヴァキア・フィルを率いてKitara初登場。(この時は天満敦子が共演。先月14日、5年ぶりの札幌公演となった「六花亭ふきのとうホール」での彼女のリサイタルは入院中のため妻が代わりに出かけた。) 09年1月は都響北海道公演で指揮。(この時のソリストが世界的に有名なイタリアのヴァイオリニストであるウート・ウーギであったのは忘れもしないコンサート。)
海外のオーケストラの日本公演でも活躍して、チェコ・フィルにも定期的に客演。日本国内オーケストラへの客演も多い。札幌で3度目という馴染みの指揮者。

最近の「宮崎陽江のヴァイオリン協奏曲の夕べ」は大々的にスポンサーがついて、今回も“Panasonic Concerts”として開催された。少なくとも東京と札幌はPanasonicが支援しているようである。来年のヨーロッパコンサートもパナソニックがスポンサーとなる。北海道では北海道放送などいくつかの会社も支援に加わって、エントランスやホワイエにも多くの祝いの花束が飾られていた。地下鉄中島公園駅を降りた直後からKitaraへ向かう人の群れが、続いていた。会場は高校生を含む幅広い世代の聴衆でいつものシニア層が多く占める札響定期の演奏会とは少々様子を異にしていた。

2015年12月4日(金) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

〈プログラム〉
 オール・チャイコフスキー・プログラム
   歌劇「エフゲニー・オネーギン」Op.24 より ポロネーズ
   ヴァイオリン協奏曲 二長調 Op.35
   交響曲第5番 ホ短調 Op.64

コンサートの最初はチャイコフスキーのオペラ「エフゲニー・オネーギン」の第3幕冒頭の舞踏会で演奏されるオーケストラ曲。ポーランド民族舞曲ポロネーズのリズムを用いての壮麗な音楽。2年前のMETビューイングで観たオペラの場面を思い浮かべて楽しめた。若き日の恋の想いが通じなくて、今は伯爵夫人となって舞踏会で脚光を浴びる彼女に言い寄る男を毅然として撥ね退ける役を演じた当代随一のソプラノ歌手、アンナ・ネトレプコの演唱を思い出した。絢爛豪華な舞踏会の様子が美しい音楽となってホール全体に響き渡ると気分も高揚してコンサートの景気付けに相応しい曲であった。トロンボーン3人が入って音楽が一層引き立った感じがした。

チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲はベートーヴェン、メンデルスゾーンと共に最も親しんだヴァイオリン協奏曲。十年ほど前までこれらが「三大ヴァイオリン協奏曲」と呼ばれていると思っていた。宮崎陽江自身もプログラムにそのように書いているが、実際はベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームスの3曲が「三大ヴァイオリン協奏曲」で、甲乙つけがたいチャイコフスキーの曲を含めて「四大ヴァイオリン協奏曲」と呼ぶのが伝統的らしい。人の好みもあるので、決定的な根拠もないようである。しかし、音楽の盛んなドイツ出身の作曲家とロシア出身の作曲家の曲は現代ではともかく、19世紀当時では位置付けが違っていたようである。(*「世界の三大オーケストラ」や「アメリカの五大オーケストラ」など、時代の流れで変化があって当然なのに、現在でもこんな言葉が使われている。)

宮崎陽江はフランスで幼少期を過ごし、スイス在住でヨーロッパでの活躍も多くて、フランス音楽を得意にしているようである。リサイタルではそのような音楽を聴く機会があるが、大ホールで聴衆を多く集めるとなると人々に愛されているヴァイオリン協奏曲をプログラムに組むことになる。それなりに堂々としたコンチェルトではあったし、カデンツァに彼女らしい特徴も出ていた。
オーケストラとの共演でもヨーロッパも含めて経験を積んでいるので、彼女なりの華やかな音楽は楽しめるが、大ホールに拘らずに彼女独特の音楽のリサイタルを聴きたい気がした。そういう意味で、アンコール曲に弾いた自作「幻想の炎 “Fantaisie flamboyante”は魅力的であった。

チャイコフスキーの交響曲はレコード時代は「悲愴」しか聴く機会を持たなかった。今でこそ、「第4番」や「第5番」も聴く機会が多くなった。2001年2月、ロストロポーヴィチ指揮ロンドン交響楽団の演奏で「第5番」の魅力を知った。その後の演奏会では何十回となく聴いている気がする。CDで小澤征爾指揮ベルリン・フィルの録音で聴く機会が多いのだが、最近はゲルギエフ指揮マリインスキー響のDVDで試聴することも多くなった。つい先日は偶々手元にあったエッティンガー指揮東京フィルのCDを聴いてみた。何気なく耳にしてもこの曲は壮大である。

スワロフスキーは今までソリスト目当てであまり注目していなかった。外見からして60代のヴェテランかと思っていたら、まだ50代前半。身体の動きも若々しくて、躍動感あふれる指揮ぶり。オーケストラを手中に納めて、オーケストラの音を存分に引き出している感じがした。(*来年10月札響定期でエリシュカの「第5番」が聴けるが、今から楽しみである。)

弦楽器を含め木管、金管や打楽器の総奏は極めて迫力のある演奏。詰めかけた多くの学生はこの「第5番」が目当てだったのかと納得できるような木管楽器・金管楽器奏者の活躍が印象に残った。P席は売り出されなかったが1600の座席が埋まっていて大盛況であった。ソリストが中心のコンサートでオーケストラは脇役に回った思いか、オーケストラのアンコール曲はなかった。

音楽家のホールでのスケジュールは通常1・2年前から決まっていると言われるが、「宮崎陽江コンサート 2016」 東京・札幌公演の日程も決まっていて、先行案内のチラシが入っていた。 指揮者が大友直人なので、来年の計画に入りそうである。
プロフィール

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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