2014年 私のコンサート トップテン

2014年1月~12月までの1年間で86回聴いたコンサートの中から最も印象に残ったものを10選んでみた。

クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル(1月16日)
  曲目/ ベートーヴェン後期三大ピアノ・ソナタ
        ピアノ・ソナタ 第30番、第31番、第32番

マリア・ジョアン・ピリス ピアノ・リサイタル(3月15日)
  曲目/ シューベルト:4つの即興曲 Op.90, D899
      ドビュッシー:ピアノのために
      シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D.960

前橋汀子 バッハ無伴奏ソナタ&パルティータ全曲演奏会(4月5日)(Kitara小ホール) 
  曲目/ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番 ト短調 BWV1001
     無伴奏ヴァイオリンのためのパルティ-タ第1番 ロ短調 BWV1002
     無伴奏ヴァイオリンのためのパルティ-タ第2番 ニ短調 BWV1004
     無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番 イ短調 BWV1003
     無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番 ハ長調 BWV1005
     無伴奏ヴァイオリンのためのパルティ-タ第3番 ホ長調 BWV1006

デイヴィッド・ジンマン指揮チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団(4月15日)
  曲目/ R.シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
     モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第5番 イ長調「トルコ風」
                       (ヴァイオリン独奏:ギドン・クレーメル)
     ブラームス:交響曲 第4番 ホ短調

樫本大進&コンスタンチン・リフシッツ(4月25日)
  曲目/ ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第4番
      ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番「雨の歌」
      ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第10番

ケント・ナガノ指揮モントリオール交響楽団(10月18日)
  曲目/ ラヴェル:組曲「クープランの墓」、 ボレロ
      ムソルグスキー(ラヴェル編曲):組曲「展覧会の絵」

シュトイデ弦楽四重奏団(11月12日)(Kitara小ホール)
  曲目/ モーツァルト:弦楽四重奏曲 第14番 ト長調
      ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第11番 ヘ短調 「セリオーソ」
      シューベルト;弦楽四重奏曲 第14番 ニ短調 「死と乙女」

札幌交響楽団第574回定期演奏会[指揮:ラドミル・エリシュカ](11月15日)
  曲目/ ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲
     モーツァルト:交響曲 第38番 二長調 「プラハ」
     ブラームス:交響曲 第2番 二長調

ワディム・レーピン ヴァイオリン・コンサート~偉大な芸術家の思い出に~
   with アレクサンドル・クニャーゼフ(Vc)&アンドレイ・コロべイニコフ(P)(12月2日)
  曲目/ ラフマニノフ:悲しみの三重奏曲 第1番 ト短調
     チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ (チェロ&ピアノ)
     ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ
     ラヴェル:ツィガーヌ
     チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲 イ短調 「偉大な芸術家の思い出に」

ケマル・ゲキチ ピアノ・リサイタル2014 (12月7日)(Kitara小ホール)
  曲目/ ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ、
          マズルカ op.56 Ⅰ.ロ長調、 Ⅱ.ハ長調  Ⅲ.ハ短調
          ノクターン 第15番、 第16番
          ポロネーズ 第6番 変イ長調 「英雄」
     シューベルト(リスト編):アヴェ・マリア
     リスト:ハンガリー狂詩曲 第10番、 第11番
     ワーグナー(リスト編):イゾルデの愛の死、 タンホイザー序曲

※日付の後に記した以外の会場は全てKitara大ホールである。今年はKitara以外の会場に足を運んだ回数が8回と例年より多かったとはいえKitaraホールが圧倒的に多い。
今年は自分でベストテンを絞り込むのに少々時間を要した。初めて聴いたり、久しぶりに聴くコンサートの方がどうしても印象が強くなる。《尾高忠明&札響の「マーラーの第9番」》や《佐渡裕&PMFオーケストラ》、《オスモ・ヴァンスカ&PMFオーケストラの第九》も素晴らしかった。PMFではナカリャコフも堪能した。
今年は毎年リサイタルを聴く小山、外山、近藤、及川の他に田部、河村らのピアノを楽しめた。中村紘子のデビュー55周年記念リサイタルを聴けたのも良かった。外国人ではトップテンにあげたソリストの他にアシュケナージ、ユンディ・リも久し振りに聴けた。パスカル・ロジェ、ティル・フェルナーのピア二ズムも初めて楽しめた。
期待外れのコンサートは皆無に近い。毎回それなりに楽しめた。一番多く聴く機会のある札響のレヴェルが高いのもKitaraで充実した時間を過ごせる要因ではないかと思う。エリシュカが毎回のコンサートで好印象を残している。『エリシュカ&札響&聴衆』という一体感のあるコンサートは実に素晴らしい。来年も期待大である。
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札響の第9 (2014)

札響名曲コンサート  札響の第9

近年、《札響の第9》は12月初旬か中旬に行われていたが、以前は1年の最後を飾るコンサートとして25日と30日の間の文字通り年末に開催されていたと記憶している。昨年は外国のオーケストラが年末に公演した。個人的には「第九」は年末に聴いて年を過ごしたいという感覚になっている。そういう意味で今年は正常に戻ったように感じがする。
いずれにしても日本で「第九」は12月に演奏される機会が最も多い。
昨年12月のブログでも書いたが、2014年の「第九」演奏状況が月刊音楽誌〈ぶらあぼ〉に載っていた。12月分のみの同誌による集計結果は次の通りである。
★演奏回数
  全国185/ 東京・関東101/ 近畿40/ 北海道・東北10/中部18/ 中国・四国5/九州・沖縄11
★オーケストラ
  日本フィル 9回、 読響・東響 各8回、 東京フィル・大阪フィル 各7回、
  京響・群響 各6回、 N響・関西フィル・九響 各5回
※佐渡裕(指揮)Xケルン放送交響楽団による「第九」演奏会が11日から18日までの8日間にわたって東京・川崎のホールで合計7回開催された。

2014年12月27日(土) 14:00開演 札幌コンサートホール Kitara大ホール

指揮/ 尾高忠明   管弦楽/ 札幌交響楽団
独唱/ 横山恵子(S)、金子美香(Ms)、鈴木准(T)、吉川健一(Br)
合唱指揮/ 長内勲   合唱/ 札響合唱団、札幌アカデミー合唱団、札幌放送合唱団

ベートーヴェン: 交響曲第9番 二短調 op.125 「合唱付き」

前回のコンサート鑑賞から間が空いて、ここ数日は手持ちの「第九」のCD(フルトベングラー指揮ベルリン・フィル、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管、朝比奈隆指揮新日本フィル、クリュイタンス指揮ベルリン・フィル、オスモ・ヴァンスカ指揮PMFオーケストラ2014)をバックグラウンドミュジックのように流して年末気分に浸っていた。

地下鉄を降りて戸外に出ると中島公園内は朝までに降った雪も綺麗に除雪されていた。Kitaraへと向かう人の群れが列をなしていた。ホアイエも賑わっていて、大ホールにも既に多くの人が客席に着いていた。コンサートが始まるまでには殆どの客席が埋まって9割5分以上の客の入り。尾高忠明音楽監督として最後の第9とあって聴衆の期待度も高かった。

今回はいつもと違った観点から鑑賞しようとして、3階のRC2列の一番前の座席を購入した。ステージ全体が視野に入って、演奏者の姿がしっかり見えて演奏の様子が目に入る座席にした。3階から見るステージ上に整列した合唱団とオーケストラ楽団員の姿は壮観。札響の演奏もいつも通りの熱演。約150名から成る合唱団は迫力があって力が出せた印象を受けた。ソリストは二期会会員のヴェテランや中堅の歌手であったが、一斉に歌唱する場合に声がオーケストラと合唱にかき消されたように思った。これは3階の座席の所為だったのだろう。オーケストラの各奏者の演奏の姿が良く見えて、1階席では味わえない満足度があった。
全体的には演奏者との密着度が足りなくて緊迫感に欠けるのがマイナスだった。それと独唱がバリトンはともかく全般的に1階正面の方が聴きやすいように思う。昨年の〈尾高&札響の第9〉や昨年年末の〈キエフ国立フィルの第九〉より満足度は高くなかった。これはあくまでも私個人の感想である。
各個人の鑑賞の仕方によって感想が違うのが当たり前であるが、演奏終了後の拍手喝采や歓声はいつものように盛大で大部分の聴衆は大いに満足したようであった。私自身、別に不満があったわけではない。鑑賞の観点が客観性に欠けていたのだろうと思う。CDを聴き過ぎたために新鮮さを感じ取れなくて集中度に欠けていたのかも知れない。
 
〈札響の第9〉は明日も開かれる。プログラムに尾高忠明指揮札幌交響楽団 第9演奏会のこれまでの記録が載っていていた。81年から延べ回数22回。04年の音楽監督就任以来はほぼ1年おきに演奏してきた。最終回の演奏はマエストロにとっても感慨深いものになるだろう。

※2014年に札幌コンサートホールでは「第九」は4回演奏されたが、音楽の友コンサート・ガイド調べで統計が出ていたので参考までに書いておく。
★今年最も《第九》が演奏されたホール
  ①サントリーホール(15) ②東京芸術劇場(8) ③ザ・シンフォニーホール(7)、横浜みなとみらいホール(7)、⑤フェスティバルホール(6)
★今年最も《第九》を振った指揮者
  ①佐渡裕(10) ②秋山和義(7)、大友直人(7)、小林研一郎(7)、レオポルト・ハ‐ガ‐(7)
★今年最も《第九》を歌ったソリスト
  ①西村悟(12) ②錦織健(11)
テノール歌手の西村は佐渡裕&ケルン放送響演奏会でソリストを7回務めた。錦織はリサイタルの時に今でも若い人に交じって「第九」のソリストに出演することが多いと述べていた。

※CDが市場に登場したのが1982年と言われる。CDの登場で長い交響曲を聴けるようになった。CDの基本的収録時間は74分。当時、フィリップス社が60分、ソニーが74分と収録時間を主張して、ソニーの大賀社長と親交のあったカラヤンの助言があって、「第九」が一枚に収まる長さにするには74分の方が良いと決まったようである。どの指揮者の演奏でも第九は一枚のCDで聴ける。マーラーの曲でさえ一枚で聴けるものが多い。CDの普及にあたってこんなエピソードが《音楽の友12月号》に載っていた。

[追記]大晦日の晩にEテレの番組で「N響の第9」を観て気付いた。第3楽章で4番ホルン奏者が活躍していた。ベートーヴェンの交響曲では珍しいトロンボーン、ピッコロ、コントラファゴットも使われていた。第4楽章は合唱に気を取られてしまうがシンバル、大太鼓、トライアングルが使われているのも注目に値する。これらの楽器を使うことで新しい音楽を作り出したベートーヴェンの意図が読み取れる。

Kitaraのクリスマス 2014

2014年のKitaraのクリスマスはマエストロ広上&ジョン・健・ヌッツオ&札響によるコンサート。
指揮者として人気のある広上淳一は3年連続のクリスマス公演出演。

ジョン・健・ヌッツオ(John Ken Nuzzo)は1966年東京都生まれのアメリカ人。85年、アリタリア国際声楽コンクール第2位。南カリフォルニア・チャップマン大学在学中からソリストとして海外ツアーに参加。92年のツアー中にローマ法皇のリクエストにより《愛の妙薬》より「人知れぬ涙」を歌って賞賛されたエピソードを持つ。97年、第9回日本声楽コンクール第1位。2000年、ウィ-ン国立歌劇場と専属契約を結ぶ。ウィ-ンでのテノール歌手の活動が日本のテレビで放映され注目を浴びる。02年、NHK紅白歌合戦出場。03年、メトロポリタン歌劇場でデビュー。レヴァィン指揮ミュンヘン・フィルと共演し、ザルツブルグ音楽祭に出演するなど海外で活躍。今年は日本で地道なオペラ活動を展開。
Kitaraには06年のジルベスタ―コンサートに出演、11年9月に大ホールでテノール・リサイタルを開いた。「カッチーニ:アヴェ・マリア」、「ヘンデル:オンブラ・マイ・フ」、「ヴェルディ:女心の歌」、「プッチーニ:星は光りぬ」や「オー・ソレ・ミオ」、「帰れソレントへ」、「カタリ、カタリ」等のカンツォーネを歌った。

2014年12月23日(火・祝) 15:00開演 札幌コンサートホール Kitara 大ホール

〈PROGRAM〉
 ビゼー:アルルの女 作品23 第1組曲より 第1曲 前奏曲 第2曲 メヌエット
 モーツァルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」より “恋人のやさしい息吹は”
 ビゼー:アルルの女 作品23 第1組曲より 第3曲 アダ―ジェット 第4曲 カリヨン
 ヴェルディ:「レクイエム」より “我は嘆く” 
 ビゼー:アルルの女 作品23 第2組曲より 第3曲 メヌエット
 ヴェルディ:歌劇「リゴレット」より 女心の歌 “風の中の羽根のように”
 ビゼー:アルルの女 作品23 第2組曲より 第4曲 ファランドール
 プッチーニ:交響的奇想曲
         歌劇「トスカ」より “妙なる調和”
 レオンカヴァッロ:歌劇「道化師」より 間奏曲
 プッチーニ:歌劇「トスカ」より “星は光りぬ”
         歌劇「マノン・レスコー」より 間奏曲
         歌劇「トゥーランドット」より “誰も寝てはならぬ”
 アンダーソン:そりすべり
          クリスマス・フェスティバル

オーケストラ曲と有名なアリアを交互に組み合わせたプログラミングがとてもユニーク。

ビゼー(1838-75)はフランスの作曲家。ドーデの小編「アルルの女」が戯曲化され、ビゼーはその上演に際して劇音楽の作曲を委嘱された。平和な農村に住む若者がアルルの町へ遊びに行き、アルルの女を知ったために自らの命を絶つと言う悲劇。背景が南フランスの牧歌的な田園だけに、悲劇が衝撃的である。ビゼーは20数曲の劇音楽を1872年に作曲。
 
第1組曲の前奏曲はプロヴァンス地方の民謡に基づく変奏曲。行進曲風で良く耳にする調べ。メヌエットは祭りの日に奏される素朴で明るい旋律。「短いアダージョ」の意味のアダ―ジェットの弦楽合奏の哀愁を帯びたテーマが印象的。カリヨンは祭りの日の幕開けに奏される鐘の音を模倣した明るい陽気な音楽。
第2組曲はビゼーの没後、生涯の友人であったギローが選曲して作られた。第3曲のメヌエットはビゼーの歌劇〈美しいパースの娘〉の第3幕から採られている。フルートがハープの伴奏に乗って美しい旋律を奏でる。ファランドールでは第1組曲の前奏曲の旋律に始まって、劇の終盤で村人たちが舞曲を踊っている最中に傷心の若者が投身自殺を図るフィナーレ。ファランドールはプロヴァンス地方に伝わる古い舞曲で木管が情熱的なメロディを奏で、打楽器がリズムを刻んでクライマックスへ。先月の西本智実&ロイヤル・チェンバーオーケストラがアンコール曲に演奏したばかりの有名な曲。

ジョン・健・ヌッツオは前半に3曲。モーツァルトとヴェルディの曲は聴いたことはあるが、親しめる曲にはなっていない。歌劇《リゴレット》はオペラを見た他に、「女心の歌」は昔から馴染みの曲でドミンゴの歌をCDでも聴いている。人気曲とあって会場を埋めた聴衆から一段と大きな拍手があって気分が高揚した。オーケストラをバックに歌うヌッツオの歌声はやはり迫力十分!

後半はプッチーニ(1858-1924)を中心にしたプログラム。彼が音楽院の卒業作品として書いたという「交響的奇想曲」。彼の曲はオペラ曲しか持っていないと思っていたら、「交響的前奏曲」などオーケストラ音楽のCDを輸入盤で持っていた。
今日の演奏を聴いていて聴いたことのある曲と思って帰宅して気付いた次第。12分ほどの曲でなかなか良い曲。明日にでも聴き直してみようと思う。
歌劇《トスカ》は実演でもMETビューイングでも鑑賞した有名なオペラ。マリア・カラスが歌う《歌劇「トスカ」全曲》のCDをKitaraからもらって(*年4回の高額の特別チケットの購入に付いていた特典)所有している。このCDでカラヴァドッシ役がジュゼッペ・ディ・ステファーノで1970年に旭川で彼の歌声を直に聴いた。(ヴァイオリニストとして有名だった佐藤陽子が彼に認められて歌手として出演したデュオ・コンサート。) 
歌劇「トスカ」より2曲が歌われた。2曲ともに有名であるが、特に“星は光りぬ”はカラヴァドッシが処刑を前にトスカとの思い出にふけり別れを歌う美しいアリア。実演の場面を思い浮かべながら、ヌッツオの美しい伸びやかな歌声を聴いた。馴染みの曲をオーケストラをバックに歌う迫力は凄かった。歌い終わると聴衆からブラボーの掛け声と大歓声が沸き起こった。本日一番の盛り上がり。さすがウィ-ン国立歌劇場やメトロポリタン歌劇場で歌った実績のある歌手の歌声が実感できた。3年前に聴いたリサイタルより、オーケストラ伴奏で聴くと迫力が断然違う。
最後の6曲目に歌った「誰も寝てはならぬ」も素晴らしかった。“Vincero”(わたしは勝つのだ)と歌い上げたヌッツオの満足そうな表情も何よりだった。この曲は日本人にすっかり定着したようである。聴衆からの拍手、大喝采で彼の疲れも吹き飛んだのではないだろうか。

広上の指揮ぶりは2階RB席の一番前の2列目から見たせいか腕の振りが大きく見えた。曲目のせいもあって一層大きく腕を振ってダイナミックな指揮になっていた。オペラでの豊富な経験が表情豊かな指揮に繋がっているように思えた。

オーケストラのアンコール曲はNHK大河ドラマ「軍師官兵衛」より「菅野祐悟:天才官兵衛」。ソリストのアンコール曲は“Silent Night”(1番だけで2番が日本語で聴衆全員で歌ったが、折角の機会だったので2番や3番を英語で歌ってもらった方が良かった。)最後に聴衆が「きよしこの夜」を日本語で歌って終演。(これは慣習となっていて良かったと思う。)

1階の13列にかなりの空席があって勿体ないと思ったがS席、A席は売り切れでB席だけ当日券が売り出されたという9割以上の客席が埋まった状況。3階の客席がほぼ埋まるのは最近のクラシックのコンサートでは珍しい。祭日で3時開演は時間的に好都合だったと思う。3世代の家族連れの姿も目にするコンサートも珍しい。クリスマスコンサートならではの光景。昨年は5時開演で客の入りが悪かったことを考えての配慮だったのなら好ましい。いずれにしても、今日は楽しいコンサートになった。

及川浩治ピアノ・リサイタル ショパンの旅 2014~2015

「及川浩治 ショパンの旅」は1999年、ショパン没後150年のメモリアル・イアーに始まった。この企画は長野県松本市でスタートして話題を集め、「国内の旅」が始まったようである。札幌コンサートホールKitara小ホールでのリサイタルは語りを入れながら繰り広げられたが、そのコンサートの模様は鮮烈な印象となって今でも眼前に浮かぶ。翌年、その時と同じプログラムの演奏が大阪ザ・シンフォニーホールでライヴ録音された。そのCDを聴く機会があることも印象の強さとなっている。
2006年の「新・ショパンの旅」、ショパン生誕200周年の「ショパンの旅2010」に次ぐ4年ぶりの4回目のオール・ショパン・リサイタルである。

及川浩治はPMF1998以来、毎年のように来札しているが、彼のコンサートを聴くのは今回が14回目である。

2014年12月19日(金) 7:00PM開演 札幌コンサートホール Kitara大ホール

ショパンの旅 2014~2015

〈オール・ショパン・プログラム〉
 ノクターン 第1番 変ロ短調 op.9-1
 ノクターン 第2番 変ホ長調 op.9-2
 ノクターン 第3番 ロ長調 op.9-3
 ポロネーズ 第5番 嬰へ短調 op.44
 幻想曲 ヘ短調 op.49
 ポロネーズ 第6番 「英雄」 変イ長調 op.53
 ノクターン 第14番 嬰へ短調 op.48-2
 舟歌 嬰へ長調 op.60
 ノクターン 第15番 ヘ短調 op.55-1
 ポロネーズ 第7番 「幻想」 変イ長調 op.61
 アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 op.22

今回の「ショパンの旅」に際して、及川浩治は下記のようにメッセージを書いている。
[ショパンの「ピアノの詩人」というイメージではなく、彼の真の人間像を表現できたらと思います。ショパンの音楽の奥底にある『魂の叫び』のようなものを感じて頂けましたら幸いです。]

今回のプログラムはショパン(1810-49)芸術の円熟期である1841年~1846年の作品を中心に選曲された。        

最初の曲は1830年から32年にかけて書かれたノクターン。作品9は3曲からなり、アイルランドの作曲家・ピアニストのジョン・フィールドの影響を受けて、ショパンは甘美なサロン風の夜想曲を作曲した。

ポロネーズはマズルカとともにポーランドの民族的な舞曲。生前に発表され番号が付いていたのは第1番~第7番。死後、番号が付けられた第8番~第16番のCDを4年ほど前に手に入れた。ショパンが一番最初に作曲して、出版されたのが7歳の時の「ポロネーズ ト短調」(第11番)と言われている。タイトルが付いているのが第3番「軍隊」と「第6番」、「第7番」。「第5番」は1841年の作品。
 
幻想曲と名付けられた作品はバッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、ブラームスなど多くの作曲家が書いている。ショパンの「幻想曲」は1841年に完成された作品。彼のCDは何十枚も持っているが「幻想曲 ヘ短調」はキーシンのだけ。即興演奏風に自由に書かれているが特徴のようである。曲の初めに日本で流行った「雪の降る街を」のメロディを何時も思い出す。ショパンの「幻想曲」を聴くたびに日本の親しまれた歌曲が浮かんできて不思議な思いがするのである。

前半の最後の曲はショパンのポロネーズのなかで、勇壮で華やかな力強い曲。堂々とした進軍する勇ましい姿を連想させ、「英雄ポロネーズ」として最も親しまれている。前半の締めに相応しい曲。

コンサートが始まって客入りが悪いのが少々気になった。1階、2階の正面の空席が目立った。悪天候が回復したとは言え、15分、30分と遅れて会場入りする姿が目立った。今日は久しぶりでRA席から鑑賞してみた。ホール全体が見渡せてピアニストの演奏だけでなく聴衆全体の様子が把握できる状況でコンサートの雰囲気を味わってみた。市内からだけでなく、遠方から聴きに来ている人も少なからずいる様子。
前半終了時までには1階席もかなり埋まったが、約1300席を売り出したが5割ほどの客の入り。2階正面席が空いていた。
今までA席3000円、B席2500円だったのが、今年はA席3500円、B席2500円となっているのに気付いた。500円値上がりするだけでの客の入りの違いを感じた。
個人的には休憩時間にホアイエに出て1階のオペラ階段を上がったところの天井に下がる雲の造形物を芸術的な観点からゆっくり鑑賞できたのは何よりであった。普段、込み合っている中では静かなホアイエの様子に浸ることはめったに無い。

後半はノクターンの小品で始まった。ショパンは遺作を含めて21曲のノクターンを残した。
1846年に作られたショパン唯一の「舟歌」。舟歌は本来ヴェネツィアのゴンドラの船頭の歌。この作品にはどこか寂しさが漂う。ピアノ演奏には高度なテクニックが必要とされると言われている。

「幻想ポロネーズ」はショパン晩年の傑作のひとつ。ポーランドの舞曲の形式を芸術作品として作り上げ、詩情あふれる独創的な作品で、全体が自由な形式で書かれファンタジーに満ちた曲にもなっている。

プログラム最後の曲は元来、ピアノとオーケストラのために書かれた作品。ポロネーズの部分が1830年から翌年にかけて作られ、1834年に序奏にあたるアンダンテ・スピアナートの部分が完成された。現在はピアノ独奏曲として演奏される機会が圧倒的に多い。「ショパンの旅」の最後を飾るに相応しい曲。

演奏終了前に曲の変わり目に席を立つ人もいたが、多分遠方からの客だろうと思った。私の前で熱心に鑑賞していた若いカップルも途中で退席した。こんな様子にも一度は聴いてみたいと駆け付けた及川ファンの姿を見た感じがした。(私の勝手な推測)。

聴衆は比較的に大人しかったが、演奏者の想いにそって鑑賞して、行儀のよい態度であった。ピアニストは前年のベートーヴェンの取り組みとはがらりと雰囲気を変え、ショパンの「魂の叫び」を伝えようとしていたのだろう。ピアニスト及川よりショパンの心の奥底を表現するのに重点を置いた演奏のように感じた。

アンコール曲は2曲。“ノクターン 遺作”と“雨だれ”と言って、それぞれ演奏。
「ショパン:ノクターン第20番 嬰ハ短調(1830) 遺作」。この作品は十数年前の映画「戦場のピアニスト」の冒頭部分のピアノ曲で忘れ難い。その後、ユンディ・リもアンコール曲にこの曲を弾いた。アンコール・ピースとして演奏される機会が多い名曲。この曲はショパンのノクターンで最も心の奥深くに響く私の大好きな曲。
「ショパン:前奏曲 第15番「雨だれ」 作品28-15」。ショパンの前奏曲のCDもキーシンの録音盤だけ。24曲中で大部分が1・2分程度の短い曲で、5分強の一番長い曲「雨だれ」が最も有名な曲で親しまれている。

*「ショパンの旅」は2015年2月まで続き、東京などでの公演が予定されているようである。





クリスマス オルガンコンサート

Kitara恒例のクリスマス オルガンコンサートを聴くのは久しぶりである。今年はホルンの名手バボラークが出演して例年のオルガンと合唱のプログラムに彩りを添える楽しみなプログラム。

2014年12月14日(日) 17:00開演 札幌コンサートホール Kitara大ホール

ホルン/ ラデク・バボラーク
オルガン/ アレシュ・バールタ
指揮/大木秀一   合唱/ 北海道札幌旭丘高等学校合唱部

ラデク・バボラーク(Radek Baborak)は1976年、チェコ生まれ。ミュンヘン国際コンクール優勝。これまでチェコ・フィル、ミュンヘン・フィル、バンベルク響、ベルリン・フィルのソロ・ホルン奏者を歴任。ベルリン・フィル首席奏者を辞任して、チェコ・シンフォニエッタを創設して、より自由な演奏活動を行なっている。水戸室内管など日本での活動も相変わらずで、近年は指揮者としての活躍も目覚ましく、昨年のPMFの室内楽でも指揮活動が目立った。

アレシュ・バールタ(Alesh Barta)は1960年、チェコ生まれ。ブルノ音楽院、プラハ芸術アカデミーで学ぶ。82年、ブルックナー国際オルガンコンクール優勝。83年、リスト国際オルガンコンクール第2位。84年、「プラハの春」国際音楽オルガンコンクールで圧倒的第1位を獲得して、海外での活躍の舞台を広げた。リサイタル活動の他にチェコ・フィル等のオーケストラとも共演。95年からプラハ放送響の専属ソリストに就任。

〈PROGRAM〉
★ホルンとオルガン
  J.S.バッハ:コラール「われらが神はかたき砦」BWV720
         アリア「汝、わがそばにあらば」BWV508
         コラール「目覚めよ、と呼ぶ声あり」BWV645
  ブラウン:無伴奏ホルンのための12の前奏曲より 第7番、第8番、第11番 [ホルンソロ]
  リスト:バッハの名による前奏曲とフーガ S.260 [オルガン ソロ]
  ブルックナー(ボク編):交響曲第7番 ホ長調 作品107より 第2楽章アダージョ
  ボク:ホルンとオルガンのためのマニフィカト(新作委嘱)
  サン=サーンス:ホルンとオルガンのためのアンダンテ ヘ長調
  ボク:夢見るクリスマス・キャロル
 ★合唱とオルガン
  クリスマス・キャロル/森友紀編:もろびとこぞりて、信長貴富編:オー・ホーリー・ナイト
  フランク:天使の糧
  カッチーニ/江上孝則編:アヴェ・マリア
  ラター:エンジェルズ・キャロル

バッハのオルガン曲には“コラール”と銘打った小品が沢山ある。最も有名なコラールの1曲が「目覚めよ、と呼ぶ声あり」で演奏される機会も多くて、メロディも耳に馴染んでいる。ホルンとオルガンの共演は勿論はじめてだった。
ブラウン(1922-2014)の名も曲も初めて耳にする。彼はドイツ生まれだが、イスラエル育ちで、バボラークとの繋がりが深い作曲家であったと言う。バボラークの特殊才能を生かしての作品なのだろう。
リストがオルガン曲として残した有名な曲。今までかなりオルガン曲の生演奏を聴いてきたが、運指の速さが想像できないほど凄かった。目では見れなかったが、正に超絶技巧を要する曲で印象に残った。教会音楽というより演奏会用音楽なのではないだろうか。
ブルックナーは苦手な作曲家の一人。彼の交響曲で第4番と第7番だけは比較的に親しみ易い曲。カラヤン指揮ベルリン・フィルのCDで偶に聴くが、めったに聴かない。今日に備えて「第7番第2楽章」だけきいてみたが、このアダージョが聴いていてとても心地良かった。マーラーの「第5番」のアダージョと同じように親しめて新鮮な感じがした。今回は20分ほどの楽章が編曲されて10分ほどの曲になって演奏されたが、原曲の良さは余り感じ取れなかった。それでもブルックナーを聴き直す切っ掛けになるかも知れない演奏曲になったので良かった。バールタはブルックナーとリストが得意なようである。

バボラークの演奏は何度耳にしても素晴らしい。ホルンからどうやってあのような綺麗な音が生まれるのか不思議なほどである。

前半最後のブックナーの編曲を手がけたミロシュ・ボク(1968- )はチェコの作曲家で、指揮者・ピアニストとしても活躍していると言う。バボラークが結成した〈チェコ・ホルン・コーラス〉のためにブルックナーの声楽作品を編曲したり、バボラークのためにも編曲や作曲活動を行っているとの事。今回の演奏会で披露される委嘱新作「マニフィカト」もバボラークならではの試みだと思う。
サン=サーンス(1835-1921)は作曲家としてだけでなく、教会オルガニストを務め、ピアノの名手でもあり文学や数学にも秀でる才能の持ち主として知られた。この作品は1835年頃に書かれたらしいが、譜面が1980年代に再発見されたと言う。まだ演奏も録音の機会も珍しい曲。
昔から親しまれているクリスマス・キャロルは全8曲からなるオーケストラ作品であるが、ボクがホルンとオルガンのために編曲した。

前半が終わって18時。休憩20分。後半の「ホルンとオルガン」のプログラムが30分弱。「合唱とオルガン」のプログラムが始まったのが18時50分。

今年はクリスマスコンサートの飾りが大ホールには無かったが、合唱が始まると同時に照明器具を使ってステ―ジ横の壁にステンドグラスが描かれ教会内の雰囲気が広がった。日本で最も優秀な高校合唱部の一つとして実績のある北海道旭丘高等学校合唱部が出演。
クリスマス時期に歌われる名曲の中から5曲を披露した。フランク作曲の讃美歌がソプラノのソロと合唱で歌われた。ソリストの透明感のある美声は素晴らしかった。合唱曲も静かにクリスマスを祝う雰囲気が醸し出されてホールに優しく広がった。さすが全国で注目される合唱部の面目躍如の歌声。今回は1・2年生だけの出演ということだっだが、音楽専門の顧問の指導力もあって、見事で高度な合唱を聴かせてもらった。
アンコール・ピースは「きよしこの夜」。照明の演出で夜空に満天の星が輝く中で、空まで届きそうな優しい歌声が響き渡った。とても清々しい気分になった。
合唱部員全員が退場するまで拍手を続ける観客の姿に満足の様子と合唱部員への称賛の気持ちが読み取れた。

大ホールのホアイエでは出演者のCDを買ってサイン会に並ぶ人々の列が延々と続いていた。
17時開演で大ホールを埋めるのは難しい。前半で席を立つ人や、合唱が始まる前に帰った人は素晴らしいクリスマスの歌の響きを聴き逃して勿体ない気がした。クリスマスのコンサートは土日開催では15時開演の方が客が多く入ると思う。

*バボラーク&バールタ デュオ・リサイタルが12月8日に水戸芸術館コンサートホールで開かれ、Kitaraとほぼ同様のコンサートがあった。12月16日には東京芸術劇場でパイプオルガンコンサートがあり二人が共演する予定。

札幌交響楽団第575回定期演奏会(2014年12月)

2014年12月13日(土) 14:00開演 札幌コンサートホール Kitara大ホール
 
指揮/ クラウス・ペーター・フロール
ヴァイオリン/ オーガスティン・ハーデリッヒ

クラウス・ペーター・フロール(Claus Peter Flor)は1953年、ライプツィヒの生まれ。シューマン音楽院でヴァイオリンとクラリネットを専攻、リスト音楽院やメンデルスゾーン音楽院でも研鑚を積む。指揮はマズア、ザンデルリンクらに師事。80年、ポーランドのフィテルブルグ国際指揮者コンクールに優勝。ベルリン響の首席指揮者に就任(82-91年)。88年にはベルリン・フィルを指揮。フィルハーモニア管首席客演指揮者(91-94)、チューリッヒ・トーンハレ管首席客演指揮者(91-95)、ジュゼッペ・ヴェルディ響首席客演指揮者(03- )などを歴任。08年からはマレーシア・フィルの音楽監督を務め、09年の日本ツアーではKitaraに初登場。(その時のソリストはレーピン。マレーシア・フィルは1998年創立のインターナショナルなオーケストラで昨年11月の札響定期に登場し、16年1月に再登場するパーメルトが03-08年まで同フィルの音楽監督を務めた。)
フロールはベルリン・フィルに数度の客演を行うなど世界のメジャー・オーケストラに客演している名匠。

オーガスティン・ハーデリッヒ(Augustin Hadelich)は1984年、ドイツ人の両親の下でイタリア生まれ。10代で大やけど負いながらも克服し、イタリア・マスカーニ音楽院を最優等で卒業。ジュリアード音楽院でディプロマを取得。06年、インディアナポリス国際ヴァイオリンコンクールで優勝。クリーヴランド管、ロサンゼルス・フィル、ヒューストン響、ヘルシンキ・フィル、シュトゥットガルト室内管、ドレスデン・フィルやブタペスト室内管などのオーケストラと共演。パリ、東京、ニューヨーク、バンクーバー等でリサイタル。室内楽ではマルボロ、ラヴィニアなどの音楽祭に参加。

〈プログラム〉
 チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 二長調 op.35
 ショスタコーヴィチ:交響曲第15番 イ長調 op.141

ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームスのヴァイオリン協奏曲が通常、三大ヴァイオリン協奏曲と言われているが、チャイコフスキーの曲は人気曲として上記の三大曲に勝るとも劣らない曲である。一応、四大ヴァイオリン協奏曲には異論のない曲として入る。私自身、若い時には4曲ともLPレコードが擦り切れる程に聴いて親しんできたが、「三大ヴァイオリン協奏曲」はベートーヴェン、メンデルスゾーン、チャイコフスキーの曲だと思っていた時があった。(*「三大曲」は西欧の作曲家の曲を中心に考えたことに由来するのではないかと勝手に類推している。)
この4曲のCDはそれぞれ違うソリストのものを各10枚は持っているほど気に入りの曲である。
SP, EP, LPで聴き続け、カー・ステレオでカセットを使い始め、ようやくCDを手にするようになったのは流行り出してから十数年後の1998年。一番最初に買ったのが「五嶋みどり&アバド指揮ベルリン・フィルのチャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲、ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲」のカップリングのCD。2000年に入ってから、急増して現在は1000枚ほど。とにかく、チャイコフスキーは気に入りの作曲家の一人である。

チャイコフスキーの有名なピアノ協奏曲第1番と同様に発表当時はこのヴァイオリン協奏曲も演奏不能と言われて評判にならなかったエピソードは良く知られている。
独奏ヴァイオリンが輝かしいメロディを奏で、民族的な情感のなかにチャイコフスキー特有の哀愁に満ちた甘美な旋律がふんだんに盛り込まれた名曲として親しまれている。
第1楽章では愛らしい主題と抒情的な主題が歌われ、カデンツァをハーデリッヒは技巧をこらして華麗に演奏した。第2楽章は独奏を主役にカンツォネッタ(小さい歌)で哀愁漂う雰囲気の楽章。第3楽章はロシアの民族舞曲風の主題が華やかに奏でられて活力あるフィナーレ。

ハーデリッヒの力強い演奏は客席を埋めた聴衆から大きな拍手と歓声を受けた。客席の反応に満足した様子で、鳴り止まぬ拍手に応えて、“パガニーニ:カプリッチョ No.24”と言って、アンコール曲を演奏。最後は楽器を持たずにステ―ジに登場して挨拶しなければならないほど聴衆の温かい反応があったのが印象的であった。

ショスタコーヴィチはどちらかと言えば鑑賞が難しい苦手な作曲家。2006年はモーツァルトの生誕250年に当たる年で、毎日欠かさず彼の曲を聴いていた。この年はショスタコーヴィチの生誕100年にも当っていたので、2006年の後半から彼の曲にも親しむ機会を持った。94年からのPMF演奏会でショスタコーヴィチの交響曲第5番や第11番を聴く機会が増えて、CDを購入する気分も盛り上がっていた。07年には8番、11番、13番、15番を手に入れた。(結果的に奇数番号の曲が多くて、他はレコード店に在庫がなかった。)
第15番は聴いて直ぐ面白いと思った。ロッシーニの「ウィリアム・テル」序曲の引用が繰り返しあって曲に親しみを覚えた。
その後、めったに聴く機会は無かったが今回の演奏会に備えて、数回聴いてみた。
コンサートでの生演奏は初めてかと思っていたら、プログラムに札響初演の日付が「1993年4月19日(札幌市民会館) 指揮:外山雄三」と書かれていた。その当時は札響会員だったので、聴いていたことになる。(07年に復帰するまで数年間は会員でなかった。)早速帰宅してプログラムを見てみたら、「オール・ショスタコーヴィチ・プログラム」で記録があった。ただ、会場は「北海道厚生年金会館」だったので、今回のプログラムでは記録を間違ったように思う。
当時は在職中でいくら音楽が好きと言っても、今とは集中度が違っていたようである。全然、記憶にない。ただ、チェロ独奏が堤剛、客演コンマスがニキチンは何となく覚えている。第15番は全く覚えていない。

今回の演奏会は外国人の指揮者と演奏家の出演で知名度が高くなかったせいか、演奏会開催の新聞広告回数が普段よりかなり多かった。広報活動の成果もあって名曲のヴァイオリン曲演奏に誘われてだろうが結構な客入りであった。ショスタコーヴィチで客集めは難しいと思われた。定期演奏会ではこのような演目は望まれるところで結果的に良かった。

ショスタコーヴィチ(1906-75)はピアニストか作曲家のどちらを目指すかに迷っていた。1927年に行われた第1回ショパン国際コンクールに出場して予選は通過したが、彼は作曲家への道を決意して本選を棄権したエピソードが残っている。
その後、レニングラード音楽院の教授となり作曲活動に専念して、それまでの作曲家たちの壁であった9曲の壁をあっさり乗り切り全15曲の交響曲を作りあげた。
彼はロシア革命、2つの世界大戦と苦難の時代を国内で生き抜いてきた。革命後に作品が新聞批判にさらされた結果、作曲の意図を曖昧にした作品を書いたとも言われる。政府を明らかに皮肉った作品も多く、作品鑑賞が単純ではない面も多々あるようだが、それだけに逆に面白いと評価されている。弦楽四重奏曲、ピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲など優れた作品が多く20世紀の大作曲家として広く親しまれている。

「交響曲第15番」はタイトルは付いていないが、4楽章構成の大作。1971年に彼は“happy symphony”を書きたいと言ったそうである。作曲当時は彼は重病で入院生活を送っていた。この最後の交響曲は自伝的要素の強い作品。ティンパニ、シンバル、大太鼓、チェレスタ、トライアングル、カスタネットなど、名称も判らない打楽器が多用されていて興味深かった。
第1楽章は軽妙で生気にみちた楽章。ロッシーニの「ウィリアム・テル」序曲の引用が5回も繰り返されて親しみが持てた。ショスタコーヴィチの息子によると、作曲家自身が子供の頃に大好きだった「ウィリアム・テル」のマーチのメロディを多用して描いたらしい。
第2楽章は沈痛なアダージョ。第1楽章とは対照的な悲劇的雰囲気を持った楽章。第3楽章は軽妙洒脱なスケルツォ。第4楽章は荘重な序奏。ワグナーの「ワルキューレ」の運命のモチーフの引用があり、過去の遺産を振り返りながら、自分自身の最後の交響曲に万感の思いを込めているようなフィナーレ。

打楽器の音色のほか、フルート、ヴァイオリン、チェロ、コントラバスなどのメロディが効果的に使われていて印象的であった。オーケストラ総奏以外で上記の楽器の他にトロンボーン、ホルン、クラリネット、オーボエ、ファゴット、ピッコロ各々の楽器の響きが楽しめた。(勿論、ヴィオラ、トランペット、チューバの音も)
フロールは小柄な体から的確なコントロールで各楽器の音色を鮮やかに引き出す巧みな指揮ぶりは流石であった。ともすれば各奏者の呼吸が合わないとずれが出てしまいそうな曲をまとめ上げるのは難しいのではと思った。素人で専門的な技法までは判らないが独特な曲でとにかく面白かった。

札響初演の際のメンバーが20人ほど本日の演奏にに加わっていたと思う。2001年の札響2回目の演奏経験がある人にとっても感慨深い演奏になったと思う。

ケマル・ゲキチ ピアノ・リサイタル2014

ケマル・ゲキチと言うピアニストの名は1985年のショパン国際コンクールの審査結果が波紋を呼んだことで耳にしていた。ファイナルに進めなかったが、(この年の優勝者はブーニン、第4位が小山、第5位がルイサダ)結果的に海外から多くの招聘を受け、ヨーロッパ、ロシア、日本でもゲキチは熱狂的に迎えられた。札幌公演の情報が入って主催のプロ・アルテ・ムジケからチケットを手に入れて聴いた。
今から5年前、09年10月29日Kitara小ホールでのリサイタル。演奏曲は「ショパン:舟歌、バラード全曲」、「リスト:コンソレーション第1番~第3番、ソナタロ短調」。プログラムも素晴らしく、圧倒的で魅力あふれる演奏であった。独特な雰囲気を漂わせ、燃えるような情熱と色彩感で演奏会を彩った。特に「ソナタロ短調」は圧巻だった。その上、アンコールに応えて確か4曲~6曲も弾いてくれて、1曲は「ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 第3楽章の葬送行進曲」(演奏時間、約9分)であったのをハッキリと覚えている。アンコール・ピースにしては長い曲の演奏は、ホールの響きと聴衆の反応に気分が盛り上がったのだろう。30分にも及ぶアンコール曲の強烈な印象も未だ忘れられない。カリスマ性のあるピアニストである。

2014年12月7日(日) 1:30PM開演  札幌コンサートホール Kitara小ホール

ケマル・ゲキチ(Kemal Gekic)は1962年、現クロアチア生まれ。81年リスト国際コンクール第2位。85年、当時のユーゴスラヴィアのノヴィサッド音楽院修士課程を修了。同年のショパン・コンクール以降は世界各地で演奏活動。90年に入って自ら演奏活動を中止し、充電期間を経て再出発。99年のアメリカ演奏旅行中にコソボ紛争が勃発し、故郷に帰れずにアメリカに在住。現在、フロリダ国際大学教授。武蔵野音楽大学客員教授。

ゲキチは5年前と同じように髪はポニーティルにして、ローブのような物を羽織ってステージに登場。演奏もどちらかと言えば自由奔放だが、個性的な出で立ちであった。演奏を始める前に正面1列目の客に目で挨拶をして愛嬌のある振る舞い。

〈PROGRAM〉
 ショパン:アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22
      マズルカ ロ長調Op56-1, ハ長調Op.56-2、ハ短調Op.56-3
      ノクターン 第15番 ヘ短調Op.55-1、第16番 変ホ長調Op.55-2
      ポロネーズ第6番 変イ長調Op.53 「英雄」
 シューベルト=リスト:アヴェ・マリア
 リスト:ハンガリー狂詩曲第10番、第11番
 ワグナー=リスト:イゾルデの愛の死、 タンホイザー序曲

この曲はピアノとオーケストラのために書かれた作品であるが、ピアノ独奏曲として演奏される機会が多い。「スピアナート」とは「滑らかな」の意味のイタリア語。「華麗なる大ポロネーズ」はポロネーズ独特の勇壮なリズムを生かした華やかな曲。牧歌的な前半部分のアンダンテと対照的に後半のポーランドの民族色豊かなポロネーズは大音量で華麗に演奏された。

「マズルカ」はポーランドの代表的民俗舞曲である。ショパンはピアノ小品としてのマズルカを60曲ほど作った。全生涯に亘って書き続けられたマズルカは時代ごとに揺れ動くショパンの心の内を映し出していると言われる。私はマズルカの作品の鑑賞が苦手である。曲の特徴がなかなか掴めず、作品番号だけでは他と区別ができないのである。耳慣れた曲も少しはあるが、曲にタイトルが付いていなくて他のジャンルの作品と比べて覚えられない。コンサートで一時的に聴くのには何の支障もない。それなりに鑑賞できる。次の作品鑑賞に繋がらないのである。

21曲のノクターンのなかで、第15番と第16番がコンサートで演奏される機会は少ない。第15番は演奏が易しいため多くのピアノ愛好者に好まれているらしい。第16番は何となく舟歌に似ていた。CDではアラウやYUNDIなどの演奏で全曲に親しんでいる。

ポロネーズはショパン全16曲のうち、「英雄」は最も有名な作品のひとつである。祖国ポーランドへの思いが勇壮な3拍子のリズムに乗って華々しく力強い調べとなっている。列をなして進軍する英雄たちの姿を連想させる。このような曲の演奏はゲキチの最も得意とするところだろう。その華麗な演奏は彼の意のおもむくままであった。

後半はリストと彼の編曲もの。
美しいメロディの歌とピアノのためのシューベルトの作品が原曲。広いレパートリーを誇るリストの作品から心優しい曲の選曲。

ハンガリーの民族的旋律をもとに作られた全19曲の狂詩曲。各曲はハンガリーの舞踊音楽「チャールダーシュ」の形式に従って構成されている。第2番が最も有名である。第15番も演奏会の曲目となって親しまれている。演奏会で第10番、第11番を聴くのは初めてかもしれないが、どの狂詩曲にもジプシー音楽の情感が漂っているのが感じられる。

リストがヴェルディやグノーのオペラをパラフレーズした曲はCDで聴いたり、演奏会で聴いたことがあるが、ワーグナーの編曲ものは聴いたことが無かった。今日の2曲の原曲のCDは持っていて、演奏会でも聴く機会はある。ピアノ曲として聴くのは初めてであった。聴くだけでなく、見ていて楽しかった。1階8列8番の座席から運指の様子が良く見えて面白かった。ゲキチの眼にもとまらぬ速さで鍵盤の上を動く手や指の動きは物凄かった。まさに超絶技巧の連続。ワーグナーの壮麗なオペラの序曲が見事にピアノで表現される様は圧巻であった。

会場は昨日ほどではないが多分かなりの客入りだったのではないかと思った。客席前方に空席は無かった。2階バルコニー席にも客の姿が見えた。今日はブラヴォーのかわりに、アンコールの掛け声が曲の終了後にあちこちで上がった。

予定されたプログラムの終了後に前回と違って、アンコール曲演奏の前に英語で説明があった。フロリダを拠点に活動することで、南米とその周辺の音楽に接する機会が増えたので第1曲目が南アメリカの曲、第2曲目がアフリカの音楽、第3曲目が黒人の音楽を演奏すると説明した。スペイン語の曲名も入って所々しか聞こえず、ホアイエのボードを参考に類推した曲名。(②、③は調べてみたら間違いなさそうである。①はアフロ=キューバ舞曲集には入っていなかったので、不明。多分、奴隷としてアフリカから渡ってきたアフロとの関連のない南米の音楽(?))

アンコール曲はレクオーナ作曲のアフロ=キューバ舞曲集より ①仮装行列 ②黒人の踊り ③真夜中のコンガ
出来ればショパン、リストのクラシック曲の演奏の方が個人的には楽しめたが、これは仕方がない。3曲で終わる予定だったようだが、拍手の大きさに応えて「バッハ:前奏曲」「シューベルト:セレナーデ」を弾いてくれた。オーケストラ版の編曲の演奏で疲れ切っていたことが充分に予想されたので無理なことは期待できない。

ケマル・ゲキチは日本にも一定の期間暮らしているようなので、日本ツアーは毎年のように計画されそうである。

[追記] アンコール曲に演奏したアフロ=キューバ舞曲集は6曲からなっていることが判り、②が第2曲、③が第1曲になっていた。①に該当する曲がないと思ったが、結果的に第6曲の“ラ・コンパルサ”が日本語の「仮装行列」に当たることが判明した。
今日9日東京と19日大阪で行われるケマル・ゲキチのコンサートでは予定のプログラムに上記の演目が入っている。
(“La Comparsa”が「音楽の友コンサート・ガイド」では「仮想行列」となっていた。)

ミロシュ ギターリサイタル

Kitaraで開かれるギターのコンサートに出かけることは殆ど無い。今まで聴いたことのあるギターリサイタルで記憶しているのは次の2人。2000年12月の木村大のリサイタル(多分、彼は当時十代の少年であった)。村治佳織のコンサートは2度くらい聴いていると思うが、リサイタルでは2012年4月。 クラシック音楽を中心に聴いているので、ギターだけのコンサートに出かけるのは極めて稀である。
1000枚ほど所有しているCDでギターに関するものは3枚だけである。最初に購入したのは山下和仁が編曲して演奏した「展覧会の絵」と「火の鳥」のCD。2枚目がナルシソ・イエぺス演奏の「ロドリーゴ:アランフェス協奏曲」などが入ったCD。もう1枚が福田健一が演奏する「ハイパー・アンコール」というCD。これらのCDもめったに聴く機会はない。

今回はミロシュという話題のギタリストの記事を読んでいて、Kitara主催のコンサートだったので聴いてみることにした。ミロシュは今回のKitaraでのコンサートに際してメッセージを寄せていた。「“Kitara”という名の響きが“ギター”のように聞こえて、北海道、Kitaraの聴衆と一緒に音楽を共有することを楽しみにしている。」と述べていた。

〈Kitaraワールドソリストシリーズ〉

2014年12月6日(土) 14:00開演  札幌コンサートホール Kitara小ホール

 ミロシュ(MILOS)は1983年、モンテネグロ生まれ。8歳でギターを始め、17歳でロンドンの英国王立音楽院に入学。2011年にデビューアルバムをリリースして話題となった。数ヶ月で世界中のクラシック部門でチャート1位。最新のCDが「アランフェス協奏曲」でヤニック・ネゼ=セガン指揮ロンドン・フィルとの共演。(ネゼ=セガンはフィラデルフィア管の音楽監督で話題の若手指揮者)。
2012-13年シーズンから世界中でコンサート・ツアーを行ない話題沸騰。シカゴ響、ロサンゼルス・フィル、クリーヴランド管、フィラデルフィア管など数多くのオーケストラと共演。日本ではN響と共演。2014-15年シーズンはヨーロッパ、アメリカ、アジアでのリサイタルやオーケストラとの共演が予定されている。

〈プログラム〉
 ソル:グラン・ソロ 作品14、   レゴンディ:夢 作品19
 グラナドス(M. ルーイン編):スペイン舞曲集 作品37より 第2番《オリエンタル》
 J.S.バッハ:無伴奏パルティータ 第2番 二短調 BWV1004より シャコンヌ
 ファリャ(M. ルーウィン編):三角帽子より《粉屋の踊り》
 ファリャ:クロード・ドビュッシーの墓碑銘のための讃歌
 ファリャ(M. ルーウィン編):歌劇「はかない人生」より スペイン舞曲 第1番
 ロドリーゴ:祈りと踊リ(ファリャをたたえて)
 ベラスケス(S.アサド編):べサメ・ムーチョ
 ベン(S.アサド編):マシュ・ケ・ナダ
 ドメニコーニ:コユンババ 作品19

当日券発売もあってチケットは完売。久し振りに予備席も売り出されて小ホールは大入り。私は早くから購入していて1階5列11番。先日のレーピンのコンサートで出会った大学同期の友人が隣席に居合わせてお互いにビックリ。コンサートでしばしば一緒になるが隣りの席になるとは偶然とは言え繋がりを感じた。彼はギターを習っているので、このコンサートに来ているのは予想できたが、、、)

ミロシュはステージに登場するや日本語で挨拶。間の取り方や発音も上手い。巧みな挨拶で観客を惹きつけた。途中から英語でチョコレートが大好きで、北海道でRoyceの生チョコを友人のお土産として手に入れていけるのは嬉しいと言っていた。曲の紹介をして演奏に入った。

今日のプログラムで名前の分かる作曲家はバッハ、グラナドス、ファリャ、ロドリーゴだけ。
フェルナンド・ソル(1778-1839)はギター音楽古典期のスペインの作曲家。格調の高い調べの曲。
ジュリオ・レゴンディ(1822-72)はロマン派時代のギターのヴィルトゥオーゾでフランスの作曲家。曲が流れた途端に耳慣れたメロディと気付いた。とても華やかで抒情的な曲。

グラナドス(1867-1916)のスペイン舞曲集(全12曲)はピアノ曲として知られている。哀愁に満ちた幻想的な曲がギターの調べでスペインの雰囲気を醸し出した。

それぞれ10分程度の1曲目と2曲目が終わると、ミロシュはステージを下がったが3曲目の後、彼はバッハを弾きだした。3曲目が終って拍手をする人がいたが、ほんの少しの間があって4曲目に入った。一瞬、グラナドスのスペイン舞曲が続くのかと思った。シャコンヌもメキシコからスペインに渡来した舞曲だが、まさか連続してバッハの曲が演奏されるとは思いもせず意表をつかれた。
今回の曲で良く知っている曲は「シャコンヌ」だけなので、ミロシュがどの様にギターで奏でるのかに一番興味があった。集中力に欠けたこともあり、編曲のせいもあって短めに終った。クレーメルやハーンの演奏を何十回も聴いているヴァイオリン曲とはやはり違う。当たり前と言えばそれまでだが、聴く心構えがずれてしまった。あの壮麗な曲を充分に味わえなくて残念であった。

後半に登場して「お久しぶりです」と挨拶して、聴衆の心を掴む術も巧みである。後半の演奏曲の説明を英語でして、最初に3曲続けてファリャの曲。マニュエル・デ・ファリャ(1876-1946)の代表作となったバレエ音楽「三角帽子」。小澤征爾指揮ボストン響による全曲のCDのうち「粉屋の踊り」だけ予め聴いてきた。粉屋の亭主が踊るスペイン民俗舞曲ファルーカ。
2曲目と3曲目は全く聴いたこともない曲。ファリャはパリ留学期間中にドビュッシーと知り合って色々な影響を受けた。ファリャ唯一のオリジナル・ギター曲。ハバネラ風のリズムと調べ。
歌劇から情熱と哀愁を込めた舞曲の調べ。
3曲をまとめても10分程度。ミロシュはスペイン舞曲をさほど激しくなく、むしろ哀愁を込めて弾いた。

ホアキン・ロドリーゴ(1901-99)は20世紀スペインを代表した作曲家。「アランフェス協奏曲」が最も名高い作品。ギター独奏曲のひとつ「祈りと踊り」は1961年、ファリャの没後15周年を期して書かれたと言う。前半の祈祷でファリャの霊を呼び出し、後半の舞踏で共に踊ると言う作品。これは聴きごたえがあった。
この曲でミロシュの演奏に引き込まれた。

予定された曲目になくて付け加えられた小品2曲。「べサメ・ムーチョ」はラテンのラヴソングとして古くから有名。

カルロ・ドメニコーニ(1947- )は最も有名なギタリスト・作曲家として知られている人物。1985年に発表した現代のヒット曲。この幻想的な雰囲気に満ちた曲をミロシュは流石と思わせるテクニックで弾き切った。素晴らしい演奏でコンサートを締めくくった。
アンコール曲は無しだった。ホワイエではCDを購入してサイン会に並ぶ人々が列をなしていた。彼のイケメンぶりを見ようと待つ女性への笑顔のサービスも自然であった。








ワディム・レーピン ヴァイオリン・コンサートwithクニャーゼフ&コロべイニコフ

ワディム・レーピン with アレクサンドル・クニャーゼフ(チェロ)&アンドレイ・コロべイニコフ(ピアノ)
  ~偉大な芸術家の思い出に~

Vadim Repinを初めて聴いたのが99年の6月、その後、04、06、09に続いて昨年7月のPMF。1971年生まれのレ―ピンは年齢を重ねて風格が滲み出ていた。昨年末には初来日の折のキーシンとレーピンのコンサートの模様をそれぞれYouTubeで観て15歳当時の演奏を堪能したものだ。
昨年PMF-GALAコンサートのブログでKitaraにこれまで3回登場と書いていたが、04年の記録が抜けていた。(04年9月、アラン・ギルバート指揮ロイヤル・ストックホルム・フィルと共演して「シべリウスの協奏曲」を演奏。ギルバートは09年よりニューヨーク・フィル音楽監督に就任している。)
従って今回のKitara出演は6回目になる。同じロシアのピアニストとチェリストとの共演でピアノ三重奏が楽しめるのは何よりである。昨日のザ・シンフォニーホールでの大阪公演に続いて日本公演は2公演のみのようである。悪天候で来札を心配したが無事に札幌公演が行われた。珍しいピアノ三重奏のコンサートはブラボーが飛び交う素晴らしい公演となった。

アレクサンドル・クニャーゼフ(Alexander Kniazev)は1961年、モスクワ生まれ。モスクワ音楽院でチェロとオルガンを学ぶ。79年、カサド国際チェロ・コンクールで第3位、87年トラバーニ国際室内コンクールで優勝、90年チャイコフスキー国際コンクールで第2位に入賞して国際的活動を始めた。世界的な指揮者やオーケストラと共演。室内楽でもキーシン、レーピン、ルガンスキー、ベレゾフスキーらと共演。11年サントリーホールでキーシンと共演。日本では各地で開かれるラ・フォル・ジュルネ音楽祭の常連。

アンドレイ・コロべイニコフ(Andrei Korobeinikov)は1986年、モスクワ生まれ。7歳でチャイコフスキー記念青少年音楽コンクールに優勝。モスクワ音楽院で学び、04年スクリャービン国際コンクール優勝、05年ラフマニノフ国際コンクール第2位入賞。06年、ラ・ロック・ダンテロン音楽祭でデビュー。07年アシュケナージ指揮フィルハーモニア管との共演でロンドン・デビュー。日本でもラ・フォル・ジュルネに出演。N響とも共演。17歳で法科大学を卒業。エスペラント語も話す偉才。

〈PROGRAM〉
 ラフマニノフ:悲しみの三重奏曲 第1番
 チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ (チェロ&ピアノ)
 ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ
 ラヴェル:ツィガーヌ
 チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲 イ短調 「偉大な芸術家の思い出に」

最初のプログラムの曲だけCDを所有していなくて知識がなかったが、プログラムの解説を読んでチャイコフスキーのピアノ三重奏曲 を手本にしたらしいことが解った。曲のタイトルでイメージが浮かんで鑑賞が容易になった。
ラフマニノフ特有のロシア情緒、ロマンティシズムに溢れ、哀感が漂う長大な曲構成で単一楽章から成る曲。

チャイコフスキーの「弦楽四重奏曲第1番」の第2楽章が《アンダンテ・カンタービレ》として知られる名高い曲。冒頭の主題が広く親しまれている有名なメロディでウクライナ民謡からインスピレーションを得たと言われる。この楽章が単独で演奏されることが多い。半年前のプラジャーク弦楽四重奏団演奏会でもこの弦楽四重奏が演目にあったが、カニュカのチェロが主旋律を弾いていたのを思い出す。
クニャーゼフの独奏のような曲でピアノが控えめに伴奏の役を担っていた。チェロの美しい響きが際立っていて、旋律の素晴らしさを引きたさせていた。聴衆の心を揺さぶる演奏にブラボーの声があちこちから上がった。

ドビュッシーの最後の作品。3楽章から成るが、各楽章4分程度の曲。ドビュッシーらしい旋律を持つ色彩感豊かな曲。

ツィガーヌ(Tzigane)とはフランス語でジプシーを意味するタイトル。ハンガリーのロマ(=ジプシー)の伝統文化を讃える音楽作品。ハンガリーの舞曲“チャ-ルダッシュ”の形式で書かれている。超絶技巧を要するためもあってか、この曲の演奏を聴く機会はそれほど多くない。(*五嶋龍の演奏が印象に残っている。)
レーピンは高度な技巧を余り感じさせない様子で淡々とこの難曲を弾きこなし最後の弓捌きで聴衆の溜息をさそって拍手大喝采を浴びた。

前半のプログラムが終ったところで、ヴァイオリンとピアノによるアンコール曲が披露された。
 ポンセ: エストレリータ、 クライスラー: 中国の太鼓

本日の演奏会が始まる前から終了時間が9時20分頃とアナウンスされ、前半が終了した時刻が8時5分、15分の休憩後にも、終了時間のアナウンスがあった。聴衆の帰宅時間がいつもより遅くなることに対する配慮である。

いよいよ期待のチャイコフスキーのピアノ三重奏曲。
1989年7月、ダン・タイ・ソン、ヨゼフ・スーク、堤剛のトリオによる日本ツアーがあった。当時の札幌市民会館でドヴォルジャーク、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲は聴けたが、チャイコフスキーの曲は他の会場の演目になっていた。演奏会で今まで「偉大な芸術家の思い出に」は聴いた記憶がない。スーク・トリオとチョン・トリオのCDで聴いてはいるが、生演奏を何時か聴きたいと思っていた。
今日のコンサートに備えて2枚のCDを聴いて曲への親しみを深めて今晩の演奏会に臨んだ。

室内楽作品の少ないチャイコフスキーの唯一のピアノ三重奏曲はドヴォルジャークの「ドゥムキ」と並んで19世紀国民楽派のピアノ三重奏曲の最高傑作とされている。この作品は作曲家・ピアニストとして活躍したニコライ・ルビンシュタインの死を悼んで作曲された。“偉大な芸術家”とはルビンシュタインのことである。
憂愁をたたえながらも、堂々としたスケールの大きい作品。2楽章制。第1楽章が〈悲劇的楽章〉。ピアノの流れるような音に乗りチェロが哀惜の情をたたえた美しい旋律を奏でる。これがヴァイオリン、ピアノに受け継がれて親しみのあるメロデイとなって聴く者の心に深く染み込むように響く。ピアノに力強い第2主題が現れ、曲全体でピアノの活躍が見られるがルビンシュタインの面影かも知れないと思った。
第2楽章は第1部が親しみ深い主題と11の変奏から成る変奏曲、第2部が最終変奏とコーダ。終了近くで第1楽章第1主題を用いたクライマックス。深い悲しみに沈みながら、葬送行進曲のリズムで静かに曲が閉じられる。
 
約50分もかかる大曲だが、彼らの演奏に身をゆだねているうちにアッという間に曲が終った。暗く悲劇的な色彩のある曲とはいえ、チャイコフスキー特有の親しみ易いメロディなので聴いていて心地よい気分のまま全曲が聴けた。正直に言って、1時間前後の曲を集中力を切らさずに耳を傾け続けることは難しい。今夜のようなことはそういう意味で度々あることではない。
1回7列正面の席から曲を堪能できた。演奏会での聴衆の反応も素晴らしかった。多分1000名くらいの客は入っていたと思う。25年前のトリオのコンサートの料金が5000円であった。今回はS席7000円、A席5000円、B席3500円。個人的には決して高くない、むしろ安かったと思う。

演奏が終了したのが9時15分。疲労感もあって最後のアンコールは無しかと思った。止むことのない拍手喝采とブラボーの掛け声に応えて、若手のピアニストがステ―ジに姿を現してアンコールに応えた。コロべイニコフは東京では知られたピアニスト。アンコール曲は「チャイコフスキー:ドゥムカ Op.59」。
続いてクニャーゼフが登場。「J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調より 第4曲サラバンド」。
最後にレーピンも含めて3人全員が登場。チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲 「偉大な作曲家の思い出に」より第2楽章「主題と変奏」の第2変奏、第3変奏を演奏して終わりを告げた。

演奏終了時間が9時35分。聴衆の反応が良くて、予定時間を越えて期待に応えてくれたものと思われる。Kitaraのコンサート終了時間が9時半を過ぎることは普通ないことである。心地よい気分で家路に着く人々の足取りも軽やかであった。

*外国の演奏家で1・2回はともかく6回も訪れてくれるアーテイストは少ない。レーピンはゲルギエフと共にKitaraフアンなのかもしれない。

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Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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